真佐人は店を出ると、足早にその場から歩き出した。 (まさか、香があの店の常連だったなんて…。折角会えた、同級生なのに…。) 眉間に皺を寄せる。 すると突如真佐人はその表情を一遍させた。 反対側から歩いてくる男の顔に驚いたのだ。 (アイツは…確か…。) のったりと歩いてくる男に真佐人は落ち着きを取り戻し、無表情になる。 (まさか、こんなに早く会えるとは…。) 何事もないかのように、二人はすれ違う。 男から鼻歌が聞こえて、うっすらと微笑する。 (せいぜい今のうちに笑っているんだな。冴羽撩。) 歩行を止めて、撩の後ろ姿を見た。 (俺がお前を仕留めてやる!) 真佐人は一瞥すると、また歩き出した。 カラン〜、コロ〜ンとCat’s Eyeの扉に付けてある鈴が元気よく鳴り響いた。 「やっほ〜、美樹ちゅわん!オイラともっこりしな〜い?」 扉を開けた瞬間に撩はカウンターにいる美樹に飛びついた。が、後一歩のところで香のハンマーに遮られた。 蛙を潰したような声を出して、床に沈む。 「第一声がそれか。アンタの頭の中はもっこりしかないの?!このどスケベ!」 パンパンッ、と手を払いながら香が言う。 「す、すびまぜ〜ん…」 ははっ、と苦笑しながら体を痙攣させる。 「美樹さん、こんな奴はほっときましょう」 香は撩のことを放っておいて、美樹に話し掛ける。 美樹はそんな二人を見て、「そうね」と言いながら微笑した。 「そう言えば海坊主さんはどうしたの?お仕事?」 「ええ。でも、もうすぐ帰ってくるんじゃないかしら。そんな大した仕事じゃなかったし」 「だったら、あのハゲ坊主が帰ってくる前に俺とイイコトしようよ〜」 いつの間にかハンマーから復活していた撩が美樹の手を握る。 「ちょっと、撩!」 香がハンマーを出そうとした瞬間、撩は手を引っ込めた。 「お前には節操というモノがないのか!」 声がする方を見ると、海坊主が銃を撩に向けて睨んでいた。 海坊主はいつもサングラスをかけているので、目は見えないが雰囲気がそう語っていた。 おまけにちゃんと撃鉄まで下げられている。いつでも発射できる状態だ。 撩はこの撃鉄の音を聞いて美樹から手を引いたのだった。 海坊主は撩だけはいとも簡単に引き金を引くのだ。まったく躊躇も見せずに。 撩はそれがわかっているから、すぐに手を引いた。 「お前ね!そんな簡単に銃なんか出すなよ!」 「お前が美樹の手を握るから悪いんだろうが!」 「ただ手を握っただけだろう!」 「ふん!お前が手を握るだけでこと足りるのか?」 「足りるわけねーだろ!勿論、あ〜んなことやこ〜んなこととか色々やっちゃっ…」 撩が最後まで言う前に、海坊主の銃口から火が吹いた。 ぱらり、と撩の前髪が数本落ちる。サァーー、と血の気が引いた。 「本当に撃つなよ!」 「その減らず口を直せば撃たなくてもすむんだがな…」 ふっ、と海坊主は笑った。 「もう、許せね〜。このハゲ坊主が…」 「どう許せないんだ?万年もっこり男」 二人は睨みあう。 「もう、ちょっとやめなさいよ!みっともないわよ!」 「そうよ!ファルコン、店の中で銃を撃たないでちょうだい!」 香と美樹が二人を止める。 「嫌なこったい!」 撩がはっきりそう言うとガコンッ!と大きな音が店に鳴り響いた。 「ったく、相変わらず往生際が悪いんだから…」 ため息を吐きながら香は言った。 「美樹さん、海坊主さんごめんなさいね。この馬鹿は引き取るわ…。又明日来るわね」 そう言うと香は二つ目のハンマーの下で気絶している撩を引きずって店を後にした。 二人が去ってから、海坊主がつぶやいた。 「…香、どんどん迫力がついてきてるな。あれなら近いうちに一人前のスイーパーになるだろう」 撩の頭上にハンマーを下ろす瞬間まで殺気を隠していた香に、海坊主は賞賛の声を上げる。 「ホント…。でも、香さんも大変ね〜」 美樹はしみじみとそう言った。 |
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