トゥルルルル、トゥルルルル・・・。

 何度か携帯の着信が鳴る。

 ・・・誰だろう?

 七地はポケットの中に入っている携帯を見た。 ディスプレイには『闇己君』と出ている。

「闇己君・・・・」

 それは愛しい人からの電話だった。

 出ようとして通話ボタンを押そうとしたが、止めた。

 今闇己君の声を聞いたら自分の気持ちを抑えられなくなっちゃうよ。

 七地は携帯をベットの上に投げ出す。

 そして枕を携帯の上に乗せた。

 音が鈍くなる。

「ゴメンネ・・・、闇己君。もう少しだけ待って。俺の気持ちが整理できたらちゃんと君に会いに行くから」

 そう呟くと、七地は耳を伏せた。

**********

 おかしい。

 七地と連絡が取れなくなって3日が経つ。

 どんな事があろうとも七地とはいつも連絡が取れた。

 公務や学校、バイトとかで会えなくても電話やメールでお互いの状況を確認できた。

 なのに今回は全くもって連絡が取れない。

 おかしいと思って家に電話をかけてみても留守だと言われてしまう。

 修行に来ている夕香に聞いても知らないの一点張り。

「バイトが忙しいみたいよ?毎日帰ってくるの遅いし。だから最近顔合わせてないもん。それよりもさ〜、闇己君。デートしようよ?」

 などと夕香は言う。

全くもって兄の変化に気付いていないみたいだ。

 闇己はそんな夕香を五月蝿いと叱る。

「お前が一人で気を呼べるようになったら考えてやるよ」

「本当?じゃあ私頑張っちゃう!」

 夕香はそう張り切ると修行に集中する。

 闇己は不信に陥りながらも、日常を過ごしていた。

 夜、七地の家に行ってみるか。もしかすると会えるかもしれない。これ以上わけもわからず会えないのは嫌だ。

 闇己はそう思うと夕香の指導に集中した。

**********

 七地ははぁ〜と溜息を連発して歩いていた。

 もう、闇己君に会えなくて3日か・・・。会わない事がこんなにも苦痛だなんて知らなかった。

 七地は会わなくなった分、バイトの時間にあてがった。

 少しでも何かをしていれば気がまぎれるかもしれない。

 七地はここ連日ハードな生活を送っていた。

 体がすごくだるいが、忙しい分闇己の事を考えなくて済むのでまだマシだった。

 一人でいるとどうしても闇己君の事を考えちゃうからね。

 しっかりしろ、と七地は自分の頭を小突く。

「何してんだよ、七地」

 すると後ろからここ数日聞きたいと思った声がかかった。

 嘘・・・。この声まさか・・・。

 七地はそぉ〜、と後ろを振り向いた。

 するとやはり後ろには闇己の姿があった。

「闇己君・・・」

 何で?何で闇己君がここに?

 七地は唖然として闇己を見る。

「何だよ、久しぶりに会ったっていうのにそんな顔はねーだろ」

 闇己の顔がむすっ、とするのがわかる。

「ご、ごめん。ちょっとバイトで疲れてて・・・」

 慌てて体裁を整える。

「最近バイトつくしなんだってな?アンタ体大丈夫か?ヤワなんだから無理しないほうがいいぜ」

 ぶっきらぼうに言い放つ。

「大丈夫だよ。これでも俺結構体の作りはヤワじゃないんだから」

 にこりと微笑む。

 ヤワじゃないを強調して。

 ・・・闇己君だ、闇己君だ!なんかたったの3日間会わなかっただけなのに、なんだかすごく久しぶりのような気がする。少し大人っぽくな

ったかな?前より色っぽくなっている気がするよ・・・。

 艶っぽい闇己に七地は視線を外す。

 これ以上見てられないよ。見たらせっかく抑えていた気持ちが爆発しちゃいそうだ。

「それより闇己君どうしたの?こんなに夜遅くに」

 その質問に闇己は一瞬詰まったが、

「・・・アンタに、・・・アンタに会いに来た」

 そう言って軽く視線を伏せた。

 えっ・・・。闇己君が俺に?わざわざこんな夜遅くに?

 七地は嬉しい気持ちを何とか抑える。

 闇己君が俺に会いに来てくれた。

 それがすごく七地には嬉しかった。

「・・・とりあえず家上がる?今日は皆泊まりに行っていて誰もいないんだ」

 すぐ目の前にある自分の家を指す。

 何言ってんだよ、俺!折角闇己君をあきらめようとしてるのに!!俺のバカ〜!!!

