麦藁海賊団のコックであるサンジは、キッチンで夕食の準備をしていた。

 いつもとかわらないことなのに、今日は緊張して作っている。

(心臓の鼓動がおさまらねー。)

 先ほどからずっとドキドキと高鳴っている。

 サンジはそんなことを気付かれまいと、何気なく準備していた。

 こんなにサンジを緊張させている人物はテーブルで酒を飲んでいるゾロが原因だった。

 珍しく甲板で飲まないで、ここで飲んでいるのだ。

 サンジは思わぬゾロの気まぐれに感謝しつつも、緊張していた。

 つい先日、思わぬ事態からゾロに告白してしまった。(『キスしたい』を参照)

 勢いとはいえ、なんというムードのなさ。

 サンジは少し落ち込みつつも、気を取り直し、普段の生活を過ごしていた。

 ゾロはサンジの告白が冗談だったと思っているらしくて、あれから何の返事を貰ってはいない。

 サンジもあんな勢い任せの告白よりも、ちゃんとしたムードのある雰囲気に持っていき告白したくて、あのことは自分の中でもなかったことにしようと考えていたのだ。

 しかし一度ゾロに『好きだ』と言ってしまったことで、自分の中で好きだという想いが更に強まってしまい、ゾロが側にいるだけで緊張してしまうのだ。

 しかも今は部屋に二人っきり。

 これで緊張しないはずはない。

 ゾロはそんなサンジに気付かなく、平然と酒を飲んでいる。

 料理の邪魔をしてはいけないと思っているのだろう。話し掛けもせずに、じーっとサンジの手並みを見ているのだ。

 それだから余計に緊張する。

(どうせなら話し掛けてくれたほうがまだマシだ・・・。)

 そう思うとトホホ、とため息をついた。

 サンジはそう思うと、棚から袋を出してその中身を小皿に乗せた。

 それをゾロの目の前に置く。

「・・・食っていいのか?」

 ゾロは出されたものとサンジを交互に見つめた。

「ああ、構わんよ。その為に出したんだから」

「ありがてぇ。じゃあ、遠慮なく頂くよ。酒のつまみに何か欲しかったところだったんだ」

 そう言うと小皿に載ってあるナッツに手を伸ばすと口の中に放り投げる。

 ぽりっ、とナッツが砕かれる音がした。

「うめ〜」

 自然な笑みが浮かぶ。

 どきっ。

 真正面で、ゾロの笑顔を見たのは初めてだったかもしれない。

 自分に向けられているわけではないが、二人っきりの空間で、目の前で笑ってくれていることがこんなにも嬉しいことだったなんて知らなかった。

(嬉しいし、緊張するし、もう心臓の音がさっきから耳に届きまくりだ。このままいけば心臓の過労で倒れるかも。)

 バクバクと一向に鳴り止まない心臓にサンジは不安を覚える。

「でも珍しいな。お前が俺につまみをだすなんてさ」

 笑顔のままゾロはサンジに話し掛けた。

(ゾ、ゾロが俺に笑顔を向けてる!)

 もう、このまま死んでもいいと、サンジは表向き無表情だが内心では極楽浄土へ片足を突っ込んでおり、幸せそうな表情をしていた。

「たまにはな」

「ふ〜ん・・・。まあ、俺としては得したからいいか」

 そう言うと何粒かナッツを口の中に放り込んだ。

(俺、幸せかも・・・。この空間がずっと続けばいいのによ〜。)

 何とか心を落ち着かせようとタバコを吸った。―――が、緊張して手が震えていることが判り、逆に恥ずかしくなってしまって余計に緊張してしまった。

 するとバンッ!と行き成りキッチンのドアが開いた。

 サンジとゾロはそのドアに視線を向ける。

 入ってきた人物の姿を一瞬確認したと思ったら、その人物はゾロに抱きついた。

「ゾ〜ロ〜!」

「ルフィ!」

 突然抱きついてきたルフィに訝しげな瞳を向けながらも、大人しくゾロは抱きつかれている。

(このクソゴム野郎!俺のゾロに何抱きついてやがる!)

