「じゃあミック。また明日・・・。絶対に僚にばらすんじゃないわよ!」

 人差し指を立てて、香はミックに言い聞かせた。

「OH〜!わかってるよ。勿論、これは俺達二人の秘密さ。誰にも言わないよ」

「本当ね。あっ、でもかずえさんには言った方がいいかもよ。心配かけると悪いし」

「OH、Yes!そうするよ。では、又明日会おう、カオリ・・・」

 そう言いながらミックはカオリにキスを迫ってきた。

「この、スケベ〜!!」

 ドンッ!と香特製のハンマーが炸裂する。

 パンパン、と手を払うと、

「じゃあ、ミック。おやすみなさい」

「は〜い・・・。おやすみなさ〜い・・・」

 ミックは地面とキスをしながら、言った。

 香はそれを確認すると家の中に入っていった。

「ただいま〜」

 香は靴を脱ぎ、ダイニングに入っていった。

「おかえり。遅かったな・・・」

 僚が新聞から目を離さずに言った。

「うん、ちょっとね。絵梨子と話してたら遅くなっちゃって・・・。ごめん、すぐ夕飯作るわ」

 (やばい・・・。なんか僚の顔が見れない・・・。)

 後ろめたい気持ちがあるのか、香は僚の顔を見れないでいた。

 絵梨子と会っていたのは嘘ではないので、すんなりと言えたのだが。

「絵梨子ちゃん、日本に戻ってきてるのか?」

 絵梨子という言葉に僚は新聞から目を離す。

 (絵梨子ちゃんには結構痛い目にあってるからな・・・。ろくなもんじゃないぜ・・・。)

 僚は内心思った。

「ええ、今度こっちでショーを開くんですって。だから少しの間だけだけど、日本にいるみたいよ」

「ふ〜ん・・・。まあ、厄介事を持ってこなければいくらでも会ってもかまわんがね」

 煙草を銜えながら僚は言った。

 (厄介事か・・・。もう、既に持ち込まれてるのよね・・・。)

 はっはっ・・・。と心の中で苦笑いをしながら香は夕飯の準備を始めていた。

 他に何か聞かれることとボロがでそうになるので、香はなるべく絵梨子の話に触れないことにした。

 他愛のない会話に華を咲かそうとする。

 僚はその話をふ〜ん、と言いながら聞き流す。

 後少しというところで、僚は席を立った。

「香・・・。俺、ちょっと出かけてくるわ」

「えっ、でももうすぐ夕飯できるわよ」

「すぐ帰ってくるよ。煙草が切れたから買って来る」

 そう言うと僚は部屋を出て行った。

「煙草・・・?」

 香はテーブルの上をみると灰皿に山盛りになっている煙草の吸い殻があったことに気が付いた。

「何、この吸い殻の山は・・・」

 もしかして自分を待っていたのだろうか?

 そんな淡い期待を胸に秘める。

 (まさかね・・・。)

 そう香は思うと、夕飯の準備に取り掛かった。

**********

 次の日の朝、僚が目を覚ましたら香の姿は見えなかった。

 (あれ・・・、アイツどこ行ったんだ?)

 ぼーっとする頭を掻きながら、僚は考えた。

「あっ・・・」

 僚はふと思い出したかのように声を上げた。

 (そういえばあいつ、今日から3日間絵梨子さんの所に泊まるとか言ってたな、今度のショーが終わったらすぐに外国に旅立つからその前に、ゆっくりと話がしたいと言っていたな。それにしても3日も泊まりに行くかね・・・。)

 仲の良すぎる2人に少し違和感を覚える。

 僚はその違和感を気のせいだと思い、ダイニングに行った。

すると机の上に置手紙を発見する。

 〔僚へ!

