夏に入りかけようとした時期、俺たちの関係は変わろうとしていた。

 

 

 

 

 強い日差しが俺達を照らす。

 季節は夏に入りかけており、夕方に近いというのにまだ気温が高い。

 外にいるだけで軽く汗ばんでくる。

 学校が終わり俺たちは教室を出て、校門差し掛かったところで呼び止められた。

 いや、正確に言うと俺の隣に居るコイツを呼び止めたのだ。

 コイツはゆっくりと振り返り、走り寄って来たその子にふんわりとした笑顔を見せる。

「何か用?」

 モデル並みの端正な顔立ちでそう微笑まれて、その子はぽっ、と頬を赤く染めた。

 顔を赤らめる姿がとても可愛い。

「あ、あの!風祭先輩!僕、ずっと前からあなたの事が好きでした!よかったら僕と付き合ってください!」

(…またかよ。)

 俺は空を少し仰ぐと小柄な後輩を見ながらそう思った。

 これはよく見かける光景。人が近くにいるのに、構わずにコイツに告白してくる。

 「コイツ」とは風祭 薫のことを言う。

 俺は本望 直樹。薫とは家が隣同士であり、いわゆる幼馴染という関係だ。

俺たちはこの私立青海高等学園の2年生だ。

 言いたくはないが、男の俺から見ても薫は顔が良い。丹精な顔立ちで、綺麗に各々のパーツが綺麗に均等に揃っている。

これが美形というのだろうなと俺は実感した。顔だけでなくても頭も運動神経も良い。

 おまけに人受けがやたらとよくて、愛想もいいものだからこの学園内のアイドルと化していた。

 全てがパーフェクトな男なのだ、コイツは。むかつくほどに。でも、自慢できる幼馴染みでもある。大張りできるほどの。

 唯一俺が薫に勝てとしたらそれは身長だけ。悲しいけど。ちょっとだけだが、1cmほどこいつよりもでかい。

 俺が178cmで薫が177cm。

 この身長から言えばアイドルというよりも王子様って感じだろうか。

(男子校なのに王子様とはどうかと思うが・・・。)

 だがこれは本当の事実。

 俺たちが通っている学校は男子校なのだ。女子がいないので、ストレスや日頃の欲望を近くの同性に向けてしまうらしい。

 中学までノーマルだった奴が、この学園に入ってから男の恋人が出来たなんていう話はざらだ。

 最初は男が男に告白しているのを見たときに、「うっそ〜」と思った。いや、今も思っているのだが。

この学園では男が男に告白するのは常識となっている。

 別に俺は誰が誰を好きであろうが関係ない。男が男を好きなっても別に良いとは思う。本人達さえ良ければ勝手に付き合いでも何でもすればいいと思っている。

 俺に関係がなければの話。

 だが、たまに俺の目の前で薫に告白をしてくる子がいる。

 大体そう言う子は自分ならば付き合ってくれるという変な自信を持っていて、堂々と告白してくるのだ。どっからそういう自信が付くのか知らないけど。

 後は気持ちだけ伝えられれば良い、という子が目前で告白シーンを繰り広げてくれる。

(まあ、俺の存在なんてあってもないもんだからな〜。)

 俺は合格発表を見る感じのように、顔を高潮させながら薫の返事を待つ後輩を見た。

 可愛らしい顔をしているし、背も見たところ160cmといったところか。これなばらこの学園内では結構モテるんじゃないかと思う。彼女として。

 でもいくら可愛くても男と付き合おうなんていう気には更々ならない。

(一体、どういう想いで男に告白してくるのかね?…俺には理解できん。)

 毎度の事態に俺は溜息をつく。

「薫。俺先に帰ってるわ」

 じゃあな、と手を振って俺はその場を去ろうとした。

 だって、告白しているのに部外者がその場にいるわけにはいかねーし。いくら恒例といってもさ。

 だから俺は気を利かせて一人で帰ろうとした。

 なのにコイツときたら!!

「ああ、ちょっと待てよ、直樹」

 俺を呼び止めると薫は後輩の顔を真っ直ぐに見つめた。

「すまない。君とは付き合えないんだ。折角告白してくれたのにごめんね」

 真剣な顔で薫は後輩の告白を断った。

(あ〜あ、そんなの俺が去ってから言えばいいのに。このアホンダらが。)

 罰の悪そうにして俺は、後輩を見る。

 泣くかな?と思って見ていたら、にっこりと笑って薫を見た。

「ですよね。…僕の方こそすみませんでした。断られるとわかっていてもどうしても諦めがつかなくて。―――お時間を取らせてしまってすみませんでした!」

 そう言うとその後輩はぺこりと頭を下げて、目の前から走り去っていった。

 少しだけ薫はその後輩の後姿を見ると、俺に振り返った。

「お待たせ。帰ろうか」

 笑顔で俺に向かう。

「…俺が言うのはお門違いかもしれないが、お前それ酷くないか?」

 振った直後にその笑顔ってさ。

いくら告白されるのが慣れているといっても。

 走り去っていった後輩の姿がなんだか哀れに思えてくる。

「そうかな?だって、いちいち気にしていたら身が持たないよ」

そりゃそうだけどさ。でも、傍から見てると気まずいんだよな。コイツにはわからないかもしれないけど。人が振られる場面にいるのはどうも心地よくない。

 俺は心の中でぶつくさと言いながらも、ふぅと溜息をつく。

「まあいいや。とっとと帰ろうぜ」

 毎度の事で慣れているのか、薫は何事もなかったかのように俺と接する。

「そうだね」

 そう言うと少し長い前髪をかきあげて、俺の隣に並んだ。

 サラサラな髪がパラッっと舞う。

 隣で見ていた俺は、薫の横顔に少しドキッとした。夕日を浴びてコイツの顔が綺麗に見えた。男に綺麗という言葉は可笑しいのかもしれないけど、俺はこの時素直に綺麗だと思ってしまった。

「ん?―――どうかしたか?」

 にっこりと笑って、俺を見る。

「い、いや!何でもない」

 俺は少し顔を赤くなるのを感じて、そそくさと足を速めた。

(まさかお前に一瞬でも見惚れてたなんて言えねー。この学園の毒気を当てられて俺もおかしくなったかな。…早く彼女作った方がいいかも。)

 はぁ、と深く溜息をつく。

 薫はそんな俺を不思議そうに見ると、黙って俺の後を着いて来た。

 

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