布椎闇己が死んでから7年後。

 時はゆるやかに流れて、周りの者は闇己がいない生活に慣れようと必死になっていた。

 その生活の中での衝撃の日。

 なんと蒿と夕香の間に生まれた子。

晃己が闇己の生まれ変わりだと知った日。

 皆衝撃のあまり声もでなかったのに、至って記憶を取り戻した本人は楽しそうな感じで微笑んでいた。

 その中で七地は涙を流しながら、闇己の復活を喜ぶ。

 そして闇己も又再び七地に出会えたことに不敵な笑みを見せるのだった。

 その衝撃の日から1週間後。

「いらっしゃい、建ちゃん。今日は早いのね」

 夕香が優しく七地を迎え入れた。

「お邪魔するね」

 かって知ったるなんとかやらで、七地はいつも荷物を所定の場所に置いた。

 闇己が死んでから、中々立ち寄ろうとはしない布椎の家。

 あまりにも残酷すぎて、皆に申し訳なくて顔をあわせることができなかった。

 今でも闇己を刺した感触は手に残っている。

 忘れようとしても忘れられない。

 愛する人をこの手にかけてしまった。

 あの時の記憶がまだ昨日のことのように鮮明に思い出すことができる。

 あの光景を思い出すと今でもぞっとする。

 昼間は元気な生徒と接する時間があるので、少しは思い出さずにすんだ。

 しかに夜になると毎夜毎夜、夢としてあの光景が映し出されるのだ。

 神剣で闇己の体を貫く夢。

 その衝撃に七地は飛び起きるようにして、夢から覚めるのだ。

 この7年間、ずっとそういう生活をしてきた。

 罪悪感が七地の心を蝕む。

 忘れたいが、忘れてはならない出来事。

 七地は精神的にぐったりとしていた。

 しかし夕香に連れられて行った先で、蒿と夕香の子供が闇己の生まれ変わりであると知ったときに、その重責は払拭された。

 闇己を殺してしまったという事実は消えない。

 それは間違うことはない真実。

 しかし闇己が生まれ変わった事、七地の精神的な負担はかなり減ったのだ。

 愛しい人をまたこの手に抱きしめることができる。

 又一緒に時を歩むことができる。

 そう七地は思った。

「そう言えば、くら・・・じゃなかった。晃己君は?」

 見当たらない晃己の姿に七地は尋ねる。

「晃己なら自分の部屋にいるはずよ。あっ、どうせなら建ちゃん晃己をお風呂に入れてくれないかな?蒿君まだ帰って来てなくて。私食事の支度があるからさ」

「いいよ。そのぐらいおやすい御用だよ」

 にこりと微笑む。

 先日までなら有りえなかった笑顔。

 笑っていても心の底から笑っていなかった。

 夕香はそんな七地の笑顔をみて、無意識に微笑んだ。

 最近は闇己がいたときみたく、ちゃんと笑うようになってきた。

 この家に姿を見せなかったのに、ここのところ毎日のように学校が終わると通いつめている。

 晃己の姿を見に。

 ここ数日学校が急がしくて、見れたのは寝ている姿だけだったが。

「じゃあ、俺晃己君の部屋に行ったら直接お風呂場に連れて行くね」

「バスタオルはいつもの棚にあるから、使って頂戴ね。下着は後で出しておくから」

「わかった」

 そう言うと七地はリビングを後にした。

 コンコン、と七地は扉を叩いた。

「どうぞ」

 子供の特徴的な高い声が聞こえた。

「俺だよ。入るよ?」

 そう言うとゆっくりと扉を開けて、部屋の中を見渡した。

 するときちんと背筋を正しながら、机に向かっている晃己の姿が見えた。

「こんばんは、晃己君」

 ぱたんと扉を閉めて、中に入る。

「よく来たな」

 晃己は振り向くと、軽く微笑んだ。

 その言葉使いや表情を見ると、とても5歳の子供とは思えない。