  朝ごはんは冷蔵庫の中に入っているから、ちゃんと暖めてから食べてね。

  そして私がいないからといって不規則な生活をしないように。

  では、行って来ます。〕

 という内容だった。

 その手紙を読んで僚は微笑む。

 そして手紙に向かって、

「行ってらっしゃい」

 と呟いた。

**********

 香が絵梨子の事務所につくと、そこにはすでに何台かの車が待機していた。

「いらっしゃい、香。よく来てくれたわね」

 絵梨子はにこっ、と微笑んだ。

「しょうがないでしょ。親友の頼みだし、それにちゃんと依頼も受けたしね」

 (前金で100万も貰っちゃうとね・・・。)

 昨日渡されたお金の重みを思い出す。

 (しぶりに見たわよ、あんな大金。)

 ずっしりと重いお金の感覚。100万程度ならそんなに重くはないのだが、普段100万という大

金を香にはお目にかかる機会がなかったので、大金を持っているという思いが札束を重くした。

 しかしその大金はもうすでに半分を使い切ってしまった。

 (だって、水道光熱費や僚が飲みに行った店のツケとか払っちゃったらなくなっちゃったんだもん。仕方ないわよね・・・。)

 毎晩ツケがきくからと言って飲み歩いている僚のツケがかなりの金額をいったのだ。

 今朝、各店にツケを払いに行って結構な大金を取られた。

 毎晩飲み歩く上に、大量のお酒を飲むから1回で掛かるお金が半端ないのだ。

 それでも各店の人はツケで飲ましてくれる。

 まあ、それも香が遅くても、ちゃんとお金を払ってくれるからできる行為である。

 香は何店舗か回って、この待ち合わせ場所に来たのだ。

 使ってしまった以上はこの仕事を成功させなければならない。

 香は憂鬱な気分に陥る。

 そんな香を絵梨子はどう思ったのか、

「大丈夫よ、香。貴方は私の最高のモデルよ!心配しないで」

 ドンッ、と香の背中を押した。

「えっ・・・。あっ、はっはっ・・・」

 香はなんと言っていいかわからずに、とりあえず笑っておいた。

「ありがとう・・・。絵梨子」

 一応心配してくれる親友にお礼を言う。

 気遣ってくれる言葉が香には嬉しかった。

 にこっ、と微笑む。

「よしっ!頑張るかな」

「そうそう。その意気よ、香」

 そう2人が微笑みあったときに、後ろから今回香のパートナーであるミックの声が聞こえてきた。

「Hi〜!カオリ、エリコ!待たせてしまって申し訳ない」

 ミックが足早に歩いてくる。

 身長が高く、そして足がとても長いので3人の距離は一気に縮まっていく。

「ミックさん、いらっしゃい!」

 絵梨子は目を輝かせて言う。

「これで主役は揃ったわね。一時はどうなるかと思ったけど、二人が了承してくれてよかったわ」

 きゃ、と一人で喜んでいる。

「今日のミックさんとても素敵よ。体のラインがとてもセクシー」

 うっとりとした表情でミックの体を見ている。

 流石のミックもこれには参る。

 香はそんな絵梨子を見て、頭が痛くなった。

 (・・・何事もなければいいけど。)

