いつもの時間なら寝ているはずなのに、今日に限って全然寝付けない。 何故だろう? 一生懸命寝ようと頑張っているのに寝付けない。羊の数を数えるとすぐに眠れるいうアドバイスを前に受けたことがあるので、数えてみたが眠れななかった。逆に羊の数を数えているとお腹がすいてくるような気がした。羊がいい匂いをしながらルフィの頭の中を飛び回る。そのせいでお腹がぐーっ、となっている。 これじゃあますます眠れない。頭は眠いのに身体が寝ようとしてくれないのだ。 今まで何度寝返りを打ったかすら忘れてしまった。10回は寝返りを打ったような気がしたが、それ以上な気がする。あまりの寝付けなさに逆にイライラしてきた。 ダメだ。全然眠れない。 ルフィはベットから起き上がり、部屋のドアを開ける。外の空気でも吸って気分転換しようと思い部屋を出て行った。 食堂へ行くと明かりがまだ灯っていた。誰だろうと思いドアを開ける。そこには本を開いていたナミの姿があった。 「きゃっ!なんだ、ルフィか。驚かさないでよ。びっくりしたじゃない」 「あっ、わりー。別に驚かせるつもりはなかったんだけど……」 ルフィはしししっ、と笑う。 「何してんだ?こんな時間に」 「航海日誌をつけていただけよ」 「航海日誌?」 「ええ。ルフィ、あなた一度くらいつけたことあるでしょ?」 「いや、一度もない」 ブン、ブンと首を振る。 「だと思った。だって私今までこの船の航海日誌見たことないもの」 ナミはトントン、とペンで航海日誌を叩く。 「だってなんか面倒くさくてよー。でもなくてもちゃんとやっていけてたぞ」 「まあ、そうなんだけどね。でもつけておくと面白いわよ。それにこの海賊船の歴史になるしね。それよりどうしたの?こんな夜更けに?」 私を夜這いにでもしにきた?などとナミは冗談をいう。 「ちょっと眠れなくて」 「珍しいじゃない。ルフィが寝付けないなんて。何か悩み事でもあるの?」 「うんん。全然。あるとすれば俺は腹が減ってることかな。何か食いたい」 ルフィはお腹を押さえる。 「この食欲大魔人が…」 ナミはふーっ、とため息をつく。 「でも食べちゃ駄目よ。ただでさえこの船は食費がかかりすぎてるんだから。すこしは我慢しなさい」 とナミは言うと席を立つと冷蔵庫を開けた。中から牛乳を取り出し鍋に入れ、火にかける。 「何してんだ?」 「見てわかんない?」 あわ立たないようにヘラでゆっくりとかき回す。 「牛乳暖めてる」 「ご明解」 頃合をみてコップに移す。 「はい、どうぞ」 ルフィの目の前にコップを差し出す。 「………これ俺に?」 「そうよ。他に誰がいるの?本来ならお金を取るところだけど今日はおまけしてあげるわ」 ルフィはナミの顔を見つめる。 「何よ。顔に何かついてる?」 少し照れたような顔をした。 「いや、何も。ありがとう、ナミ」 にかっ、とルフィは笑った。ナミは頬を軽く赤く染めるとルフィから視線をはずした。 「これを飲んで早く寝なさい。私はもう寝るわ」 「おう、わかった」 「それとちゃんとそれ後片付けしておいてね」 「おう、任せとけ!」 ドン、と胸を叩く。その姿にナミはくすっ、と笑う。 「おやすみなさい、ルフィ」 そういうとナミは部屋を出ていった。 「ああ、おやすみ」 コップに口をつけ、ホットミルクを飲む。温かいものが食道を通っていくのがわかる。 「うめー………」 無意識に言葉が出る。 やっぱ仲間っていいもんだなー。 ふとルフィはそう思った。気兼ねなく一緒に行動できる人たち。 始めは一人で始めた海賊団。だが次第に、ゾロ、ナミ、ウソップ、サンジ、チョッパーという大切な仲間が増えていった。誰にも負けない最高の仲間。 シャンクス達にだって………。 手にしていたホットミルクを飲み干す。コップをおいた先に、ナミがさっきまで書いていた航海日誌が目に入った。 シャンクスもこういうの書いてるのかな? 航海日誌を手に取り少し眺めてみる。 「この海賊船の歴史………」 ナミの言葉を思い出す。 確かにこの海賊船の歴史はまだ数ページ分にすぎない。しかしルフィが海賊になろうと思ったときから、ルフィの中の航海日誌はもう何冊分にもなるだろう。これもあの男に出会ったおかげだ。あの赫髪のシャンクスに会ったためにルフィは海賊になろうとした。シャンクスを追いかけるために。 今ではシャンクスを追いかけることはもちろんのこと、海賊王になるという目標も兼ね備えている。 そんなきっかけを与えてくれたシャンクスは、ルフィにとってはとても大切な存在になっていた。 子供の時に一緒に遊んでくれた人、夢を与えてくれた人。思い出すのはいつもあの人の笑っている顔。無邪気な笑顔に、逆に シャンクの方が子供のような気がする時が多々あった。 海賊にあったのはシャンクス達が初めてだったので、そんな無邪気に笑っていられるのはきっと海賊は楽しいものなのだと、思ってしまった。 しかし実際は違っていた。楽しいことは楽しい。だが、危険が隣り合わせで常に存在していることに、子供の時は気が付かなかった。 今ならわかる。今までだって死にそうな目にあったことは何度かあるが、それをいつでもクリアしてきた。でもそんな目にあっても海賊はやめられない。 