ファッションショーを無事にやり終え、二人は荷物を取りに泊まっていたホテルに向かった。

 ミックは初めから纏めていたのか、すぐにロビーに現れた。

 香を待つためにどこか空いている席に座る。

 ホットコーヒーを頼み、香が出てくるのを待った。

 その時、後ろの席に誰かが座った。

 ミックにはそれが誰だか、見なくても分かる。

 こんな微妙な殺気を自分に向けて放つ奴は今現在一人の男しかいない。

 自分の愛する人と1週間近くも一緒にいたミックに多大な嫉妬心を向ける。

 その男はいつもならば、照れて嫉妬心を隠しているのに今回ばかりは違った。

 隠そうともせずに、殺気に近い嫉妬心をミックに向けている。 そういう事をするほど、今回の嫉妬心は大きい。

 ミックは珍しい態度にくすり、と笑った。

「・・・何がおかしい」

 後ろを振り向かずに男は言った。

「いや〜、別に〜」

 友のこういう姿はとても貴重だとミックは思う。

(いつも、そうやってカオリに見せてあげればいいのに。相変わらず、この男は不器用なんだから。)

 可哀想な香、とミックは思う。

「ミック。一つだけ聞きたいことがある」

 男の声はいつも聞いているよりもとても低く、このまま殺されそうな勢いだ。

「あのさ、人に聞く前に何かやることあるでしょ?」

 ふ〜、やれやれ。といった感じでミックはおどけてみせる。

「いいから質問に答えろ」

 男の声は怒気を含む。

(ったく、カオリの事になると撩は全く余裕がなくなるんだからな。困ったもんだ・・・。)

 あまりの溺愛にミックはため息をつく。

「わかったから、その俺に向けている物を懐にしまってくれないか?」

「・・・いいだろう」

 撩は腰当たりでミックに向けていた銃をしまう。

「しまったぜ。じゃあ、質問に答えてもらおうか」

「はいはい」

 ミックは呆れ加減で言った。

「お前、香に手を出したか?」

(・・・そうくると思ったぜ。そんなに心配なら自分の腕の中にしまっておけばいいものを。)

 独占欲の強い撩にミックは再びため息をつく。

(俺を何だと思ってるんだ。そんな簡単に友達の女に手を出すかよ。・・・特にカオリには。)

 真っ直ぐな気持ちで撩を思っている香を思い出す。

(あんな純真な香に手を出せるわけないじゃないか。)

