ルフィ親子と一緒に住み始めて1週間が経った。 学校に通ってても2、3日の間はばれるんじゃないかと、ビクビクしてた。 しかし、全然そんなことはなく普通に皆接してきている。 よし、ばれてない!このまま、後1年間無事に過ごせたら。 エースはそう思った。 エースは蒼生高等学校の3年生だ。来年の3月に卒業の予定である。 何事もなく卒業できれば後はばれたってどうってことはない。とにかくエースはこの1年間を無事に過ごしたかった。 「おい、エース。聞いたか?」 サンジが話し掛けてきた。 「何を?」 エースはいつもの事なので聞き流そうとした。 サンジは人の噂が大好きで色々な所から情報を得てくる。噂がある所にはサンジの姿あり!って感じだ。 そんな噂好きじゃないエースもサンジがいるおかげで結構な情報通になっていた。 「それがさ、1年の赤城ルフィっているだろ?」 「!!」 ばれたか?! ルフィの名前を出されてエースはびくっ、とする。 いや、もしばれたのなら『聞いたか?』なんては言ってこないよな。 エースは何とか冷静に分析する。 「赤城ルフィ?ってあの1年坊主のアイドルのことか?」 とりあえず、ここはしらばっくれておこう。その方がいいだろう。 無表情の仮面を被りながら言った。 「そうそう!それそれ!」 「そいつがどうかしたのか?」 「それがさ、赤城の親が再婚したんだとよ」 ぎくぅ!ついにばれたか・・・? 無表情の仮面が落ちそうになる。 「それで?」 「聞いて驚くなよ。その相手は・・・」 そこまで言うとサンジは黙り込んだ。 何だよ!そんなにためるなよ。ばれたんならばれたと言えよ! 顔は無表情でも心はバクバクものだ。 じぃーとサンジを見ていると、口を開きだした。 「羨ましい事にその相手はこの学校の人間の親なんだってさ。すごくねー?アイドルといきなりにしてキョウダイなんだぜ?しかも同じ屋根の下で住めるんだ。こんな羨ましいことねーよ」 意気揚揚と言う。 「そ、そうか・・・」 ばれるのは時間の問題だ!やばい、やばいぞ!! 机の上に伏せた。 どうする?『ここで俺がその羨ましいヤツです』とでも言っちまうか?ああ、でもそんなことしてみろ!このクラスにもルフィのFANはいるんだ。今ここで言っちまったらこいつらに何されるか・・・。 ちらっ、と横目で腕と机の間から見た。 すると皆の視線が二人に集まっていた。耳をダンボにして聞いている。 こ、怖い・・・。こいつら怖すぎ・・・。 今まで会話を楽しんでいた人まで二人の会話を聞いていた。 「どうしたんだよ?気分でも悪いのか?」 そんなエースの複雑な気持ちを知らずに体調を心配してくれる。 「ちょっとな・・・」 心なしか頭痛がしてきた。 頭の奥の方でちりちりと焼かれている感じだ。 このままばっくれたほうがいいのか、それとも正直に話した方がいいのか。とても迷うところだ。 親が学校の手続きが面倒だから、ルフィが高校を卒業するまでは旧姓のままでいることになったのだ。 この案はエースにとって嬉しい案だった。 今はこの案のおかげで何事もなく過ごしてるが、サンジが嗅ぎ付けてきた再婚話しで相手がすぐにわかってしまうだろう。それだったらわかる前に自分の方から言った方が被害は少ないかもしれない。 よしっ、ぐちぐちしててもしょうがねー。ここは一発ぶちかますか。 「なあ、サンジ。ちょっとお前に話があるんだけど」 意を決してサンジに話し掛けた。 「何だよ、改まって。お前らしくねーな」 普段見られない真面目な顔にサンジは驚いた。 「何?聞いてやるよ」 「いや、ここじゃちょっと・・・」 流石にこの視線を集めている教室で話す気にはなれなかった。 