雨が降っている。 大きい雨粒が、海を打っている。 ルフィは洞窟の中で、それを見ているしかなかった。 水がどんどん、洞窟内に入ってくる。 既に、靴が溜まった水に浸かっていた。 ――どうしよう…。 ルフィはガクガク震えながら、その場に佇んでいた。 昼頃、ルフィはこの風車村を友達と一緒に探索していた。 しかし、いつの間にはルフィは探索に夢中になってしまい、どんどん皆から離れていく。ルフィはそれに気づかずに、一つの洞穴を見つけた。 海岸沿いにある、洞穴。 海岸沿いにあるといっても、洞穴の前には海水はなく、砂が敷き詰められていた。 いつも、マキノやシャンクスから危ないところには行くな、と言われているが、村とは目と鼻の先にある場所だし、それにすぐに帰ろうと思っていたので、ルフィは何の迷いもなく、洞窟内に入っていった。 入ってみると、中は思っていたよりも広く、どんどん中に入っていった。しかし、中に入っていくにつれ、外からの光が差し込まず回りは徐々に暗くなり、又道も細くなっていった。 ルフィはどうしたものかと、考えたが、少し先を進んで何もなければこのまま引き返そうと思い、又、先に足を進めた。幾分か歩くと、急に目の前が広くなり、明かりも差し込んだ。そこには小さい湖があり、上から光が差し込んでいた。 ルフィは天を仰ぎ見ると、周りには高い塀があるが、その最上には小さな穴が空いておりそこから光が差し込んでいたのだ。その光が湖を照らし出して、とても綺麗に見えた。光の加減で薄い緑色にも見えて、ルフィは色々な角度からその湖を楽しんでいた。時が経つのを忘れ、ここで暫く遊んでいたのだ。 ――今度、ここに皆を連れて来よう。きっと、皆驚くぞ! ルフィはしししっ、と笑うとこの場を探索していた。すると、ぽつり、とルフィの頬に水があたる。 ――気のせいかな? そう思い、ルフィは時を忘れてまた遊ぶ。 今度はぽつ、ぽつとルフィの頬を濡らした。 気になって上を見ると、いつの間にか差し込んでいた光が弱くなっており、あたりを薄暗くしていた。そして、水が上から降ってきた。 ――もしかして、雨? ルフィはそう気がつくと、急いでその洞窟から出ようとして、頭をぶつけないようにゆっくりと、そしてなるべく早くこの場から離れようとした。 暫く歩くと、目の前に見たことのある出入り口があった。歩くたびにばしゃばしゃ、と水の音がするが。 ――来るときにこんなところに水なんてあったかな? ルフィは嫌な予感がして、足取りを速めた。そして、外に出ようと一歩足を踏み出そうとした瞬間に、ルフィの体が固まった。 来た時にあった、足場の砂が海水で埋まっていたのだ。しかも、ザッーと雨が降っている。 「…な…に…。コレ…」 足を踏み出そうにも怖くて踏み出せない。 薄暗い中、海はばしゃんっ、とルフィの足元に弾き水しぶきが体を濡らした。天候が悪いお陰で、海が荒れているらしい。 ルフィは無意識のうちに数歩下がった。海水から濡れないようにと、そしてこの現実から逃れようとして。 いつものならルフィは泳いででも、岸にあがろうとしただろう。しかし、ルフィはつい先日、シャンクスたちが持ち帰った宝、悪魔の実を食べてしまったのだ。悪魔の実の能力者は、海に嫌われるという。いわば、カナヅチになるのだ。それはルフィも例外ではなかった。 足元まで水がくるだけで力が抜けて、気が遠くなりそうになる。こんなルフィが海に飛び込んだから、それこそお終いだ。ルフィぐらいの子供なら腰ぐらいまでの波の高さがある。きっと、普通の子供だったら、何とか頑張れば岸に着けるだろう。しかし、ルフィは哀しくも悪魔の実の能力社。