撩は香がいなくなったことをいいことに、飲みに行こうとして街に出向いた。

 この街で撩の知り合いはたくさんいるのだが、なぜか皆今日は愛想が良い。

 それも飲み屋関係が。

 いつもなら、いい加減にツケを払えだの言うのにな・・・。変なの・・・。

 にこにこしながら飲みに誘う。

「よっ、撩ちゃん!今日飲んでいかないかい?サービスしちゃうよ」

 行きつけの中の1軒が撩を誘った。

「どうしたんだよ、マスター。今日はえらく機嫌がいいじゃないか」

 いつもなら誘わないのに、どうもおかしい。

「何かいいことがあったのか?」

 そう撩は言うと、マスターの顔がにんまりした。

「何言ってるのさ、撩ちゃん。撩ちゃんが知らないわけないだろう?」

 ・・・はて?なんの事がな・・・。

「俺が知らない?」

 なんの事だ?

 訝しげな目で撩はマスターを見た。

「またまた〜。香ちゃんから聞いてないの?」

 香?

 思いもかけない人物の名前に撩は少し驚いた。

「香がどうかしたのか?」

「えっ、知らないの?香ちゃん、撩ちゃんが飲み歩いて溜めていたツケを今日の朝、全部の店に支払

って行ったんだよ」

 本当に知らないの?

 とマスターは首を傾げた。

「香が全部のツケを?」

 そんな馬鹿な。アイツにそんな金があるはずねぇ。一体どういうことだ・・・。自分でいうのもなんだ

が、かなりのツケは溜まっていたはずだ。それを全部一括で払えるわけがねー。それを何故香が払

える様になったんだ?

 撩の顔が一気に険しくなる。

 アイツ、何かヤバイ事でもやったか・・・?いや、そんなはずはいない。もしそうなら何か俺に情報が

入ってもいいはずだ。

 では何故・・・?

 う〜んと唸る。

「まあまあ、撩ちゃん。いいじゃないか。香ちゃんがツケを払ってくれたお陰でこうして撩ちゃんが飲み

歩くことができるんだから。今日は特別にボトル1本サービスしちゃうよ」

 マスターは営業用の顔で笑いかけた。

 その顔に撩は何か違和感を感じた。

「・・・マスター。他にも何かあるのか?」

「何が?」

「ツケを払ったからってボトルを1本プレゼントなんて気前が良すぎるぜ」

 じろっ、と撩は見る。

「いや〜、流石わ撩ちゃんだね。ちょっと香ちゃんから迷惑料というのをもらっちゃってね。またツケ

で飲むと困るからと、少し余計においていってくれたんだよ。だから、今日はその香ちゃんの優しさ

にめんじてボトルをプレゼントしようとしたのさ」

 撩ちゃんもいい恋人を持って幸せだね〜とマスターは肘で撩を小突く。

 余計に金を置いていっただぁ〜?一体香はどこからそんな大金を手に入れたんだ。

 自分の知らない金の流出に、撩は焦る。

「マスター。香はその金をどこから手に入れたか言ってなかったか?」

「別になにも。・・・ああ、そう言えば今度友達のショーに出演するとかどうのこうの言ってたな。だか

ら3日間撩ちゃんがツケで飲み歩いても、3日後にはそのツケを支払いに来るから、飲ませてあげ

てくださいって、・・・てどうした、撩ちゃん?」

 マスターは蹲った撩に話しかけた。

「いや、何でもない・・・。確かに香の奴友達のショーに出るって言ったんだな?」

「ああ、確かに言ってたよ。それがどうかした?」

「・・・なんでもない」

 深くため息をつく。

 ったく、香の奴。そういうことか・・・。それで金ができたんだな・・・。

 香の友達でしかもショーにでるとなれば、1人しか思い浮かばない。

 高校の時からの大親友の北原絵梨子である。

 それならば昨日の夜から香の態度がおかしかったのに納得がいく。

 それにいきなり絵梨子の家に泊まりに行くと言って行ったことも。

「マスター。悪いけど、急用を思い出したから今日はやめておくよ」

「そうかい?じゃあ、又明日にでもきてくれよ」

 にまっ、と笑った。

 ・・・香の奴、どのくらい余計な金を置いていったんだか・・・。

 やたらと機嫌のいいマスターを見て撩は思った。

「じゃあな、マスター」

「おう、又な」

 撩は手を振ってその場を後にした。

 それにしても香の奴、俺に何にも言わないでショーに出るなんて何て奴だ。

 撩は香に黙って仕事を引き受けたことに少し腹を立てていた。

 アイツは自分がいかに魅力がある女であるということが全くわかっちゃいない。香と撮るカメラマ

ンもそれに近づくスタッフも、香に手を出すに決まってる。

 これまで数度絵梨子のモデルをやったが、全部誰かしら香にちょっかいを出そうとしていた。しか

し、それはいつも未遂に終わっていた。

 ちょっかいを出そうとすると撩がいつもそれを阻んでいたのだ。

 アイツは鈍感だから、男共が下心あって話し掛けてくるなんて思ってもみないだろうし。

 撩は無数の男達に口説かれている香をイメージした。

 ムカッ!

