「えっ?チョコレート?」

 ナミは不思議そうにルフィを見た。

「何?どうしたの?チョコ食べたいの?」

「いんや。どうやったら手に入るのかと思って」

 ナミ専用の部屋の床にルフィはあぐらをかいて座っていた。

 相談があるとうことで、ルフィはナミの部屋を訪れていたのだ。

 ルフィの口から相談という言葉が出たことにナミは驚いたが、更に驚く内容を聞くことになろうとは、今のナミには想像できなかった。

「手に入れるね〜。明日何処かの港に入れば、チョコは手に入れられると思うけど…。でも、どうしたのいきなり」

 食べ物のことなら、この海賊船のコックであるサンジに聞けばいいはず。

 もしかすると、サンジならばわざわざ港でチョコレートを手に入れなくても、作ってくれるかもしれない。材料があればの話だが。

 でも、サンジに聞くのではなく、自分に聞いてきた。

 ― 何か裏がありそうね…。ルフィには珍しく。

 ナミは軽くため息をつくと、ルフィの相談相手になってあげた。

 

+++++

 

「えっ、カカオ…ですか?」

 サンジは眉間に皺を寄せた。

「ありますけど…。何に使うんですか?カカオなんて」

 カカオのある場所を思い出しながら、サンジはそう言った。

 カカオはデザートを作るときの為に使う。チョコレートを使うデザートは女性に喜ばれるのだ。

 なので、カカオはこの船には必要不可欠のものであった。

「まあ、ちょっとね。どこにあるのかしら?教えてくれる?サンジくん」

 ナミはこれ以上突っ込まないでくれる?という笑みを浮かべる。

「…はい」

 サンジはその笑顔の意味がわかり、頷くしかなかった。

 

+++++

 

その日の夜、夕食の後片付けをして、明日の朝食の仕込を終えると、サンジは厨房を後にした。

 ナミさんにわかりやすいように、カカオとそれに使用する器具を用意して、テーブルの上に置いておいた。

 ― 一体何に使うんだろうか?ナミさん…。

 サンジは展望台に上りながら、考えていた。

「おい、交代だぜ」

「おっ、待ってました」

 ウソップがはぁ〜と手に暖かい息を吐いて暖めている。

「今日は寒いから、暖かくしていた方がいいぜ」

 自分に掛けていた毛布をサンジに渡す。

「みたいだな」

 ウソップの鼻先が真っ赤になっている。

 よほど寒いのだろうか。

「なあ、ウソップ。お前だったから、カカオって何に使う?」

「はぁ?カカオ…?カカオなら普通チョコレートに使うもんじゃねーのか?それはお前のほうが詳しいんじゃねーの」

「そうだよな…。だったら俺に言ってくれればいいのに。ナミさんのためなら喜んで作るものを」

 サンジは納得がいかないと、ため息をついた。

「ああ、そういうことか」

 ウソップはぽんっ、と手を叩いた。

「何が?」

「バレンタインデーだよ。まだ、ちょっと早いけど、バレンタインでーのチョコでも作るんじゃないか?きっと。まだ1週間も日があるのに、行動するのが早いな〜」

 うぅ〜、さみぃ!なんて言いながら、ウソップは体を縮こませている。サンジに毛布を渡してしまったもので、上には何も着ていない。

 鳥肌を立てながらサンジと話していた。

「んじゃ、後よろしくな!」

 ウソップは寒さに耐えられなくなったのか、話を切り上げてさっさと下に降りていった。

「おう」

 サンジは心無い返事をすると、毛布を肩に掛けて、見張りを交代した。

「もうそんな時期か…」

 ― バレンタインデーならば、何か作らなきゃな〜。ナミさんやロビン姉さんは何のデザートが好きだろうか?

 サンジはチョコレートを使った、デザートを頭に浮かべながら何を作ろうか考えていた。

 ― アイツらにも一応作ってやるかな…。

 女性だけに作るのも可哀想だと、少し思い、何か男連中にも簡単なデザートを作ってやろうと考えた。

「…アイツのはどうしよう」

 サンジは無意識のうちに呟く。

 アイツとは、今現在恋人であるこの船の船長のことだ。

 いつの間にか好きになっていて、いつのまにか押し倒していた。

 若さの至りというか、なんというか。

 ルフィを好きだということは間違いないのだが、好きだから押し倒すということをしてしまったことが、若さの至りと言える。

 ルフィもサンジのことが好きだと、その時わかった。

 その至りのお陰で、現在、サンジとルフィはお付き合いをしている。

 ― アイツからはチョコなんて……。期待できそうもねーよな…。

 作り方なんて、知らないだろうし。

 かと言って、バレンタインでーという恋人のイベントですら知らないだろうし。

 ― やっぱり、ここは彼氏である俺からチョコを渡したほうがいいか。んでもって、ホワイトデーには美味しくルフィを頂いちまえばいいしな。

 うん、そうしよう!とサンジはお馬鹿な妄想へを思考を滑らせていく。

 あーでもない、こーでもないと、サンジは妄想に頭を悩ませて、次の見張りの交代までの間、時間を過ごしていた。

 