降りる=死ぬ、とルフィの中では公式が成り立っていた。 「シャンクスーーーーー!マキノーーーーーーー!」 ルフィはめいいっぱい、力の限り叫んだ。しかし、海の音と雨の音でそれは掻き消された。 ルフィはぺたんっ、とその場に座った。半泣き状態になって、ベソをかいた。 ――どうしよう…。誰か、助けて…。 そう何度も心の中で呟いた。 どのくらいの時間が経ったであろうか。暫くそうしていると、ルフィはふいに立ち上がった。 ――ここで泣いてても誰も助けに来てくれない。 ルフィは泣いて少し落ち着くと、持ち前の行動力であることを起こした。 着ていたTシャツを脱ぎそれを手に持つと、なるべく目立つように大きく外に向けて腕を振った。 「おーーーーーーーーい、誰かーーーー!」 ルフィは何度も叫び、何度でも腕を振った。徐々に足元に海水が入ってきてもそれは気にしなかった。というよりも気にしてなどいられなかった。ただ、一生懸命に大声を出すこと、腕を振ることがルフィにとって、一番気になることことだったのだ。 この声は届いているのだろうか? このTシャツは見えているのだろうか? これが気になって仕方がない。 「…おーーーっ…。ごほっ、ごほっ!」 余りにも大きな声を出しすぎたので、ルフィはむせた。喉は渇くし、心なしか喉が熱を持っている気がする。 下を向いて、はぁ〜、はぁ〜、と何度も大きく呼吸した。 もう、これ以上大きい声を出すことは、無理だ。疲れたのか、だんだん眠くなってきた。 一瞬、座り込んで眠ろうかと思ったが、それは頭を振ってその考えを追い払う。 「駄目だ!俺は、絶対に諦めない!」 ルフィはそう言って、決意するとキッ!と顔を上げた。 「ルフィ!!」 その瞬間、外からシャンクスが洞窟内に飛び込んできた。 「…っ!」 シャンクス!と声を出そうにも、思うように声が出ない。シャンクスはルフィを抱きしめると、膝をついた。 ぎゅっ、と力いっぱい、抱きしめた。 「このバカ!あれほど無茶をするなと言っておいただろうが!」 強く抱きしめられる腕が僅かながら震えている。 ――心配してくれたんだ…。 ルフィはそう思うと、ポロポロと涙を流した。 「ご、ごめんなさい…」 掠れた声で謝罪した。シャンクスはその声を聞くと、目を一瞬細めたが、ほっと胸を撫で下ろした。 「………お前が無事ならそれでいい…」 本当に反省しているところを見ると、シャンクスは微笑んでルフィの頭をがしがしっ、と撫でた。 「とりあえず、ここから出よう。お前は俺にちゃんとしがみついていろよ」 「うん!」 ルフィは大きく頷いた。 シャンクスはそれを確認すると、ルフィを抱えて立ち上がり外に出た。ばしゃんっ!と大きな音を立てて、海の中に飛び込む。もう、海水はシャンクスの又のあたりまで来ていた。 シャンクスはゆっくりと、足場を取られないように前に進んだ。 「大丈夫か?ルフィ」 シャンクスはぎゅっ、としがみついているルフィに声を掛ける。 「大丈夫だ!シャンクスがいるから」 にこっ、と笑う。 「……そうか」 シャンクスもつられて笑い、ルフィを抱える腕に力が入る。 「それにしてもよく、あの場所がわかったね」 「ああ、お前と一緒に遊んでいたガキが酒場まで来てな。お前がいなくなったって。だから、お前がいなくなった近辺を皆で探しにきていたんだ。そうしたら、お前のこのシャツが見えてな。もしかして、と思ってきてみたら案の定、お前は洞窟の中にいやがった」 今でも握り締めているシャツをシャンクスは視線を落とした。 「そっか…。良かった、諦めなくて」 「本当だ。お前が諦めてくれなくて良かったよ。