青い空。

 青い海。

 心地よい風が吹き、とても清々しい天気だ。

 なのに俺の心はそんな天気とは対称的な気分だ。

 心の中がもやもやして、とてもじゃないが清々しいとは言えない。

 その原因はなんだかわかっているんだが。

 ちらっ、とサンジはゾロを見た。

 ゾロはルフィとウソップとの漫才コンビにつき合わされている。

 初めは面倒臭そうな顔をしていたのに、次第に笑顔に変わる。

 ・・・俺にはあんな笑顔見せたことない。

 いつもぶすっ、と不機嫌な表情か無表情ぐらいしか俺には向けない。

 ・・・なんかムカツクぜ。

 ぼ〜っとタバコを吹かしながら、サンジはゾロを見ていた。

 その視線に気がついたのか、ゾロはサンジを見た。

「何だ?何か用か?」

 さっきまでルフィ達に向けていた笑顔はそこにはなく、普通の無表情に戻っていた。

「・・・別に」

 サンジはそう言うと、まだ半分も吸っていないタバコを踏み潰した。

 ・・・胸くそ悪いぜ。

 自分に向けられないあの笑顔をどうしても自分の方に向けたい。

 そんな気持ちがサンジの心の中で、次第に強くなっていた。

「あっ、そ」

 ゾロはそう言うと又、ルフィ達の会話に入っていった。

 ・・・バカらしい。

 そう思うとサンジは厨房の中に入っていった。


 サンジは夕飯の片付けが終わると、自分にご褒美にとワインを取り出してグラスに注いだ。

 香りや色を楽しむと、サンジは一口飲む。

 どうもしっくりこねーな・・・。

 二口目を飲み、ため息をつく。

 なんで俺はアイツの笑顔にこんなに拘るんだろうか。別にアイツなんてどうでもいいのに。

 理解できない感情にサンジは苛ついていた。

 アイツはただの筋肉バカで、単細胞で剣の事にしか頭にないバカ。

女性の気持ちなんてちっとも理解できなくて、いつもナミさんに起こられてる。

 何かあるといつも俺たちは喧嘩して、殴り合っている。

 だから俺はゾロの怒った顔しか向けられていない。

 俺以外の奴等には笑顔見せるくせに・・・。

 胸がムカムカしてきて、一気に注がれていたワインを飲み干した。

 グラスをどん、と置きまたしてもため息を吐く。

 いつからだっただろう。アイツの笑顔を俺に向けさせたいと思ったのは・・・。

 椅子の背に寄りかかり、天井を見上げた。

 俺には向けない笑顔を他の奴等に向けさせることがむかついて。

 俺以外の奴等に笑いかけることが許せなくて。

 あの笑顔を俺の為だけに向けさせたいと思うようになって・・・、って・・・。

「なにっ?!」

 サンジは急に飛び起きると、椅子を倒した。

 い、今俺なんて思った?

 口を手で塞ぐ。

 それって、それって思いっきり恋愛感情じゃねーか!

 顔を真っ赤にして、自分の気持ちに気づく。

 俺もしかして、ゾロの事愛しちゃってるわけ・・・?

 自問自答する。

 今までの感情や思考を考えれば、その答えはYESという返事が返ってくる。

「うそ〜・・・」

 思いも寄らなかった気持ちにサンジは気を失いそうになった。

 冗談だろ?俺が、ゾロを?

