「なあ、最近七地って変わったと思わないか?」

 蒿がダイニングに来た闇己に問い掛けた。

「・・・そうか?」

 少し視線を蒿に送りながら、闇己は目的のものを取ってカップに入れる。するとコーヒーの芳ばしい香りが立ち込めた。インスタントとはいえ、最近のものは中々の味と風味を持っている。

 ちゃんと落とした方が美味いことは美味いのだが、簡単であり、かつ、味もそこそこ失われていないインスタントを闇己は結構気に入っていた。

 たまたまコーヒーが飲みたくなって、自分で取りに来たところダイニングで寛いでいた蒿に問い掛けられたのだ。

「そうかって・・・。まあ、いつも一緒にいるんじゃ気付かねーか」

 少し冷たい視線にむかっ、ときたものの蒿は平常心を保ちつつ言葉を発した。

「そんなに変わったのか?アイツ」

 お湯を注ぎながら闇己は聞いた。

「ああ、格好とかそういうんじゃねーんだけど。なんて言うか雰囲気が今まで以上に優しく、暖かくなった。それに」

 途中まで言いかけて蒿は口を閉ざす。

「それに、何だ?」

 壁に寄りかかり、コーヒーを一口飲む。先を続けろと、視線が訴えた。

 蒿はそんな闇己をちらりと見て、髪をかき上げると、言いづらさそうに言った。

「男の俺が言うのも何だけど、七地最近凄く艶が増したな〜っと思って」

 闇己は飲んでいるコーヒーを思わず吹き出しそうになった。

(な、なんだって?!コイツ今何て言った?)

 聞き間違いかと思い、闇己は尋ねた。

「今、何て言った?七地がなんだって?」

「あっ、いや、だから。・・・七地、アイツ最近色っぽくなったなって思ってよ。こんなこと思ったのはつい最近なんだけど」

 ポリポリと頭を掻く仕草をする。

「お前は何とも思わなかったのか?七地に会っていて」

「・・・いや、別に」

 闇己は平然とした顔で言った。

(言われてみれば最近やけに艶っぽくなったような気がする。あの時ぐらいから・・・。)

 闇己は“あの時”を思い出す。

 そう、闇己と七地の想いが結ばれた時から。

 気持ちを伝える前でも、触れたいという気持ちはあったが、最近ではその想いが強く、無性に抱きしめたいという想いで闇己の中はいっぱいだった。

 七地を目の前にするとつい手を伸ばしてしまいそうになる。自制心が弱くなったのかと、思うほど七地に触れたくてたまらないのだ。

 その気持ちは皆の前にいても同じ。人前にいても触れたいという衝動に駆られてしまう。

 何とかその気持ちを抑えて、二人っきりになるとこれでもか!と言うぐらいに触れてしまうのだ。

(忍耐力が落ちてきたのかと思ったが、そうではなかったらしいな。・・・どうやら、七地の魅力が増したらしい。しかも俺以外の人間がわかるほど・・・。)

 恋人としてこれは喜ぶべきなのか、それとも喜んではいけないべきなのか闇己は眉間に皺を寄せながら唸った。

 自分に対してだけ綺麗になるのなら一向にかまわないが、他の人間まで落としてしまうほどの魅力を持つとなると、心配でたまらない。

「・・・どうかしたか?闇己」

 眉間に皺を寄せながら睨みつけるようにして一点を見つめている闇己に蒿は問い掛けた。

「・・・何でもない。―――お前、夕香のことが好きなんだよな?」

 壁から離れて、カップをテーブルの上に置いた。

「ああ、そうだけど。それがどうかしたかよ?」

 ちょっと照れながら蒿は言う。

「なら、いい」

 くるりと背を向けて闇己はその場を去ろうとした。

(自覚していれば、七地を狙おうなどという気は起きないだろうし。)

「あっ、おい闇己!」

 蒿は立ち上がって、闇己の肩を掴もうとして振り向かせようとしたが、そうする前に闇己が振り向いた。

(この気は・・・。)

「七地だ・・・」

 蒿は突然振り向いた闇己に驚きもせずに、七地の登場を告げた。

 闇己はその蒿の呟きに、

(・・・ふ〜ん、こいつも巫覡(シャーマン)ってことか。七地の気に反応するとは。)

 少し感心した。

 すると玄関のドアが開き、「ごめんくださ〜い」と能天気な七地の声が聞こえてきた。

「やっぱり。アイツの気はわかりやすいな」

 くくっ、と蒿は笑った。

「それはそうだろう。何せ鍛冶師なんだから」

(俺のな。)

 心の中でそう言い放つと、俺は玄関まで七地を迎えに行った。蒿も後をついてきて、二人して玄関に並ぶ。

「あっ、闇己君に、蒿君!こんにちは」

 にこやかな笑顔で二人を見た。

 闇己は七地を見るとふうわりと微笑み、「よく来たな」と言った。

(今すぐにでも抱きしめたい。)

 そう思いながら。しかし蒿が隣りにいる以上それはできない。

 手が動きそうになるのを一生懸命に抑えて、平然さを装う。

(蒿がいなければ七地をこの腕に抱きしめられるものを!)

 と思い蒿を見てみると、瞬きせずにその場に固まっていた。

(・・・どうしたんだ?)

 その視線の先には七地の姿がある。

(もしや・・・。)

 嫌な予感が闇己の脳裏を横切った。

「蒿君、どうしたの?俺の顔に何かついてるかな?」

 じっーっと自分を見る蒿に七地は少し焦りながら聞く。

 闇己は又眉間に皺を寄せて、蒿の肩を引っ張った。

「おい、蒿!」

 耳元で怒鳴ってやり、蒿の正気を戻させる。

「うわあぁ!な、なんだよ、闇己。急に怒鳴るなよ!」

 怒鳴られた方の耳を抑えながら、後ろに飛びのく。

「なんだよじゃないだろう。どこに意識飛ばしてんだ、お前」

 キッ!と闇己は睨む。

「へっ、いや、別に・・・。ただ、ちょっと七地の笑顔が可愛かったな〜なんて思っただけで」

 蒿は最後の小声で言った。闇己に聞こえるぐらいの声で。

(や、やっぱり!!)

 ひくっ、と目の下を痙攣させる。

 七地は蒿が何を言っているのか聞こえなくて、首を傾げながら蒿を見ていた。その態度がとても可愛い。

 蒿はその七地の態度に少し顔が赤くなる。

 闇己はムッ、とすると七地の腕を取り、

「七地、俺の部屋に来い!」

 家に上がらせた。

「ちょ、ちょっと待ってよ。靴が・・・」

 力強く引っ張る闇己に逆らえず、急いで靴を脱ぐと闇己の後ろについて行った。

 蒿は闇己の行動に少し驚きながらも、二人を見ている。

 闇己は七地の腕を引っ張りながら、後ろに振り向いた。

「蒿、もう一度言う。夕香のことが好きなんだろ?」

 睨むような視線を向ける。

「へっ?あ、ああ・・・」

 蒿はその視線にびくっ、としながらもそう答えた。

「よしっ!」

 闇己はそう頷くと七地を連れて、部屋まで勇み足で向かった。

(ったく、油断も隙もあったもんじゃない。七地だけは絶対に誰にも渡さないぞ。)

 そう思うと今まで以上に七地に対して言い寄ってくる輩を成敗しようと強く心に決めた。

 

*****戯言*****

一体何やってるのでしょう?締め切り1ヶ月切ったのに・・・。
でも昨日最終巻を買っちゃったからつい書きたくなっちゃったんだよね。
樹なつみ先生、今までお疲れ様でした!!!

 

 

 

Back

 

 

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送