五代 雄介は「はぁ〜」、と消沈な顔つきで沈んでいた。
 場所は城南大学の研究室。そこで窓から外を見つめている。
「…どうしたの?五代君。何かあった?」
 桜子はいつもの場所に座りながら、古代文字を研究していた。
 カチ、カチ、とマウスを動かす音がする。
「いえ、何もありませんけど…」
 そう言う雄介の声には本来の明るさがなかった。それを見抜けない桜子ではない。
「何でもないと言う人がする顔か〜!」
 桜子は立ち上がり雄介の顔をびにょ〜んと横に伸ばした。
「痛い、痛いってば。桜子さん!」
 抵抗を見せずに桜子の成すがままになっている。
「なら、白状しなさい!」
「…本当に何でもないんだけど。ただ…」
「ただ…?何よ?」
「ただ、最近冒険に行ってないな〜って思ってさ。どこか出かけたいんだけど、その出かけている間に未確認の奴らが出ちゃったら大変でしょ?俺がいないと」
 未確認生命体と互角に戦える唯一の人間――いや、超古代の力を手に入れた魔人とも言うべきか――なのだ。だから、雄介に遠出、しかも長期間日本にいないことなど許されないのだ。勿論、これは強制的に雄介がやっているわけではなく、自主的に進んで戦いをしている。自分しか戦う人間がいないのならば、やるしかない、と。
「そっか…。ここ数ヶ月五代君、冒険に出かけてないもんね〜」
「うん。まあ、でもここにいるっていうのは俺が決めたことだから、いいんだけどさ〜。こうも良い天気を見ていると、どこかしらに行きたくなるんだよね」
 ほら、と雄介は窓の外を指した。
 ここの窓からでも、外が良い天気だとわかる。綺麗な青空が広がっていた。
「……じゃあ、どこかでかけようか?」
「えっ」
「勿論海外じゃないわよ?――明日さ、大学の友達と海に行く約束をしてたんだけど、五代君も来る?」
「…いいの?あっ、でも大学の友達に失礼じゃないかな?急に知らない人が増えて」
「大丈夫よ!五代君のことなら知っているから」
 にこり、と桜子は笑う。
「知ってる…?何で?」
「いつも友達に面白い男の子がいるの〜って話しているから。だから大丈夫よ!」
 雄介お得意のサムズアップを桜子はして見せ、くすっ、と笑うと「じゃあ、行きたい」と言った。
「あっ、そうだ。何だったら一条さんや椿さんも誘う?大勢の方が楽しいでしょ?」
 桜子は机に戻りながら行った。
「桜子さんがいいなら、皆で遊ぼうよ!」
 遊ぼうという発想が雄介らしい。まるで子供みたいだ。
「そうね。遊びましょう。じゃあ、一条さんと椿さんは誘っておくわね。又、集合場所とか決まったらポレポレに連絡入れるわ」
「うん!じゃあ、俺帰るね!今から支度しないと!」
「そうね。ちゃんと、水着忘れないようにしてよ」
「わかってるって。――じゃあ、桜子さん。又ね!」
 五代はそう言うと、嬉しそうに去って行った。
「やっぱり、五代君はああじゃないとね。はぁ、明日が楽しみvv」
 桜子はにこっ、と笑うと携帯を手に取った。



