絵梨子は声の主を見て驚いた。 「冴羽さん!」 驚きの余り後ろに後ず去った。 「何そんなに驚いているのかな?絵梨子さん」 撩の表情は真顔だった。 「えっ、だって何でここの場所がわかったのかなと思って」 撩らしくない表情に絵梨子は少し恐怖感を持つ。 (何、この冴羽さんの圧迫感は・・・。) 嫌な汗が額流れる。 「俺を誰だと思ってるのかな?香の居場所ぐらいわかるさ」 (香の居場所・・・。) その言葉を聞くと絵梨子はくすっ、と笑った。 「何だよ」 撩はむすっ、とした顔をする。 「いえ、ごめんなさい。香の事本当に好きなんだなと思って」 「どういう事だ?」 「だって冴羽さん、いつもならいやらしい顔で襲ってくるじゃない。それに冴羽さんのそんな真剣な顔私見たことないわよ。そんな表情をする程香の事が心配だったのね」 「べっ、別にそういう訳じゃねーさ」 図星を付かれて撩は焦る。 「じゃあどんな訳なの?」 それにすかさずツッコミを入れた。 「・・・そ、それよりもあの暴力女はどこ行ったんだ?俺に黙って勝手に依頼を受けやがって・・・」 (俺に黙ってね・・・。よほど香に黙っていられたことが嫌だったのね。) 撩が以前よりは香に対して気持ちを現してくれることが絵梨子にとって嬉しく思えた。 「冴羽さん、香は今ここにはいないわ」 「ん?どういうことだ?」 「ちょっと香は出掛けてるのよ」 「出掛けてるだぁー?どこに」 「うーん、言ってもいいのかしら?」 絵梨子は意味心な笑み浮かべる。 「絵梨子さん?」 訝しげな目で見る。 「・・・今ね、香はデート中なーーー」 のよ、と絵梨子は最後まで言えなかった。 撩がもの凄い形相で絵梨子を見てる。 その表情にびくっ、とする。 「・・・誰とだ?」 ゆっくりと口を開く。 「誰とデートしてるんだ、香は?」 鋭い瞳で絵梨子を見る。 (・・・怖い。これが裏の世界でbPのスイーパーの顔。) その鋭い眼光に見られ、手にはしっとりと汗をかいた。 「今回の相手役の人とよ・・・」 出す声が心なしか震えている気がする。 絵梨子はぎゅ、と手を握り締めた。 「相手役ね・・・。で、そいつの名前は?」 一瞬、絵梨子は言うのをためらったが、撩の眼光がそれを許さなかった。 仕方なく正直に絵梨子は話す。 「冴羽さんのよく知っている人よ」 「俺の知ってる奴だぁ〜?誰だよ、もったいぶらずに教えてくれ」 「それは、ミックさんよ。ミック・エンジェルさん」 そう言うと絵梨子はにこっ、と笑った。 「ミ、ミックゥ〜?!」 思いもよらない人物の名前に撩は驚く。 「マジかよ、絵梨子さん。マジで香とミックがデートしてるのかよ?」 撩は絵梨子に詰め寄る。 「本当よ。夕食でも食べに行ったんじゃないかしら?もう今日のリハは終わりだし」 (こんな冴羽さんの顔を見れるなんて思わなかったわ。) 焦る撩の顔が面白くて絵梨子はにやにやと顔を緩めた。 「何でミックが香の相手役なんだよ。他にもモデルの男がいるだろうが」 「だって、ミックさんいい体してるんですもの。あんな体滅多に拝めないわ。それにミックさん、外人さんで格好良いし。今度のショーにはあの二人はイメージにぴったりなのよ」 「他にも外人で筋肉質の男なんてモデルならいっぱいいるだろうが!」 「確かにそれはそうね。でも、他の人じゃ駄目なのよ。今度のショーの主体はウエディングドレスなんだから。ほんわかな優しい雰囲気をイメージして今回のデザインは考えたの。だから相手役の人は香の事を好きな人じゃないと」 「だからってな、ミックにすることないじゃんかよ」 むすっ、と撩はふくれた。 「だって、あんなに香に対して優しい雰囲気をかもし出せる人は、冴羽さんかミックさんしかいないのよ。冴羽さん、こういうショーにでるの嫌いでしょ?それにミックさんに話したら直ぐにOKしてくれたし」 絵梨子は両手を合わせて、にこっと笑った。 「でもな〜」 撩は否定的な言葉を投げかける。 「あら?じゃあ、冴羽さんがやってくれるの?モデル」 「うっ・・・、それは・・・」 撩はその言葉を聞くと後ろに一瞬引いた。 「いやでしょ?だったらいいじゃない。それに冴羽さんとミックさんて親友なんでしょ?だったら他の男性モデルよりも安心じゃない?香を口説くこともないし」 でしょ?