俺の名前はエース。蒼生高等学校の3年だ。

 実は今,俺は考えている事がある。それは今日から新しく家族が出来るのだ。

 長年一人身だった親父が再婚したのだ。

 男手一つでがんばってきた父親が第二の人生を歩こうとしている。子供のエースとしてはそんな二人の結婚を祝ってあげたい。幸せになってほしいと。

 だがその再婚相手が悪かった。

 いや、再婚相手が悪いんじゃない。その母親になる子供がちょっと問題ありなのだ。

 なぜならばそれは、相手の子供が同じ学校の奴だからだ。

 まあ、同じ学校の奴だからと言ってそんなに毛嫌いするわけじゃないけど。

 でもそいつは同じ学校でも2つ学年が下で、しかも学園のアイドルときたもんだ。

 これはさすがにやばい。

 アイツの親衛隊に何をされるかわかったもんじゃない。ただでさえアイツが他の男と喋っているだけで嫉妬の目で見てくるのだ。

これで一緒に住もうものならホント、何をされるのか・・・。

始めに親父から再婚の事を聞かされたときには、すごいびっくりした。

親父が結婚するなんて思ってもみなかった。

親父は離婚してからも女っ気は全く感じなかったのに。

何せ仕事一筋!って感じだったから結婚なんて夢の又夢だと思っていた。

でも結婚したあたりやっぱり親父も男なんだな、と思った。

そしていざ祝福しようとした時に聞いた再婚相手がアイツの母親っていうのがたち悪いよな。

まあ、決まっちまったもんはしょうがないけど。

エースが席を立とうとした時にピンポーン、と呼び鈴が鳴った。

「ちっ、もう来たのかよ」

 時計を見ると来ると聞いている約束の時間の30分前だ。

 もう一度ピンポーンと鳴る。

「あ〜あ、はいはい。今出るよ」

 エースはぶっきらぼうに言った。

「はい、お待ちどうさま」

 エースはドアを開けて、今日から家族になる人物を見た。

 女の人といつも学校で騒がれている青年だ。

「こんにちは、あなたがエース君?始めまして、私、芙由子と申します」

 芙由子という女は深々と頭を下げた。

「おっ、おい。こんな所で頭下げるなよ。あんた俺の母親になる人だろう。もっと毅然としててもいいぜ」

「そう?でも最初が肝心だし」

「かまわねーよ。まだ親父は帰ってきてないんだ。ちょっと遅くなるらしいから先に上がって待ってろって」

 思ったより若くて美人な人だったのでエースは驚いた。

 ほわん、とした優しい感じがエースをドギマギさせる。つい、視線を外してしまう。

「あっ、ルフィ。貴方もちゃんとご挨拶をしなさい」

 芙由子はルフィに向かって言った。

「うん、始めまして。俺ルフィって言うんだ。よろしく兄ちゃん」

 ルフィは超アイドル級の笑顔を見せて、エースに向かって手を差し出した。

 知ってるよ。そんなこと言われなくたって。お前は有名人だから。

 エースは口には出さずに、心の中でそう言った。

「よろしく、ルフィ」

 エースは手を軽く握り返すと、

「じゃあ、汚いところだけど上がってくれよ。もう、ここは既にあんたらの家なんだから」

 体を退けて手でドアを抑えてやる。

 入れという合図だ。

「ありがとう、エース君」

 にこっ、微笑んだ。

 その笑顔はエースの心にぐさっときた。

 なっ、なんだこの人。めっちゃかわいい!

 周りの女なんか目じゃないぜ。

 あっけに取られているエースの横を二人は通り抜けた。

「あら、全然汚くなんかないじゃない。綺麗に掃除してあるわ」

 芙由子はきょろきょろと見回した。

 ルフィは興味津々という顔で周りを見ている。

「お庭も広いのね」

 窓ガラスを覗き込んで庭の広さを確認した。

「ここにお花はないのかしら?」

「花?そんなモンはねーな。親父も花の面倒なんて見てられなかったし、俺も花なんて育てようなんて考えたこともねーし。なんなら芙由子さんが花を植えてもいいんだぜ?俺たちは庭なんてないようなもんだから。そのほうが庭も喜ぶだろうし」