 ―― 一条の場合。

 警視庁。未確認生命体対策本部。

 一条は、ホワイトボードの前に立ちながら未確認生命体の目的を考えていた。
 するとその時懐に入っている携帯がなった。ディスプレイの名前表示を見ると桜子の名前が出ていた。人目を避ける様に壁際に行き通話ボタンを取る。
「もしもし。一条です。どうかしました?」
 もしかして、新しい碑文の解読ができたのかもしれないと、少し意気込む。
『いいえ。対した用事でもないんですけど…。一条さん、明日お暇ですか?』
 電話口から返ってきたのは、申し訳なさそうな桜子の声だった。
「明日…ですか。明日は仕事がありますが…。何かあるんですか?」
『ええ、ちょっと。明日、私の友達と五代君で海に遊びに行こうかと思っているんですけど、一条さんもどうかなと思いまして。勿論、仕事で忙しいとは思いますが…。どうでしょう?』
「五代も行くんですか…?」
『はい。それと…椿さんもです』
 少し溜めてから言った。椿の名前を強調して。
「つ、椿も…ですか?」
 一条の声が一瞬詰まる。
 雄介が他の子達と遊びに行くのは仕方ないと思う。しかし、椿が来るとなると、話は別だ。自分の知らない所で雄介に手を出されてしまっては、今まで自分の気持ちを押し殺して見守ってきた自分が馬鹿みたいに思える。椿と仲良くなってもらっては困るのだ。
 一条 薫。純粋に五代 雄介を愛する一人の男だった。
 雄介に彼女が出来るならば自分の気持ちを押し殺してでも、幸せになるのなら祝福しよう。笑顔を添えて。だが、椿が相手となると、そんな気持ちは微塵もなくなる。
 妨害しに行きたいが、仕事を放っては行けない。う〜ん、と悩む。
『一条さん、無理しなくてもいいんですよ。五代君は寂しがるかもしれませんが…』
 ここは寂しがる、を強調する。
「五代が寂しい…ですか?」
『ええ、五代君、一条さんが来るのを楽しみにしているんですよ』
 まるで母親の様な口調だ。
『でも、どうしても来れないなら仕方ない―』
「行きます!」
『えっ?でも、お仕事忙しいんじゃ…』
「大丈夫です!何とかします!」
 はっきりと、一条はそう言った。
『…では明日のことが詳しく決まったら又電話しますね』
「わかりました。――では」
 そう言って一条は通話を切った。
 そして次の瞬間、本部長室に駆け込み、「本部長!明日、一身上の都合により休ませて頂きます!」と凄い剣幕で言った。
 本部長は理由を聞こうかと思ったが、一条のあまりの迫力に頷くしかなかった。



 ―― 椿の場合。

 関東医大病院。

 椿がいる室内の内線がなった。
「はい、椿です。――沢渡さんから?…わかった。繋いでくれ」
 椿は電話口のナースにそう伝えた。数秒経つと、通話口に桜子の声が流れてきた。
『こんにちは、椿さん。今、仕事大丈夫かしら?』
「大丈夫です。――突然どうしたんですか?五代のヤツ、調子悪くなりました?」
『いいえ。五代君は至って元気ですよ。――あの、突然なんですけど、明日ってお暇ですか。私の友達と五代君とで海に行こうかと思っているんですけど…』
「明日ですか…」
 椿は椅子に寄り掛かり、明日の予定を確認する。これといって急ぎの仕事はないが、いつ未確認生命体が現れるかわからない。被害者が現れたら、椿が解剖しなければならないのだ。未確認の専属である椿は今仕事を休めない立場にいた。
『駄目…ですかね…』
 何かを探る様な桜子の声が椿の感に引っかかった。
「沢渡さん、もしかして一条のヤツって来ます?」
『…ええ。多分来られると思います。どうにかすると言っていましたから。まだ確実じゃないですけどね』
 なるほど、と椿は呟いた。恋のライバルが来るなら自分は行かないわけにはいかない。
「なら、俺が行かないはずないでしょう?どんなことがあっても行きますよ」
 一条がいるならね、と心の中で呟いた。一条と二人っきりにさせてたまるもんかと。
 ――あの一条が仕事を放り出してくるんだ。だったら、俺も行かないわけにはいかない。
『そうですか。良かった、簡単に了承してくれて』
「…俺が行かないとでも思いました?」
『いいえ。来ると思っていました。でも、もしもって事があるじゃないですか。でも、来てくれて五代君も喜びますよ』
「そうですか。それは良かった」
 電話口で笑みを浮かべた。
『じゃあ、詳しいことが決まりましたら又連絡しますね。お仕事中すみませんでした』
「いいですよ。気にしないでください。―それでは、また」
 そう言うと椿は受話器を置いた。
「さ〜てと、明日はどうやって休もうかな〜。ああ、その前に明日の準備しなきゃ…」
 椅子から立ち上がり、反対側にある窓に近づいて、空を見上げた。
 すると、ナースが入ってきた。
「椿先生。明日内科の吉田先生が急用でお休みになられるので、その代わりに出られないかということなのですが」
 いかがでしょう?とナースは問う。
「ああ、悪い。明日は腹痛で休むから、出られないと言っておいて。ああ、それと今から俺早退するから。何だか頭痛い…。患者に病気を移しちゃまずいだろ?だから、早退しますとこれもついでに伝えておいて」
 椿は白衣を脱ぎ、ハンガーに掛けた。
「えっ、ちょっと。椿先生?!」
 ナースは慌てて椿を止める。
「悪いな。お先に!」
 椿はそう言うと、颯爽と病院から去って行く。
 残されたナースは呆然としながら、その場に立っていた。