「・・・カオリ、いつもエリコはこうなのかい?」

「・・・そうなの。ごめんなさいね」

「いや、気にしなくていいよ。一時でも香のパートナーになれるんだ。こんな嬉しい事はないよ」

 ふっとミックは微笑んだ。

 日本に来て本気で好きになった人。

 自分の命を掛けてでも、この人を守りたいと思った。

 しかしそう思っても既に遅く、香の隣には僚の存在があった。

 最初は僚から奪ってやるつもりだったのに、2人の関係を見せ付けられて見事に玉砕したのだ。

 しかしそのお陰で、今はかずえという愛しい人の存在が今のミックの心の中にはいるのだが・・・。

 香はかずえとは違う存在だ。特別な人。

 ミックは香と優しい瞳で見た。

 香はその視線に気付かずに、絵梨子に話し掛けた。

「ねえ、絵梨子。私達はこれからどうすればいいわけ?」

「ああ、ごめんなさいね。まだ予定言ってなかったわね。これからショー会場に行って、リハーサルをやってもらうわ」

「リハーサル?!そんなのまだ早いわよ」

 香はびっくりした表情をした。

「大丈夫よ。香はもう私のモデル慣れてるでしょ?」

 ぱちんっ、とウインクをした。

「慣れてるとかそんな問題じゃないでしょ?いきなりリハーサルは無理よ」

「リハーサルとか言っても簡単な立ち位置とか振りの練習とかよ。もう、そんなに練習をしている時間はないの。照明さん達とかと綿密な計画もしたいし」

「・・・ったく。だったらもう少しこの話早く持ってきてもらえればよかったのに」

「ごめんなさい。気付かなかったのよ。それに2人とも練習しなくてもそこに立っているだけで充分様になるわよ。背筋がピンとしているもの」

 絵梨子は香とミックを見て微笑んだ。

「とてもお似合いの2人よ」

「OH〜、エリコ!キミは何て良いことを言ってくれるんだ!俺とカオリがお似合いの二人だって?その言葉嬉しいよ」

 ミックは本当に嬉しいのか顔をニコニコさせている。

「ちょと、絵梨子!何言い出すのよ」

 香は真っ赤になりながら言う。

「あら?だってミックさん格好良いじゃない。それに、冴羽さんと一緒で体も随分鍛えているみたいだし〜?」

「そ、それは同業者ですから?!・・・」

 香はちらっ、とミックを見てさらに赤くなる。

「カオリ、そんなに恥ずかしがらなくてもいいじゃないか。俺はとても嬉しいよ」

 ミックは真顔になると、香を見つめる。

「あ、あの・・・。ミック・・・?」

 香はどうしたらよいかわからなくて、体が固まってしまう。

 ミックが香の手を握ろうとした時に、

「はい!そこまで!時間がないからもう出発するわよ。さっさと車に乗って!」

 絵梨子が2人の背中を押して、車に乗るように促した。

「あ、ああ、そうね」

 助かったとばかりに香は車に乗り込む。

「ちっ・・・。後少しだったのに・・・」

 ミックはぼそっ、と呟いた。

 仕方なく車に乗り込もうとしたときに、絵梨子がミックに言った。

「ミックさん。香には手を出しちゃ駄目よ。手を出したら冴羽さんに怒られるわよ〜」

「・・・心得ていますよ、エリコ」

「そう?ならいいけど」

 絵梨子はそう言うと2人と同じ車の助手席に乗り込んだ。

 (・・・わかってるさ。それぐらい。)

香に手を出したら怒られるどころか殺されかねない。前からそうだったが香のことになるとすぐにキレるし。それに、香を手に入れてから僚は前にも増して尚更嫉妬深くなってるし。

 僚の事を思い出し、軽くため息をつく。

 今更本気で香に手を出すつもりはない。俺にはかずえという恋人の存在がある。かずえを泣かせない為にも、香に手を出すつもりはない。

 (しかし・・・。)

 車に乗り込み、香の隣に座る。

 すると香から良い香りがしてきた。

 香水でもつけているのだろうが。とても優しい香りがした。

 ふと見ると綺麗な横顔が、物憂げに前を見つめていた。

 僚のことでも考えているのだろうか?

 その横顔がとても艶っぽい。

 ミックは一瞬、どきっとした。

 (・・・今回はちょっとぐらい手を出してもいいかな?・・・。)

 後のことを考えると、ミックは顔の筋肉が緩むのを抑えきれなかった。

 楽しいショーになりそうだ。

 ミックはにやにやしながら、窓の外を見ていた。

 

 

*****戯言****

又しても続き物になってしまいました。なんかどんどん話が膨らんでくるもんで。

さてはて、これからこの3人はどうなるんでしょうかね?(笑)

 

 

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