どうせなら理解者を作ってから皆に知られた方が心強い。 サンジなら話しても理解してくれそうだ。 「何々?もしかして愛の告白とか?」 「ばーか、違げーよ。それにお前に告白なぞしてみろ、お前のFANの奴等に睨まれるぜ」 「かもなー」 サンジはそう言うとはっはっはっ、と笑った。 サンジは結構な男前でルックスが良いのだ。下級生の間ではプリンス的な存在である。 こいつその事を弁えていて、気障なセリフ吐くからな。たちわるいぜ。一体何人の子がこいつの餌食になってるか。 「じゃあ、場所移そうか?他のやつらに聞かれたくないんだろ?」 「ああ」 「ほんじゃ、屋上でも行こうぜ。昼飯がてら」 今の時間は4時間目が終わり、お昼の時間になっていた。 ここで話していてもう既にお昼の3分の1が終わろうとしていた。 「お前弁当だろ?俺購買部行ってパン買ってくるから先屋上に行って待っててくれよ」 エースはポケットから財布を取り出すと中身を確認した。 見ると千円札が3枚と小銭が520円あった。 まだ、こんなにあったんだ。余裕で飯が食えるな。 バイト先の給料日まで後1週間ある。それまでこの金額で過ごさなきゃならない。 「あれ?お前もいつも弁当だよな。どうしたんだ?今日は」 サンジは自分の弁当を取り出すとそうエースに聞いた。 「今日は寝坊しちまったから弁当持ってくるの忘れたんだよ。給料日前なのに辛いぜ。なけなしの金で食わなきゃならない」 「そりゃ、自業自得だ。忘れたお前が悪い」 「冷てーな、そのいい方」 涙を拭く真似をする。 「うんなことより早く購買部行って来いよ。食うもんがなくなっちまうぜ」 サンジは時計を指し言った。 「そうだ!もうこんな時間か。急がなきゃ!」 エースは椅子から立ち上がって教室を出ようとした。 その時、反対の入り口の方が騒ぎ出し、一気に教室内がざわついた。 う〜ん?何だ? ちらっ、と教室の中を覗いてみるとここに居る筈がない者の姿が見えた。 「あっ・・・、あっ?!」 エースは驚きのあまり言葉がでてこなかった。 「君、確か1年生の赤城ルフィ君だよね。」 皆がざわついている間にサンジがルフィに話し掛けた。 「はい、えっと確か、柏木サンジさんですよね?」 「そうだけど、よく知ってるね。俺の名前」 「それは勿論。僕たちの間では有名ですから」 にこっ、と笑う。 ぼっ、僕ぅ〜?いつも家では俺とか言ってるくせに。 家と学校での違いを見てエースは心の中でつっこんだ。 「そうかな。ルフィ君の方が有名だと思うけど?」 「そんなことないですよ」 有名人同士の謙遜対決が執り行われる。 「それで?今日は1年が3年の教室に何をしに来たの?」 サンジお得意の流し目でルフィを見た。 この流し目は大体の男女を虜にする。 お〜お、やってくれるぜ。あの似非(えせ)プリンス。 しかしルフィはにこっ、と微笑むだけで、 「兄を探しに来たんです」 「兄?あの再婚した相手の・・・?ここにいたのか」 サンジは自分の流し目に全然引っかからなかったルフィと、ルフィの兄がこの教室内の生徒だということに驚きの目で見ながら言った。 「よくご存知ですね」 「まあね。―――でっ、誰?誰がルフィの兄貴なの?」 サンジが教室内を一瞥する。 その目が怖い。 皆その目にびくっ、とする。 皆は目が合うと次々にブルブルと首を振った。 アイツ、なんで来るんだよ!これじゃ俺の決意が意味ないじゃないか!!!!どうする?! エースは青くなりながら化石の様に固まっていた。 逃げたくても逃げられない。 例え逃げたところで何も解決しない。 どのみち執拗にサンジからの質問攻めや嫉妬の視線の嵐だろう。 