北原絵梨子は悩んでいた。 (う〜ん、どうしよう。今回のモデルが中々決まらないわ。) 今回色々なオーディションをやったが中々この人!と思えるような人材にはめぐり合えなかった。 大体のモデルは決まっているのだが、メインのモデルが中々決まらない。 絵梨子はデザイナーに命をかけており、そう簡単にモデルが決まらないからこの人にという譲歩はしたくなかった。 絵梨子は世界を駆け巡るトップデザイナー。 彼女の服を着てファッションショーに出たいというモデルは山ほど、いや、星の数ほどいるのだ。 何千人というモデルの中からでも絵梨子は今回のモデルを選ぶことはしなかった。 (だって今回のメインはウエディングドレスですもの・・・。ほんわかと周りの人を包み込むように優しい人で、純心な人に着て貰いたいわ。) 今回募集してきてくれた人たちはそれは綺麗でスタイルもいいけど、なぜかピンッ、とこない。 絵梨子は深いため息をついた。 後数日でファッションショーを開催する予定であるのに、メインのモデルが決まってない事に絵梨子は虚脱感を覚えた。 (どうしよう・・・。もう、今回はあきらめて一番いい子を選ぼうかしら・・・。でも、そんなことは私のプライドが許さないわ!) キッ!と活を入れるかのように絵梨子は睨みつけると、1本の電話が事務所にかかってきた。 アシスタントの子がその電話を取る。 (誰かしら・・・。) ぼんやりとそのアシスタントを見つめていると、 「先生、槙村香さんと言う方からお電話が入っています」 そう言った。 「香から?。何かしら・・・」 ぼや〜、とした頭で電話にでる。 「もしもし、香?」 電話口からは元気な声が聞こえてきた。 『あっ、絵梨子。よかった。今日は事務所にいたのね』 「ええ、もうそろそろショーの下準備があるからちょっとした事務の仕事があったのよ」 机の上に山になっている履歴書を絵梨子は見つめた。 (これがなければ今ごろは会場に行って、色々なチェックをしたかったのに…。何で理想のモデルは現れないのかしら…。) そう思うと絵梨子はため息をついた。 そのため息が聞こえたのか、香は心配の声を上げた。 『絵梨子、大丈夫?何か疲れているみたいだけど』 「大丈夫よ。ごめんね、心配かけちゃって・・・。それよりどうした?」 『うん、ちょっと近くまで来たからお昼一緒にどうかなと思ったんだけど、何か忙しそうだから、今日はやめておくわ』 「ごめんね、香」 絵梨子は申し訳なさそうに言った。 (モデルさえ決まれば・・・。) そう思って絵梨子ははっ、と思いついた。 (…いいこと思いついちゃったわ。香なら申し分ないし。なんでこんな簡単な事気づかなかったのかしら。) 今まで暗い表情をしていた絵梨子の顔が一気に明るくなる。 電話中の絵梨子を心配していたアシスタントがぎょ、とした顔をした。 「ねぇ、香。そのお誘いのるわ。一緒にご飯食べましょう」 『えっ、でも今忙しいんでしょ?』 「大丈夫よ。もう、そんな心配いらなくなったから」 絵梨子はにこっ、と微笑んだ。 (香さえ承諾してくれればね。) そう心の中で呟く。 『そう?じゃあ、事務所の下まで行くから後10分ぐらいしたら出てきて』 「わかったわ。すぐ仕度する」 『じゃあ、又後でね』 「ええ、又」 そう言うと絵梨子は電話を切った。 「これでメインのモデルが決まったわ!」 絵梨子は声に出して言うと、周りにいた人達が歓喜の声を出した。 「本当ですか?」 「やった!これでショーは成功するぞ!」 などと皆喜んでいた。 「ええ、これから契約に行って来るから後はよろしくね」 そう言うと絵梨子は事務所を後にした。 ********** 香はあまり浮かない顔をして道を歩いていた。 (どうしよう、又、絵梨子の策略にはまっちゃった・・・。) 香はトボトボと公園に入り、近くにあるベンチに座った。 「ふぅ〜・・・」 香は深いため息をついた。 何故香がこんなにも暗い顔をしているのかというと、親友の絵梨子からの依頼のせいである。 絵梨子は数日後に行われるファッションショーにモデルとして出てくれないかという依頼であった。 最初は嫌だと言い張っていたのだが、「お金は弾むわよvv」と言われてしまって、つい「うん、いいわ」と引き受けてしまったのである。 