コンコン、と扉を誰かが叩く音がする。

・・・誰だ。こんな朝早くに。

はっきりしない意識の中でエースは思った。

しばらくするとまた誰かが扉を叩く。

コンコン。

一体誰だよ。俺様の眠りを妨げようとする奴は。

体を動かそうとしても重くて動かない。

声を出そうとしても掠れてあまり出ない。

いいや、ほっとこう。

エースはまた眠りに付こうとした。

「あの、エース兄ちゃん?・・・いないのかな?」

 聞き覚えのある声が扉越しに聞こえた。

 どこかで聞いたことがあるな、どこだっけか・・・。

 混濁とした意識の中で声の主を思い出そうとする。

「兄ちゃん?」

 兄ちゃん?俺に弟なんかいたっけかな・・・?

・・・弟・・・?

 エースはがばっ、と起きてベットから降りた。

 するとくらっ、軽く眩暈がして倒れそうになる。だが、エースはそれを耐えた。

 扉を開け、声の主を確認する。

「ルフィ。どうしたんだ?こんな朝早く」

 そこにはエースの頭痛の種の原因となっているルフィの存在があった。

「朝?何言ってるの。まだ夜だよ。今の時間は・・・えっと、確か8時頃だと思った」

 ルフィは居間にあった時計を思い出す。

「夜の8時?」

 後ろを振り返って窓の外を見た。

 暗い。

 どう考えても朝の風景ではない。

 どうやら学校から帰ってきてそのまま寝てしまい、時間の感覚がずれたらしい。

「そうみたいだな。―――で、俺に何の用だ?」

「夕飯の時間過ぎてるからどうしたのかな、って思って呼びに来たんだ。さっきも呼びに来たんだけど中々返事がなかったから、先にご飯食べちゃったけど」

 ぺろっ、と舌を出した。

 この瞬間なんてルフィFANには宝物の瞬間だろう。この仕草がとても可愛い。

 しかしエースは機嫌が悪いのかそんなルフィの仕草に何の感情も抱かなかった。

「俺はいい。今日は飯いらねー」

 そう言うとエースは扉を閉めようとした。

 それをルフィは止めて、

「どうしたの?兄ちゃん体の具合でも悪いの?」

「そんなんじゃねー。ただ腹空いてないだけだ」

 起きたばかりなのでお腹が空いているという実感がない。きっと後少しすれば、実感がわくのだろうが。

「じゃあ少しでもいいからさ、夕飯食べようよ。母さん待ってるよ」

「いらねーよ」

「後でお腹空くよ?」

「そしたら何か勝手に食うさ」

「でも・・・」

 ルフィは言葉を詰まらせた。

「でも何だよ」

「お父さん、エース兄ちゃんに話があるって言ってたし」

「俺に親父が?」

 何だろう。ここ最近、喧嘩してねーから呼び出されることなんてねーし。それとも何か違うことかな?

 最近、身近に起こった出来事を思い出してみる。

だが何も思い浮かばなかった。

「親父、何だって?」

「さあ、俺にもよくわからない。兄ちゃんが降りてきたら話すって」

 ルフィもわからないらしく、首をかしげた。

 二人で聞くようなこと?