お前を失うかと思ったぜ」 「失う…?」 「お前が、死ぬってことさ」 「俺はお前が気に入っているんだ。そう簡単には死なせねーぞ」 コツン、とシャンクスはルフィの額に小突いた。 「……俺も、簡単に死ぬモンか!絶対に生き延びでシャンクスと同じ海賊になるんだ!そして、俺は海賊王になる!」 ふんっ!と鼻息を荒くして、ルフィは言った。 「はははっ、そりゃあ楽しみだ。俺を越すのか。……楽しみにしているぜ。未来の海賊王?」 シャンクスはにやりと、笑うと「もう少しだから、我慢しろよ?」と言ってルフィを安心させた。 「おう!」 自分に気を使ってくれるシャンクスにルフィが嬉しくなる。 岸に近づくと、そこには赤髪海賊団のメンバーが揃っていた。中にはマキノの姿もある。 「ルフィ!」 シャンクスがルフィが岸に足を下ろすと、マキノはルフィに抱きついた。 「ルフィ!ルフィ…。良かった、無事で…」 ほろほろ、と涙を流す。 「………ごめんなさい…」 滅多に泣かないマキノを目の前にして、ルフィは罪悪感にかられた。本当に心の底から謝る。 「…どうしたの、その声…。酷い声…」 ルフィから発せられた声がとてもハスキーだったのでマキノはびっくりした。 「…ちょっと叫びすぎちゃって…」 ははっ、と笑う。 「もう!心配かけさせないでよ!」 ルフィの笑顔にマキノはまた、涙する。 「まあ、マキノさん。ルフィは疲れているようだし、少し休ませてあげましょう」 シャンクスがマキノに言った。 「そうね…。ルフィ、帰りましょう…」 「うん…」 大人しく、コクン、とルフィは頷いた。すると、急に足元がすくわれて、ふわりと宙を舞った。 ――何っ? するとルフィはシャンクスの胸の中にいた。 「俺が運びますよ。マキノさん」 「…お願いします」 マキノはそう言うとシャンクスにルフィを預け、一緒に着いて行った。 ルフィを部屋まで運ぶと、ゆっくりと横にして毛布を掛けた。 「…ルフィ、何か食べたい物ある?」 「肉が食いたい」 その言葉にぷっ、とシャンクスは噴出す。 「…その元気がありゃ大丈夫だな」 くくくっ、と笑った。 「本当に…。わかったわ。じゃあ、作ってくるから、横になって安静にしておくのよ」 そう言うとマキノは部屋を出て行った。 「ったく、お前死にかけたのにいい度胸してるよな〜」 にやにやと笑う。 「だって、食いたかったんだモン」 「まあ、その方がルフィらしいし、逆に俺は安心したけどな。――ゆっくり休めよ」 そう言って、シャンクスが出て行こうとしたら、それをルフィが止めた。 「何?」 「こっち来て。しゃがんで」 「ん?」 シャンクスはルフィの言われるがままベットに近づき、腰を掛けた。すると、ルフィが起き上がると、シャンクスの頬にちゅっ、と音をたててキスをした。 「…ありがとう、シャンクス。見つけてくれて」 にっこり、と笑う。 「……いいさ。別に。――どうせキスをくれるんなら、こっちの方が良かったけどね」 「こっち?」 ルフィが首を傾げるとシャンクスは軽く唇に触れた。 「…こっち」 今までにない至近距離のシャンクスの顔に驚き、ルフィはきょとんとする。 シャンクスはくすっ、と笑うと、「そのうちな」と言ってその場を去ってしまった。 「…何だ?今の?」 触れた唇にそっと指を添えると、何故か一気にルフィの顔が赤くなった。その理由がわからずにルフィは困惑する。 「も、もう寝よ!」 がばっ、と毛布を掛けてルフィは火照る顔を一生懸命に宥めていた。 |
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