香の行きつけの店―――つまり『CAT’S EYE』に二人は到着した。

 真佐人はマジマジと外装を見る。

「ここが、香の行きつけの店………?」

「ええ、そうよ」

 にっこりと香は微笑んだ。

「…………ここは」

 ぽつりと真佐人が言葉を漏らす。

「えっ?何?何か言った?」

「あっ、いや、なんでもない。………とりあえず、入る?」

「ええ、勿論」

 そう言うと香は店のドアをあけた。

 するとチリン、チリン、とドアにつけてある鈴が鳴る。

「いらっしゃい、香さん。………っと、そちらは?」

 女主人である美樹が香の後ろにいる真佐人を見て言った。

「ああ、彼は私の中学の時の友達。久しぶりに街で会ったのよ。凄い偶然でしょ?だからちょっとお茶しようかと思って」

 そう言いながらも、香は窓側のテーブル席を選んで座った。

 真佐人も香の反対側へ座る。

「何になされます?」

 美樹がカウンターから出てきて注文をとりに来た。

「あっ、じゃあコーヒーで」

 真佐人は美樹の顔をちらりと横見しながら言う。

「ホットでいいかしら?」

「ええ」

「香さんは何にする?」

「私もホットコーヒーでいいわ」

「そう。じゃあ、少しお待ちください」

 美樹はそう言うとテーブルから去った。

「どう?今の女の人凄く美人でしょ?!私もいつかああいう風になりたいな〜」

 羨ましそうに美樹を見つめる。

「何言っているのさ。今の人も美人だけど香も美人だよ。負けてないさ」

「やだっ!真佐人ったら。いつの間にそんなに口が上手くなったの?」

 お世辞と思っていても香は言われて悪い気分ではなかった。顔を少し赤らめる。

「そうかな?本当のことを言ったまでだけど」

 足を組み、顔を真正面に向けた。

「………香。ここには良く来るの?」

「ええ。毎日」

「毎日?」

「今の人美樹さんって言うんだけど、美樹さんにいつも愚痴を聞いてもらったりしているのよ」

「愚痴って?香、そんなに愚痴るヤツだったっけ?」

「昔は愚痴ったりなんかしなかったけど、今は愚痴らなきゃやってられないわ」

 はぁ、と溜息をついた。

「何だか大変そうだな」

 くくっ、と真佐人は苦笑する。

「ホント、大変よ。あのもっこり男のせいで!」

 香はニヤニヤと笑っているパートナーである僚を思い浮かべ、キッ!と睨み付けた。

「………も、もっこり?」

 香の視線にびくっ、としながらも真佐人は聞きなれない言葉に首をかしげた。

「ああ、ごめんなさい。ちょっと仕事のパートナーがとてつもなくスケベな男で、色々大変なのよ」

「その男って香の彼氏?もしかして旦那さん?」

「ち、違うわよ!そんなんじゃないの!!」

 かぁ〜、と顔を真っ赤にさせ一生懸命否定した。

「あら?違うの。もう、一緒に住んで何年も経ってるんだから、結婚しているも同然じゃない?。―――はい、お待たせ〜」

 いつのまにかテーブルに現れた美樹が注文の品を二人の前に置いた。

「み、美樹さん!アイツとはそんなんじゃないわよ!」

 ブンブンッ!と首を振る。

「はいはい。わかったからそんなに強く否定しなくてもいいわよ」

 くすくすっ、と笑うと「ごゆっくり」と言ってカウンターの中に入っていった。

「うん、もう!美樹さんったら」

 照れ隠しのために出されたコーヒーにミルクを入れて一口飲んだ。

「熱っ!」

「おいおい、大丈夫か?そんない慌てんなよ。ったく、慌てん坊のところは全然変わってないな〜」

 昔を思い出しながら真佐人は微笑んだ。

「ほ〜んと。自分でも嫌になっちゃうわ」

 ぺろっ、と舌を出して香はおちゃらけて見せた。

「でも、香が幸せそうで良かったよ。スケベだけどいい彼氏さんがいるみたいだし?」

「だから違うってば!」

「はいはい。…でも、香一体何の仕事してるんだ?さっきパートナーがどうのこうのって言っていたけど」

「……えっと、大したことないんだけど、ちょっと探偵まがいのことをね…」

 へっへっ、と誤魔化し笑いをする。

 まさか裏の仕事、スイーパーをやっているなんてとてもじゃないが言えない。

「何か怪しいな〜。まあ、俺も似たようなモンだし。あまり追求しないでおくよ」

