〜禁忌 5〜

 

布椎家では重苦しい雰囲気を漂わせていた。

 一番とばっちりを受けている蒿が、目の下を痙攣させながらむすっ、とした表情をしている。

「蒿さん、・・・大丈夫ですか?」

 おどおどとしながら水都波が聞く。

「大丈夫なわけねーだろ?!一体七地は何してんだか」

 未だにこない七地を蒿は恨む。

 布椎家に七地が訪れなくなって1週間が経った。

 初めは学校の方が忙しいのだろうと、2、3日はこっちからも連絡をしなかったが、何かおかしいことに気が付いた。

 電話をしてもどこかよそよそしい態度を見せる。

 ばったり道で会うと、なお一層にわかる。

 七地にはそんな態度を見せているつもりはないのだろうが、視線をあわそうとしないのだ。

 いつも真っ直ぐに人の目を見て話す奴が、避けて話そうとする。

 不思議に思いながら、闇己に何気なく言った所、闇己も七地の変な態度に疑問を持っていた。

 どうやら俺の勘違いじゃなかったらしい。

 闇己はいい加減、自分に会い来ないことに痺れを切らし布椎家の宗主として鍛冶師である七地に正式な訪問をお願いした。

 そして、七地は渋々ながらも今日ここに来る予定なのだが、約束の時間になっても一向に来る気配がない。

 もし七地が来れば柔らかい、優しい雰囲気が当たりに満ちるのですぐにわかる。

 それはシャーマンである俺らにしかわからないが。

 俺は勿論の事、水都波も感じているはず。

 そして魂が一番近いとされている闇己は特にだ。

 だから七地がこの近くにでもくればすぐに闇己がわかるはず。

 しかし全くその気配すらつかめない。

 闇己は次第に苛立ってきて、念に近いオーラをこの家に放っていた。

 闇己の次にシャーマンの素質がある蒿にとって、それはもっとも辛いものとなっていた。

 この中で闇己の負のエネルギーを一番に感じられるからだ。

 性質が悪いのは、それを闇己が気づいていないという事。

 無意識にそのオーラを発しているらしい。

 アイツ、七地が絡むと自分を見失うんだよな。でも、これはやり過ぎだろう。

 蒿はイライラしながら、居間に座っていた。

 そんな簡単にキレるなよ!!俺のほうがキレたいわ!!

 負のエネルギーのせいで体が思うように動かない。

 精神的にも辛い。このエネルギーに負けそうになる。

 ああ、もう!!早く七地の野郎来いよ!!

 青ざめている蒿に水都波が心配そうに見る。

「・・・大丈夫ですか?」

「だから大丈夫じゃねーっと言ってるだろ!」

 関係のない水都波に蒿は当たる。

 そして、怒鳴ってからハッ!と気づいた。

「あっ、と・・・。すまん」

「いえ・・・。怒鳴ることで蒿さんに取り巻く負の雰囲気が払拭されるのならいくらでも怒鳴ってください。僕は少ししかわからないけど、蒿さんとても苦しそうだから。だからすごく今この家の空気が重いんだなと思うんです」

 蒿はぽすっ、と水都波の頭に手を置くと、

「もう怒鳴らねーよ」

 そう言った。

水都波ははにかんだ笑顔を見せると、「お茶入れ換えて来ますね」と言いながら席を立った。

 蒿はその水都波の後姿を見送りながら、今だ来ない七地の到着を願った。

「早く来いよ、七地」

 蒿は重苦しい雰囲気の中、意識が遠のいていくのを感じた。

 

*****戯言*****

七地が拉致されている時の布椎家の様子。
蒿っていつも貧乏くじを引くよね。
ああ、可哀相ったら可哀相。
かなり短いけどUPします!

 

 

 

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