とりあえず一時的に非難するか、実は俺がルフィの兄貴ですと公表するか。 う〜ん、ここはとりあえず逃げるか。それで後で言い訳を考えればいい。よし、そうしよう。 気づかれないように足をそろ〜り、と動かした。 こっちを見ているかどうか二人の方を見ると、ルフィがきょろきょろと辺りを見回している。そして、ばっちり、と視線が合った。 「あっ!エース兄ちゃん」 ルフィはまるで玩具を見つけたような子供の表情でエースを見た。 終わった・・・。俺の高校生活終わりだ・・・。 ルフィの呼び声と共にエースは谷の底に落とされた様な気がした。 「エース兄ちゃん?」 サンジがエースを見た。 「はっはっ、はっはっ・・・・」 もう笑うしかねー!! 頬を痙攣させながらエースはとりあえず笑った。 「よっ、ようルフィ。お前こんなところに何しに来たんだよ」 声がどもるのがわかる。 皆の視線が痛い・・・。 ちくちくと刺すような感じた。 「あのね、兄ちゃん今日お弁当忘れていったでしょ?お母さんがさっき届けてくれたんだ。兄ちゃんに直接渡そうとしたんだけど、母さん兄ちゃんの教室がわからないからって僕を呼び出したの」 「わざわざ弁当を届けに芙由子さんが?」 「うん。はい、お弁当」 そう言うとルフィはエースに袋に入った弁当を差し出した。 その袋を受け取りエースは中を見た。すると中にメモが入っていた。 『エースくんへ。 お弁当渡すの忘れてごめんなさい。 一生懸命作ったので食べてください。 芙由子より』 そのメモ書きを見てエースは罪悪感を感じた。 あんたが忘れたわけじゃねーだろ。俺が悪いんだろうが! 心の中でエースは怒鳴った。 何であんたが悪いんだよ。俺、みじめじゃん・・・。 思わずぐしゃ、とメモ書きを握りつぶした。 「兄ちゃん?」 エースの変貌にルフィが心配する。 「・・・何だ?」 エースはルフィを見ないで返答した。 「・・・・うんん。何でもない。教室まで押しかけちゃってごめんね」 ルフィはエースに謝った。 何で親子揃って俺に謝るんだよ。 その言葉でエースはルフィを見た。 ルフィはとても悲しそうな顔をしている。 「もう、俺帰るね。じゃ・・・」 そう言うとルフィは踵を返して教室を出て行った。 エースは何も答えないままルフィを見送った。 「おい、エースどういうことか説明してもらおうか?」 サンジが詰め寄った。 「・・・・・」 エースはサンジの顔を見た。 「お前、何て顔をしてるんだよ」 「えっ?」 「顔、ひどいぞ」 「・・・どうせお前よりはひどいよ」 ちゃかされたと思ってエースは自分の机に座り込んだ。 「違うよ。そう言う意味じゃない。何ていうかこう・・・。まるで親に捨てられた子供みたいな顔してるぜ」 その言葉がエースの心に突き刺ささる。 母親になったのに自分に気を使う母親。 それに苛立つ自分。 そして、その俺を心配してくれるルフィの存在。 自分のことしか考えていないのに二人で俺の事を心配してくれる。 その思いが疎ましい。 複雑な思いがエースの中で絡み合う。 ちくしょう・・・・。 「サンジ・・・。後で訳を話すから少し一人にしてくれないか?」 手で顔を覆う。 誰にもこの顔を見せたくない。 「わかった。お前に誰にも近寄らせねーよ」 サンジはそんなエースの気持ちがわかったのか、素直に従ってくれた。 エースの隣の席に着いてくれる。 「サンキューな」 そう言うとエースは机に伏せた。 これから親子としてうまくやっていけるのだろうか? という不安がエースを襲い始めた。 |
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