シャンクスとの誓いもあるし、それにワンピースをこの目で見るまでは絶対にやめられない。 ルフィは航海日誌をテーブルの上に置き、コップを片付けると、食道を出て行った。 部屋に戻ってくるとホットミルクを飲んだせいか、急激に眠気が襲ってきた。 倒れこむようにベットに横になる。 眠い………。 さっきまで眠れなかったのが嘘のように思えてきた。 俺ぐらいのときのシャンクスって一体どうだったんだろう?やっぱり海賊やってたのかな? 薄れる意識の中でルフィはそう思った。 すると海が突然光だし、光が船を包んだ。青白い光が、ルフィの体に付着すると、徐々に体が消えていった。 どこかから声が聞こえる。 どこかで聞いたことのある声。だがその聞いたことのある声はもう少し低いはず。こんなに高くはない。 耳を澄まして聞いてみるとやっぱりあの人の声に似ている。しかもその声は自分を呼んでいるみたいだ。 「おい、起きろ!」 起きろ?もう朝か?さっき寝たばっかりなのに。なんだよ、もうちょっと寝かせてくれよ。 ルフィはそう言った。だが言ったつもりだが声にはならなかった。 「はあ?何言ってやがる!聞こえねーぞ。ともかく起きろよ!」 ルフィは身体を揺さぶられてしぶしぶ目を開ける。すると目の前に赤い髪が写った。 ストレートの赤い髪の下の顔が視界に写る。 赤い…髪…?………?! その瞬間ルフィの思考が停止した。 「おっ!やっと起きたか」 聞きなれた声がルフィの鼓膜を刺激する。いや、少し高めかもしれない。まだ青年の声だ。 「おい、お前何者だ?どこから来たんだ?」 幼げな顔がルフィに近づいてきた。 「おい、黙ってないで何とか言えよ」 ムスッとした表情になる。 「…………!!」 声を出しているのに声にならない。目の前に一番会いたかった人がいるのに、声が出ず、動けないでいる。ルフィは口がパクパクと動くだけだった。 「あっ?何?」 何かを言おうとしていることがわかったのか、ルフィに聞き返してきた。 「……………っ」 「ん?もっとはっきりと言えよ」 相手が不機嫌になっていくのがわかる。 声がでない!なんで?こんなにも叫んでいるのに!!これじゃあ愛想つかしてどっか行っちゃう!! どうにかして声を出そうとするが微かにしか声がでない。 シャンクス!! 何度もルフィはシャンクスの名前を叫んだ。 「………お前もしかして声が出ないのか?」 わかってくれたことが嬉しくて思い切り首を振る。 「そうか。じゃあ、悪い事言っちまったな。まさかしゃべれないなんて思ってもみなかったから」 そういうとすまなそうな顔をした。 違う!ちゃんとしゃべれるのに、なぜか声がでないんだ!こんなに近くにいて声も聞けるのに口が利けないなんてっ!!! ルフィはくやしくて涙が出てきた。 「お、おい!何だよ、泣くなよ。謝ってるじゃねーか」 ルフィはこぼれてくる涙を手の甲で拭った。 「ったく、お前は何者なんだよ。いきなり空から降ってくるし、口は利けないし、いきなり泣くし」 シャンクスはルフィをじろじろと見回す。 えっ?空から降ってくる……? ルフィは空を仰ぐ。 「何だ?空に何かあるのか?」 シャンクスも空を仰いだ。 シャンクスは何にもねーじゃねーか、と呟くと、ルフィの方へ振り返り、腕をとって立たせた。 自分と変わらない腕。立ってみると身長もそんなには変わらなかった。わずかだがシャンクスの方が勝っている気がした。 あれ?シャンクスこんなに身長低かったっけ?それに顔に傷がない。前に見たときは確かに顔に傷があったのに。 「まあ、怪我がなかっただけ運がよかったな」 シャンクスは丁寧に汚れを払ってやる。 しゃべり方や仕草、顔の表情は全く変わらないのに、見た限りでは自分と同じぐらいの年齢にしか見えない。 ルフィはそんなシャンクスに違和感を感じた。 本当にシャンクスなの?でも俺がシャンクスを見間違えるはずがない!!あんなにも会いたかった人なんだから。絶対に間違えるはずなんてない。 そう心の中で思っていても目の前の現実はルフィを困惑させる。 「今度はなんだよ。俺の顔になんかついてるか?」 自分を見つめてくる瞳にシャンクスは少しドキッとする。 「あっ、そうか。おれまだ自己紹介してなかったな」 にかっ、とシャンクスは笑う。 「俺の名前はシャンクス、海賊をやってるんだ。まあ、海賊っていうと聞こえはいいけど、今の所はまだ見習だ」 海賊?船長じゃなくて見習? ルフィの頭はさらに混乱する。 どうなってるんだ?一体………。 よくよく辺りを見回してみると草原が目に入った。 今までシャンクスしか見えていなかったので、辺りのことは目に入っていなかった。 俺、さっきまで部屋にいたのに!!そういえばさっき空を見たもんな。そんとき気がつきゃよかった。 ルフィは唖然とした表情になる。 まあ、気づくのがさっきでも今でも状況は変わらねーか。 「お前なんて名だ?」 シャンクスが俺の名前を知らない。いや、それ以前に変だ。シャンクスは若すぎるし、第一見習いって何だ?シャンクスは赤髪海賊団の船長じゃないか!なのに見習………。 そのときルフィの中で個々のパーツが組み合わさっていった。