 七地は自分の気持ちと言動が伴わなくて、自分で自分を罵声する。

 その言葉に闇己は一瞬目を細める。

「闇己君?」

「・・・上がらせてもらう」

 そう低く呟いた。

「じゃあ、行こう」

 ・・・俺ってかなりバカだ・・・。

 七地は心の中で深く溜息をつくと、ふわりと優しく微笑んだ。

 その笑顔に闇己はどきっ、とする。

 久しぶりに会えたという事が七地にそんな笑みをさせた。

「・・・・・・・・・ああ」

 そう言うと2人はマンションに入っていった。

**********

「とりあえず、何か飲む?」

 七地が飲み物を勧める。

「いや、いい。今喉は乾いていないから」

「そう?じゃあ、とりあえず座ってよ」

 七地はリビングにあるソファーを指す。

「ああ・・・」

 闇己はそう言ってソファーの前まで行ったが、ぴたっ、と立ち止まった。

 そして七地に振り返る。

 その顔は陰がある表情をしていた。

 いつもの闇己の表情ではない。

 自分にこんな苦しい表情を見せるなんて、きっと何かあったに違いないと七地は踏む。

 自惚れかも知れないけど・・・。

 自分には心を開いてくれいているという自信がある。

 七地は心配になり闇己に近寄る。

「闇己君?・・・何かあったの?」

 しかし闇己は何も言わない。

 七地は軽く溜息をつくと、

「ちょっと待っててもらえるかな。荷物おいてくるから」

 七地はそう言うとリビングを去ろうとした。

「待てよ」

 闇己が七地の腕を掴んで止めた。

「闇己君・・・?」

 掴まれた腕が痛い。

 余程大事な用なのかな?

 腕の痛みがそれを確信させる。

「どうしたの?何かあった?」

 七地は優しく言う。

 闇己はその言葉に少し顔を顰めた。

 ・・・こんなに余裕のない闇己を見るのは久しぶりだな。

 思いつめたような顔をしている闇己。

 こんな顔を見たのは・・・、そうだ。お父さんが亡くなった時だ!あの時と同じ顔をしている。あっ、でも少し違うかな?その時よりもなんか艶っ

ぽい・・・。

 七地はそんな闇己の顔に少し見入る、

 そんな顔されちゃ、俺自分の気持ちに自制できなくなっちゃうよ。

 しっかりと気を引き締めて七地は口を開く。

「・・・黙ってちゃわからないよ。言ってごらん、闇己君」

 その言葉を聞くと闇己は深呼吸した。

「七地」

 意を決したのか闇己の言葉は揺るぎがない。

 しっかりとした口調だ。

「うん?どうしたの?」

「何でアンタ、最近俺を避けているんだ?」

 ぎくっ!

