12月中旬のあるイベントに向けて、街は色とりどりの飾りで装飾されていた。

あるイベントとはクリスマスのことである。

 七地はその眩い飾りを眺めながら岐路についていた。

(去年の今ごろは、彼女がいなくて、江馬先輩と寂しく飲んでたな〜。)

 七地は去年の虚しいクリスマスを思い出す。

 クリスマスと格好つけての、ただの飲み。

 周りはカップルだらけで、面白くない。

 二人は朝まで自棄酒を飲んでいたのだ。

 虚しいクリスマス。

(だが、今回は違うぞ!今回は…、闇己君がいるから。でも、闇己君にとってはクリスマスなんて関係ないんだろうな。きっと神剣探しで忙しいだろうし。)

 今の恋人、布椎闇己の存在を思い浮かべる。

 無愛想で意地悪な恋人。

 でも、そこが可愛くて仕方がない。

 容姿は格好良くて、綺麗な顔立ちをしている。

 男の七地から見ても、綺麗だ、と思わせる容貌。

 最近は自分の身長を追い越して、見下している闇己に少しむかつきながらも、格好良いと思ってしまう自分に苦笑する。

「あっ、アレ闇己君に似合いそう」

 七地はショーウインドーに飾られている洋服を見た。

 黒のジャケットとグレーのセーター、そして黒のマフラーである。

 至ってシンプルだが、着こなせれば格好良い色合いである。

(やっぱり、闇己君は黒が似合うよな〜。)

 マネキンを闇己に想像する。

「うん、やっぱり似合うよ」

 七地は一人で相槌を打つ。

(でも、高そうだよな〜。幾らするんだろう?)

 ジャケットの値札をちらりと見ると、七地は目をぱちぱちと瞬きさせた。

「ろ、六万…」

 今の七地の経済状況だと、とても無理だ。

 バイトを碌に行っていない七地にはとんでもない大金である。

 闇己と出会ってから、神剣探しでバイトどころではないのだ。このままだと、大学の進級でさえ危ない。

 もう、既に七地は浪人を覚悟している。

 神剣探しが終わらない限り、大学は卒業できなそうだ。

(クリスマスプレゼントにもってこいだと思ったんだけどな〜。)

 高嶺の花のジャケットを恨めしそうに見た。

 何度見ても値段は下がらない。

 七地は後ろ髪を引かれながら、岐路に着いた。

 

 

 マンションに着くと、その目の前に闇己の姿があった。

 闇己は七地の姿に気づき、微笑する。

(うわっ。)

 思わず、心の中で叫んでしまう。

 そう叫んでしまうほど、その笑顔は綺麗だったのだ。

「闇己君!どうしたの?」

 闇己の笑顔に見惚れるものの、七地は気を取り直して、小走りに闇己の元に駆けて行った。

「ちょっとな…。七地に会いたくなって」

「っ!」

 思わずその言葉に七地は赤くなる。

「…闇己君」

 まともに顔が見れなくて、俯いた。

「どうした?七地」

「いや…。何でもないんだけど…。―なんか、どんどん闇己君格好良くなっていくな〜って思ってさ」

「俺が?」

「うん。格好良いよ?とても」

 七地は闇己の顔を見て、こくりと頷いた。

 すると、闇己は七地から視線を外した。

「なんか、そう面と向かって照れるな」

 本当に照れているのか、少年らしい顔をした。

 滅多に見れない闇己の表情に七地はくすりっ、と笑った。

「あはっ、照れない照れない」

 いい子いい子、と七地は闇己の頭を撫でた。

 するとその腕を掴まれて、ぐいっ、と引き寄せられた。

「…闇己…君?」

「人を…、人をこんなにも愛しいなんて思うのは始めてだ。―突然来て迷惑だったか?」

「闇己君…」

 七地は闇己の背中に腕を回した。

「迷惑なんかなじゃいよ。迷惑なはずないじゃないか!俺は闇己君が会いにきてくれたことがとても嬉しいんだよ?本当なら毎日会いたいぐらいなのに」

「七地…」

 闇己は七地の体を抱きしめている腕に力を入れた。

「七地…。迷惑なことがあったらいつでも言ってくれ。俺はアンタにこれ以上迷惑は掛けたくないんだ」

「迷惑なことって?」

「神剣探しにいつも手伝ってもらっている。大学が私用があっても、アンタいつも神剣探しを優先させているだろう?」

「前にも言ったけど、俺は自分の意思で神剣を探しているんだ。迷惑なんて思ったこと一度もないよ!それに…。それに闇己君と一緒にいられるから、ちっとも迷惑なんかじゃないよ。―俺さ、いつも闇己君に危ないところを助けてもらっているし、それにそろそろクリスマスだから何か闇己君にプレゼントをしようかなと思ってたんだ。そうしたら、闇己君に似合いそうな黒いジャケットがあってさ。それを買おうとしたんだけど、ちょっと手持ちがなくて…。手持ちがないと言っても、ずっと手持ちがないんだけど…」

 自嘲気味に七地は笑う。

「お礼もできない、神剣も満足に探せない…。こんな俺の方が迷惑をかけてるよ」

「そんなことはない。アンタのお陰で神剣が集まってきている。今まで有り得なかったことだ。アンタには感謝している」

「そうかな?そう言ってもらえると助かるよ」

 自分がミカチヒコの血統の末裔だと何も証明するものがなく、神剣が見つかってもそれは偶然に見つかったとしか思えない。

 確証がないから、余計に七地は不安になるのだ。

「なあ、七地。25日、空いてないか?」 

 七地は突然の申し出に驚き、首をかしげる。

「えっ、クリスマスの日?空いてるよ」

「どこか旅行にでも行かないか?」

「…ホント?闇己君、俺と一緒にいられるの?」

 公務で忙しいと思っていた矢先に、この科白だったので、七地は驚いた。

「ああ、その日は何も入れてない。というか入れるつもりはない。どうだ?行かないか?」

「うん…。うん!行く!絶対行くよ!」

 目をキラキラと輝かせながら言った。

 まるで22歳とは思えない。

 その子供みたいな表情に闇己は苦笑した。

「じゃあ、決まりだ。―あっ、七地。プレゼントは用意しなくていいからな」

 にやりと、不敵な笑みを浮かべる。

(あ、なんか嫌な予感。)

「プレゼントはアンタを頂くからさ」

 ぼそっ、と耳元で囁く。

「いいだろ?」

 低い声で囁かれて、七地は背筋がぞくっ、とした。

「なっ、なっ…」

 高校生とは思えない、色気のある顔で囁く。

 ドキドキして、頭に血が上る。

 パニックになっている七地を面白そうに見ていると、頬にキスをした。

「!!!」

「じゃあ、又連絡する」

 くすっ、と笑うと闇己はこの場所から去って行った。

「な、なんつーマセガキだ!」

 口悪く言っても、内心喜んでいる自分を見つけて、苦笑した。

「早くクリスマス、来ないかな♪」

 七地はそう言うと鼻歌を交えて、マンションの中に入っていった。

 

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