何せ今冴羽家は家計的に赤車であり、どうしてもお金が必要だったのである。 (これもあれもすべて撩が悪いのよ!あいつが毎晩飲み歩いているから!) 香はスケベ面のパートナーを思い浮かべる。 (金もないのにツケで飲み歩いているから、こんな依頼を受けざるを得なくなるんだわ!) さっきまで暗い表情だった香は怒りの表情を見せる。 (それに男の依頼も受けてくれたら、こんな切羽詰った状況にはならなかったのに。すべて撩が悪いんだ!) 赤車の原因である撩を香は恨む。 (…でも撩が知ったらどうなるかしら?いくら家計赤車だとしても撩がそう簡単にこの依頼を納得してくれるはずはないわ。) 駄目だ!という答えがほぼ100%の確立で返ってくるのが目に見えてる。 (でも、もう少しで春だし。新しい洋服も欲しいしな。) 絵梨子からのモデル料として100万を前金で貰ってしまった。 その後ショーが成功したら残金400万を貰う契約をしたのだ。 2、3日拘束するから絵梨子は途方もない金額を提示してきたが、あまりにもそんな大金は貰えないといって、500万までに下げたのだ。 親友の頼みでもあるし、どうせならただでやってあげたい気持ちもあったが、家計を考えるとそれは言えなかった。 (かといって500万は貰いすぎよね…。でも。背に腹は変えられないし…。それにアイツが飲みで使ったツケも相当あるし…。) それに絵梨子が500万以上は払いたいと言ってきたのだ。 それ以上は下げるつもりはないと。 (・・・まったく、あの子には金銭感覚っていうものがないのかしら。) そう思いながら香は前金を受け取ってしまった。 とりあえず、撩には内緒にしておかないとね。撩に知られると絶対私の後にくっついてきて、他のモデルさん達をナンパしまくると思うから・・・。 「よしっ!」 と気合を入れて、ベンチを立とうとしたら、目の前に大きな影が現れた。 前を見ると金髪の外人が立っていた。 「ミック!どうしたの?こんなところで」 「Hey!カオリ。君こそどうしたんだい?こんな所で」 さわやかな笑顔で香を見る。 「ちょっと考え事をね・・・。ミックは?」 「俺かい?俺はこの公園の近くを通ったらカオリを見かけたからさ、ちょっと来てみたんだ」 にかっ、と笑う。 白い歯が印象的だ。 「そう」 香はその笑顔につられて、にこっ、と笑った。 「う〜ん、カオリはやっぱり笑顔が一番素敵だよ。どうだい?今日は俺とデートしないかい?」 ミックは香の手を取って甲に口づけをしようとした。 すると、 「あっ、香!ようやく見つけたわ!!」 絵梨子が車から降りでここまで走ってく姿を香は捉えた。 「絵梨子!どうしたの?何か忘れ物でもした?」 「ううん。違うのよ。ちょっと、言い忘れてたことがあって・・・」 絵梨子はふと、隣にいたミックを見た。 「きゃーーー!!」 と悲鳴をあげた。 「なっ、何だ?!」 ミックは慌てふためき、香の手を離した。 「ちょっと、どうしたのよ。絵梨子?」 香も慌てて、絵梨子を宥める。 すると絵梨子はミックの胸板に触り始めた。 「・・・あなたいい体してるわね。冴羽さんと同じぐらいに素敵だわ」 「はい〜?」 ミックは絵梨子の異様さに後ろに後ず去る。 「カオリ!この女性は一体なんだんだよ!」 ミックは少し青冷めながら香に聞く。 「ごめん。ミック・・・。この子ちょっとおかしいのよ。どうも自分の理想の体の人を見るとすぐ触る癖があって・・」 香は頭を抱える。 「What?どういうことだい?」 「ははははっ・・・」 香は笑うしかなかった。 絵梨子は十分満足すると、ミックをみてこう言った。 「ねえねえ。あなた香のパートナーになる気はない?」 とそう言った。 つづく |
**戯言**
ごめんなさい。続いてしまいます。
本当はもうちょっと短く書こうかと思ったんだけど、自分でも知らずにミックがでてきてしまったので、
長くなってしまいました。ミックがでなければ長編にはならなかったのに。
長編といっても次か次あたりで完結する予定です。
お楽しみに!
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