 ・・・ばっ、ばれてる。

 七地は冷や汗が出てきそうな勢いだ。

 闇己はそれを見逃さずに、鋭い眼差しが七地を見る。

「図星か・・・」

 闇己は吐き捨てるように言う。

「俺が嫌いにでもなったか?」

 七地から視線を外す。

「そんなはずないじゃないか!俺が闇己君を嫌いになるはずがないだろう!・・・その逆ならありえるけど」

 何を馬鹿なことを、と七地は怒鳴る。

「ではなぜ、俺を避けた?!俺がお前を嫌いになるだと?それは絶対にありえない!」

「闇己・・・君・・・?」

 思ってもみない言葉に七地は驚く。

「お前と連絡が取れなくてどんなに心配したか・・・」

 そっと闇己は七地を抱きしめた。

「アンタに会いたかった・・・。忙しいとわかっていても少しでもアンタの声が聞きたくて電話した。なのにアンタはちっとも電話に出ようともしない。

夕香に聞いても知らないの一点張りだ。・・・だから俺、夜ならアンタに会えると思って来てみたんだ。そしたら会えた・・・」

 ぎゅう、と闇己は力を込める。

 まるでもう逃さないとでも言うように。

 嘘・・・。闇己君がこんなことを言うなんて・・・。信じられない・・・。

 七地あまりの嬉しさに体が固まる。

「・・・アンタは?アンタは俺に会いたくなかったのか?」

 耳元で低い声が七地の心を揺さぶる。

 ・・・そんな声でそんな事言っちゃだめだよ。俺、期待しちゃうじゃないか・・・。

 心の奥底にしまってある熱い気持ちが溢れ出ようとしている。

 もう、耐えられないと。

頑丈に閉めた鍵が壊れようとしている。

 鍵が、壊れちゃう・・・。

「七地・・・。黙ってないでなんとか言えよ」

 もう、駄目かも・・・。

 キリキリと鍵が鳴く。

「闇己君・・・。俺も、会いたかったよ。君に・・・。すごくね」

 ゆっくりと手を闇己の背中に回す。

「俺も君に会いたかった」

 はっきりとした口調で七地は言った。

「よかった、俺だけかと思っていた。こんな気持ち・・・」

 ほっと闇己は胸を撫で下ろす。

 その態度に七地の鍵はぱりんっ!と音をたてて粉々に壊れた。

 もう、隠してなんかいられない。この闇己君の俺を慕ってくれる思いが、友達だとわかっていても、俺はこの気持ちを君に伝えたい。

 止め処なく溢れてくる思いに七地は身を任せる。

「闇己君、俺ね・・・、ずっと君の側にいたいんだ。ずっと、ずっと・・・」

 ぽつり、ぽつりと七地は落ち着いて言う。

「ああ、俺も同じだ。できることならばずっとアンタと一緒にいたい」

 う〜ん、なんて言おう。ここははっきりと伝えた方がいいのかな。

「闇己君、あのね。俺が言いたいのは闇己君の事が好だって言うこと。これは友達としての好きとかじゃないよ」

「えっ・・・」

 ばっ!と闇己は七地の肩を掴んで自分から引き剥がした。

 見ると闇己の表情はとても強張っている。

 ・・・やっぱり気持ち悪いと思ったかな?男同士だし・・・。でも、ずっとこのままの状態でいるよりは気持ちがはっきりしていていいかも。

 わかっていたことだとしても、いざ驚愕の表情を見るとやはり多少なりショックがある。

 ズキッ、と心が痛む。

 七地は肩に乗せられている闇己の手を退かした。

「ごめんね、びっくりしたでしょ?でも、このままずっとこの気持ちを隠しとおす自信がなくて。気持ちを隠そうとして君から離れたんだけど、でも駄

目だった・・・」

 七地は顔を伏せ、

「君にお見合いがあると聞いたとき、君から離れなくちゃと思ったんだ。このまま君の側にいても、君と結婚相手とのことを祝福してあげられそうも

なくて・・・。大事な人が結婚するなんてとてもめでたいことじゃない?どうせなら祝福してあげたかったんだ。だから自分の気持ちを落ち着かせよ

うとして君からの連絡を絶ったんだけどね」

 くすっ、と笑う。

 その目頭には涙が浮かんでいた。

「でも、君会いに来ちゃうんだもん。驚いたよ。・・・これで俺の今までの苦労はぱあだ」

 泣き顔を見られまいとして、七地は後ろを向いた。

「・・・期待してもいいぜ、七地」

 ぼそっ、と闇己が言った。

「えっ?」

 七地はゆっくりと振り向く。

「だから期待してもいいと言ったんだ」

 闇己はふんわりと微笑んだ。

 滅多に見られない極上の笑み。

「期待していいって・・・」

「言葉の通りさ。俺もアンタが好きだ。アンタと同じ気持ちでな。・・・まさかアンタの方から言ってくるとは思わなかった」

「じゃ、じゃあ・・・」

 悲しみに沈んでいた七地の表情が明るくなる。

「俺は結婚なんてしない。アンタと一緒にいれればそれだけでいい」

 そう言うと闇己は七地に軽くキスをした。

「見合いはとっくに断りを入れている。アンタ以外の人と付き合うつもりはないからな」

 やだ・・・。俺、すっごく嬉しい・・・。まさか気持ちが通じるなんて・・・。

 七地は嬉しくてつい、涙をポロポロと零してしまう。

「泣くなよ」

 そう言う闇己の声はとても優しかった。

 指先で涙を拭う。

「だって、だって・・・」

 その行為が尚更七地に涙をさせる。

「今日来て、本当に良かった。・・・アンタと話せてよかった」

「俺も・・・。思いを伝えられてよかった・・・」

 2人は思いを確かめるかのように抱き合う。

・・・闇己君、大好きだよ。

もう、この気持ちに鍵なんてかけない。

一度手に入れたこの温もりを手放しなんかしない。

だからずっと一緒にいようね・・・。闇己君。

そう七地は思うと静かに目を閉じた。

 

 

*****戯 言*****

いかがでしたでしょうか?このお話。

今回は七地から見ての話を書いてみました。

七地からの告白。思ったより、書きづらかった気がしますね。

やっぱり闇己の様に嫉妬がらみの方が私的には書きやすいですね。

監禁とかしちゃったりね。(笑)

今度は闇己からの告白をコンセプトに書いてみようかな?

感想お待ちしています!

 

 

 

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