触れようと思っても、思うように触れられない。

 自分の欲望の思いで触れてしまったら、俺たちの関係が崩れてしまう。

 この関係が崩れてしまったら、アイツは俺の側から離れていってしまうだろう。

 それだけは避けたい。

 アイツなしの生活は考えられない。

 ―――七地。

 闇己は愛しい人の名を心の中で呼んだ。

 今まで生きてきた短い人生の中で、こんなにも執着したことはなかった。

 物でも人であっても。

 こんなにも俺の心を捕らえて、魅了した人はいなかった。

 神剣や念の事以上に七地の存在が気にかかる。

 お父さんの為に、念を倒すことを考えなければいけないのに、気がつけば七地のことを考えている。

 そんな自分を自嘲しながらも、そう思えることが嬉しく思えた。

 俺にも人を好きになることがあるのだと。

 一緒にいるだけではなく、七地に触れて、抱きしめたい。

 あの柔らかそうな唇に口付けたいと。

 こんなにも恋焦がれることができるのだと、人間らしい感情を持てたことが何故か嬉しかった。

 しかし、その感情を七地に言うわけにはいかない。

 言ったら築き上げていた関係が、壊れてしまう。

 友達としての関係でも一緒にいられればそれでいい。

 俺から離れていくよりは、友達として一緒に生きていきたい。

 だから、この想いは隠していく。

 どんなことがあろうとも。

「闇己君、入るよ」

 七地が部屋の扉の前で、声を掛けた。

 ―――来たか・・・。

 想いを気取られない為に、ポーカーフェイスを決めようとする。

「入れよ」

 その言葉のあとにすぐ、扉が開いた。

 明るい、光まぶしいオーラを背負って七地は現れる。

 そして、自分よりも年上に見えない笑顔を見せた。

 屈託のない笑顔で、俺を惑わせる。

 一生この想いは誰にも言うまいという気持ちを、思い切り揺さぶられる。

 腕を伸ばせば触れらる、抱きしめられる距離に居るのに、触れる事が出来ない。

 まるでガラスの上を歩いている気分だ。

 こんなにも危うく、壊れやすい気持ちはない。

 近くにいたいのに近くに行けない。

 そんな反発する心が悲鳴を上げる。

 思わず唇を噛んだ。

「・・・どうしたの?闇己君」

「いや、何でもない」

 ―――そう、何でもない。

 何でもないように努めないと。

「そう、ならいいけど」

 七地は一瞬悲しそうな表情をしたが、すぐにいつもの表情に戻り、俺に笑いかけた。

 この笑顔が守れるなら、俺はいくらでもこの辛い苦しい想いから耐え忍ぼう。

 この関係がずっと続けられるのならば、この気持ちは隠し通さなければ。

 闇己はそう思うと、一呼吸置いて七地を見た。

冷静に七地に接する事が出来るように。

 

*****戯言*****

もう一度八雲立つを1巻から読んでたら急に書きたくなった話。
そういえば、闇己の片思いは書いた事がないなと。
辛く、苦しい闇己を書きたくなって、書いてみました。
今更だけど、書いていて闇己の雰囲気壊してないかな?
何の話を書いていても、それがいつも気がかり・・・。

 

 

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