〜禁忌 3〜
七地は家の玄関を出て、外の扉のところまで歩いていくと寧子に呼び止められた。 「七地さん!」 「ああ、寧子ちゃん。どうしたの?」 玄関から小走りに歩いてくる寧子に言った。 「お見送りしようかと思って」 にこりと笑った。 その笑顔を見て、七地は少し安心する。 先ほど痛いまでに自分を視線で責め続けた寧子。 内心、嫌われたかなという思いがあり、少し寧子のことは気に掛かっていたのだ。 よかった、この笑顔はいつもの寧子ちゃんだ。 七地はそう思うと、自分も笑顔を見せた。 「いいよ。どうせ、すぐそこだし」 「いいえ、客人を招いたのにお見送りをしないわけには参りません」 その言葉に七地はえっ、といった顔になる。 「客人って、そんなに俺偉くないし。それに俺、闇己君の友達だから、客人なんかじゃないよ」 やだな〜、と七地は言った。 「………友達?友達がキスなんてするんですか?」 寧子の声が低くなった。 その言葉に七地は凍りつく。 まさか、バレてる・・・?! 「な、何言ってんだよ。寧子ちゃん。そんな訳ないじゃないか」 「そうですか?でも、私見たんですよ。七地さんと闇ちゃんがキス、しているところを」 心臓に寧子の言葉が突き刺さる。 「えっ。い・・・つ?」 つい声が途切れてしまう。 その声に気がついて、七地は焦る。 しまった!これじゃあ、肯定しているのと同じじゃないか! 寧子はくすっ、と笑うと、 「今日です。早く着いたからびっくりさせようかと思って一人で来た時です。公園で七地さんと闇ちゃんを見つけて声を掛けようとしたら・・・」 あの時か! 七地の表情が青くなる。 迂闊だった。まさか寧子ちゃんに見られているとは。 「びっくりさせようと思ったのに、こっちがびっくりしちゃいましたよ・・・。七地さん」 寧子を見ると、その瞳は怒りで染まっていた。 そうか。さっきまでの視線の意味はそう言うことだったのか。 七地は睨まれていた意味にやっと気がついた。 俺が闇己君とそういう関係だったから、寧子ちゃん俺のことを睨んでたんだ。 突然バレた二人の関係に、七地は焦る。 どうしよう?!このままじゃヤバイよ。何とかしなきゃ。 七地は何とか寧子を説得しようとして、口を開いた。 「あ、あの―――」 「七地さん」 しかし、寧子の強い口調に七地は押し黙った。 「・・・はい?」 「七地さんは私の気持ちを知っていましたよね?私が闇ちゃんの事を好きだってこと」 「・・・うん。知ってた」 嫌っていう程ね。 そう言うと七地はズキッ、と痛みが心に走った。 「そうですよね。それなのに何故ですか?」 笑っていた顔が一気に怒り顔へと豹変した。 「何故、私の気持ちを知っていて闇ちゃんとああいう関係になったんですか?七地さん、男なのに・・・」 「寧子ちゃん・・・」 申し訳ないとう気分になり、七地は何も言えなくなってしまった。 「男の七地さんが許されるなら、姉弟である私も許されますよね?私たちは半分しか血が繋がっていないし。同性で愛されるのなら、異母姉弟でも愛し合えますよね?男の七地さんが愛されるのなら私でも愛されますよね?」 寧子は七地に聞いてきた。 「それは・・・」 七地は何とも言えない気持ちになる。 聞いていればそれはあっている考え。 でも間違っている考えでもある。 どうしよう・・・。何て答えればいいんだろう。 真剣に見つめられて、七地は困惑する。 「俺は確かに寧子ちゃんの気持ちを知ってたよ。その上で闇己君と付き合ってた。それは悪いと思ってる。でも、俺は闇己君の事がすごく好きなんだ。誰にも負けないぐらいに」 その言葉を聞いて、寧子は眉間に皺を寄せる。 「だったら七地さんは私の気持ちなんてどうでも良いというの?」 「違う!そうじゃないよ!そうじゃないけど・・・」 ああ、一体どうすればいいんだ! ブンブン、と頭を振る。 「私の気持ちは誰にも負けないわ。例え七地さん、貴方でも」 「!!」 七地は寧子の顔を見て、体を振るわせる。 まるで何かに取り付かれているみたいだ・・・。何て顔をするんだよ、寧子ちゃん。 寧子の闇の顔を見た七地は心底悩んだ。 こんな顔をさせてるのは俺のせいなのか?俺が闇己君と付き合っているからなのか? 「・・・きっと、俺の気持ちも寧子ちゃんの気持ちも闇己君には抱いてはいけないものなんだよ」 いずれは何らかの形で決着をつけなければならない。 布椎家の宗主ともなれば、そのうち後継者を残さなければならない。 闇己君だって、いずれ嫁さんとか貰うんだろうし・・・。 男である七地が恋人として側にいてはならないのだ。 いつかははっきりさせないとならないと思っていた。でも、闇己君の側にいるのがとても心地よくなっちゃって。ついズルズルとあの関係を保ったまま今まで来ちゃった。 寧子は七地を睨むと、 「何を言っているの?