 ―― 当日

 某海岸。

「うっわ〜。桜子さん、見てくださいよ!海ですよ、海!」
 雄介は子供のようにはしゃぎ、桜子に言った。
「見ればわかるわよ。ほら、感動してないで、荷物を運んで!」
 くすくす、と笑いながら桜子はレンタカーのトランクから荷物を取り出そうとした。
「ああ、いいですよ。俺たちがやりますから」
「沢渡さんは他の方達と休んでいてください」
 一条と椿が申し出た。
「ほら、五代。お前も来い」
 椿が雄介を呼んだ。雄介は「は〜い」と可愛らしい返事をする。
「ねえねえ、桜子。あの3人レベル高くない?」
 桜子の友達である亜紀がそう言った。その隣にいる美代子がその言葉に頷く。
「ホント、凄いカッコイイんだけど!いつの間にあんな人たちと知り合いになったの?」
 二人は興味津々に問い詰める。
「う〜ん、まあ色々あってね〜」
 桜子は苦笑しながら言った。
「五代君はカッコイイというよりは可愛いわよね〜。もう、母性本能がくすぐられる!みたいな感じで」
「そうそう。そんな感じ!一条さんと椿さんはもうメチャカッコイイし!あんな長身でイケメンってあまりいないわよ!」
 亜紀と美代子はガッツポーズを作りながら騒ぐ。
 桜子はそんな二人を見て、「申し訳ないけど」と一声上げた。
「何よ、桜子。やっぱり、アンタも狙っているの?もしかして、五代君?良く、話に出るじゃない」
「違うわよ!私は誰も狙ってないわ!」
 そう言って「ちょっと来て」、と二人を引っ張った。
「駄目よ。あの三人を狙っちゃ」
「何でよ。いいじゃない、桜子のモノじゃないんだったら」
「違う違う!そう言うことじゃなくて。あの人たち、アレで3角関係なんだから!」
 その一言で二人は固まる。
「さ、3角関係…?」
「じゃ、じゃあ。あの人たちってその手の人なの…?」
「それも違うわ。あの二人は五代君に関してだけ、そうなのよ」
 「困ったもんよね〜。こんなにイイ女が目の前にいるのに」と桜子は冗談混じりで言った。
「それはマジで…?」
「マジで!」
「な〜んだ、残念…。折角あんなイイ男と知り合いになれたと思ったのに〜。まあ、でも3人ともイイ男だし、許すかな〜。別にビジュアル的には私OKだし」
「私も〜。そういう差別はしない主義!」
 亜紀と美代子は始め残念そうな顔付だったが今は、何やら楽しそうに笑っている。
「二人ならそう言ってくれると思ったわ。そこでね、二人に相談があるんだけど」
 耳を貸して、と言わんばかりに指先で二人を呼んだ。
 ごにょごにょごにょ。
 耳元で何やら内緒話をする。
 荷物を運び終わったイイ男達は互いに見合って怪訝な顔をした。
「お〜い、桜子さん達!もう、荷物下ろしたよ〜」
 3人娘の密談には流石の雄介も近寄れずに、遠くから声を掛けた。
「あっ、ごめ〜ん!――いい?わかった?」
 雄介に謝りながらも桜子はにやりと、笑って二人を見た。
「もち!」
「了解!」
 亜紀と美代子も怪しい笑顔で答えた。
「さっ、楽しい一日を過ごしましょう!」
 桜子はそう言うと、亜紀と美代子を引き連れて、男たちの元に向かった。