+++++

 

 どのくらいの時間が経ったのだろうか。

 考えている最中に、眠気が襲ってきていつのまにかウトウトと寝てしまっていた。

 かたんっ、という音にサンジは目を覚ました。

「あっ、起こしちまったか?」

 そこには愛しの恋人である、ルフィの姿があった。

 手にはマグカップが握り締められている。

「どうした?ルフィ。次の交代はお前じゃないだろう?」

 寒いから、入れと、サンジは毛布の中にルフィを誘った。

 ルフィは顔を輝かせると、素直にサンジの体に密着させて、毛布に包まった。

「はい、コレ」

 ルフィは持っていたマグカップをサンジに渡す。

「…これは…」

 茶色の少し緩い液体がそこに入っていた。白い湯気が揺れている。

「寒いだろ?これでも飲んで暖まってくれ」

 ルフィはにかっ、と笑う。

 匂いと色からして、これは紛れもなくチョコレート。

 ― チョコレート…?まさか!

 サンジはナミがカカオを欲しがっていた理由がわかった気がした。

 じーっと見つめているサンジに、ルフィは唇を尖がらせた。

「何だよ、別に毒なんて入ってないぜ。ちゃんとナミに作り方教えてもらったんだから」

 ぷんすか、とルフィは怒る。

 その言葉にサンジはやっぱり、と納得した。

 ― ナミさん、感謝します…。

 サンジは心の中でそう思った。

 まさかルフィからチョコレートと名の付くものを貰えるなんて思ってもみなかったので、サンジは振って沸いた幸せを噛み締めていた。

 何か悪態でもついて、この照れる気持ちを誤魔化そうかと思ったが、ルフィが一生懸命に作ってくれたチョコレートドリンク。

 こんなこと、普段のルフィからなら想像もできない。

 そんな気持ちをちゃかすようなことはできないと、サンジはルフィの頭を寄せて、キスをした。

「ありがとう…」

 サンジはそう言うと一口飲んだ。

 少し苦味あるビタースィート。

「うん、美味いよ。ルフィ」

 その言葉にルフィは、にぱっ、と笑った。

「だろ?俺もそれ飲んであまりにも美味くてさ、それだけ残して後は全部飲んじまった」

 しししっ、とルフィは笑う。

「はぁ?!全部…?全部って、もしかしてありったけのカカオ使っちまったのか?!」

 前から食い意地の張った奴だと思っていたが、こんな時でもそれを発揮するとは思ってもみなかったので、思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。

「ありったけかどうかわかんねーけど、テーブルの上にあったやつ全部vv」

 にぱっ、と笑うルフィにサンジは項垂れた。

 ― あのカカオだけで、どんだけのチョコレートができると思っているんだ、コイツ!

 底なしのルフィの胃袋を感心しつつ、サンジはため息をついた。

「どうしたサンジ?」

「…いや、なんでもねー」

 ― とりあえず、今はコレを貰っただけでもよしとするか。

 もう既にぬるくなっているチョコレートドリンクを口に含み、飲み干した。

「ごっそうさん」

 唇についたチョコレートをぺろりと舐めると、そのままルフィに口付けした。

「……甘い」

 充分にルフィの唇を堪能して、放してやるとルフィはそう呟いた。

「そりゃあ、チョコレートですから?」

 サンジはにやりと笑うと、もっと甘いキスはいかが?とルフィの耳元で囁いた。

 ルフィはにっ、と微笑むとサンジの首に抱きついた。

 それは交代の見張り、つまりチョッパーが来るまで続いていた。

 

+++++

 

「それにしても、ルフィ、よくバレンタインなんていうイベント知ってたな」

 ふとした疑問を口にする。

「ああ、ロビンに教えてもらったんだ」 

「ロビン姉さんに?」

「うん、好きな人にチョコレートを送るイベントがあるって。いつあるか知らねーけど、でもコレを好きな人にあげるなら、サンジにあげようと思ってさ。ナミに作り方聞いたんだ」

 へへっ、と笑う。

「そうか」

 ― ロビン姉さんも感謝だな。

 幸せが振って沸いた基であるロビンにサンジは心から感謝した。

 ―これはやはり、ホワイトデーにはめいいっぱいルフィを愉しませてもとい、楽しませてあげないと。

 うんうん、とサンジは邪な妄想を頭に浮かべながら、ルフィを抱きしめた。

 

 

 

 

*****戯言*****

はいぃぃー!お久しぶりのサンルです!しかもバレンタインネタ!
如何でした?
これはいつもお世話になっている刺身さまにプレゼントしたものです!
刺身サマのサイトにもサンルやシャンルがありますので、遊びに行ってみてくださいましvv

 

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