3月2日。

 麦わら海賊団のコックの誕生日。

 特別な日といえば特別な日だ。

 しかしこの船にいる以上、この日は何でもない日なる。

 別に祝ってもらおうなんて考えてもいない。

 逆に祝ってもらうことが気が引ける。

 それにこいつらはいつも毎日がお祭りみたいなものだから、特別にというわけでもなかった。

 そしていつも通りの朝が来た。

 早く起きて、皆のために、いやナミさんの為に朝食を作る。

 あくびを噛み潰しながら、思い頭をなんとか活動させて体を動かす。

 厨房へ行くと、部屋を暖めるために暖房に火を入れた。

 食材を切り、全ての下準備をして料理に取り掛かった。

 すると、がちゃっ、と厨房の扉が開いた。

サンジは視線だけを向けて、言った。

「うっす。・・・どうした?」

 耳や鼻を真っ赤にしているゾロに問い掛ける。

「見張り台にいるのには今日はちょっと冷え込んでてよ。何か暖かいモンでも飲もうかと思って」

 うぅ〜、さみっー!と言いながらゾロは酒棚を目指す。

「・・・お前の暖かい物というのは酒のことかよ」

 サンジは軽くため息をつくと、材料を火に掛けて煮込みはじめた。

「なあ、サンジ。どの酒を貰っていいんだ?」

 ゾロは数本ある酒棚の前で、指を指す。

「どれも駄目だ。朝から飲むなよ。それに飲んで又見張り台に行くんだろ?だったら尚更駄目だ」

 懐からタバコを取り出し、口に咥える。

 ゾロはその言葉を聞くとむっ、とした顔をした。

「いいだろう、俺がいつ飲んだってよ」

「よくねーよ。寒いから酒飲むなんて自殺行為だぞ。せっかく人が気を使ってやっているんだ。ありがたく聞いておけ」

「・・・それはどうも。でも、こんな所じゃ死なねーよ。ちょっとだけだからいいだろ?」

 ゾロは珍しく怒らずにお願いをしてきた。

 ・・・おや?

 サンジはそんなゾロをおかしく思った。

 いつもなら、

「なんだとぉ?クソコック!!」

 とか言いながら突っ掛かってくるはずなのに、今日に限って大人しい。

「お前何か変な物食ったんじゃねーか?」

 サンジは苦い表情をする。

「何でだよ・・・」

「いや、なんか今日はやけに大人しいなと思って」

 煙りを吐き出し、タバコの灰を灰皿に落とした。

「・・・俺が大人しいとおかしいのか?」

「いや、そんな訳じゃねーが。・・・なんかお前がそう静かだとなんか調子狂うなと思って」

「・・・そうか。じゃあお前にいつも通りにキレてればいいのか?」

「あっ、いや、そういう訳じゃねーけど・・・」

 サンジは真っ直ぐに見つめられて、はっとする。

 珍しくまともに会話をしている事に気が付くと、サンジは赤面した。

 うわぁ、久しぶりにまともに口聞いたぜ・・・。なんか照れるぜ・・・。

 思わず視線を逸らしてしまう。

「とりあえずこれ貰っていくぜ」

 ゾロは一番近くにある酒を手に持った。

「だから駄目だってば!」

 サンジはゾロの手を掴み、反対の手で酒瓶を奪った。

「って!」

 ゾロは捕まれた手首の痛みに顔をしかめる。

 サンジはその表情を見ると、ドキッ、としてしまう。

 なっ、なんちゅう色っぽい顔をするんだー!

 サンジはぱっ、とゾロの手を離し、冷静な態度を保ちながら酒瓶を元の場所に戻した。

 落ち着け〜、落ち着け〜、俺!ゾロが色っぽいだなんて考えること事態がおかしいぞ!

 自分にそう言い聞かせながらサンジは呼吸を深く吸い込んだ。

「なんだよ、思いっきり掴むことねーじゃねーか。お前がせっかく今日誕生日だからなるべく起こらないようにしてたのに」

 捕まれた手首を触りながらゾロは言った。

「えっ?・・・ゾロ、俺が今日誕生日だって知ってたの?」

「ああ、ナミが昨日言ってた」

「ナミさんが・・・」

 サンジはナミが誕生日を覚えてくれていた事よりも、ゾロが誕生日だから自分に気を遣ってくれていた事が嬉しかった。

 ・・・今日の俺はどうかしてるぜ。

 ブンブン、と首を振った。

 でも、今日はおかしいなりにおかしなことをしても許されるかな・・・?

