〜禁忌 2〜
日が落ち始めた頃、布椎家では寧子の捜索を始めようとしていた。 「寧子の奴、どこに行ったんだ!」 闇己がドンッ!と壁を叩きながら言う。 「落ち着いてよ、闇己君!今は落ち着こう」 七地はどうしたらいいかわからずに、とりあえず差し障りのないことを言った。 「これが落ち着いていられるかよ!もう、待ち合わせの時間からもう既に5時間が経ってるんだぞ?きっと寧子の身に何かあったに違いない」 「闇己君・・・」 どうしよう?今の俺に何かできることがあるのかな?こんなに闇己君が苦しんでいるのに・・・。 焦りの表情を隠そうとしない闇己に七地は心配する。 「闇己。とりあえずもう一度この近辺を探してみようぜ。ここにいても仕方ねーし」 嵩が口を挟んだ。 「そうだね、探そうよ。もしかすると迷子になってるかもしれないよ?」 七地が嵩の言葉に乗る。 「寧子はもう子供じゃない。迷ったなら電話ぐらいしてくるさ。そうしてこないということは何かあったに違いない」 闇己はそう断言した。 「俺は祝寝を見る。もしかしたら見えるかもしれない」 「わかった。じゃあ、俺と七地は外に探しに行こう。もしかすると近くまで来ているかもしれないし」 嵩が七地を見る。 「うん、そうだね。案外近くまで来てるかも。行こう、嵩君」 七地は踵を返して行こうとしたときに、ガラガラとドアが開いた。 「こんにちは〜」 聞き覚えのある声が玄関に響く。 「あの声は・・・」 「寧子ちゃん?!」 闇己と七地は顔を見合わせて、玄関に向かった。 するとそこには申し訳ないといった表情の寧子が立っていた。 「寧子!お前今までどこいってたんだ!」 闇己が寧子を見た瞬間に怒鳴った。 「ごめんなさい、闇ちゃん。少し早めに着いたから闇ちゃん達を驚かそうと思って、一人で来てみたの。そうしたらちょっと道に迷っちゃって」 「だったら電話の1本ぐらいいれればいいだろう。そうしたら迎に行くのに」 「ごめんね、闇ちゃん」 寧子は闇己が心の底から自分が心配している事がわかると、うっすらと一瞬だけだが笑みを浮かべた。そしてすぐに元の表情に戻る。 えっ・・・。 七地は一瞬目の錯覚かな?と思って目をごしごしと擦った。 「どうした?七地」 その様子に闇己が聞く。 「あっ、何でもないよ。ちょっとゴミ入ったみたい」 その場で適当な嘘をつく。 まさか寧子ちゃんに違和感を感じたなんて言えないし。・・・きっと俺の気のせいだね。 その思いを払拭するかの様にもう一度目を擦った。 「まだ取れないのか?どれ、見せてみろよ」 闇己が七地の顎に手をかけて、自分の方に向かせる。 うわっ!ドアップだ・・・。 闇己の綺麗な顔立ちに七地は赤くなる。 「う〜ん、何も入ってはいないみたいだが・・・」 七地の目をじーっっと見て、闇己は言う。 「だ、大丈夫だよ!大丈夫!!ありがとね」 七地は顎にかかっていた闇己の手をどかす。 あれ以上闇己の綺麗な顔に耐えらんないよ。・・・すごいドキドキしてる。 高鳴っている胸に手を当てた。 その手からでも心臓が早くなっていることが分かる。 「ほら、お前らいちゃいちゃしていないで早くやすこ姉を上がらせてやれよ」 二人の関係を知っている唯一の人物、嵩が言った。 「イチャついてなんかいないよ!」 七地は真っ赤になると、慌てて訂正した。 その時、ふと鋭い視線を感じた。 何・・・? 七地は視線の先を見ると、寧子が自分を冷たい目で見ている。 寧子ちゃん・・・? 目が合うと、直ぐに寧子はやわらかい笑顔になり、 「じゃあ、嵩君。お邪魔しますね」 そう言って家の中に入った。 「寧子、無事でよかった。今度からあまり一人では行動するなよ。危険だから」 「大丈夫よ、闇ちゃん。私はもう子供じゃないんだから」 寧子はそう言うと軽く闇己の腕に触れた。 そしてちらっ、と俺の方を見てすぅ、と冷たい視線を七地に投げかけた。 唇が微かに動く。 ・・・何を言って? そう思った時には寧子の顔は闇己に向かっていた。 「闇ちゃん、久しぶりに会えて嬉しいわ」 そう、柔らかな声で寧子は言った。 七地は言いようがない不安が込み上げてきたが、気のせいだと頭を振り、何事もなかったかのように皆の輪の中に入った。 ********** 夕食も無事に済ませ、闇己と七地は闇己の部屋にいた。 「ふぅ、お腹いっぱいだ〜」 七地は満足そうにお腹を叩いた。 