すべてのパーツが揃ったとき、ルフィは現実を理解した。 ここはもしかして、過去………? いや、そんなはずはない。とルフィは思いっきり頬をつねってみる。 (ぎゃーー!痛い!!) ルフィは声にならない声で叫ぶ。涙目になりながら頬を押さえた。 夢じゃない!これは本当なんだ!ということは俺がまだ7歳の頃はもうすでにシャンクスは船長だったから、10年以上前ってことだよな。 「お前何やってるんだ?いきなり頬つねったりして」 シャンクスは百面相をしているルフィをいぶかしげに見る。 「それより名前は?」 (俺の名前はル……。) パクパクと口をあけるが、途中で声が出ない事に気づく。 そっかー。俺声出ないんだった。……まっ、いっか。何とかなるだろう。 ルフィは現実を把握すると、今目の前にいるシャンクスとの会話を楽しもうとした。 キョロキョロと辺りを見回すと、適当な長さの枝を見つけて拾ってくる。 「ん?何すんだ?」 シャンクスが不思議そうな顔でルフィのやる事を見ている。 ルフィはしゃがむと地面に字を書き始めた。 「なるほど、こりゃいいや」 そう言うとシャンクスは一緒にしゃがみこんだ。 「ルフィ。お前ルフィって言うのか」 ルフィはシャンクスに向けてにかっ、と笑う。一瞬、シャンクスが動きを止めたように見えたが、ルフィはそれを無視して質問を地面に書き始める。 「今幾つか?俺の年の事か?」 ルフィはその言葉に頷く。 「俺は今17だ。お前は?」 ―同じ―、と書く。 シャンクスが17歳ってことは、ええっーと、ちょうど20年前か。 「なあ、お前どこから来たんだ?」 ―風車村―。 「風車村?知らねーなー。大きい町なら知ってるんだけどよ。村かー」 シャンクスは頭を捻る。 「おーい、シャンクス!」 遠くの方からシャンクスを呼ぶ声がした。 「あの声はバギーだな」 シャンクスは面倒くさそうな顔をする。 「ここだ、ここ!バギー」 シャンクスは仕方なく返事をする。 「ここにいたのか。もっと早く返事しろよ」 バギーは悪態を付く。 「これでも早く返事をしたつもりだったんだが」 「まあ、いいや。ん?何だ、この坊主は?」 バギーがルフィをジロジロと見る。 「おい、やめろよ。こいつに悪いだろ」 シャンクスは自分がはじめにした事を棚に上げて言う。 そう言われてバギーはふん、とそっぽを向いた。 こいつどっかで見たことあると思ったらバギーだ。バラバラになる面白れーおっさんだ。 ルフィはポン、と手を叩く。 そういえばシャンクスと見習い同士って言ってたっけな。本当だったんだ。 「何だよ、俺様の顔に何かついてんのか?」 バギーはじろっと睨む。 (目と鼻と口) 口が空振りする。 「ああ?何だ?聞こえねーぞ」 「おい、やめろよ。こいつ口が利けないんだから」 シャンクスがルフィとバギーの間を阻む。 「何だ、喋れねーのか」 面白くなさそうにバギーは言う。 「バギー、用件を言えよ。そのために来たんだろ?」 早くしろ、とシャンクスの瞳が語る。 「けっ、言われなくても言うよ。お頭からの伝言だ。しばらくこの町に留まるから今の内に遊んでおけだとよ。ここを出発したらしばらくは町には戻らないそうだ」 「ということはもしかしてグランドラインに入るのか?」 「そうみたいだな。だから今の内に未練のないようにってか?はん、言ってくれるね。お頭も」 グランドラインに入るのが怖いのかバギーは表情を暗くする。 「そうか、とうとう入るのか」 シャンクスは楽しそうに言う。 「とくかく伝えたぞ。お前も未練が残らないようにそいつとでも遊んでやったらどうだ?」 バギーはにやっ、といやらしい笑い方をする。 「こいつはそんなんじゃねーよ。お前くだらないことを言ってないで向こうへ行けよ。もう用事はすんだんだろ?」 くいっ、と指で町の方向を指す。 「おおー、怖わ。じゃあ早々に退散するかな。じゃあな、シャンクスの子猫ちゃんよ」 けけっ、と笑う。 「とっとと向こうへ行け!」 「はいはい」 手をひらひらと振りながらバギーは町へ消えて行った。 シャンクスは罰が悪そうにルフィに言う。 「悪いな、あいつ本当はいい奴なんだけどよ。なんか最近苛立っててよ。あいつの言う事は気にすんな」 ルフィは首を縦に振った。 ルフィは今の会話の半分しか理解していなかったので、何を言われているのかわからなかった。シャンクスが謝っているので、多分自分に対して嫌味でも言われたのだろうと思ったが、どうでもいいやという気分になった。何せ会話にグランドラインが出てきたのだ。それだけでルフィの頭の中はいっぱいだった。 グランドライン…。俺が目指している場所。そこにシャンクス達が入る。一緒に行きたい気持ちはあるが、でもこれは過去だ。今じゃない。俺はまだ行けない。それに行くとしたらあいつらとだ。 ルフィはゾロ、サンジ、ナミ、チョッパーの顔を思い浮かべた。 そういやーあいつら今ごろ何してるんだろう?消えた俺を探しているだろうか? 「どうした?ルフィ。怒ってるか?」 シャンクスは心配そうにルフィを見つめてくる。 (違うよ、シャンクス) 「ん?」 ルフィは再び地面にしゃがみ、字を書く。 ―怒ってない。