〜禁忌 1〜
駅に1本の電車が来た。 ドカドカと人が降りてくる中で一層極めて美人な女性が降りる。 その電車に乗っていた人や、降りたホームの人もその美人に一瞬我を失った。 その女性は少しきょろきょろと当たりを見回す。 出口の看板を見つけて、にこっと微笑んだ。 その笑顔にその場の時が一瞬止まる。 「確かこっちだったわよね。叔父さんの家って・・・」 何度か来たことがある記憶を頼りに、その女性は歩き出した。 「びっくりするかな、闇ちゃん。いきなり私が来たら」 闇己の驚いた顔を想像し、くすくすと笑う。 早く合いたいわ。闇ちゃん・・・。 そう思いながら、駅のホームを降りていった。 ********** 人通りの少ない公園で闇己と七地は抱き合っていた。 「ちょっと、闇己君。もう寧子ちゃんを迎に行かないとまずいんじゃないの?」 いつも時間にルーズなはずの七地が言った。 その言葉に闇己は時計を見た。 「もう少し大丈夫だろ。まだ、あいつが駅につくのに40分もある。ここからなら10分ぐらいでつくから、後10分闇いならこうしていても大丈夫だ」 そう言うと闇己は七地をぎゅう、と抱きしめた。 「でも!」 七地が抗議の声を上げる。 「・・・なんだよ」 その声にムッ!とした顔になる。 しかし七地はお構いなしに、 「もし寧子ちゃんが早く着いてたらどうするんだよ」 「そうしたら携帯に電話ぐらい入れるだろう。寧子だって馬鹿じゃない」 「でも―――」 七地が何かを言いかけたとき、闇己は七地の唇に人差し指を当てた。 「でもはなし!・・・それに、お前とこうして会うのも久しぶりだろう?お互い公務や学校で会えなかったんだから」 眩暈がする程の笑みを闇己は七地に見せた。 ・・・闇己君、その笑みは反則だよ。そんな笑顔見せられたら何も言えないじゃないか。 「うん、もう!遅れても知らないからね」 「大丈夫さ」 チュッ、と七地の額にキスをする。 闇己はもうすでに見た目で分かるくらいに七地の身長を越していた。 出会った頃はまだ多少なりとも七地の方が上だったのだが。 今では指二間接ぐらいの差ができていた。 「七地、愛してるよ」 そう言って闇己は七地の唇にキスをする。 甘く、蕩ける様なキス。 普段の闇己を知っている人から見れば考えられないような、愛の囁きをして、甘い口付けをする。 きっと他の人が知ったら卒倒するだろう。 関係を知っている人は今のところコウしかいない。 二人の関係を知ったとき始めは驚いていたが、二人の関係を側から見ていて、「そうなっても仕方がないかも」と、変に納得をしていた。 「だってよ、闇己が精神状態を崩すも直すのも全てお前が係わってるじゃん」 そう蒿は七地に言った。 「余程お前が大事なんだろうよ」 とも。 俺、そんなに闇己君に大切に思われるのかな?・・・だとしたらすごく嬉しい。 七地はくすっ、と笑った。 「・・・なんだよ。何かおかしいことでもしたか?」 愛の口付けを行っている最中に笑われて、闇己は不機嫌になる。 「ごめんごめん・・・。ちょっと考え事をしていて」 七地は正直に言う。 その言葉を聞いて尚更機嫌が悪くなる。 「俺と一緒にいるのに他の事を考えてたのか?ひでー奴だな。俺はお前しか考えられないのに」 あっ・・・・。しまった。闇己君、機嫌が悪くなってる。 七地はそう思うと、闇己に自分からキスをした。 これで機嫌直してくれるかな? 「確かに考え事をしてたけど、それは君の事を考えてたんだよ」 「俺の事?・・・何を考えてたんだ?」 「・・・・内緒」 「あんだと?」 またまた機嫌が悪くなる。 そんな闇己をみて、七地は微笑んだ。 だって、俺は闇己にとってどんな存在なんだろう?なんて言えないじゃん。ましてや本人に向かってさ。聞きたい気持ちもあるけど、なんか怖いし。もう少し、この関係を続けていられたらその時にでも聞いてみようかな?もう少し、この幸せな時のままで・・・。 「大丈夫だよ。いずれ君に話すから。その時までは内緒」 七地は人差し指を自分の口に当てた。 「わーったよ。