 皆水着に着替えて、海岸に出た。パラソルやその他の荷物は男たちが持って、女性陣の後ろを歩いている。
 行き交う女性達は後ろの3人、(つまり雄介、一条、椿)を思わず振り返り、ぼーっと感嘆の声を上げて見つめていた。彼氏がいる女性もそれは同じである。自分の女を一瞬でも虜にした雄介達に鋭い視線を浴びせるが、雄介達をマジマジとみて太刀打ちできないと思うと、大人しく通り過ぎるのを舞っていた。それほど、3人は目立っていたのである。
 レベルの高い男が3人もいれば、それは当然の結果であった。中には逆ナンをしようとした人もいたが、それはできなかった。一条と椿は雄介の姿に見とれており、どうやってお互いの邪魔をしようか考えていたのである。つまり、声を掛けても無視されたのだ。勿論、雄介が話し掛ければ、二人は考えるのを止め、雄介だけに耳を貸していた。
 そんな3人の様子を桜子達はくすくすっ、と笑いながら割かと人が少ない場所を選び、そこに手荷物を置いた。
「五代君って結構体の作りができているのね〜」
 男性陣がテキパキと準備したパラソルの下で桜子は日焼け止めを塗りながら言った。
「勿論ですよ!だって、俺クウガですモン!沢山筋肉をつけなきゃ!」
 えっへん、と言わんばかりに雄介は胸を叩いた。
「おいおい、そんなおおっぴらにクウガだなんて言うなよ」
 一条は周りを見回す。
「大丈夫だって。まさか、クウガがコイツだなんて、誰も思わねーよ。それに殆どの人間は『クウガ』じゃなくて、『4号』って呼ぶさ」
 椿はくすっ、と笑いながら小声で言った。
「それにしても、一条さんは刑事さんだから体が出来ているってわかってたけど、椿さんまで体ができているなんて思いませんでしたよ」
 にっこり、と雄介が言った。
「へっへん!驚いたか?結構ジムとか行って俺鍛えているんだぜ?医者も結構体力使うからな。体は鍛えておかないと」
 椿はそう言うと腕組をした。マッチョというわけではないが、それなりに鍛えてある体だった。
「へぇ〜。お医者さんも大変ですね〜」
「そうなんだよ。大変なんだ…。最近は未確認の奴らが出てきているお陰で忙しさに輪が掛かってる。このままなら俺はいずれ過労死するな」
 うんうん、と椿は自分で言って頷いた。
「だったら、今日はここに来ないで家で休んでいれば良かったんだ」
「なんだと?…一条、お前こそ帰って休んでいたほうが良かったんじゃないのか?連日徹夜続きであまり寝ていないんだろう?お前の顔色少し悪いぞ?」
 一条の言葉にこめかみがピクピクした。何とかそれを抑えて、一条を見据える。
「……えっ?そうなんですか?!」
 雄介は一条の顔を見る。
「あ〜、ホントだ。一条さん目の下にクマができてますよ?今日はゆっくりと休んだほうが良かったんじゃないんですか?」
 うっすらと目の下にあるクマを指した。
「これぐらい大丈夫だ!それに…!」
 ――コイツと二人っきりにさせておけるものか!
 どうやら一条は桜子達の存在を忘れているようだ。
このような言葉を表立って言えるわけがないので、一条は押し黙る。
「それになんですか?」
「それになんだ?」
 雄介は首をかしげて、椿はにやりと笑って聞いてきた。
「……なんでもない」
 ふんっ、と一条はそっぽを向く。
「ねぇねぇ、桜子。私たちの存在まるっきり無視されているわよね」
「何だか心外だけど、でも見ていて面白いわ」
「でしょう〜?一体五代君、どっちの手に落ちるのかしら?私、それだけが楽しみで」
 桜子はくすくす、と笑う。亜紀、美代子ともこそこそと小声で話した。
まあ、普通に話していても今の雄介達に聞こえているかどうかは疑問だが。
「私はどうせなら一条さんに勝利してもらいたいな〜」
「えっ、そう?私は椿さんよ!あのライトな感じが素敵!しかもお医者様だし。将来は安泰よ!」
「絶対一条さんよ!将来だったら一条さんも負けてないじゃない!刑事でしかも警部補よ?いずれは警視総監も夢じゃないわ!一条さんなら堅物そうだから、浮気なんてしなさそうだし。だから、私は一条さんをプッシュするわ!」
 美代子と亜紀はキッ!と睨みあう。
「まあまあ、二人とも落ち着いて」
「桜子!あなたはどっちを応援しているの?!」
「えっ?私?…私はどっちも応援しているわよ。一条さんも椿さんも。だって、二人とも素敵な人だしさ〜。どっち選んでも五代君は幸せだと思うから。どうせなら、両手に花状態になってほしいけど」
「両手に花?ということは…」
「二股ってこと?」
 その言葉に桜子は「さあ?」と意味深な笑みを浮かべて、誤魔化した。
「兎に角、今回で3人の仲が進展してくれればと思うわ。まだ、二人とも告白もしていないんですもの!端から見ていてもどかしいのよ!だから、今回はどんな結果がでても3人を一歩でも二歩でも前進させたいの!」
「わかったわ!その話乗った!」
「私も!」
 桜子たちは円陣を組んで手を真ん中に置き、「オーッ!」と声を上げた。
 その声にびっくりした男性陣3人。
「ど、どうかしたの?桜子さん」
 不思議そうな顔で雄介が聞く。
「えっ…。何でもないわ。――それより、五代君、喉渇かない?」
パタパタと桜子は手を振って顔に風を送った。
「あっ、じゃあ俺何か飲み物買ってきますよ。何がいいですか?」
