「ねえねえ闇己君。今日花火見に行かない?」

 修行の休憩中に夕香は花火大会に闇己を誘った。

「お前そんな事言ってないで修行に集中しろよ。1人でまともに依り憑かせることができたら考えてやるよ」

 じろっ、と闇己は夕香を見る。

「ええっー!そんなの出来ないに決まってるじゃないの」

 夕香は当たり前のように言う。

「そんなのやってみないとわかんないだろうが。無理だと決め付けるな!」

 闇己はそう叱咤する。

 すると、カタンと扉が揺れる音がして、

「おいおい、又駄々こねてるのか?夕香」

 その声に二人は振り向いた。

 声の人物を確認すると嬉しそうな表情をする闇己。

 その闇己を見て、憤慨する夕香。

 二人の表情は正反対だった。

 その人物はひょっこりと、扉のところから顔を覗かせている。

「どうしたんだ、七地。今日はバイトのはずだろ?」

 闇己が七地に言った。

「うん、そうなんだけど今日はちょっと早めに終わったんだ。時間が余ったから夕香の様子でも見ようかと思って来てみたんだ。そしたら夕香の駄々こねている声が聞こえたからさ」

 その言葉に夕香はムッ、とする。

「ちょっと健ちゃん!今は修行中なんだから勝手に入ってこないでよ」

「だって、今休憩中だろう?さっき聞こえたぜ」

「もう終わったのよ!」

「いつ?」

「今さっき!」

 凄い迫力で睨まれて、七地は驚く。

「・・・お前な」

 七地は軽くため息をつく。

「わかったよ。邪魔者は消えるよ」

(ったく、しょうがない妹だな。二人っきりでいたい気持ちもわかるけどさ〜)

 七地は背を向けようとした時に、

「おい、七地」

 闇己が呼び止めた。

「何?」

「修行が終わるまで俺の部屋で待ってろよ。終わったらすぐ行くから。一緒に飯でも食おう」

 七地はその言葉を聞くと嬉しそうに微笑んだ。

「うん、わかった。ありがとう。じゃあ、遠慮なく待たせていただくよ」

 七地の笑みに闇己も自然に微笑む。

「ちょっと待って!闇己君、私との花火大会は?」

 夕香は上目遣いに闇己を見る。

「・・・だからそれはお前が1人で神を依り憑かせることができたらって言っただろう」

「何々?闇己君たち花火大会に行くの?俺も行きたい」

 七地はにこりと笑った。

「健ちゃんには聞いてないわ!」

 キッ!と強い視線を七地に浴びせる。

(そりゃ、ねーだろう。夕香・・・。兄ちゃんは寂しいぞ・・・。)

 七地は心の中で妹の態度を嘆いた。

「わかったわかった。じゃあ、こうしよう。七地が一緒に来るなら花火大会に行ってもいいぜ。それが条件だ」

 軽くため息をつきながら、闇己は言った。

「ええっーー!健ちゃんも〜?!」

 夕香はそう言うと、七地を見た。

 少し考えて、

「本当に健ちゃんが来てくれたら、闇己君来てくれる?」

「ああ、いいぜ」

「わかったわ。―――健ちゃん、今日の花火大会一緒に行きましょう」

 少し恨みのこもった目で七地を見る。

(・・・怖いよ、夕香。)

 七地は冷や汗を額に浮べる。

「ありがとう、夕香。どうせなら皆も呼ぼうよ。どうせなら皆の方が楽しいし」

(3人よりも皆といたほうが、俺への夕香の被害は少ないだろうし・・・。)

 七地はちらっ、と闇己を見た。

 すると目が合い、少し見つめあう。

 闇己はくすっ、と笑うと、

「そうだな。皆の方が楽しいだろう。蒿や脩さん達も呼ぼう」

「賛成!水都波君にお弁当作ってもらおうかな?」

 七地はウキウキとした表情をする。

 夕香はどんどん人数が増えていくことに対して、憤りを感じていた。

「健ちゃん、人数増えすぎよ!本当だったら闇己君と二人でラブラブだったはずなのに〜」

 夕香は少し泣きべそをかく。

「誰がラブラブだ」

「勿論、私と闇己君よ〜vv。いつも健ちゃんばっかとつるんでて楽しくないでしょ?」

「だったら七地の方がいい。それに七地と一緒にいてつまらないことなんてない」

(なぬっ?!く、闇己君?!)