どうせ、お前は頑固者だからな。俺が今聞いても絶対教えないつもりだろ?」 闇己は七地から離れる。 「・・・怒った?」 「ばーか。怒るわけねーだろ。―――でも、これだけは覚えておけよ。俺はお前を愛している。お前だけは何があっても譲れないからな」 闇己は真顔で言う。 うわぁぁぁ。何でこんな恥ずかしいことを平然と言うんだろう。聞いているこっちが恥ずかしいよ。 七地は顔を真っ赤にする。 若いって怖いな・・・。 闇己のまっすぐな気持ちに七地は照れる。 この闇己君の台詞を聞きたい人はいっぱいいるんだろうな。・・・ごめんよ、夕香。そして寧子ちゃん・・・。 許されない恋を胸に苦しんでいる寧子を思い出す。 本当なら俺も同じ思いをしているはずなのにな・・・。 男同士の許されない恋。 しかし二人ともお互いの気持ちに気づいてしまった。 気づかなければ良い友人を演じていられた。 俺は布椎家の鍛治師として仕えるはずだったのに・・・。 闇己の隣りには闇己と一緒に布椎家を盛りたてる妻がいなければならない。 でもその隣りは俺が奪ってしまった。 本当はこんな関係はいけないと思う。 闇己君は布椎家の宗主。宗主である以上、子孫を残さなければならない。 やっぱりその為にはこの関係をずっと続けていくわけにはいかない。 いずれ何らかの形で決着はつけなければ・・・。 七地は暗い顔になる。 もう少しだけこのままの関係を続けていたい。 それは俺の我侭だということはわかっているけど。 でも、この気持ちは止められないんだ。 だからもう暫くこのままで・・・。 「七地?どうかしたか?」 様子のおかしい七地に気づき、闇己が話し掛けてくる。 「大丈夫だよ、大丈夫」 にこっ、といつもの様に七地は笑った。 「さっ、寧子ちゃんを迎えに行こう」 「そうだな。もういい時間だろ」 時計を見て闇己は言う。 「じゃあ、車エンジンかけてくるね」 そう言うと七地は小走りに走って車まで行った。 闇己はそんな七地を見て、無意識に微笑んだ。 ********** 嘘。 嘘! 嘘!! 闇ちゃんと七地さんがあんな関係だったなんて! 寧子は二人にばれないように側から見ていた。 ずっと闇ちゃんを見ているけど、あんな風に笑う闇ちゃんなんて知らない!あんなに優しく愛の言葉を吐く闇ちゃんなんて知らない! 寧子は知らず知らずのうちに涙があふれていた。 どうして? どうして?! どうして七地さんなの? 私じゃ駄目なの?! 闇ちゃんの事をわかってあげられるのは私しかいないのよ! なのに何で七地さんなの・・・? 嗚咽交じりの涙が頬を伝う。 「嫌よ・・・」 ぼそっ、と寧子は呟いた。 嫌よ・・・。闇ちゃんは誰にも渡さない。例えミカチヒコの血筋を引いている七地さんでも! 「・・・そうよ。渡さないわ。・・・きっと闇ちゃんは七地さんがミカチヒコの末裔だから気にかけているのよ。きっと末裔でもなんでもなかったら七地さんなんて気にも止めないわ。そうよ、きっとそうよ。闇ちゃん神剣探しの為だけにあんな風に七地さんを口説いて布椎家に引き止めてるんだわ」 寧子は自分に言い聞かせるかのように、呟いた。 「・・・どうしたの?寧子ちゃん」 見上げると目の前に闇己の父親、眞前が立っていた。 「誰…?」 寧子は眞前から感じる負の気配を感じた。 「もしかして、・・・眞前叔父さん?」 「そんなに泣いてたら駄目だよ?綺麗な顔が台無しだ」 何もかも知っているのか、そんな寧子を見ても眞前はくすり、と笑うだけだった。 しかし寧子はそんな眞前を見て、涙をポロポロと流した。 「叔父さん、私・・・!!」 血縁者を見て、寧子は涙を流す。 「私っ!!」 寧子は眞前の胸に飛び込むとしばらく泣いていた。 「大丈夫。僕がついているから・・・」 そう眞前は言うと、にやりと笑った。 |
*****戯 言***** 2作目、いきなりダーク系ですみません。 痛い話が嫌な方は読まないほうがいいかもね。 |
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