― 「そうか、それならいいんだ」 ほっ、とシャンクスはため息をつく。 「なあ、ルフィ。これから町へでないか?いや、変な意味で言ったわけじゃなくて。その……腹すかないか?俺奢ってやるよ」 シャンクスは少し照れながら言う。 奢ると言う言葉に反応してかルフィのお腹が鳴った。 (行く!!) 「そうか、よかった。じゃあ、気が変わらないうちに行こう」 シャンクスはルフィの言葉がわかったらしく、ルフィを町まで案内した。 町に着くまでの間、シャンクスは根気強くルフィと会話した。大雑把な話だとジェスチャーで大体はわかるが、細かい話だと一旦立ち止まっては地面に書いたり、シャンクスの手の上に字を書いたりした。嫌な顔せずに心よく会話をしてくれたことがルフィには嬉しかった。 やっぱりシャンクスはシャンクスだ。目の前にいるシャンクスも俺が知っているシャンクスも優しい。真剣な話は面倒くさがらずにいつも聞いてくれる。 ルフィは一瞬今のシャンクスが大人のシャンクスにダブって見えた。あごにひげが生えていて、つばのある麦わら帽子を被っているシャンクス。その顔がルフィを見る。 「どうした?ルフィ」 声までが大人のシャンクスの声に聞こえてくる。ルフィは抱きつきたい衝動に駆られたが、今一歩というところで思い留まった。自分を知っているシャンクスなら抱きついても笑って再会を喜んでくれるが目の前にいるシャンクスは自分を知らないシャンクスだ。大人のシャンクスとは違う。 「ルフィ?」 何でもないと、ルフィは首を振った。 「変な奴だなー。まっ、いいか。ほら、着いたぞ」 シャンクスは店の前で立ち止まる。外から見るとちょっとしなびた感じに見える。 ホントにうまいのか?ここ? とルフィは不安そうな顔をした。 「大丈夫だよ。ここは安くてうまいんだ。俺が保証するよ。お前も気にいると思うぜ」 シャンクスはルフィの心を見透かしたように言った。 さっ、入ろう。とルフィを促す。 店に入ると中は綺麗だった。結構繁盛しているらしく、テーブルが埋まっていた。 「あら、シャンクス。いらっしゃい。今日はどうしたの?」 ウエイトレスらしき女がシャンクスに声を掛ける。 「どうしたもねーよ。食事に来たんだ」 「そうね、ごめんなさい。あら、その人は?」 女はシャンクスの後ろにいたルフィを見つける。 「ああ、こいつは俺のダチだ。こいつに食事をご馳走しようかと思ってな」 「珍しい!あなたがご馳走するだなんて」 女はシャンクスとルフィを交互に見ると、シャンクスの耳に顔を近づけた。 「この子あなたの恋人?」 ぼそっ、と言う。 「なっ、ちげーよ。そんなんじゃねーよ」 「なーんだ。違うの。私てっきりそうじゃないかと思ったんだけどな。目が他の人を見る目と違うし。それに海って男しかいないでしょ?だから男に走りやすいって聞いたんだけど」 女は残念そうに言った。 「こいつはさっきそこではじめて会ったんだよ。ったくくだらねーこと言ってないで早く席へ案内しろ」 シャンクスは顔を赤らめならが女に言う。 「はいはい、ちょっと待っててね。今席を空けてくるから」 女は奥の方へ行く。どうらや片付けていないテーブルがあったみたいなのでそこを片付けるようだ。 「ったくどいつもこいつも……」 ちらっとシャンクスはルフィを見た。 見るとルフィはふてくされた顔をしていた。 今度こそ怒ったのか?という疑問がシャンクスの脳裏をよぎる。 「はい、お待ちどう様。奥の席空けたからそこに座って。今、お水持っていくから」 そう言うと女は厨房へ入っていった。 「だそうだ。行こう、ルフィ」 ルフィはこくん、と頷いて奥のテーブルに着いた。ここでしばらく沈黙が入る。 あの女とシャンクス、仲がよかった。もしかして今のシャンクスと恋人同士なのかな? ルフィはどうしようもない不安が心の中で交差する。シャンクスの過去は過去としてルフィが口出しするわけにはいかないが、何故かルフィにとって面白くなかった。 「はい、どうぞ」 顔を膨らませているルフィにシャンクスが話し掛けようとしたとき料理が差し出された。 「えっ?まだ頼んじゃねーぜ」 シャンクスは出された料理を見る。 「今日は私のご馳走よ。だってシャンクスが同年代の子を店に連れてくるんですもの。連れてきてもあなたはいつも海賊の人だけ。どうみてもこの子は一般の子だわ。それに可愛い顔してるし、私の好みね」 そういうと女はルフィに向かってウインクをする。 「だってしょうがないだろう。俺は海賊なんだから。それに何だよ、ルフィが好みって」 「あら、この子ルフィって言うの。顔と一緒で可愛い名前だこと」 女は微笑む。 何だ?この会話は?それにさっきからこの女と話してるときのシャンクスって慌てている。何か弱みでも握られてるのかな? ルフィは微笑まれたので一応微笑み返す。 「ああーん、可愛い!!何て可愛いのかしら。やっぱりあんたは私の息子ね。好みのタイプが一緒だわ」 女は御凡を抱えルフィの隣に座る。 息子……?ってことはシャンクスの母親? 「この子のことはよろしくね。こいついつも海賊の人しか付き合わないからたまにはあなたみたいな子と遊ばなきゃ」 ふと、母親の瞳になる。子を心配する親の目だ。 