といった感じで絵梨子は撩を見た。 「安心な訳ないだろう!ミックはかなりモッコリスケベなんだぞ!それにミックは香に惚れてたんだ。そんなアイツが今の状況を楽しまないわけないじゃないか!」 撩は両手をわなわなを震わせながら言った。 「へぇ〜、ミックさん香の事好きだったんだ」 絵梨子はふ〜んと言った感じで言う。 「なんだよ、まるでわかっていたような口ぶりじゃないか」 言い方に何かを引っかかった撩は、子供見たく口をとんがらせた。 (・・・香のことになると冴羽さんは独占欲丸出しになるわね。このこと香は知っているのかしら・・・?) 絵梨子は撩にこんなにも思われている香を少し羨ましく思えた。 「知ってるとかそういうことじゃないんだけど・・・」 絵梨子は一呼吸おいて言うと、 「最初に会ったときから思ったことなんだけど、二人が話しているのを見た時に、ミックさん、すごい優しい目で香を見るのよね。まるで冴羽さんが香を見るような目で。だからもしかして香の事が好きなのかなと思ったのよ。それに、リハの時もミックさん、香を他の男性から守ってたし」 絵梨子はリハーサルの時のことを思い出した。 香は結構スタッフやカメラマンの人から口説かれていたが、 しかし鈍感な香はそれに気づくこともなく、普通に接していた。 ミックが香の側にいるときは、ほんの少しでも他の男性が香に触れようとするとそれを遮り、香に触れさせないようにしていた。 口説こうとするとミックは香に気づかれないように鋭い瞳でその男性を睨んだ。 流石に裏の世界で一流のスイーパーのミックに凄まれると、男性の人たちは一目散に散っていった。 香は不思議そうな顔をしながら、逃げていった人たちを見ていたが、ミックがすぐに話題を振るので、そんなことは気にしなくなっていたのだ。 絵梨子はそんなミックを見て、ミックが香の事が好きなんだと確信した。 「すごかったわよ、ミックさんの凄み」 絵梨子はきっ!と目を吊り上げる真似をした。 「ふ〜ん、アイツが香をね・・・。そうだろうな、自分が惚れた女を他の奴なんかに口説かれたくないだろうし。まあ、ミックが香を守ってくれるなら俺はソイツらには手を出さなくてもいいな」 ふっ、と軽くため息をつく。 「・・・?ソイツらに手を出す?」 「ああ、香に今後一切手を出さないように忠告しようかと思ったんだけど、ミックに睨まれたんじゃ頼まれても香には近づかないだろうよ」 あっけらかん、と撩は言った。 (・・・独占欲強すぎ・・・。) 絵梨子は心の中でそう思った。 「じゃあ、俺はミックから香を守る為に行きますかね」 踵を返し、部屋から出ようとした。 「えっ、ちょっと。冴羽さん?行くって場所とかわかってるの?」 「さあ?それとも絵梨子さんは場所知ってるのかな?」 「いいえ、知らないわ」 プルプルと首をふる。 「そっ、なら探すよ」 「探すってどこを?」 「わかんねーけど。・・・でも、香の場所ならわかるよ。俺の感がきっと香を探し出すさ」 撩は振り向き、にっ、と笑った。 「すごい自信・・・」 その言葉を聞くと、撩はにやっ、と笑った。 「じゃあね、絵里子さん。今度暇なときにでもデートしようぜ」 そう言うと撩は部屋から出て行った。 残された絵梨子は目をぱちくりとさせながら、呆然としていた。 「香ってばこんなにも愛されていたのね・・・」 撩の愛の深さを思い知り、絵梨子は唖然とした。 「まったく、二人して表にラブラブっぷりをださないんだから」 表面上は変わっていないように見てても、実は心の奥深いところで繋がっている二人がとても羨ましく思える。 「まあ、お二人ともお幸せにって感じかしら。・・・まあ、私は明日のショーが無事に終われば何も文句はないけどね」 そう言うと絵梨子は事務室を出て行った。 |
*****戯 言*****
やっと撩が登場いたしました。
ミックと香を書いてると、撩をすっごく独占欲の強い男にしたくなっちゃうんですよね。
撩は香に溺愛しているというイメージが私の中ではあるので、どうしても撩の思いが強くなっちゃいます。
まあ、私にとってはカオリンが幸せならばそれでいいんですけど。
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