 ますますわからなくなってきたエースはう〜ん、と唸った。

「なら下に降りるか。ここに居てもしょうがないしな」

 エースは部屋を出て行こうとしたら、

「兄ちゃん、せめて制服着替えた方がいいんじゃない?」

 言われて気づいた。

 帰ってきたまんまで寝てしまったので制服を着たままだったのだ。

「いや、話を聞いてから着替える」

 とりあえずエースは着ている上着だけをベットの上に放り投げた。

 部屋の扉をぱたん、と閉めて歩き出した。

「あっ・・・」

 ルフィはエースに置いていかれないように足早に歩いていった。

++++++++++

 居間へ行ってエースとルフィはそれぞれの定位置に付いた。

 一つの大きなテーブルに椅子が6つ置いてある。

 誕生日席に1つずつあり、その両端を2つずつの椅子が置かれてあった。

 エースの席は両端の右側の席に、ルフィの席はエースの反対側の席だ。

 芙由子はルフィの隣に、父親は芙由子に近い方の誕生日席が定位置である。

「エースくん、やっと起きたのね。ちょっと待っててね。今おかず温めるから」

 そう言うと芙由子は台所へ行った。

 この家はダイニングキッチンなので居間と台所が目と鼻の先にある。

 一生懸命電子レンジと、ガスでおかずを温めている姿が見える。

 これじゃあ、飯いらねーって言えねーな。

 せっかく自分の為に温めてくれているのだ。それを台無しにする程エースは冷たくなかった。

「ルフィ、お父さんを呼んできて頂戴」

「うん、わかった」

 そう言うとルフィは席を立って居間を出た。

 数分すると戻ってきて、

「今すぐ行くだって」

 又定位置についた。

 その行動をエースは見てこう思った。

 なんかコイツ犬みてーだな。まるで子犬だ。

 そう思うとルフィのお知りに尻尾があるように見えてくる。

 その尻尾はフリフリ、と横に振っているようだ。

「エース、やっと起きたのか。もう飯は食い終わったぞ」

 葉巻を口に加えながら父親はやってきた。

 すると父親も定位置につき、加えていた葉巻の灰を灰皿へ落とした。

「スモーカーさん、今お茶入れますから。ちょっと待っててくださいね」

 芙由子がスモーカーの姿に気づき、声を掛けた。

 まだ『あなた』、と呼ぶのに慣れていないのか芙由子は名前で呼んでいる。

「ああ、俺のことは気にしなくていい」

「ええ。でも、もうすぐ温め終わりますから」

 そう言うと芙由子は暖めた物をエースの前に持ってきた。

 お箸や、飲み物もついでやる。

「はい、お待ちどうさま」

 ご飯を目の前に置かれる。

 ぷ〜ん、とご飯の匂いが漂ってきてエースの胃を活発にさせた。

 ぎゅるるるる、とお腹がなる。

「いただきます」

 エースは箸を取り食事にありついた。

「そういうや、親父。俺たちに話ってなんだよ。何か話があるから呼び出したんだろ?」

 ぱくぱく、むしゃむしゃと食べながらエースは聞いた。

「・・・まあ、今は飯でも食え。それが食べ終わったら言うよ」

 お茶を出されて、それを啜った。

 ルフィにもお茶を出し、芙由子は席についた。

「なあ、エース。学校は楽しいか?」

 突然スモーカーが質問をしてきた。

「はぁ?いきなり何言ってんだよ」

 どうかしちまったんじゃねーか?

 何だよ、この雰囲気は。

 スモーカーは勿論のこと芙由子までがおかしい。何か緊張しているみたいだ。

 ルフィもその違和感に気づき、二人を交互に見る。

「どうなんだ。楽しいのか?」

「・・・まあ、楽しいって言えば楽しいかな」

 今日の昼間のことみたいなことがなければな。

 ちらっ、と元凶を見た。

 すると視線が合う。

 ルフィはエースの視線に気づき、にこっと微笑んだ。

 やべ、目があっちまった。

 エースは視線を逸らした。

「そうか・・・」

「何だよ、はっきり言えよ。親父らしくねーな」

 食事を食べ終わり、箸を置く。

「お前、外国行く気ないか?」

 思いもかけない言葉にエースは驚いた。

「どういうことだ?どこか旅行にでも連れて行ってくれるのかよ」

 旅行ごときでこんな家族会議みたいなことはしない。これは何かあるな。

 冷静に判断する。

「お前に遠まわしに言ってもしょうがないな。来月から俺はオーストラリアに転勤することになった。いつ帰って来れるかわからない。1年以上は向こう

に在住する。だからお前の真意を知りたい」

「俺に?」

「お前は後1年で今の高校を卒業だ。どうせならこのまま友達がいたほうがいいだろう。卒業してからこっちに来るといいと思ったんだが。どうだ?別にこのまま一緒に来てもいいんだが」