 にやりと笑うと、真佐人はコーヒーを口に運んだ。

「………真佐人も探偵まがいの仕事を…?」

 真佐人の言い方に香な何かピンッ、とくるものがあった。

 今まで気付かなかったけど、なんか真佐人、普通の人と感じが違うわ…。何か違和感を感じる…。

 僚と仕事を一緒にするようになってから、香のスイーパーとしての勘はどんどん冴えていった。

 僚と一線を超えて、心を確かめ合った時から、香を一人前のスイーパーとして認めてくれて、今まで1人でやっていた仕事も香と一緒にやるようになっていた。

 簡単な仕事なら香1人でやらすこともある。

 勿論1人でと言っても、後ろで僚がちゃんと見守っている。

 最近は見守っていなくても1人で仕事ができるようになっていた。

 スイーパーとしての階段を徐々に上がってきている。

 前まで気付くことのなかった、硝煙の匂いも感じるようになった。

 危険な仕事をしていくうえでのスキルがアップしたお陰で、真佐人のおかしな感じに香は頭を悩ませていた。

「まあいいじゃない。お互い追求しないってことで」

 ね?と首を傾げて聞いた。

「………そうね」

 香はそう言うしかなかった。

 何かが引っかかるわ。まさか、同業者なんてことはないわよね…。硝煙の匂いは微かにする…。でも、この匂いは美樹さんからかもしれないし。地下にある射撃場からかもしれないわ。それに街角で真佐人に会った時は硝煙の匂いなんてしなかったし…。私の気のせいかしら…?

 じーっと真佐人の顔を見た。

「……何?俺の顔に何かついてる?」

「えっ?!あっ、ごめんなさい!何でもないの」

 顔を下に向けて、視線を逸らした。

「変な香だな〜。―――あっ、俺ちょっと用事あるから悪いけど帰るよ」

 くすり、と笑うと真佐人は席を立った。

「えっ?そうなの?残念だわ」

「暫くこの街にいると思うから、又会おうぜ」

 この真佐人の言葉に少し引っかかりながらも、

「ええ、わかったわ。あっ、そうだ。だったらここに電話して頂戴よ。ちょっと待ってね」

 香はそう言うと鞄の中からペンと紙を取り出し、スラスラと数字を並べていった。

「はい。これ私が住んでいる所の電話番号。何かあったら連絡して頂戴」

 紙を渡しながら、にっこりと微笑んだ。

「…ありがとう。必ず連絡するよ。―――じゃあ、又」

 真佐人はそう言うと机の上にある伝票を持った。

「あっ!いいわよ。私が払うわ」

「そう言うわけにはいかなさ。こういうのは男が払うべきものだからね。俺が出すよ」

 真佐人は美樹に二人分のコーヒー代を払うと、直ぐに店を出て行った。

 確実に出て行き、少し経った頃に美樹が香に話し掛けた。

「香さん、今のどこの人?」

「えっ?どこのって…。中学時代の友達だけど。それがどうかしたの?」

「そう。じゃあ、気のせいかしら?」

「気のせい?」

「うんん、何でもない。きっと私の気のせいだわ。ごめんなさいね、友達に変なこと言って。お詫びに自家製ケーキをプレゼントするわ」

 そう言うと美樹は冷蔵庫からケーキを取り出した。

 美味しそうなチーズケーキである。

「うわっ。美味しそう。いいの頂いちゃって?」

「どうぞどうぞ」

 にこっ、美樹が微笑んだ。

「ありがとう、頂きます」

 出されたフォークでチーズケーキを頂く。

「うん!美味しい!美樹さん、これ凄く美味しいわ」

「良かった。喜んでもらえて。なんだったら、もう一切れ出すわよ?」

「ホント?!じゃあ、貰おうかしら」

 目を輝かせる。

「かしこまりました」

 そう言うと美樹はケーキを切る。

 香はケーキを口に運びながら、真佐人のことを考えていた。

 自分の勘にも美樹の勘にも引っかかった真佐人。

 美樹ははっきりとは言わなかったが、きっと自分が感じていたことと一緒に違いないと香は思った。

 ………又、会えるわよね?

 香はそう思いながらも二つ目のケーキにフォークが伸びていた。

 

*****戯言*****
ごめんなさい、まだ続きます。
撩が出てこないね〜。次辺りにはでてくるかな??

 

 

 

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