 ぷっ、と七地は笑う。

「・・・何だよ?」

 眉間に皺を寄せて、いきなり噴出した七地を睨む。

「ご、ごめん・・・。何かそうしてみるとやっぱり晃己君は闇己君なんだな〜と実感しちゃってさ」

 懐かしむように昔を思い出す七地。

 うっすらと目じりに涙が溜まっている。

「・・・当たり前だろ。外見は晃己でも中身は闇己の記憶を持っているんだから。今更子供の真似なんかできるかよ」

 毎回会うために言われている言葉に晃己はため息をつく。

「ったく、毎回毎回同じことを言わせるな」

「うん、ごめんごめん」

 目じりに溜まっている涙を指で拭った。

「まあ、座れよ。立ち話もなんだし」

 晃己は真向かいにあるクッションを指差した。

「うん。ありがとう」

 よいしょっと、声を掛けながら七地は座る。

 その態度に晃己がくすりと笑った。

「な、何?」

「いや、お前顔は変わってないのに、すっかりとおじさん化したなと思ってな」

「そりゃそうだよ。もう俺は30のおじさんだよ?もう若くはないさ」

「・・・そうか。もうそんな年になったか」

 晃己は目を細めて、表情を暗くした。

「晃己君・・・?」

 しゅんとした晃己に七地は不思議そうに見た。

「・・・闇己の時でさえ、5つ差だったのに、今ではその4倍も離れてる」

 ぎゅっ、と唇を噛む。

「あの時だって、年下でお前にガキだと愛想がつかされないように頑張っていたのに・・・。なのに今度は20歳差かよ・・・。全く、泣けてくるよな」

 子供の体のため、涙腺が緩くなっているのか晃己の目から一粒の涙が流れ出した。

「闇己君・・・」

 七地は顔を歪ませて、泣いている晃己を見る。

「もう俺は闇己なんかじゃない!お前を抱きしめたくてもこんな小さい子供じゃ抱きしめられない!お前を抱きたくても抱けない!お前に触れたいのに・・・触れられない・・・」

 ひくっ、と晃己は嗚咽を漏らす。

 その瞬間七地は晃己の体を抱きしめていた。

「くら・・・、いや、晃己君!何言ってんだよ。君が抱きしめられなくても俺がいくらでも抱きしめてあげるよ。俺に触れたければいくらでも触れるといいよ。俺は逃げやしない」

 ぎゅう、っと抱きしめる。

「な、七地・・・。でも、俺はこんな子供だ。お前を闇己の時みたいに愛せない」

「だったら俺が闇己君の、晃己君の分も愛してあげるよ。俺の愛だけじゃ不満?それとももう晃己君は俺のことを愛してないの?」

 七地は晃己の顔を覗き込む。

「そんなわけないだろう!俺が七地を愛さないわけないじゃないか。お前は俺の全てなんだ。

七地なしじゃ生きていけない」

 うるんだ瞳で七地を見る。

「うん、俺もそうだよ。晃己君なしじゃ生きていけないよ。―――闇己君を失った7年間。嫌というほど思い知らされたよ。こんなにも闇己君が俺の心の中を占めていたんだなって」

 少し遠くを見る。

 その瞳がとても悲しい色に染まっていたのがわかった。

「七地・・・。すまん・・・。お前には悪いことをさせてしまったな」

「ホントに・・・。ホントに悪いことだよ。俺に闇己君を殺させたんだから」

「・・・でも、そのお陰で俺は念を倒すこともできたし、お父さんとの約束も果たせた。だからお前には感謝している。あの時俺を刺してくれて」

「・・・そう言われると辛いな。俺はあの行動で感謝されたくなんかないよ」

「・・・悪い。でも―――」

 しっ、と七地の指が晃己の唇に触れた。

「もう止めにしよう。確かに俺はあの時闇己君を失って悲しかったし、とても辛かった。でも、今はどんな形であれ、闇己君が晃己君として生まれ変わったことを喜びたいんだ。だからもう、止めにしよう?」