 サンジはそう思うとちらっ、とゾロの顔を見た。

「・・・なんだよ」

「いや、なんか嬉しいなと思ってさ。ゾロが俺のことに気を遣ってくれたことがさ」

 へへっ、とサンジは笑った。

「・・・薄気味悪い奴だな。そんな笑い方すんなよ」

「だったらどんな笑い方ならいい?」

 そう言うとサンジはゾロに迫って行く。

「お、おい。そんなに顔を近づけるなよ」

 ゾロはサンジの不気味なオーラに推し進められて、じりじりと後ろに下がる。

 もう下がれないというところまでくると、サンジはにやりっ、と笑った。

「・・・なんだよ。何か文句でもあんのかよ」

 ゾロはキッ、と睨みつけた。

 サンジはそれに動じもせずに、右腕を壁につけた。

「・・・ゾロさ、お願いがあるんだけど。誕生日プレゼントとして叶えてくれないかな?」

 吐息がかかるほどに顔を近づける。

「・・・なんだよ、願いって」

 ゾロは眉間に皺をよせながら言った。

「聞いてくれる?とても簡単な事なんだけど」

「俺にできることなのか?」

「うん。ゾロにしかできないこと」

 にこっ、とサンジは笑った。

 ゾロはう〜んと考えると、

「わかった。今日だけだからな。お前の頼みを聞くのも」

「うん、わかってるよ」

「よし、じゃあ聞いてやろう」

「とても簡単な事だよ。ただ、ちょっと目を閉じていてくれないかな?」

「目を?何で?」

 キョトン、とした表情になる。

「いいじゃん。理由は聞かないで与」

「わ、わかったからちょっと顔を近づけるのはやめてくれないか?」

 ゾロはサンジの肩を軽く押す。

「なんで?」

「なんでって・・・。お前、普通こんなに顔を近づけて話すか?」

「・・・さあ?話すときもあるんじゃない?」

 しらじらとサンジは言った。

「それよりもさ、少しの間だけでいいから目を閉じてよ。ね?」

 だだっこを言い聞かせるかのようにサンジは言う。

 ゾロは何か裏が有りそうな気がしながらもサンジの言うとおりに目を閉じた。

 サンジはぼそっ、と

「ありがとう」

 と呟くと、ゾロの唇に自分の唇をくっつけた。

「!!!!!」

 ゾロは目をぱっと開いて、何が実際に起こっているのかを確認する。

 すると目の前にサンジのドアップが見える。ドアップというよりも、サンジの目しか見えない。

 ゾロがサンジを突き飛ばそうとすると、サンジの方からすっ、と離れた。

 まるで突き飛ばす事がわかっているかのように、タイミング良く離れた。

「さっ、料理の仕度でも再開するかな」

 サンジは伸びをすると、何事もなかったように料理を再開し始めた。

 ゾロはタイミングを外され、どうしてよいかわからずにただそこに立ち尽くしていた。

「おい・・・」

 ぼそっ、とゾロは言う。

 しかしサンジはそのゾロの言葉に返事はしなかった。

「おい、クソコック。今のなんだよ・・・」

 ゾロはさっきよりもはっきりと言葉を口にした。

 しかしそれでもサンジは返事をしなかった。

 ゾロはむかっ、と来て、サンジの肩を掴もうとした時に、「誕生日プレゼント、ありがとな」 と一言言った。

「はい?」

 サンジは振り向くと、極上の笑顔で笑い、「ありがとうな」 と言った。

 そして又、料理をし始めた。

 ゾロはその顔を見ると顔を赤面させ、

「お、おう・・・」

 サンジから離れた。

 ゾロの顔にはハテナマークが浮かべていて、困惑した顔をする。

 怒ってよいはずなんだけど、怒る気力がなくなるような変な感じがした。

 ゾロは摩訶不思議な気持ちと格闘しながら、しばらくサンジの後ろ姿をじーっと見ていた。

「・・・なんだ?」

 サンジはその視線に気が付いたのか、振り向かずに言った。

「・・・いや、誕生日おめでとう。それだけだ」

 サンジが何を考えているかわからない。

 きっとキスしたのもなにかの嫌がらせかと思うことにした。

 ゾロはそう言って厨房を出ようとした時に、サンジは話し掛けた。

「ゾロ、1本だけ酒瓶持っていっていいぞ。・・・その代わり、全部飲むなよ。後もう少しで朝飯できるから」

 サンジはちょいちょい、と棚を指した。

「・・・いらねーよ。飲むと飯が食えなくなるからな」

 そう言うとゾロは扉を開けて出て行った。

 ぱたんっ、と扉が閉まると、

「そっか・・・」

 サンジは1人呟いた。

 そう言った顔が妙に綻んでいる。

 サンジは鼻唄を歌い始めると、軽やかなリズムに乗り手際よく仕度を進めた。

 ・・・なんか俺、やべーかも。

 自分の気持ちに戸惑いながらもルンルン気分を抑え切れずに、鼻唄を歌い続けた。

 

 

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