 正気に戻ったエースが口を開いた。

 芙由子はその言葉に少し悲しみの表情をさせたが、すぐに元の表情に戻った。

「ありがとう。そうさせて頂くわ」

 ルフィも庭の方まで行き、

「うわぁ〜、すげー!庭だ!」

 目をキラキラさせながら言った。

「・・・そんなに庭がめずらしいのか?」

「うん、俺が住んでいた所ってアパートだったから。こんな庭付きの一戸建てに住むのは初めて」

 眩しいばかりの笑顔をエースに向けた。

 くそ!男なのにそんな花を背景(バック)にしたような笑い方すんじゃねーよ。

 男にドキッとした自分が許せなくて、心の中で罵声してしまう。

 こっほん、と咳払いして、

「おい、ルフィ。お前の部屋を案内してやるよ」

 その言葉を聞くとルフィはぱぁ、と笑顔が更に広がった。

「部屋?俺の部屋?」

「そうだよ。だからついてこい。案内してやる」

 俺、この家に住んでて大丈夫かな。

 ルフィの笑顔にくらくらしながらエースは部屋を案内した。

 2階に上がり、右側にある手前の部屋を開けた。

「ここが今日からお前の部屋だ。好きに使うがいい。・・・じゃ」

 エースはそう言うとドアを閉めようとした。

「ねぇ!」

 呼び止められてエースは振りむく。

「・・・何?」

「えっと・・・」

 呼び止めたのはいいが何を言っていいのかわからないようだ。

「何?」

 もう一度問い掛ける。

 ったく、何なんだよコイツ。呼び止めたんなら何か言えよ。

 早くこの場所から出て行きたいのに、呼び止められてイライラする。

 なるべく係わり合いにならないようにしないと。

 学園のアイドルと一緒に住んでるなんて皆に知られたらボコボコにされるぜ。特にアイツラに・・・。

 エースは友達の姿を思い浮べた。

 親衛隊を然ることながらルフィの追っかけをしている友達。追っかけをしていないまでも、高嶺の花としてルフィを思い焦がれている友達はいっぱいいる。

 もしこのことが知れたらリンチだな。

 恨めしい友達の顔が想像できる。

 何で男子校なのにアイドルが生まれるのかが不思議だぜ。

 軽くため息をつく。

「用がないなら出て行くぞ」

 くるりと向きを変えた。

「待って!エース!」

 ルフィは叫んだ。

「ああ?」

 いきなり名前で呼ばれてエースは驚いた。

「あっ、ごめん、兄ちゃん・・・。その、兄ちゃんと一緒に住めるなんて夢見たいでさ。その、嬉しいんだ。俺一人っ子で遊んでくれる人いなかったから」

「・・・いっぱいるだろう。学校に。お前の取り巻き連中が」

「あの人たちは関係ないよ。俺は一緒に遊んでくれる友達が欲しいんだ。いっぱい話したり学校帰りにどこか遊びに行ったりして」

「そんなの取り巻きなら喜んでやってくれるよ。お前、何が言いたいんだ」

 何を言いたいのかエースには理解できない。

「だから・・・、兄ちゃん俺の友達になってよ!」

「はぁい?」

 聞き違いか?今友達という言葉が聞こえたが・・・。

 しかもなってくれだと?意味わかんねー。

「どういうことだよ」

「友達いないから。兄ちゃんだったら良い友達になれると思うんだ!」

「俺はゴメンダね。友達なら腐るほどいるから」

「別に友達はいっぱいてもいいでしょ?それにいっぱいいたからって腐るもんじゃないよ」

 一生懸命ルフィはエールに取り繕うとした。

「あっそ。でも俺はお前とは友達になるつもりはないよ」

 エースは冷たい言葉を解き放った。

 その言葉がきいたのかルフィは悔しそうな顔をした。唇をかみ締めている。

 何でそんな泣きそうな顔をしてるんだよ。俺そんなに悪い事言ったか?

 罪悪感にかられながらもエースは言った。

「何だよ、何でそんな顔すんだよ」

 イライラに拍車が掛かる。

 あ〜あ、もう!今日は厄日か?

 自分をじーっと見ているルフィを見て、エースは逃げ出したくなる。

「・・・ふぅ、俺はお前の兄貴なんだから友達なんかになれないだろ?良い兄貴になってやるよ。弟君」

 エースは一歩退き、譲歩した。

 これでいいんだろう?わかったなら俺はとっとと出て行きたいんだけど。

「そうだね、そうだよね。エース俺の兄ちゃんだもんね!ごめん、変なこと言って」

 表情に笑顔が戻る。

「じゃあ、俺は行くからな」

「うん。下にいるんでしょ?」

「ああ、芙由子さんにも案内しなきゃならないからな」

「じゃあ、後で俺も下に降りるね」

 にかっ、と笑う。

「ああ、勝手にしろ」

 そう言うとエースは部屋から出て行った。

 真っ赤になりそうな顔を手で抑える。

 ・・・やっぱりアイツはアイドルだな。

 エースはそう思うとこれからの生活に不安を覚えずにはいられなかった。

 

 

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