 少しミックの表情が曇る。

「・・・ミック。返事は?・・・もしかして手を出したのか?!」

「・・・出したよ」

 どんな反応になるのか見て見たくって、ミックは嘘を言った。

「何だと?」

 撩はその言葉を聞くと、即座に振り向きミックの襟元を掴んだ。

「ミック!お前!!―――って・・・」

 物凄い形相でミックを睨みつけた撩の顔が一気に静まる。

「なっ、何だよ・・・」

 ミックの顔がニマニマとしている。

「ふ〜ん、そんなにカオリのことが好きなんだ。俺に嫉妬しちゃうほど」

 にやけ顔を止めずに言う。

「あっ!お前騙したな!!!手を出したなんて嘘だろ!」

「当たり前じゃないか!」

 そう言うとミックはバシッ!と襟元を掴んでいる撩の手を払った。

「俺がそうやすやすとカオリに手を出すかよ。あんなにお前が好きなカオリに。・・・俺はあんなにお前のことを思っているカオリになんて手が出せないよ」

「ミック・・・」

 撩は申し訳ないといった顔をする。

「すまん。俺、どうかしてたわ」

「いいさ。珍しいお前が見れたことだしな」

 にやり、と笑う。

 撩は顔を少し赤らめて、頬を痙攣させた。

「それはお前が―――」

「ほら!早く行かないとカオリが戻ってきちゃうぜ。早く退散した方がいいと思うが?」

 撩が最後まで言わないうちにミックが言った。

「ちっ!わぁ〜ったよ。その代わり今度何かおごれよ!」

「はいはい。・・・Bye、RYO」

 ミックは手を振り振りとさせる。

 撩はそれを見ると、足早にその場から去っていった。

 すると撩が去ってから数分後、香がミックの前に現れた。

「ごめんなさい、ミック。待たせちゃった?」

 大荷物を抱えながら香が小走りに走り寄って来る。

「いや、全然。俺も今来たところだから」

 ミックはスッ、と香が肩にかけている荷物を手に持った。

「あっ、いいわよ。ミック。自分で持てるから」

「レディーの荷物を持つのは男の常識vv」

 パチンッ、とミックはウインクをした。

「じゃあ、お言葉に甘えてお願いするわ」

 香はにこっ、と微笑んだ。

 その笑顔にミックはデレデレになる。

 荷物を肩にかけて、あれっ、といった顔になった。

「カオリ、この中に何が入ってるの?やたらと重くないかい?」

 手に持った時にも感じた重量感。

 肩にかけると尚更その重みがわかる。

「ああ、この中?日常的に使うものとか洋服とか。ああ、後ハンマーとか」

「ハッ、ハンマー?!」

 ミックは少し大きめな鞄に目をやる。

「そうよ。私には欠かせないものですもの。さっ、早く帰りましょう」

 そう言うと香はスタスタと歩いていった。

 ハンマーと聞かされ、ずっしりと重みを感じる。

 この中にいつも味わっているハンマーがあると思うと、ミックはなんともいえない気分になった。

 よかった。今回これを使うことにならなくて・・・。

 青ざめながら、ミックはそう思った。

「何してるの?ミック」

 呆然と佇んでいるミックに香は声をかけた。

「Oh〜、sorry。今行きます」

 そう言うとミックは気を取り直して鞄を担ぐと、香の元まで足早に歩いていった。

**********

「ただいま〜」

 香の元気な声がアパートに響く。

「撩、いないの〜」

 返事が返ってこないので、香は軽くためいきをつく。

(撩がこの時間家にいるわけないか・・・。どうせナンパでもしてるんでしょうに。)

 久しぶりのパートナーの帰宅なのに、出迎えてくれないことが香には少し寂しく思えた。

(アイツは私がいなくても大丈夫なのかな?)

 ふと、そんな考えが過ぎる。

(やめよう。こんな考え。)

 ぶんぶん、と頭を振る。

 リビングに着き扉を開けると、そこには寝そべっている撩の姿があった。

「撩・・・。いたの?返事ぐらいしてくれてもいいじゃない」

「・・・ちょっと考え事をしていたもんでな。悪かった」

 珍しく素直に謝る。

「・・・おかえり」

「ただいま」

 その一言が香にとって、とても嬉しかった。

 久しぶりに聞く撩の声。

 それが香に安心感を持たせる。

「香、ちょっとこっちに来いよ」

 撩は寝そべっていた上体を起こし、自分の隣を指指した。

「?・・・何?」

「いいから」

 おいで、と手を伸ばす。

 香はキョトン、としながらも撩の手を取り隣に座る。

 すると撩は香の頭を抱えて、自分の胸に当てた。

「えっ・・・」

 ふいに抱きしめられたことに香は唖然とする。

「・・・撩?」

「しばらくこのままでいさせてくれ。何せ久しぶりのパートナーのご帰宅なんだから」

 撩はそう言うとちゅっ、と香の頭にキスをした。

「・・・うん」

 香は微笑むと、こくん、とうなずいた。

 ごめんね、撩。もう離れないから。

 香はそう思うと、撩の胸の中でしばらく体を預けていた。

 

 

*****戯 言*****

 一度消えたものを何とか復活させました。復活させたというか、
この話は会社で書いていたので、運良くごみ箱に落ちていたのです。
見つけたとき、よかった〜と、ほっと胸を撫で下ろしましたよ。
何とかUPできてよかったです。

 

 

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