街中で歩いていると、誰かに声をかけられた。

「香!君、槙村 香さんでしょ?」

 長身の男が香の肩を叩く。

「えっ?・・・どなた様で」

 見知らぬ男性に自分の名前を言われて香は少し引く。

 その男の髪はショートで目鼻立ちもすっきりしていた。

綺麗な顔立ちをしている。

 こんなに美男子なら忘れるはずがないんだけど。

 眉間に皺をよせながら、香は男の成り立ちを見た。

 黒いシャツに黒のパンツ。そして黒のコート。

 まだ10月なのに・・・。

 秋とはいえまだ暑い日がある。

 20度後半なんてざらだ。

 しかも今日は長袖では少し暑い日。

 なのに全身黒ずくめで、コートを更に着込んでいるなんてもっての他だ。

 不思議な格好をしている男に訝しげな視線を投げつけた。

「おっと、そんな顔しないでよ。俺変な奴じゃないから」

 男は慌ててフォローする。

「なら誰なの?私の名前を知ってるなんて」

「・・・香、まだ思い出さない?やっぱり忘れちゃってるよな。もう、10年以上も前になるし」

「10年以上?」

「ああ、俺の名前は上月 真佐人。中学時代、一緒によく皆でつるんでただろ?」

 そう言うと真佐人はぱちっ、とウインクをした。

 香は「真佐人、真佐人・・・」とぶつぶつと口の中で反芻する。

 そして少し経ってから、

「あ〜!!!!あのやんちゃ坊主で中学3年の時に引っ越した上月 真佐人!?」

 ぱちん!と両手を叩く。

「ピンポ〜ン!!当たりだよ、香。よく思い出してくれたね」

 人のよさそうな笑顔を真佐人は覗かせた。

「凄い偶然ね!中学生なんてもうかなり昔のことだからすっかり忘れてたわ。ごめんなさい」

 ぺろっ、と舌を出して謝る。

「いいよ、謝らなくても。そんな昔のことなんて忘れちまうもんだし」

 その言葉を吐いた時、真佐人の瞳に悲しみの色が宿る。

 が、それはほんの一瞬であった。

 すぐに優しい笑みを浮べる。

「それにしてもよく私のことわかったわね。私なんか暫くわからなかったのに」

「俺も初めはわからなかったよ。香とても綺麗になってるし」

「やだ、そんなことないわよ」

 顔を少し赤らめて、右手で軽く真佐人をぱちっ!と叩いた。

「そんなことあるよ。香、とても綺麗になった。だから、最初違うかなと思ったけどでも少し見ていたん

だ。ちょっとストーカーっぽかったけど」

 はははっ、と笑う。

その顔はまさしく香が知っている真佐人の顔だった。

「でも、中学の記憶を思い出してやっぱり香だと思って声を掛けた。そしたら、ビンゴだったわけ。でも

良かった、香が俺のことを覚えていてくれて」

「忘れるはず無いじゃない。ちょっと思い出すのに時間がかかったけど・・・」

 最後の方のセリフはちょっと小声で言う。

「でも、真佐人もいい男になったわね。すごくかっこいいよ。モデルみたい」

 香と並んでも真佐人の方が背が高い。

 これでも香はヒールを履いていて、結構な身長になっている。

 なのにまだ、頭一つ分くらい差がある。

 僚と一緒ぐらいかな?身長は・・・。―――やだ、何で僚と比べちゃったのかしら?

 僚を思い出して顔を赤らめる。

「どうした?香」

 不思議そうな顔をして真佐人は聞いてきた。

「う、ううん!なんでもない!」

 手をフルフルと振り、焦りを隠す。

「ねえ、どっかでお茶しない?久しぶりに会ったから、色々と話そうよ。あっ、それとも今暇じゃない?」

 くるくると表情が変わる香に真佐人は苦笑する。

「いや、大丈夫だよ。暇じゃなかったら香のこと追っかけないさ」

「じゃあ、決まりね。―――行きつけの店があるからそこでいいかしら?」

「ああ、そこでいいよ。香が行きつけの店にするならきっとそこの店はいいところなんだろうし」

「なら、決まり!」

 香はふんわりと微笑むと真佐人を店まで案内しようとして先に歩く。

 その笑みに真佐人が息を呑んだことを気付かなかった。

 

 

*****戯言*****

久し振りの連載物を書き始めました!!
今回は少しハードボイルドを目指そうかと・・・。
目指すだけで書けるかどうかはわからないけど。
まだ物語りは始まったばっかりなので,気長にお付き合いくださいませ。

 

 

 

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