 それを見てサンジのこめかみには怒りマークが何個も浮かんでいた。

 ピクピクと痙攣もしている。

「おっ、食いモンか?ゾロ、俺もこれ食いたい」

 目を爛々と輝かせて、ルフィは言った。

「ああ、いい―――」

「駄目だ」

 サンジがゾロの代わりに答えた。

 ゾロは言葉を取られて、ぽか〜んとしている。

「何でだよ〜」

 ルフィはそんなサンジに唇を尖がらせながら言う。

「それはゾロにやったんだ。だから駄目」

「じゃあ、俺にもこれくれ」

「嫌だ」

 きっぱりと言い放つ。

 ルフィはムッ、とすると、

「食いたい!」

「駄目だ!」

「食いたいっ!」

「だから駄目だっつってんだろうが!」

 ギンッ!と二人はにらみ合う。

「じゃあ、どうしたらくれんだよ」

「・・・そうだな、手始めにゾロから離れてもらおうか。ゾロに触れている手を退けやがれ!」

 指でルフィの腕を指す。

 ルフィは余計にムッとした顔をし、ゾロは「はぁ?」というぽかんとした表情をした。

「それは嫌だ!」

 さっきよりもぎゅっ、と強く抱きしめる。

「っ!・・・おい、ルフィ。少しは加減しやがれ!」

 強く抱きしめられ、ゾロは顔を顰めた。

「そうだ!ゾロから離れやがれ!」

 サンジはゾロからルフィを強制撤去し始めた。

 無理やりルフィの腕を取り、ゾロから離す。

「何すんだよ、サンジ!」

 離されて、ルフィはサンジを睨む。

「何すんだじゃねーだろ。俺様のゾロに勝手に抱きつきやがって」

「いつゾロがサンジのモノになったんだよ!ゾロは俺のモノだ!だから俺はいつでもゾロに触ってもいいんだ!」

 睨み合いながら二人は言い合う。

「おいおい・・・。何人を勝手にモノにすんなよ」

 ゾロは呆れた顔をしながら二人に突っ込んだ。

 しかしその呟きは二人に聞こえてはいないらしく、言い合いは止まらなかった。

「・・・勝手にやってろ」

 付き合ってられん、と呟くとゾロはそっとキッチンを出て行った。

 二人はそれに気付かず、目の前の敵を倒そうとしている。

「ああぁ?冗談ぶっこいてんじゃねーぞ!クソゴム!一体いつゾロがオメーのモンになったんだよ?!」

「そんなの決まってるだろ!最初からだ、最初っから!ゾロは俺が惚れて仲間に引き込んだんだ。ゾロもそれをわかって仲間になったんだ!だからゾロは俺のモンなんだよ!」

「そんな事聞いたことねーぞ?!おめーが勝手に思っているだけなんじゃねーか?!」

「なんだとぉ?そんなことねーぞ!なあ、ゾロ?」

 ルフィは先ほどまでゾロが座っていたところに振り返った。

 サンジも同時に振り向く。

「あ、あれ?ゾロがいない・・・」

「消えちまった」

 ぽか〜ん、と二人は間抜けな顔をする。

 しかしそんな顔をしたのもつかの間。

 二人は表情を変えて、不機嫌になった。

「あの野郎、逃げやがったな!おい、ルフィ!ゾロを捕まえに行くぞ!」

「おう!捕まえて俺たちの関係はっきりさせてやる!」

 ぎゅっ、と握り拳を作ってルフィは意気込む。

「まあ、はっきりするのは俺たちのラブラブ関係だけどな」

 ふっ、とサンジは微笑する。

「ふん、そんな事を言っていられるのも今のうちだ。ラブラブなのは俺たちのほうだ」

 二人は顔をくっつき合わせ、睨み合い、火花を散らせた。

「「どっちがラブラブか勝負だ!」」

 同時にいうと、二人はキッチンから飛び出した。

 その頃のゾロは、

「クションッ!―――ああ〜、風邪引いたかな?」

 まだ数秒後、ここが愛の嵐になるとは露知らず、ゾロは昼寝をしようと横になっていた。

 

 

 

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