ルフィは声が出ないので首を縦に思いっきり振る。 「お袋!こいつ口が利けないからそこで勘弁してやってよ」 「えっ?そうだったの、ごめんなさいね」 本当に申し訳なさそうに謝る。 「シャンクス、ルフィを連れてまわっていいの?口が利けない子ならルフィに誰か保護者がついているでしょ?」 「ああ、そうか!」 「そうか、ってバカかい?!それぐらい気づきなさいよ」 「ルフィ、あなたどこから来たの?保護者の方は?」 シャンクスの母親は笑顔で聞いてくる。 (いない……。) と言うが声が出ないのでジェスチャーで紙と書くものを持ってきてもらう。 「紙とペンね。ちょっと待っててね」 シャンクスの母親は席を一旦立ち厨房へ行くとすぐに紙とペンを持って戻ってきた。それをルフィに渡す。 ―保護者はいない。俺は風車村から来た― 「そう。じゃあ一人で来たの?でも風車村って聞いたことがないわね。でも一人で来れるぐらいだからそんなに遠くはないわね」 ―俺は村へは帰れない― ルフィはそう付け足した。今ここで帰れと言われても帰れないからだ。帰ったところで自分の居場所はどこにもない。まだ生まれてもいないのだから。 「まあ、何かあったの?」 心配そうにシャンクスの母親は言う。 ルフィは何て言ったらいいのかわからなくて、シャンクスを横目で見た。 「おい、そんなに聞くなよ。誰にでも喋りたくないことだってあるだろうが」 シャンクスはルフィの視線の意味に気づき助け船を出す。 「そうね。悪かったわ。ルフィ、よかったら家に泊まっていかない?何か予定があればいいけど」 ルフィはその誘いに一目散に乗った。何せお金を持っていないので食事に行く事も出来ないし、宿屋に泊まる事も出来ない。ルフィにとってもってこいの誘いだった。 「よかったわ。後でシャンクスに部屋を案内させるわ。さっ、料理が冷めてしまったかもしれないけど食べて頂戴い。ドンドン持ってくるから」 シャンクスの母親はルフィの頬に軽くキスをした。 「お袋!」 シャンクスが叫ぶ。 ルフィはきょとんとした顔つきでシャンクスの母親を見る。 「そんな邪険な顔しないの、シャンクス。これはただの挨拶よ、挨拶」 そう言うとシャンクスの母親はその場から立ち去っていった。 「ちっくしょう…。俺だってまだやってないのに」 ぼそっとシャンクスは呟く。 ルフィは悔しそうな顔をするシャンクスを見て急に笑いがこみ上げてきた。声が出ないので思いっきり笑えないのが残念だ。 子供の時に見てきたシャンクスはこんな顔をしなかった。7歳の子供から見て子供っぽいなと思ったことはあったけど、今見るとさらに拍車がかかって子供っぽいなと思った。 「なんだよ、何がそんなにおかしいんだよ」 シャンクスは真っ赤になりながらルフィを軽く睨む。 ―いや、シャンクスらしいなーと思って― 「何だよ、俺らしいって」 シャンクスは面白くなさそうに言うと、出された料理に手をつける。 「そんなに笑うならこの料理全部食っちゃる!!」 (それはずいぞ!!シャンクス!) 「何言っても無駄だもんね」 会話の流れからかルフィの言葉がわかる。 ルフィも負け時と料理に手をつけた。 次々と運ばれてくる料理をぺろっと平らげた。二人は店の料理、すべてのメニューを食べ尽くすと「ごっそうさん」と言い店を後にした。周りのお客は二人の食べっぷりに見とれていてその間は誰もが無言だった。 「ちょっと狭いがここで勘弁してくれ」 シャンクスはそう言うとベットの脇にある椅子に腰掛けた。 ―ちっとも狭くなんかないぞ― 書いた紙をシャンクスの目の前に差し出す。 案内された部屋を見てみるベットが置いてあり、その隣リに小さいながらもテーブルと椅子が置いてあった。それでもまだベットがもう一つ、いや二つぐらいは置けるスペースがある。これで狭いというならゴーイングメリー号の部屋はどうなるんだろう、とルフィは思った。 「ちなみに俺の部屋は隣だ。まあ、後少ししたら又航海に出ちまうけどよ」 シャンクスは天井を仰ぐ。 ―グランドラインに行くんだろう?― 「おう!夢がかなうときが来たんだ。これが行かずにいられるかよ」 ―そうか、頑張れよ― そう応援の言葉を書く。本当はシャンクスと一緒にグランドラインを入りたかったけど、シャンクスは仲間ではない。それにこれは過去だから自分がグランドラインに入る事は許されない。 「なあ、ルフィ。お前一緒に…」 シャンクスとルフィの瞳がぶつかる。少しの間見つめあっていたがシャンクスから目をそらした。 「いや、何でもない。忘れてくれ」 シャンクス…。今俺をグランドラインへ誘おうとしてくれたのか? ルフィは複雑な気持ちでシャンクスを見る。 「俺が航海するまでここに泊まっていかないか?」 ―いいのか?― 「もちろんさ。いくらでも泊まってくれ。何なら俺が航海へ行った後も泊まっていてくれてもいいぞ。お袋はお前の事気に入ったみたいだしな」 しししっ、とルフィは笑う。 シャンクスもつられて笑う。 この時がずっと続けば…。 そうシャンクスは思った。始めて心から欲しいと思った相手。一目惚れから始まったが、これが恋だという自覚はすでに自分の中では理解できている。運命的出会いと言っても過言はないだろう。