 オーストラリア。遥かに遠い国。

 旅行としてオーストラリアに行きたいとは思うが、在住となると話は違ってくる。

 親父にしてはいい配慮じゃねーか。

 自分の事を思ってくれての考えだ。本当だったら再婚したてだし、このまま家族がバラバラになってしまえば母子仲良くなるのもなれやしない。

 しかし後1年で卒業ならばできればいい思い出として高校を卒業させてやりたいという思いが伝わってくる。

 でもやっぱり俺・・・。

 エースは決心をつけて口を開いた。

「親父たちには悪いけど、俺今の奴等と一緒にいたいんだ。だから俺は後1年こっちにいいるよ。日本に残る」

 真っ直ぐな瞳でスモーカーを見る。

 スモーカーは軽くため息をつき、

「そうか。・・・そうだな。そうした方がいいだろう」

「ああ、悪いな」

「いや、お前は悪くないさ。まあ、後1年もないしな。1人で頑張ってみるといい」

「まかせとけよ」

 軽く握りこぶしを作った。

 そうか。これからは1人暮らしができるのか。女呼び放題だな。

 心の奥の方でいやらしいことを考える。

 炊事、洗濯は面倒だが気ままな暮らしというのも悪くはない。こんなにも早く実現するとは思わなかった。

 へらっ。

つい、無意識に顔が緩んでしまう。

 その時ルフィが口を開いた。

「ねえ、父さん。俺も日本に残りたい」

「何を言うの、ルフィ」

 芙由子が止めに入る。

「だって俺も高校に入ったばっかだし、それにエース兄ちゃんとも仲良くなれたんだ。離れたくないよ」

「ルフィ・・・」

 スモーカーは少し考えて、

「別にいいだろう。そう思ったのならやってみろ。俺の息子になったんdな。泣き言は許さんからな」

「スモーカーさん」

「1年だよ。そんなに長くはない月日さ。それにちょっと長い新婚旅行だと思えばいい」

 優しい目で芙由子を見た。

 芙由子は少し涙ぐみながらもこくん、とうなずいた。

「ってちょっと待てよ!親父。ルフィも連れて行けよ!コイツはまだ高校1年だからそんなに友達いないだろ?!」

「友達がいないだなんてお前にどうしてわかる?」

「うぅ・・・」

「お前はただ1人気ままな生活がしたいだけだろうが。お前1人だと何をしでかすかわからないからな。ルフィを監視の下に置いておくのもいいだろう」

「ざけんな!俺は嫌だぞ、二人で暮らすのなんて!」

 冗談じゃない!二人暮しなんて。これこそやばいじゃねーか。

 なんとかスモーカーに撤回させようとエースは頑張る。

 スモーカーは葉巻の煙をエースに噴きかけ、

「何ガキみたいなこと言ってんだ。エース。それとも何か?こんなにも慕ってくれるルフィを突き放そうというのか?」

 じろっ、と睨む。

 エースはそう言われてルフィを見る。

 すると捨てられた子犬の様な瞳でエースを見た。

 目をうるうるとさせながら、『お願い』と語っている。

 その目は反則だろ・・・。

 嫌な汗が額に浮かぶ。

「そんなわけじゃんねーけどさ、でも―――――」

 俺は嫌だ!と言おうとしたときに、

「ならいいんだな。1年間二人で住んでもらおう。――――これは俺の命令だ」

 にやっ、とスモーカーは笑った。

「本当?!父さんありがとう!!よかったね、兄ちゃん」

 うるうるとさせた瞳をきらきらに変えてエースを見た。

 それはお前だけだろう・・・。

 顔がひきつっているのがわかる。

 さ、詐欺だ!!!

 エースは心の中で叫んだ。

 しかし父親の命令とあらば受けざるを得ない。

「冗談だろ・・・?」

 エースは後ずさりながらルフィを見た。

 ルフィはにこにこと笑っているだけであった。

 

 

 

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