「で、お嬢さんの話って?」

 撩はコーヒーを啜りながらそう言った。

「お嬢さんと呼ぶのはやめていただけないかしら?」

 可愛らしい女の子はそう言い放った。

 今、撩がいるところは高級店のレストランだった。撩には縁がない場所だ。早くこんな堅苦しい場所から逃げ出したいがそうはいかない。しかし、仕事の依頼人が連れて来たのだから仕方がなかった。

撩は子供の依頼を受けるつもりはなかったので、適当にあしらってその場を去ろうとしたが、ある写真を目の前に見せられて気が変わりこの女の子の言うがままに着いて来た。

「でも俺はお嬢さんの名前は知らないぜ?何て呼べばいいんだよ」

 不機嫌そうに撩は言った。

 この不機嫌は写真を見せられたときから始まっている。

 苛々している撩の口調に女の子は首を傾げた。

「貴方、いつもそんなに不機嫌そうにしているの?」

「……で?お嬢さんの名前は?」

 撩は女の子の言葉を無視する。いつもの撩ならば女の子である以上、優しく、冗談で受け流すのだが、今のそんなことを言っていられる心境ではなかった。

 女の子は言葉を無視されて、カチンッ、ときたのか眉間に皺を寄せたが、軽く息を吐き、落ち着きを取り戻すと真正面を見据えて自分の名前を言った。

「私の名前は紅月 凛子(コウヅキ リンコ)。紅月コンツェルンの会長の孫娘よ」

 凛とした声でそう言った。

 家柄がお嬢様だからなのか、自分をアピールするときは、とても偉そうにすると、軽く笑みを浮かべ、撩を見た。

「君が紅月コンツェルンの…。道理で俺のことを知っているわけだ」

 驚いた表情を見せずに、淡々と言う撩に凛子は眉をひそめた。

「貴方驚かないのね。普通の人は大抵驚くわよ?」

「こんな商売をしているとな、大企業の会長さんや孫娘なんかはそんなに珍しいモンじゃないんだよ。逆にお嬢さんたちみたいな人が俺たちを雇うからな」

「お嬢さんじゃないわ…」

「はいはい、凛子お嬢様」

「…貴方、なんか腹立たしいわね」

「冴羽だ」

「えっ?」

「名前だよ。冴羽 撩だ。――じゃあ、仕事の話を聞こうか」

 撩は鋭い視線を凛子に浴びせながらそう言った。

 

**********

 

 暗い夜が訪れ、周りは人口の光りを灯し始めた。煌びやかな色とりどりの光りが暗い待ちを照らし出す。

「綺麗ですね」

 香はマティーニを片手に、そう呟いた。

 今、香はホテルにあるBARに来ており窓側の席に座って、神崎と夜景を楽しんでいた。

「ええ。本当に。……綺麗です」

 神崎はそう言った。夜景と、香を見ながら。

 このBARは最上階に近い階にあるので、下に見えるネオンの光りが小さく、眩く見える。色々な光りが混ざり合っていて、とても綺麗だ。

 すると香が突然、くすっ、と笑った。

「どうかしましたか?」

「いえ…、別に何でもないんですけど…。なんか、こうしていると仕事をしている風には思えなくて…。仕事なのにこいう良い思いをしていいのかなって思ったらつい…」

 香はにっこり、と微笑んだ。

「…それは良かった」

「えっ?」

「実は少し私、この仕事を香さんに依頼したことを後悔していたんですよ」

 神崎は香から視線を外し、外に目を向けた。

「神崎さん…。私何かいけない事しました?」

「えっ?あっ、違いますよ。香さんが嫌とかそういうことじゃないんです。それは誤解しないで下さい。香さんは私には勿体無いくらい素敵な人です。だから、余計にこういうことを頼むのはどうかと思いましてね。貴方みたいな素敵な方が仕事としてしか付き合えないのはちょっと残念で…」

 最後の方はちょっと、言いづらそうに小声で言った。

「はぁ…?」

 香はよく理解できていないのか、少し首を傾げただけだった。

 神崎は軽く息をつくと、微笑した。

「さっ、もう出ましょうか。今日は遅くなってしまったので、家まで送りますよ」

 そう言うと神崎は香をエスコートして、店を出て行った。

 

 

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