こんなにも短時間で人を好きになった経験はないので、シャンクスは少し戸惑いながらも自分の気持ちを理解していった。 航海をしていたおかげで男だからとか女だからとかという関係はどうでも良くなった。気に入ったものは手に入れる。それが男でも同じことだ。 しかし、何故かルフィには無理意地できない。自分の物にしたい気持ちは山ほどあるが、きっとそれをしたらこの笑顔はなくなってしまうだろう。この笑顔を見られないのなら手に入れたいだなんておもうまい。それほどこの笑顔に惚れてしまったのだから。 だからずっとこのままで……。 そうシャンクスは思った。 これ以上この部屋に二人っきりでいると気がどうにかしそうなのでシャンクスは、「一旦船に戻る」と言って部屋を後にした。 ルフィがここに来てから丸4日経とうとしていた。今日はシャンクスが海賊団の会合に行っているので、ルフィは一人で夕飯をシャンクスの母親のレストランで食べた。その後、自分の部屋に戻ろうとしたときに声を掛けられた。 「よう、シャンクスの子猫ちゃん」 (バギー。) ルフィは警戒することもなくバギーに近づく。 ここにバギーがいるということは会合は終わっているはず。 ―何の用だ?シャンクスは?― 書いた紙をバギーに見せる。 「はんっ、あいつのことなんか知らないねー。あんな腑抜けになっちまった奴」 ルフィは腑抜けという言葉にかちんっ、と頭にきた。 シャンクスは腑抜けなんかじゃない!! ルフィは心の中で叫ぶ。 ルフィの怒った表情にバギーは面白そうに笑う。 「だってそうだろうが。いつもいつもお前のことばかりで嫌になっちまうぜ!」 バギーは唾を吐き捨てる。 「まあ、お前が腑抜けだからシャンクスも腑抜けになっちまったのかねー」 両手を曲げてお手上げのポーズをする。 ルフィは瞬時にバギーの襟を掴み持ち上げる。 (今、おめーシャンクスの悪口言っただろ?!謝れ!俺のことはいいけどシャンクスのことを悪くいうな!!) ルフィはそう怒鳴った。声が出ないのが悔しい。 バギーは何を言っているのかはわからないが、ルフィの迫力だけは伝わってきた。 「な、なっんだよ・・・。そんなに凄みいれても俺は怖くなんかねーぞ」 そう言いながらもバギーは震えていた。バギーは無意識にルフィを上と判断してしまった。 伊達にルフィも海賊団の船長をやっているわけではない。色々な強豪達を倒してきたのだ。ルフィの凄みには年季が入っていた。 「腑抜けと言われるのが嫌なら腑抜けじゃないって証明してみせろよ」 バギーはルフィを睨むながらも額には冷や汗をかいていた。 (何だよ?証明って?) 「そ、そうだなー。あの森の中に虎がいるらしいんだけどよ、その虎の牙をもってこいよ。それを持ってきたら腑抜けじゃないって思ってやるよ」 それぐらい出来るだろ?とバギーはにやけながら言った。 (わかった。虎の牙だな) バギーはルフィの口の動きから会話を続けた。 そういうとルフィはバギーを放り投げた。 「いでっ!!もうちょっと優しく降ろせ!!」 バギーは身体を壁に打ちつけた。 (うるさい!) そうルフィは睨みつけながら一言呟いた。声は聞こえないものの威圧感がバギーを襲った。 黙るのを確認してからルフィは山の中へ向かった。 ルフィの姿が見えなくなるとバギーは悪態をつき始めた。 「なっ、なんでー!あいつ。いっちょ前に睨みやがって……。そんでこの俺様がびびるわけねーだろうが!!!はっはっはっはっ!それにまんまと騙されやがって!!バカが!人間が虎に勝てるわけねーだろう!!その前に虎なんていねーよ。昔ならいたときいたがな!あのルフィって小僧、ホントバカだな!!」 ぎゃーはっはっはっはっ!とバギーは高笑いをした。 「ほう……、ルフィがバカねー」 バギーの背後から聞きなれた声がした。恐る恐る後ろを振り返って見るとそこのはシャンクスがいた。 ひょえ〜〜〜!何でシャンクスがここにいるんだよ。確かお頭と話し合ってたんじゃねーのかー?!このまんまじゃまずい!!何とかしてごまかさなければ!! 「シャンクス、おめーどうしたんだ?こんな時間に」 バギーは青ざめながらもシャンクスと向き合う。 「いや、ちょっと。お前に伝言があってな」 「伝言?何だ?」 「明後日、グランドラインに立つそうだ。それまでに準備をしておけだそうだ」 「そ、そっか。そりゃわざわざありがとよ。用はそんだけだろ?じゃあ、俺は退散するよ」 そう言ってバギーはその場から立ち去ろうとしたが、シャンクスの跳び蹴りにあい、地面と熱烈のキスをする。 「ぎゃ!!何すんだよ!シャンクス!鼻がつぶれちまうじゃねーか!!」 バギーは鼻を摩りながらシャンクスに抗議をする。 「悪かったな」 シャンクスは悪びれた様子もなく謝る。 「お前全然悪いって顔してねーぞ!!」 おー痛てっ、とバギーは言う。 「お前さっきルフィがどうのこうの言ってなかったか?」 シャンクスはバギーを見下す。 「いや、俺はルフィとかなんて一言も言ってないぜ」 「ふ〜ん、じゃあさっきのは俺の聞き違いだったのか?」 「そうだよ、きっとそうだ。いやだなー。じゃあ俺は帰る……ぐぇぇ!」 またしてもシャンクスの跳び蹴りが炸裂する。 