 アイツに触れていいのは俺だけだ。他の誰にも触らせん!他の男が触ったら即地獄行きだと

思え。

 キッ!と空を睨みつけた。

 すると、ドン、と誰かと肩がぶつかった。

 見るといかにもチンピラみたいな人が撩を睨みつけていた。

「あんだぁ〜、兄ちゃん?ぶつかってきておいて挨拶もなしかよ」

 まだ新人なのか撩の顔を知らないチンピラは、下劣な笑いをしながら言ってきた。この街の住

人が撩を知らないはずがない。

 知っていて喧嘩をふっかけてきたら、それは物凄い度胸の持ち主だろう。それとも自分の力に

自信があるのか・・・。

 しかし、このチンピラを見ると、実力なんて全く持ち合わせていない。通りすがりの人に肩をぶ

つけて、因縁をつけては金をふんだくるという、いかにも下っ端みたいな奴だった。

 撩はその男をじーっと見る。

「なっ、なんだよ、兄ちゃん。俺の顔に何かついてんのかよ?それより金だしなよ、金。俺肩が外

れたみたいでよ〜。おぉ、いてて・・・」

 嘘っぱちな演技をする。

 左肩を抑えて、痛がる真似をした。

「あいにく金は持ち合わせていないんでね。・・・それに、今の俺は機嫌が悪いんだ。怪我したくな

ければとっととうせるんだな」

 撩はそういうと睨みを利かせた。

 すると男はびくっ、と体を震え上がらせその場に固まった。

「おい、下っ端!何してるんだ!」

 男の仲間なのか、先輩らしき人物が男に走りよってきた。

「何って、肩をぶつけられたんで慰謝料を貰おうかと思ってるんですが・・・」

 血相をかかえて走り寄ってくる先輩にその男は疑問符を顔に浮かべた。

「そんなに肩が痛いのか?」

 撩は無表情で言う。走り寄ってくる男におかまいなしに。

「ああ、もうすげー痛くて痛くてしょうがねー。なに?アンタ、慰謝料くれんの?」

 男はやったという表情をした。

 撩はその男の顔を見て、眉毛を吊り上げた。

「いいだろう。その代わり・・・」

 撩はそう言うと男の肩に手をかけた。

「あっ、冴羽さん、待ってください!」

 ゴキッ!!

 走り寄ってきた男が叫んだと同時に、チンピラの男の肩が異様な形になった。

「うぎゃーーーーーーーーー!!いてぇーーーー!!」

 男は涙目になりながら、肩を抑えた。

「そうそう。痛いときはそうやって叫ばないと」

 自分の中にどす黒いものが渦巻いていくのがわかる。

 このままこの男を殺してもいいかもしれない・・・。嬲り殺しにするのも・・・。

 そんな思いが撩の中で蠢く。

 香を取り巻く男達もこんな風にしてやろうか・・・。

 すると駆け寄ってきた男がチンピラの男を庇った。

「冴羽さん、許してください!コイツまだこの街に来たばっかで何もしらないんです!今日は簡便し

てやってください!」

 ぺこり、と頭を下げた。

「ほらっ、お前も謝れ!」

 その男は痛がっている男の頭を無理矢理下げさせた。

 すみません、すみません、と何度も頭と地面をくっつけながら言う。

 しかし、何も返事が返ってこない撩に不信を思いながら、頭を上げた。

「冴羽さ・・・、って、アレ?」

 するとそこには撩の姿はなかった。

 男は呆然としながら、少し辺りを見回した。

「・・・どうやら助かったみたいだな・・・」

 ほっ、とため息をついた。

「あ、あの〜、兄貴。さっきの男は誰でしょう?」

 痛みで顔を顰めながら聞く。

「シティーハンターの冴羽撩だ。この街に住む以上はあの人には逆らっちゃならねー。今日お前の

命が助かったのは奇跡としか言いようがないぜ」

 額にかいた汗を手で拭う。

「シティーハンターって、あの裏世界でbPのあの?!っててて・・・」

 大声を出した為、肩に痛みが走る。

「ああ、ここ数年女のパートナーができてからめっきり大人しくなったと聞いたことがあったが・・・」

 先程の撩の顔を見るとどうも大人しくなったようには思えない。

まるで修羅の顔をしていた。

 二人の男はぞっ、とした。

「俺、今度から因縁つける人は顔をみてから決めます・・・」

「そうだな。そうした方がいいかもな・・・」

 二人は少しの間固まったままその場に座っていた。

 

 

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