 その言葉に七地はおろか、夕香まで唖然とした。

「・・・なんだ。どうかしたのか?」

 固まっている七地と口をあんぐりと開けている夕香を交互に見る。

「七地?」

 闇己に呼ばれて正気に戻る。

「あっ、いや、何でもない。ちょっと闇己君にしたら珍しくストレートな言葉を吐くなと思って・・・」

 七地は少し照れながら言う。

「だって本当の事だろうが」

 闇己は真剣に七地を見つめる。

「ありがとう、闇己君」

(そんなに俺のことを良く思っていてくれるなんて、嬉しいな。感激だよvv)

 へへぇ〜、と七地は笑った。

(でも・・・。)

 ちらっと、夕香を見る。

 キッ!と七地を睨んでいる。

(こ、怖い・・・。)

 七地は少し後ろに下がる。

「ちょっと闇己君!私より健ちゃんの方がいいの?!」

 夕香は食いつくように闇己に寄った。

「ああ」

 あっさりと闇己は言う。

 その瞬間、

 びょぉぉぉぉぉぉ〜!

 七地と夕香にブリザードが巻き起こる。

 今の時期は暑いはずなのに、背筋が冷たい。

(・・・俺、後で夕香に半殺しの目にあうかも・・・。)

 闇己の気持ちは嬉しいが、闇己の事を思っている夕香の事を考えると素直に喜んでいられなかった。

「そ、そんな・・・。酷い、闇己君・・・」

 よろっ、と夕香は後ろに下がる。

「ゆ、夕香?」

 七地は心配そうに言う。

 夕香はそんな七地を睨み付けると、

「健ちゃんの、健ちゃんのバカーーーーーーー!!!」

 思い切り怒鳴った。

(俺かよっ!!!)

 七地はそう心の中で突っ込んだ。

 夕香は怒鳴りきると、道場から出て行った。

「アイツは相変わらず五月蝿いな。お前とは正反対だ」

 闇己は表情一つ変えずに言った。

「う、五月蝿いってね。人の妹を捕まえて・・・」

(確かに兄の俺でも五月蝿いとは思うけど、やっぱりどんなことがあっても可愛い妹には違いないからな。)

「だって、その通りだろうか」

「でも、君の事を好きな夕香の前で、男の俺の方がいいなんて言われたらショックを受けるよ」

「俺は正直な気持ちを言ったまでだ。何だったら夕香の前で俺たちは付き合っていますって言ってもいいんだぜ?」

「うっ・・・、それは」

 七地は言葉に詰まる。

「俺はどんな奴よりもお前と一緒の方が楽しいし、嬉しいんだ」

 そう言うと闇己は七地の腕を取った。

「うわっ!ちょ、闇己君?!」

 胸の中に引きずり込まれて、七地は焦る。

(こんな所誰かに見られたらまずいよ!)

 七地は闇己の腕から逃れようとするが、闇己のしっかりとした力強い腕に抱きしめられて逃れることは出来なかった。

「・・・一体、いつの間にそんなに力強くなったんだい?」

 いつの間にか自分よりも一回りも大きくなった闇己。

 すっぽりと腕の中に入ってしまうことが同じ男として悔しい。

「さあな。いつだろう。でも、俺はアンタを守りたくて力をつけたんだ。アンタを守れるほどの力が欲しくて」

「闇己君・・・。じゃあ俺たちライバルだね」

「えっ?」

 闇己は不思議そうな顔をした。

「だって、俺も闇己君を守りたいんだよ。だから俺たちライバルじゃないか」

 にこりと笑う。

「何を今更・・・。俺は何度もアンタに守られているよ。数え切れないぐらいに」

 闇己は七地の顎に手をかけて、自分に向けさせた。

「アンタが側にいてくれたから、俺は自我を失わずに、念に体を支配されることはなかったんだ」

 その言葉を聞いて、七地は少し涙ぐむ。

(・・・闇己君がそんな事を言ってくれるなんて、俺すごく嬉しい・・・。)

「これからもずっと俺の側にいてくれ、七地」

 情熱的な瞳が七地の瞳を捉える。

「うん・・・。君が嫌だといっても俺は君の側から離れないよ」

 七地は微笑んだ。

 二人は少し見つめあうと、静かにお互いの唇を重ねあった。

 

*****戯言*****

いや〜、なんといいますか。
この話、本当は七地ハーレムを書こうとして書いた作品です。
しかし、あまりはかどらなかったので、設定をちょっと変えて、
この話にしました。それにしても今回の夕香可哀相だな・・・。
自分で書いておいてなんだけど・・・。

 

 

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