 ね?と笑う。

「・・・七地」

 大きな瞳で七地を見る。

「俺は七地が好きだ。愛してる。お前以外に何もいらない。俺はお前を好きでいていいのか?こんなガキの姿になっちまったけど」

 真剣な瞳で見る。

 その瞳の中は悲しい感情が揺らいでいた。

 表向きはなんでもないような表情をしていたが、心の奥では不安を抱えていたんだと七地は実感する。

 七地にだけみせる弱音。

 その弱音が七地には嬉しかった。

 七地はくすりっ、と笑って晃己の額に口付ける。

「だったら俺も晃己君を好きでいていいかな?こんなおっさんだけど」

「構わない!!!七地が嫌でなかったら俺は構わない!」

「じゃあ、又俺たち恋愛しよう?俺も晃己君がいれば何も望まないよ」

「七地・・・」

 七地の服を掴んでいる手に力が入る。

「・・・キスしたい」

「えっ?」

「アンタにキス、したい。・・・いいか?」

 懇願するような瞳で見る。

「・・・闇己君の時はそんなこと聞いてこなかったのに。そんな率直に言われると照れるよ」

 少し顔を赤らめる。

「晃己としては始めてのキスだからな。一応断っとこうと思って」

「何か晃己君俺より大人みたい」

「お前がガキ過ぎるんだよ」

「言ったなぁ〜」

 むすっ、と表情を変える。

「まあいいけど、少し顔をしたに向けてくれよ。―――初めてのキスは俺からしたい」

「・・・晃己君・・・。何かその表情闇己君にそっくり」

 にやりと笑う晃己に七地は目を見張る。

「当たり前だろ?俺は闇己でもあるし晃己でもあるんだから」

 そう言うと晃己は七地の顔を小さな手ではさみ、下に向けさせた。

 すると軽くちゅっ、と唇を合わせる。

 触れ合うだけのフレンチキス。

「今はこれだけ。これから先は俺がもう少し大人になってからだな」

「そうだね。何かこれ以上すると俺、ロリコンみたいだし」

 二人は視線が合うと、くすっ、と笑った。

「あっ、そうだ。俺夕香に晃己君をお風呂に入れてと頼まれてたんだ」

 ふと、夕香の言葉を思い出す。

「何っ?俺をお風呂入れる?お前がか?」

「うん。俺じゃ嫌?」

「当たり前だ。闇己の時ならば喜んで入ったが、今は晃己なんだぞ?」

「恥ずかしいの?晃己君」

 うっ、と晃己は唸る。

「大丈夫だよ。悪戯なんかしないから」

「そういう問題じゃない!この姿じゃお前を襲えないじゃないか!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 一瞬七地の時が止まる。

「・・・晃己君って、結構スケベだよね」

「そうか、俺は普通だとは思うぞ?」

 しれっ、と言う。

「・・・まあ、いいや。早く入ろう。そうしないと俺が夕香に怒られちゃうよ」

 そう言うと七地は晃己を腕に抱いて、部屋を出ようとした。

「ちょっと七地、下ろせ!」

 軽々と持ち上げられたことに晃己はキッ、と睨む。

「嫌だよ。こうでもしないと晃己君一緒にお風呂入ってくれないでしょ?さっ、いい子だから一緒にお風呂入ろうね〜」

 にっこりと笑う。

「な〜な〜ち〜」

 子供扱いされて、晃己は地が這うような声を出した。

「そんな怖い顔しても駄目」

「・・・大人になったら覚えてろよ。そのうち同じことしてやる」

「はいはい。そのうちね」

 ぱちんっ、とウインクをした。

 晃己はそのウインクにちっ、と舌打ちする。

 ちくしょう、覚えてろ。そのうち、主導権を俺が握ってやるから!

 そう心の中で晃己は思った。

 七地よりもでかくなってやる。

 長身の蒿の子供なので、身長がでかくなることは間違いない。

 晃己は先の未来、どうやって七地を愛そうか(意地悪)今から考えていた。

 

*****戯言*****

八雲立つが最終回を迎えてから始めてのお話。

ただ2人には幸せになってもらいたいな〜、と思って

この話を書きました。

最終回を読んでない方はごめんなさい。

 

 

 

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