「ホント?悪いわね〜。私ウーロン茶がいいわ」
「わかりました。亜紀さんや美代子さんは何がいいですか?」
 雄介はにっこりと笑ってオーダーを取る。
 二人はその笑顔に一瞬見取れた。
「…あっ、私たちもいいの?頼んじゃって」
「勿論ですよ!俺一人じゃ抱えられないから、椿さんに付き合ってもらいますけど」
 椿は「俺?」と言って自分を指差した。にやりと笑って。
 それに一条はムッ、とする。
「五代!何で椿を指名するんだ」
 不機嫌な表情を浮かべる。
「えっ、そんな真顔で言われても…」
 雄介はその言葉に困惑した。ただ単に一番傍にいた椿を指名しただけなのだが。
「特に理由なんてないですけど。……だったら一条さん行きます?」
「もちろ―」
「いいよいいよ。俺が行く!一条、お前は少し休んでろ」
 椿は一条の言葉を遮り、「任せろ」と胸を叩いた。
「だったら椿。お前も少し休んだらどうなんだ?お前も未確認のせいで休みがないんだろう?」
 口端を上に吊り上げる。
「ちょっと二人とも!何飲み物買いに行くだけで喧嘩腰になるんですか!」
 ただならぬ雰囲気を醸し出している一条と椿に雄介は叱咤する。
「だったらこうしましょう!一条さん、椿さん。申し訳ないですけど二人で六人分の飲み物買ってきて貰ってもいいですか?俺はコーラをお願いします」
「「……はい」」
 雄介の迫力に二人は頷くしかなかった。
「ったく、お前のせいだからな!」
「その言葉、そっくりそのまま返そう」
「はんっ!だったら、俺もその言葉を返してやる」
「ならば俺もまた返してやる!」
 むむむっ、と二人はいがみ合いながら買い物に行った。
「まったく、いつからあの二人は仲が悪くなったんだか…」
 その原因である雄介は仲が悪い二人を軽く睨みつけると、ため息をついた。
「……もしかして五代君って…」
「……鈍感…?」
 亜紀と美代子が首を傾げた。桜子はその言葉にこくりと頷いた。
「…不毛ね」
「不毛だわ…」
「ん?羽毛がどうかしたんですか?」
 雄介が三人の間に入り込む。
「あっ、うんん!何でもないのよ!――あっ、一条さんと椿さんが帰ってきた!」
 桜子は慌てて遠くの方にいる二人を指した。長身の上に容姿端麗なだけあって、目立つ。一瞬のざわめきが起こるのだ。
 リーチの長い足を活かして、スタスタと歩いてくる。
「お待たせしました」
「お待たせ」
 どうぞ、とそれぞれに飲み物を配った。
 するとその時、「キャー!!」と遠くの方から悲鳴が聞こえた。
「何っ?!」
「!!」
「……嫌な予感」
 雄介、一条、椿は悲鳴が上がった方へ足を運んだ。するとそこには未確認生命体が人を襲っていた。
「一条さん!ここにいる人達の避難お願いします!金の力を使うかもしれないので!」
「わかった!−五代、すまんな」
 いつも雄介にだけ戦わせてしまっていることに、申し訳なく思っている。
 雄介はその言葉に首を振った。
「俺は俺の場所で頑張っているだけですから。…一条さんもそうじゃないですか?」
 にこっ、笑うと次の瞬間厳しい顔付きになって「変身!」と叫んだ。
 青の戦士、ドラゴンフォームへと変身する。近くにあった棒を取り、ドラゴンロットへと形を換え武器に変化した。
「とうっ!」
 変身する中で一番身軽なクウガは、砂地をいとも簡単に駆け抜け未確認生命体に打撃を与えた。よろめくものの、すぐに体制を立て直し鞭みたいなものをクウガの体に巻き付かせた。
「ぐっ!」
 締め付けられ、息苦しくなる。
 力いっぱい鞭を牽き緩めると、宙を飛び未確認生命体を打撃した。
「これで最後だ!」
 クウガは未確認生命体を出来るだけ遠くの海の方に放り投げ、高く飛んだ。そして、紫の戦士、タイタンフォームへと変身すると、今までもっていたドラゴンロッドはタイタンソードに変わった。すると金色の光がクウガの体から弾いた。バチバチッ、と音が鳴る。
 タイタンフォームに変わり、体重が増えたので一気に落下し、その勢いにつけて未確認生命体の体にタイタンソードを突き刺した。
 海中深く沈みこむと、未確認生命体は爆発を起こした。水しぶきが海岸に降る。
「「五代!」」
 一般人を非難させた一条と椿は近くで戦闘を見ていた。爆発を確認し、海面がなだらかになると二人は海に駆け寄った。すると、ザバッ!と数メートル先に雄介の姿が見えた。
「大丈夫か?!」
「ええっ、大丈夫です。ちょっと海水飲んじゃいましたけど」
 へへっ、と屈託のない笑顔を見せた。
「…そうか。良かったな」
 その笑顔に一条と椿はほっとする。
「始めて身近でお前の戦い見たけど、思っていたよりも痛いものだな。……良く頑張っているよ、お前」
 椿は雄介の頭をぐしゃぐしゃと撫でて、笑った。
 雄介はその行動に一瞬目を見張るものの、すぐに笑みをもらした。
 一条はそれにムッ、とするが次の椿の言葉でそれは笑顔に変わった。
「お前もだよ、一条。お前も今までずっとこんな戦いを見て、応援してきたんだな。お前等、ホント、良くやってるよ」
「…それは椿さんも一緒ですよ。椿さんがいなければ俺なんてもうとっくに死んでます。椿さんがいたからこそ、今の俺があるんです。俺達お互いの場所で頑張っているだけなんですから」
「そうか…」
「ええ」
 三人は穏やかな笑顔を浮かべて、互いを見合わせた。



