ホテルのBARを出ると二人は、車に乗り込み、香のマンション近くまで車を出した。

「ここで良いのですか?もう夜も遅いですし、家の前までお送りしますが」

 香が指示した場所は国道沿いの車道だった。

 繁華街が近いので、夜が深くなるにつれ、増えていく違法駐車。

 その車のせいで、縦列駐車となっている神崎の車。なるべく邪魔にならないようにと、道沿いもとい車沿いに止めているが、通り縋る車は邪魔と思うらしく、パッシングをしていく車も少なくはない。

「大丈夫です。もう、ここから近いですし」

 香はにこっ、と微笑む。

 どうせならマンションの前まで送ってもらおうかと思ったが、撩に見つかると後味悪いので、1本外れた大通りに車を止めてもらったのだ。

 何も疚しい事はしていないのだが、どうも後味が悪い。

 ―綺麗な格好をして、BARでお酒呑んで…。なんだか、撩に悪い気がするわ…。

 香はそんな気持ちを神崎に悟られまいと、笑顔を作った。

 又、パッシングを受けると、それが合図かのように香は車から降りてドアを閉めた。

「今日はご馳走様でした。又、明日夕方頃にでも会社にお邪魔しますわ」

「わかりました。くれぐれも帰り道にはお気をつけて」

 扉を閉められたことで、これ以上何を言っても聞かないなと判断すると、神崎は笑みを浮かべて、車を走らせて行った。

 香は神崎の車が見えなくなるまで、その場に立っていた。

「よし、帰るか」

 完全に見えなくなると、香はその場を後にする。少し歩いていると、何件かナンパにあった。

それは全て黒い服を着たホストの連中だった。香は適当にあしらい、男たちを追い払う。

 ―普段の格好をしていると、誰も声をかけてくれないのに。何で、着飾っているときは皆声をかけてくるのかしら。

 香は疑問に思いながらも、言い寄ってくる男たちを追い払った。

 普段の香に声をかけないのは、この界隈での暗黙のルールだった。

 何せ、シティーハンターのパートナーであり、その女である香に声を掛けられるはずがない。

 掛けたら、間違いなく次の日東京湾にでも沈んでいるだろう。

 それだけ、撩の存在はこの界隈で恐れられているのだ。

 それを香は知らない。

 ―まあ、いいや。早く帰ろう。今日こそ撩に仕事のこと話さなくちゃ!

 香はそう決意すると、長い足を少し大またに歩き出した。

 

+++++

 

 マンションに帰ると、玄関の鍵は空いており、玄関には撩の靴が置いてあった。

「撩、帰ってたの?」

 リビングに向かい、撩に声を掛けた。

「…おかえり」

 撩の声がやたらと低い。この声に不機嫌が入っている。

 ―何かあったのかしら?

 香は首を傾げると、撩の目の前のソファーに座った。

「どうしたの?撩。何かあった?」

「…お前こそどうした?今日はやけに気張った格好をしているじゃないか」

 じろり、と撩は香の格好を見た。

 今まで見たこともない服装に撩は訝しげな視線を送る。

「…ああ、コレ?コレは仕事で着ていただけよ」

「仕事だぁ?何だそれ?聞いてねーぞ?」

「当たり前じゃない。言ってないもの」

 あっけらかんという香に少し面食らうが、冷ややかな視線は忘れない。

「何で言わねーんだよ」

 撩の怒っている口調に香はカチンときた。

「何度も言おうと思ったけど、撩全然まともに家に帰ってきてくれないじゃない!いつ言えばいいのよ!この馬鹿!」

「ば、馬鹿ぁ?!何で俺が馬鹿なんだよ!それに、お前仕事とは名ばかりの浮気でもしてんじゃねーか?」

「はぁ?馬鹿も休み休み言いなさいよね!!この大馬鹿!!私は浮気なんてするわけないでしょ?!」

 大馬鹿と言われて、撩もかちんときた。

「はん!それはどうかな。こっちは証拠を握っているんだぜ?!」

 ほら、と勢い良く写真を見せた。

 するとそこには香と神崎の姿が写っていた。仲むつまじそうに写っている二人の姿がある。

 これを見て香は直ぐに撩が怒っている理由を理解した。

 ―…成る程、そう言うことね。撩が怒っているわけって。

 つまり撩は写真に写っている男、神崎に嫉妬しているわけである。

 思わぬ勘違いに香はくすり、と笑った。

「な、何だよ…。その笑いは」

 急に笑った香にたじろぎながらも、撩は突っかかるのを忘れない。

「別に…。撩、貴方勘違いしているわ。この写真に写っている人、仕事の依頼主よ?」

 写真を手に取ると、神崎を指差した。

「えっ…?」

「今回の私の仕事は、この人に言い寄ってくる人を諦めさせることなのよ。だから、私はこの人の…。神崎さんって言うんだけど、神崎さんの恋人役として、ここ数日過ごしていたってわけ」

「えっ…?」

 撩は固まったまま、香の説明を大人しく聞いてた。

「依頼を受けた日にちゃんとこのことを説明しようかと思ったんだけど、撩、帰ってこなかったから話せなかったのよ。―ごめんなさい、撩。勝手にこの依頼引き受けちゃって」

 すまなそうな表情をして、ちゃんと謝った。

 自分の早合点と香から謝られて、撩は一気に怒りが収まり、逆に申し訳ないという気になった。

「別にいいさ。俺も悪かった。何も調べないで、お前に問い詰めたりして」

 いつもの自分の行動ではないと撩は思いつつ、香に心底惚れているんだと、改めて認識した。

「そうよ?撩だって悪いんだからね!家にいないし、それにツケで飲み歩いているし!ツケがなかったら、この仕事は受けなかったわ!」

 ぷんすか、と香は頬を膨らませて怒った。

「ははっ…。ごめんなさい…」

 撩は今度は素直に謝る。

「…でも…。でも、怒ってくれて嬉しかった」

 香は微笑むと、撩の隣に座り肩に顔を預けた。

「…ば〜か」

 そう言いながら、撩は香の肩を抱いた。

「あっ、そう言えばその写真どうしたの?」

 ふいに思い出し、香は聞く。

「まあ、…コレも仕事だ」

 言いにくそうに言う撩に香は眉を潜めた。

「どういうこと?」

 撩は香から写真を取り上げると、写真に写っている香を指差した。

「この女を神崎って男から遠ざけろってさ」

「はっ?」

「つまり、俺たちは商売敵。ライバルってわけ」

「えぇーー!」

「ということで、今後よろしくな、香ちゃん♪」

 撩は悪戯小僧見たく笑うと、リビングから出て行った。

 残された香は「ウソ…」と呟きながら、その場に座り込んでいた。

 

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