「で?本当のところは?」 シャンクスはバギーの襟首を掴み問い詰める。シャンクスの顔が怖い。 喋らなかったら殺られる!! バギーはそう思いシャンクスにすべて白状した。 ええーと、虎、虎っと。 ルフィは山の中へ登ったのはいいが虎の姿は全然見つからない。虎が通った後すらない。もし本当に虎がここにいるならば引っかき傷や糞があるはずだ。 ここにはいないのかな? 早く見つけて腑抜けじゃないことを証明したいのに! 焦りがルフィを急がせる。 あの野郎、嘘つきやがったのか〜?! ルフィは又怒りの感情が湧き上がってきた。怒りのため歩き方が激しくなる。思いっきり足を踏み出しているので土に足跡がはっきりとついていた。 しばらく登ると崖が見えてきた。 行き止まりか……。やっぱりあいつ嘘ついてたんだなー!!帰ったら吹っ飛ばしてやる!! そうルフィは思い踵を返すと小さい光が2つ浮いていた。 (なんだ〜?) その光はどんどん近づいてきて姿を見せ始める。黄色い物体がルフィの近くに来る。それは鼻息が荒く、よだれをくちから垂らしていた。 (出たなー、虎!) そう。それはまさしく虎だった。しかも巨大な虎。月の光がルフィと虎を照らし出す。 虎は牙を剥き出しにし、ルフィの目の前を行ったり来たりする。しかしルフィから目をそらさない。その目はいかにもルフィを獲物として狙っている目だ。 ルフィとてそれは同じだ。この虎の牙を持って帰らなければならないので、ルフィも虎を睨みつける。 (悪りーけどお前の牙1本頂いていくぜ!) ルフィがそう叫ぶと、虎は咆哮する。まるでルフィの呼びかけに答えるかのように。やれるもんならやってみろと。 「ルフィ!!どこだ!ルフィ!」 その時下の方からシャンクスの声がした。 (シャンクス?!駄目だ!来ちゃいけない!!) 「ルフィ!大丈夫か?!」 シャンクスはルフィと虎を目の当たりにした。 虎はシャンクスを見る。 「ちっ、本当に虎なんていやがったのか!」 シャンクスは護身用のナイフを腰から取り出す。 「おい、ルフィ。そこにじっとしていろよ。動くんじゃねーぞ」 シャンクスは鞘からナイフを抜き取り構える。 (駄目だ!シャンクス!それは俺がやる!) ルフィは今のシャンクスがこの虎に勝てるかどうか不安だった。大人のシャンクスは睨むだけで追い払ってしまう程の実力をもっている。しかし20年前のシャンクスにはそれほどの力はないことはルフィにはすぐにとって感じられた。 虎はシャンクスのことを弱いと踏んだのかすぐに飛び掛ろうとした。 ルフィは血が滾る思いで叫んだ。 「シャーーーーーンクス!!ゴムゴムのーバズーカーーーっ!!!!!」 ルフィは思いっきり拳を虎にぶつける。虎はルフィの拳に軽々と吹き飛ばされ空を舞う。 シャンクスは吹き飛ばされた虎を見上げる。数秒後、虎は二人の数メートル後ろに落ちて行った。 ズドンッ!と激しい音を立てて地面に叩きつけられる。虎を吹き飛ばしたおかげで木の枝がドサッ!ドサッ!と落ちてくる。 「よし、上出来!」 ルフィは腰に手を当てて鼻から息を吐いた。 「ル、ルフィ……。お前、一体…」 シャンクスがあっけに取られたのか口をあんぐりとあけてルフィを見る。 「ん?どうしたんだ?シャンクス、そんなに口をあけて」 不思議そうにルフィはシャンクスを見る。 「どうしたもねーよ!お前今の技は……」 「ああ、これか?」 ルフィは手を引っ張ってビョイ〜ンと伸ばす。 「そう!それだ!!」 「俺小さいときにゴムゴムの実を食っちまってよ。それからはゴム人間だ!」 手を離すとそれは元通りになった。 「ゴム人間。ということはお前悪魔の実を食ったのか?」 「ああ、食った。でもかなづちにはなったけどこの能力のおかげで今まで助かってきたんだ」 「今まで……?」 「おう。俺、シャンクスに言わなかったけど海賊やってるんだ。しかも船長だぜ!」 すごいだろう、と自慢する。これが大人のシャンクスだったらとルフィは思う。そうすれば追いかけてきたんだ、と堂々と言える。それが言えないのがちょっと寂しい。 「嘘だろ?ルフィ・・・。お前が海賊だなんて」 シャンクスは海賊という言葉に驚愕した。もしかするとどこかの海賊のスパイか?という考えが浮かんだ。しかしルフィがその気持ちを打ち消した。 「嘘じゃない。でもこれだけは勘違いしないでくれ!俺はシャンクスを騙してなんかはいないからな!俺はただシャンクスに会いたかったから、ただそれだけで…」 ルフィの口調が掠れる。 「俺に会いたくて?」 シャンクスは何を言っているんだ?という顔つきになる。 「うん。シャンクスは信じないかもしれないけど、俺20年後のルフィなんだ。まあ、20年後といってもまだシャンクスは俺と会っていないからわからねーと思うけどさ」 瞳に涙を為ながらルフィは言う。 しかしその瞳は真剣だ。その前にルフィは嘘をつかないことを知っていた。いや、つかないんじゃなく嘘をつけないことを。ルフィはすべて顔にでてしまう。それはシャンクスにもわかっていた。 「ル……」 「シャンクス、黙って聞いてくれ!俺すっごいシャンクスに会いたかったんだ。忘れた事なんて1度もなかったよ。