闇己はそんな七地をみて、 「そりゃ、よかったな」 とくすりと笑った。 「それよりも今日は泊まっていくんだろ?」 「そう思ったけど、今日はやめておくよ。せっかく寧子ちゃんが来たんだから、たまには姉弟水入らずで楽しんだら?」 本当を言うと、七地は泊まるつもりでここに来たのだが、寧子の態度が気になるので、り泊まるのはやめようという結論に達していたのだ。 寧子ちゃん、独占欲強いからな。俺が側にいたら嫌なんだろうな。せっかく大事な、大切な弟に会えたんだから・・・。 たまに闇己から外された視線が七地を見るときに冷たい視線を寧子は送っていた。 始めはやはり気のせいだろうと多寡をくくっていた七地だが、何度もそういった視線を投げかけられれば嫌でも気づく。 そういった視線を七地にくれるときは、大体が闇己が七地に笑いかけている時だった。 自分以外に向けられた好きな人の笑顔。 それさえも嫌う寧子は七地に食い入るような視線を浴びせていたのだ。 誰にもわからないように。 いや、七地だけに気づくように。 怨念を込めた視線を。 七地は居たたまれなくなり、家に帰ることにしたのだ。 別にもう会えなくなるって訳じゃないしね。寧子ちゃんはたまにしか会えないんだもん。寧子ちゃんの気持ちを大事にしなきゃ。 前から寧子が闇己の事が好きだと聞かされていたのにも関わらず、闇己から告白された時に闇己の手を取ってしまった。 振り払えない、甘美な誘い。 振り払おうとしたが、本心がそれを許さなかった。 振り払ったつもりでいたのに、手をしっかりと取ってしまった。 やっぱり嘘なんてつけないよ・・・。 七地も前から好きだったが、男どうしだしそれで嫌われたらどうしようという思いがあり、告白ができなかった。 嫌われるのならば、この気持ちは言わないでずっと心の奥底でしまっていよう。 ずっと良い友達でいようとそう決心した矢先の事だった。 闇己君から「好きだ」と告白されたのは。 一生気持ちを言うはずのない、いや、言ってはいけないのに、俺もその気持ちに応えたくて、「俺も、好きだよ・・・」と言ってしまった。 布椎家の為を思うなら、闇己の気持ちは受取ってはいけなかった。 宗主が男と恋仲なんて知ったらいい笑いものだ。 なのに俺は自分の気持ちを押さえることができずに、闇己君の思いを受け止めてしまった。 俺って何て罪深いんだろう・・・。 いけないとわかっていても止められなかった。 俺の気持ちを聞いた瞬間のあの笑顔が忘れられない。 それまでは暗い、苦しい顔をしていたのに、七地の返事を聞いた途端に闇己には珍しい、満面の笑みで七地を抱きしめた。 あの笑顔が、あの抱擁が忘れられない・・・。 かなりの偽善者だな、俺・・・。 あの時の事を思い出すたびに、少し胸が痛む。 こういう関係はいずれ終わらせなければならない。 だって闇己君は布椎にとって大事な人なんだから・・・。 七地は暗い表情になる。 「・・・どうした?七地。気分でも悪いのか?」 闇己が心配そうに尋ねてくる。 「うんん、なんでもない。じゃあ、俺、帰るね」 誤魔化すように笑うと、七地は席を立った。 「まだ、いいだろう。もう少しここにいても・・・」 艶っぽい顔で七地を見る。 ・・・全く、そんな顔一体どこで覚えてきたんだか。 自分を引き止めるためにそんな表情をさせていることが七地には嬉しかった。 「又明日にでも来るよ。だから、今日は―――」 そう言うと、七地は闇己の唇にそっと、キスをした。 「・・・・・・・七地」 「これでバイバイ」 にこっ、と微笑んだ。 闇己は仕方ないと言って、深くため息をついた。 「じゃあ、嵩にでも送らせよう」 「いいよ、自分で帰れるよ。まだ、そんなに遅くはない時間だし。それに嵩君に悪いよ」 「そうか?嵩の奴なら喜んで送ると思うぜ。何せ夕香に会えるんだから」 「そっか・・・。でも。平気!今日はなんとなく一人で帰りたい気分なんだ」 「・・・・わかった。気をつけて帰れよ」 「うん、ありがとう」 七地は心底心配してくれている闇己に優しい微笑をかける。 「じゃあね。闇己君」 バイバイ、と手を振る。 「ああ」 闇己は軽く手を上げた。 七地はそれを見と届けると闇己の部屋を後にした。 |
*****戯言***** お久しぶりの第2話! それは次回のお楽しみです! |
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