そんな事わかってるわよ!わかりきってるわよ!だから今まで我慢して姉として闇ちゃんに接してきたんじゃない!なのに、何で突然現れた貴方に闇ちゃんを盗られないといけないの?!どれだけ血の繋がりがないほうがよかったか!闇ちゃんを返してよ・・・。私の闇ちゃんを返して!!」 悲痛な叫びが七地の心に突き刺さる。 寧子ちゃん・・・。―――ん?あれは一体なんだ? 七地は寧子の背後にある黒い影を見る。 もう一度目を凝らして見ようとすると、 「おい、こんな所で何してんだ?」 闇己が寧子の背後まで来ていた。 「く、闇己君!」 あれ?じゃあ今の影は闇己君の影だったのかな? 七地はそう叫ぶと、ほっとした表情になった。 「七地。お前帰ったんじゃなかったのか?」 「今から帰るよ。寧子ちゃんにお見送りをしてもらっていたところなんだ」 「寧子が?」 闇己は寧子を見た。 すると寧子はにこりと笑い、 「ええ、折角七地さんがいらしてくださったのに、お見送りをしないと悪いわ。親しき仲にも礼儀ありって言うでしょ?それにお父さんにも言われたじゃない礼儀はしっかりとってね」 闇己の左腕に触れた。 闇己もそれを振り払おうとはせずに、ふっ、と笑った。 こういう場面をみると、この二人って本当に仲がいんだなと、七地は思う。 傍目から見るとまるで美男美女のカップルだ。 俺が女だったら人目を憚れずにイチャイチャできるんだろうな〜。 そう思うと、 はっ!俺は一体何考えてるんだ。女になりたいだなんて。・・・さっきの寧子ちゃんの言葉に困惑されちゃったかな。 『男の七地さんが愛されるのなら私でも愛されますよね?』 その言葉が七地の耳に残る。 ふぅ、と軽いため息をつくと、 「そうだったな。寧子は家の中に入っていてくれ。俺が七地をそこまで送っていこう」 闇己は七地の隣まで歩いて来た。 「えっ、いいよ。悪いし」 今日はこれ以上寧子の前で親しくしていたくはない。 七地は心をこめて遠まわしに断る。 「構わないさ」 闇己はその気持ちに気づかずに、七地の腕を引っ張った。 七地はちらっ、と寧子の方を見ると、 ・・・やっぱり。 七地を睨みつけている寧子の姿があった。 七地は反射的にぶんっ!と闇己の手を払った。 「・・・七地?」 「あっ、ごめん。・・・大丈夫だよ。1人で帰れる」 闇己はきょとん、とした感じで七地を見た。 「どうした?具合でも悪いのか?」 「うんん、そんなんじゃないけど」 「じゃあどうしたんだ?」 「それは・・・」 七地が言葉に詰まっていると、 「アンタら3人ここで何してるんだ?」 ヘルメットを持った蒿が後ろを通り過ぎようとしていた。 「蒿君!」 良い時に来てくれた! 七地は嬉しそうに蒿の登場を喜ぶ。 闇己はそんな七地を見て、むっとすると、 「蒿、お前一体どこ行くんだ?」 不機嫌そうに言う。 「ああ?お前には関係ないだろう」 「そんな夜遊びばっかりしてるから、朝の修業もできないんだ。そんなことじゃ俺にいつまで経っても勝てないぜ?」 ふんっ、と見下す。 「んだとー?!」 「闇ちゃん、そんな言い方ないでしょう」 寧子が叱咤する。 「なんだよ、俺に喧嘩でも売ってるのか?」 蒿は闇己を睨みつける。 一触即発の事態に陥ろうとしていた。 その時、 「蒿君!!」 七地が急に怒鳴った。 「な、何だよ」 「あのさ、夕香に会わせてあげるからさ俺を家まで送っていってよ」 「えっ・・・。夕香に?マジ?」 夕香という言葉に蒿は食いつく。 よし、読み通り!ごめんね、蒿君。 「うん、うん。マジマジ。会わせるからさ」 「じゃあしょうがねーな。送っていってやるよ」 「本当?ラッキー」 七地は蒿の側に駆け寄った。 「おい、七地!」 闇己の少し怒りがこもった声が聞こえる。 「蒿君に送ってもらうから、二人とも見送りはいいよ。ありがとう。―――さっ、蒿君行こう」 強引に七地は蒿の腕を引っ張って駐車場へと向かう。 「七地!!!」 「・・・何?」 闇己は何か言いたそうな顔をしたが、一息飲むと、 「気をつけて帰れよ」 「うん、ありがとう。―――寧子ちゃんもありがとうね」 「・・・いいえ。お気をつけて」 にこりと微笑む。 その笑みが七地にとってはとても怖く感じた。 「じゃあ・・・」 そう言うと七地はその場を去っていった。 ?マークを顔に浮べながら七地に着いて行く蒿と、怒りを顔に表している闇己、そして薄ら笑いを浮べている寧子。 「何かあったのか?寧子」 闇己は不機嫌な顔をして、寧子に聞く。 「・・・いいえ。別に」 寧子は遠ざかっていく七地をずっと見つめていた。 |
*****戯言***** 大変長らくお待たせ致しました。 さあ、これからどうなるのでしょうか? |
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