撩は香に引きずられながら帰ってくると、即座にソファーに座り、「香、コーヒー」と言った。

「はいはい…」

香はいつものことなので、他には何も言わずにコーヒーを沸かし始めた。

「なあ、香。お前、美樹ちゃんの店にいた時に気になる奴いなかったか?」

すると、撩が真剣な顔をして言った。

「…気になる奴?さぁ、いたかしらそんな人」

香は指を顎に当てて、考えた。

「今日は真佐人とお茶しただけだし…」

 他に、誰かいたかしら?と香が考えた。

「マサト?」

男の名前に撩はピクリと眉が動く。

「ああ、中学の時の友達よ。今日偶然街で会ってね。久しぶりだからって、お茶したんだけど」

「ふ〜ん。で、年格好は?」

「はっ?何でよ」

「何でも」

――おかしい。

そう香は思った。

「………撩、真佐人に会った?」

嫉妬心からそう言っているのかなと、思ったが、そう言う雰囲気ではない。

まるで、自分の敵を見つけたとでも言わんばかりの、オーラが出ている。スイーパーとしての雰囲気だ。

「さあな。誰がマサトだかわからないし。ただ、ちょっと今日気になることがあってな」

珍しく、香に言う。

以前と比べて、撩はパートナーとして香を信頼していた。

スイーパーとしての考え方や能力が以前と比べてはるかにアップしている。

撩はその香の勘に掛けて、そう聞いたのである。

「そう言えば、真佐人が店を出て行ったら直ぐに撩が入ってきたわ。やっぱり真佐人にあったのね?真佐人が何かした?」

「まだ、今のところは何もしていないが」

「今のところって…。これから何か真佐人が仕出かすような言い方じゃない」

「……今は何とも言えんさ」

撩は新聞紙を手に取って広げた。

「……前の私だったら、きっと、今の会話で怒ってたわね」

人の友達を悪く言うなんて!と、前の香なら、怒ってマンションから飛び出していたに違いない。

しかし、今の香は違う。

真佐人の雰囲気を感じ取ってしまった香は、素直に怒れない。

撩の意見に賛同してしまう。

 ふっ、と香は哀しそうに笑った。

「…香?」

 撩は眉を潜めた。

「うんん、何でもない。気にしないで」

そう言うと香は既に沸いているコーヒーをカップに注いだ。

――何もしないわよね?真佐人…。

おかしいと、感じた自分の気は間違いではなかった。

撩まで真佐人の異様な雰囲気に、スイーパー特有の匂いに気づいたのだ。

香はコーヒーを淹れ終えると、撩に気づかれないようにため息をついた。

 

 

薄暗い倉庫の中で、数人の柄の悪い男たちが真佐人を取り囲んでいた。

「いつになったら殺るんだ?早く、殺っちまえよ」

 白いスーツに黒のサングラスをかけた男が口を開いた。

「期限は決められていないはずだ。それに俺はアンタたちに雇われているわけではない。そういう口調は止めてもらおうか?」

いたってクールに真佐人は繕った。

「……てめぇ、自分の立場がわかってんのか?」

白いスーツの隣にいた男が、睨んだ。

「勿論わかっているさ。アンタたちと別格だってことがな」

真佐人は唇の端を上げて、にやりと笑った。

「んだとぉ?!」

「弱い奴が粋がるな。死にたいのか?」

真佐人はそう言うと、すぅ、っと目を細めて力強く睨んだ。

その眼光に男達はびくっ、とする。

それを見て、真佐人はふっ、と笑った。

「安心しろ。俺がボスから言われたことは、アンタたちのボスの邪魔な存在、シティーハンターを殺ることだ。それ以外は誰も殺すつもりはない。―-今のところはな」

くくくっ、と真佐人は笑った。

「や、殺るならいんだ。殺るなら…。なあ…」

白いスーツを着た男は回りにいる男たちに同意を求めた。

「ちゃんとシティーハンターは殺してやる。だから、アンタたちも取引の準備、しっかりやることだな」

一睨みすると、真佐人はその場から去って行った。

 

残った男達は、しっ、と舌打ちすると真佐人への怒りを近くにある物に当たった。

「むかつく野郎だぜ!ボスの客じゃなかったら、ギッタンギッタンにしてやるところなのに!」

 ボキボキッ、と拳の骨を鳴らした。

「そう怒るじゃねーよ。俺たちが束になってもアイツには敵わなんだぞ?アイツが力試しに俺たちをのしたこと忘れたわけじゃねーだろうが」

白いスーツの男がそう言った。

「覚えてますよ!あんなの忘れたくても忘れられやせんぜ!」

 その言葉に男たちは賛同する。

「それにアイツを今殺っちまったら、俺たちが親分たちに殺されちまう。今は我慢するんだ。今はな…」

「「「はい…」」」

と、男達は声を揃えた。

「今のうちは精々粋がっているんだな…。坊や」

白いスーツを着た男は床に唾を吐くと、男たちを連れて、倉庫から出て行った。

 

 

 

 

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