毎日、毎日シャンクスのこと思ってた。だから俺、疑問だったんだ。大人のシャンクスはすごく強い。俺なんか足元にも及ばないぐらいに……。17歳のシャンクスってどのくらいの強さだったんだろうって。17歳のシャンクスはどんな人生を送っていたんだろうって。俺すごくそれが気になった。なぜ俺がこの時代に来たのかわかった気がする。シャンクス、俺10年、……10年間シャンクスを追いかけたんだよ。未だにまだ追いかけてるけどね。でもいつか俺、シャンクスを追い越すよ!そして海賊王になってやる!」 ルフィはシャンクスの瞳を真っ直ぐに見つめる。 シャンクスはふっ、と目を細めた。 「ルフィ…。きっとお前は20年後の俺に言っているんだろうな。今の俺でなく。その返事は20年後に出そう!俺も海賊王を狙うつもりはないが、ワンピースは渡さない!俺もいつか1人前になって海賊団の船長になってやる。そして……」 シャンクスは一息置いて言う。 「そしてお前を迎えに行く!俺はお前に惚れた!絶対迎えに行く。これから先何年、何十年かかろうとも。俺が心底惚れたんだ!絶対に離しはしない!いいか?ルフィ」 「うん、……うん!勿論!!」 ルフィは感激のあまり涙が溢れてきた。 「泣くなよ……。相変わらず泣き虫だな。あっ、そういやーお前声でるじゃねーか」 「ホントだ。どうして急に…」 今頃気づいたのかルフィは声をあー、あーと出す。 「まあ、いいや。お前のその可愛い声聞けたし…」 その言葉は虎の咆哮によって阻まれた。 「シャンクス、危ない!後ろ!!」 ルフィが叫ぶ。 「えっ?」 振り返ったときには遅かった。意識を取り戻した虎がシャンクスめがけて攻撃をしていたのだ。 シャンクスは反射的に後ろに飛んだが間に合わず、虎の爪がシャンクスの顔を傷つける。左の顔が血まみれになった。 「この野郎!!」 シャンクスは痛みをこらえて虎に襲いかかる。虎はシャンクスを迎え撃とうとして、虎もまた襲い掛かった。シャンクスは虎が襲いかかるときを狙って虎の懐に飛び込んだ。 ナイフ虎の心臓部分に深く突き刺す。そのナイフをぐっ、思いっきり回す。傷口を広げ出血を激しくさせた。 虎は暴れたがしばらくすると地に横たわった。地に伏した後も痙攣をしていたがしばらくすると動かなくなった。 「シャンクス!!大丈夫か?!」 ルフィはシャンクスの元へ駆け寄ろうとしたときに世界がぐらっと揺れた。手を見てみると透けており、見えるはずがない地面が見えた。 「ルフィ?!ルフィ!!」 シャンクスは消えかかるルフィを抱きかかえるように手を後ろに回す。だがそれもむなしく手は空を切った。 「ルフィーーーーーーー!!!!」 あまりの突然の別れにシャンクスは雄叫びを上げた。 「ルフィ…。何だよ。…いきなり現れていきなり消えるのかよ……。そんなのありか?」 シャンクスの頬に涙が伝わった。涙が左目に染みる。しかしそんな痛みはどうでもよかった。この胸の痛みに比べれば……。 「くっっ、ルフィ……」 シャンクスはしばらくその場から動けなかった。 「シャンクス?!」 ルフィはがばっ、と毛布を剥ぎ取った。 「えっ?ここは俺の部屋……」 見ると自分の部屋に戻っていた。 確か……、ここで眠くなって寝ちゃったら20年前にいたんだよな。でも今は戻ってきてる。それよりシャンクス!シャンクスはどうしたんだろう?! ルフィはベットから飛び起きる。 「あっ、でも今は20年後か…。俺がシャンクスに会っているってことはきっと大丈夫だったんだろうな」 冷静になってルフィは考えた。 「そっか、俺戻ってきたんだ」 ルフィはため息をつくと、麦わら帽子が目についた。 「・・・・・」 いつか迎えに来てくれると言ったシャンクス。でも10年前は連れて行ってくれなかった。もしかしてこのことを覚えていてくれたから?だから連れて行ってくれなかった。だとしたらわかる。でもいつか迎えに来てくれると言ったからには、きっと迎えに来てくれる。やると言ったからにはシャンクスはやる男だ。 ルフィは顔がにやけるのがわかった。 まるでプロポーズとも言える台詞。それをルフィは思い出したのだ。 にやけ顔がおさまらない。 「しししっ」 「なーに一人でにやけた顔してんだ。気持ち悪い」 部屋の扉のところにサンジが立っていた。 「なっ、ノックぐらいしろよ」 「こりゃ珍しい。お前がノックとはな。でも一応したぜ、ノック」 サンジは扉を叩く。 「へ?そうなのか?」 「ったりめーだ。俺がそんな無礼な真似するかよ。それより早くこいよ。朝飯だ」 サンジはタバコを吹かす。 「飯〜!!」 そういうとルフィはサンジの横を通り抜けていった。 「ゲンキンな奴」 サンジはくすっと笑う。 「おい、サンジ。早くこいよ。お前が来ないと飯食えねーよ」 「わーったよ。今すぐ行くよ」 そう返事するとドアをしめた。閉めるとき麦わら帽子が見えた。かすかに揺らいだように見えたがサンジは気のせいだと思いドアを閉めた。 部屋に残った麦わら帽子は風もないのにベットから落ちた。 そう聞こえたような気がした。 |
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