 それを遠くで見ていた桜子たちは、ふぅ〜とため息をついた。
「…未確認はやっつけたのかな?」
「ええ。もう、ここにはいないわ。さっきの爆発音がその証拠よ」
「…桜子、あなたずっとこんな事に首を突っ込んでるの?」
 詳しそうに話した桜子に亜紀が聞いた。桜子が碑文の関係で警察に協力をしているとは聞いていたが、今の発言を聞くとよほど深く関わっているように思えた。
「まあね。仕方ないわ…」
 桜子は苦笑する。
「そう…。貴方も大変ね…」
 その言葉に桜子は何も言わなかった。
「あっ、桜子さん!そこにいたんですか?怪我はありませんでした?」
 雄介が桜子たちに駆け寄ってきた。
「私たちは大丈夫よ。五代君は大丈夫?」
「はい!大丈夫です!」
 すると雄介はお得意のサムズアップを見せた。笑顔がとても可愛い。
「とりあえず、私は本部に未確認の連絡をしてきますので一度ここを離れます。椿、後は頼んだぞ」
「わかった」
 「直ぐに戻ってきます」と告げると一条は走り去っていった。
「とりあえず、さっきの場所に戻りましょう。貴重品とか置いてあることだし」
 椿が皆を促した。先頭に椿、桜子。そのちょっと横斜めに雄介と亜紀、美代子が並ぶ。
 すると亜紀は雄介を呼び、少し後ろに下がった。
「ねぇ、五代君。ちょっと気になったことがあったんだけどさ」
「何ですか?」
 人の良さそうな顔をして、笑いかけた。
「…私、遠まわしに言うのは苦手だから単刀直入に聞くわ!五代君って誰が好きなの?」
「えぇっ?!な、何ですかいきなり!」
「しっ!声が大きい!」
 亜紀は唇に指を当てて、叱咤した。
「もしかしてその相手っていうのは…桜子だってりして?」

 …ぽっ。

 その言葉に雄介の顔が赤くなる。
「…そうなんだ。桜子なんだ」
「あっ、いえ!その、だから…!」
 雄介はしどろもどろになりながら、否定しようとするが、良い言葉が見つからなかった。少し、黙ると「…はい」と頷いた。
「でも、このことは桜子さんには内緒ですよ!」
「わかっているわよ。そんな野暮なことはしないわ。だったら、桜子の隣にでも並んだら?椿さんに取られちゃうかもしれないかもよ?」
「そうですかね…。そうですよね。椿さん、男の俺から見てもいい男だし。桜子さんがなびかない様に見張っておかないと!」
 雄介は意気込むと、桜子の隣に並びに行った。
「……この3人の恋は前途多難すぎるわ…。」
 亜紀は「ふぅ〜」とため息をついた。






*****戯 言*****

初の英雄本です。改めて読み返してみて、ここはこう言い回しのほうがいいのではないかとか、
ここは違うシーンを入れたほうがいいのではないかと、ところどころ思いました。(笑)
前に書いた話を読むと結構恥ずかしいものですね。(照)


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