 嘘だと思いたいが、まぎれもない事実。

 ・・・冗談キツイぜ。

 両手をテーブルについて、うなだれる。

 俺ってかなりヤバイ奴・・・?まさか男に惚れるとは。

 とほほほっ、とサンジは肩を落とす。

「・・・お前何やってるんだ?」

 その時今一番聞きたくもない声が、サンジの耳に届いた。

 見ると呆れ顔のゾロがドアの所に立っていた。

 ・・・相変わらず不機嫌そうな顔。

 サンジはくしゃ、と髪をかきあげると、

「お前こそどうしたんだよ?酒でも飲みにきたのか」

 倒れている椅子を直しながら言う。

「ああ、眠れないから酒でも飲もうかと思ってよ」

 そう言いながらゾロは中に入ってくる。

「何だ、お前も飲んでたのか」

 ゾロはテーブルにあるワインのボトルを見て言った。

「たまにはな」

 ・・・う〜ん、どうしよう。気持ちを自覚したら、なんか二人っきりになるのが恥ずかしくなってきたぞ。

 サンジはなるべく目を合わせないようにする。

「お前、これ全部飲むのか?」

「いや、全部は飲めないさ。明日も朝早いし。1、2杯程度のつもりだが」

「そうか。なら、一緒に飲もうぜ。俺も1、2杯でいいんだ」

 そう言うとゾロは少し口の端を持ち上げてニッ、と笑った。

 サンジはそのゾロのお誘いに、胸が高鳴る。

 ドキドキドキドキ。

 今にも心臓が破裂しそうな勢いだ。

 ・・・やべぇ〜、なんかすっげーコイツ可愛い!!

 可愛く見えるゾロにサンジは緊張をしていた。

「いいぜ、じゃあ座って待ってろよ。今グラス取ってくる」

 なるべく冷静にサンジは言った。

「いいよ、自分でグラスぐらい取れるさ」

 ゾロは棚の所まで行くと、サンジの隣に並んだ。

 その時、軽く手が触れ合う。

 っ!!!!!!!!

 心の中では声にならない声で絶叫していた。

 しかし顔はいつも通りの涼しい表情をしながら。

 手が、手が触れた!!

 サンジは抱きつきたい念に捕らわれるが、そこは我慢をしグラスを取った。

「ほら」

 ゾロの手にグラスを渡す。

「おっ、わりーな」

 そう言うとゾロは椅子に座り、ボトルを取った。

 サンジはそのボトルを奪うと、

「おい、何する―――」

「俺が注いでやるよ」

 静かにワインを注いだ。

 綺麗な赤い液体がグラスの中で踊る。

「じゃあ、俺も注いでやるよ」

 ゾロはサンジの手からボトルを取ると、テーブルの上においてあるグラスに注いだ。

「ほら」

「?・・・なんだ?」

 サンジはゾロの言葉の意味が良くわからずに、首をかしげた。

 というか緊張しすぎて、何を言っているのはほとんど理解できていない。

 とりあえず、冷静になることに努めた。

「一応、乾杯」

「・・・何に」

「そうだな。・・・とりあえず今日は何事もなくて良かったな、とでもしておくか」

 ゾロはそう言うとグラスを上げる。

 サンジはゆっくりと、グラスを持ち上げる。

 ゾロはすかさず、グラスをぶつけた。

 キンッ、と甲高い音が響く。

「今日もお疲れ様」

 そう言うとゾロは口にワインを含んだ。

 ごくんっ、と飲み、

「うん、美味い!」

 ペロリと唇を舌でなめて、ふわりと微笑んだ。

 ・・・もう勘弁してくれ。このままじゃ理性が持たん・・・。

 自分に向けられてはいないが、この笑顔を今は自分が独り占めできている事にサンジは幸福感を覚えた。

 サンジはその笑顔に見とれながらも、心を冷静に保つことは忘れなかった。

 くいっ、と一気にワインを飲み干す。

「おいおい、そんなに一気に飲んだら―――」

「すまん。ちょっと体調が悪いからもう寝るわ。グラス明日の朝片付けるからそのままにしておいてくれ」

 ・・・やばい。理性がそろそろ持ちそうにない。早く逃げないと。

「大丈夫か?」

 お前いつもなら心配しないだろう!何でこんな時に心配するんだ・・・。

 サンジはゾロに優しくされたことがないので、かなり幸せを感じたが、自分の努力を無にさせてしまいそうになる言葉を吐くゾロが恨めしかった。

「・・・ああ、大丈夫だ。寝れば治るさ」

 そう言うとサンジはフラフラと厨房を出て行こうとした。

「ああ。気をつけて戻れよ」

 ・・・お前、いつか犯す!人が折角我慢してやっているのに!

 サンジは何とか必死で欲望を我慢すると、手をひらひらとさせながら厨房を出て行った。

 扉を後ろ向きで閉める。

「・・・駄目だ。もう誤魔化しは利かない」

 ズルズルと扉を背にサンジはしゃがむ。

 こりゃ〜、マジでやるっきゃねーかな。

 ポリポリと頭を掻く。

 男に惚れるなんて俺としては前代未聞だが、惚れた以上全力で落としてやる。

「覚悟しておけよ」

 そう言うとサンジはくすり、と笑った。

 

 

 

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