闇己を拾うと、すぐさま七地が監禁されているマンションに向かった。
蒿はバイクに乗る前に、布椎家の力を使い既にマンションの場所は探させた。携帯のメールにそこの住所を入れさたのだ。
よく遊んでいた近くの住所に、蒿はバイクを飛ばす。
裏道を行き、正規の道でかかる所要時間よりも20分も早く着いた。
その間、後部座席ではずっと闇己が負のオーラを出しっぱなしだった。
あまりのオーラに何度事故を起こしそうになったことか。
冷や冷やしながら、蒿は運転をしていた。
もう二度と、闇己はバイクに乗せないと、密かに心に誓う。
「ここか」
蒿は茶色い細いビルを見上げた。数えると6階ある。
これをしらみつぶしに探すのかと思うと、今から疲れが出てきそうな気がした。
「なあ、闇己。どうやってさが……。って、ちょっと待てよ!」
何か考えがあるのか、それとも何も考えていないのか、それはわからないが、闇己はスタスタと一目散にマンションの中に入って行く。
「どこ行けばいいのかわかってんのかよ!」
「わかる。七地の光を感じるんだ」
闇己は上を見上げた。真っ直ぐ一つの部屋を見つめる。
視線を追って、蒿は見上げた。
気を落ち着かせ、感覚を澄ませてみると、微かに暖かい光をぼんやりと感じた。
それは闇己の視線の先にある、最上階の部屋だ。
「……あれか…」
「あんな強い光、わからなかったらシャーマン失格だぞ」
闇己は一瞥をくれると、そのまま階段を駆け上っていく。
「あっ、ちょっと待てよ!闇己!」
蒿は慌てて、階段を上った。
「あれ〜。なんであの2人がいるのかな〜。楠くん」
負のオーラを感じ、眞前は窓の外を見た。
自慢の息子と、その甥を見て、眞前は不思議そうに楠を見る。
その視線は何かを楽しんでいるみたいだ。
「さあ、どうしてでしょうね?」
楠は無表情のまま、そう言った。
徐々に近くなってくる強大な力。
その力に眞前は興奮を隠せない。
「ダメだよ〜、勝手なことをしちゃ。僕はまだ七地くんと遊び足りないんだから」
ぺろり、と舌なめずりをして眞前は楠の頬に手を当てる。
冷たい手に楠はぴくり、と筋肉が動くが表情は変えなかった。
「もういい加減にしたらいかかですか?あの子、壊れますよ?」
「……いいじゃない。壊れるなら壊れるで。僕は気にしないよ」
「貴方の息子が気にします」
「あれは僕の創造物だ。君が気にすることじゃない。それに、僕としては七地くんは壊れてくれたほうが嬉しいんだ。だって、そうだろう?七地くんは闇己にとって、良い結果を生み出さない存在だ」
「闇己くんではなく、貴方の間違いでは?」
「いや、闇己だ。勿論、僕にも邪魔な存在ではあるけどね。でも、七地くんはいずれ闇己を滅ぼすよ。強い光は闇さえも切り裂く。闇己はこの世に、唯一無二の存在にならなければならない。七地くんに邪魔はさせないよ」
にやりと、眞前は笑みを浮かべる。
長年、一緒にいる楠でさえ、背筋が凍りつく笑みだった。
「楠くん、七地くんを連れてここから連れ去ってくれないかな?」
「……それは」
「出来るよね?楠」
笑顔のまま、その瞳は冷たい色をしていた。命令に背けばどうなるか。
眞前の瞳は、楠の暗い未来を予言していた。
「……わかりました」
楠は隣りの部屋で寝ている七地を担ぐと、ベランダに出た。1メートルぐらい離れている非常階段を見つけ、楠は躊躇いもなく、七地を担ぎながらジャンプをした。
無事に踊場に着地し、楠は七地の顔を見る。
疲れきっているのか、全く目を覚ます気配はない。
楠は苦虫を噛み潰したような表情をすると、そのまま七地をどこかに連れ去ってしまった。
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