「香さん、どうかされましたか?」
神崎は香の表情を伺いながら聞いてきた。
今2人は会社近くにあるガーデンレストランで食事をしていた。
今日は寒くもなく暑くもなく、外で緑を眺めながら食事をするには丁度良い気温だった。
沢山の緑や色とりどりの花が咲き誇っていてとても綺麗だ。
だが、香は庭園の緑に目を向けず、何か塞ぎこんでいるようだった。
「あっ、ごめんなさい。私ぼーっとしちゃって」
香はすぐに元に戻るが、また表情が欝になる。
先ほどの撩の会話が頭に引っかかっているのだ。
撩だって仕事を引き受けた以上、依頼人を守るのが仕事ということはわかっている。
だが、自分以外の女性を守る言葉は聞きたくなかった。
それが依頼人であっても。
――これじゃあ、シティーハンター失格かしら。些細なことに嫉妬するなんて。
香は嫉妬と、そして嫉妬をしてはならないという理性が葛藤し、頭を悩ませていた。
理性と感情は別物だというが、本当だ。
頭ではわかっているのに心が理解しない。
――考えるのは止めよう。神崎さんに失礼だわ。
気を取り直し、深呼吸をすると神崎を見た。
「神崎さんに…、ってごめんなさい。玲一さんでしたわね」
どうも神崎を名前で呼ぶことはまだ慣れない。
撩がライバルになった以上、香も真剣にやらなければ。
ここで自分が仕事を完遂させることが出来たら、シティーハンターとしての自信がつくかもしれない。
「玲一さん。悪いお知らせがあります」
香の顔ではなく、スイパーとしての顔を出した。
無意識に目付きが鋭くなる。
神崎は香の変化に気が付き、神妙な面になった。
「悪い知らせ?」
「はい。この依頼に妨害をする人が出てきました。依頼主に何か心当たりでもありますか?」
聞かずとも香にはわかっていた。
2人を裂こうとしている人間は1人しか思い浮かばない。
神崎は目を細め、軽く息を付く。
「……彼女ですかね。紅月さんのお嬢さんしか」
「私もそう思います。向こうも同じく私と同業者を雇ってきました」
香は唇を噛み、目を瞑った。
「しかもその相手は、私のパートナーです」
「何ですって?」
神崎の目が見開かれる。
「先ほど敵として接触してきましたから。間違いありません」
「いいんですか?そのパートナーの方と敵対してしまって。――なんでしたらこの依頼、取り消しますが。仲違いしてしまうでしょうし」
神崎は香を心配して、そう言った。
神崎はこの依頼を取り消したくない。依頼というよりも、香と離れることが嫌なのだ。
だが、香がパートナーと敵対すると聞いて、心情穏やかではない。
自分の身可愛さに、好きな人を不幸にはしたくはないのだ。
神崎は自分の感情を抑え込み、香を手放そうとした。
「いいえ。この依頼、遂行させてください。私のスイーパーとしての意地がありますから」
香の目には強い意思が現れていて、神崎はそれ以上何も言えなかった。
「では、これからも私の……、いえ。依頼をお願いします」
側に居てください、と言いそうになったが、神崎はぐっと堪えた。
「はい、もちろんです。こちらこそお願いします」
香は微笑すると、軽く頭を下げた。
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