シャンクスが家庭教師となって、早1週間が経とうとしていた。

 苦手な勉強に投げ出さずに、真面目に一生懸命に取り組んでいるルフィの姿が伺える。

 前の教師とは違って、シャンクスは教え込み方が上手い。

 厳しい時もあるけど、優しい時もある。

 ちゃんと飴と鞭の使い方を心得ていた。

 ルフィが勉強に疲れて投げ出しそうになると、休憩がてらに庭で一緒に遊んだ。

 勉強よりも体を動かすことを知っているシャンクスは無為意地はせずに、ルフィのペースで勉強を教えた。

 ルフィは苦手だけどしっかりと自分を見つめ、自分のことを考えてくれているシャンクスにすぐに打ち解けた。

 今までの家庭教師はルフィのことではなく、自分の地位や名誉のことだけしか考えていなく、とりあえず教えておけば“D”に何らかの形でも恩を着せられると思う人種ばかりだった。

 そんな人たちにルフィは嫌気がさしていた。

 しかし、シャンクスは違った。

 勉強を教えてもらっていてとてもわかりやすいし、何よりも一緒にいても楽しい。

 今ではシャンクスが来るのを楽しみにしている。

 今日も早速来て、勉強を教え始めた。

 初めは真面目に取り組んでいるが、次第に集中力がなくなり、だらけてくる。

 シャンクスは軽くため息をつくと、

「よし!午前中の勉強はこれまでにして食事まで庭で軽く運動でもするか」

 持っていた教科書をパタンッ、と閉じた。

「えっ?!いいの!」

 その言葉を聞いてルフィの顔がぱぁ、と明るくなる。

「いいよ。どうせ今の状態で勉強しても身が入らないだろ?だったら運動でもして気分を晴らそうぜ」

「うん!」

 そう思いっきり頷くと、ルフィは席を立ち絞めていたネクタイをはずして机の上に放り投げた。

 ワイシャツのボタンを第二まではずして、運動しやすい格好にする。

「じゃあ、早く行こうよ!今日は何して遊ぶ?」

 急に活き活きとした表情をするルフィにシャンクスはくすっ、と笑った。

「何でもいいよ。お前の好きなものにすればいい」

「じゃあさ、じゃあ今日はバスケしよう」

「バスケ?ここにバスケットリングなんてあったかな?」

 はて?と首を傾げる。

「へへへっ。昨日作ってもらったんだ」

「作ってって・・・」

 ルフィの言葉に目をぱちくりさせる。

 ・・・ここら辺が金持ちの考えることだな。まあ、“D”にとってこんなのは些細なことなんだろうけど。

「ボールは?」

「勿論あるよ」

 にんまり、と笑う。

「よしっ!じゃあ、行くか」

「おう!」

 ルフィは大きく頷くと、先立ってシャンクスを案内した。

 ウキウキと心を弾ませながら、ルフィは歩く。

 すると、途中で幼馴染の顔を見つけた。

「ゾロ!!」

 嬉しそうに走り寄って抱きついた。

「ルフィっ!」

 いきなり抱きつかれて、ゾロは驚く。

 ――――ロロノア・ゾロ。

 ルフィの幼馴染であり、“D”家に属するSPの一人。

 軍隊の位は曹長であった。

 年はまだ18歳なのに、曹長の地位であることは珍しい。

 普通ならばまだ年端も行かぬ子供だ。

 このくらいの子供なら、まだ二等兵、若しくは一等兵が望ましい。

 しかしずば抜けた戦闘能力と判断力がそれを可能にさせた。

 年の割りに地位があることも珍しいが、扱う武器もこれまた珍しい。

 今の時代、使う武器といえば銃を扱う。

 殺傷能力が高いし、なんと言っても持ち歩きやすい。

 怪しまれずにも武器を所有することができる。

 しかしゾロが愛用しているのは刀だった。

 それも3本も。

 ゾロは今時珍しい剣士なのだ。

 3本の刀を扱う事により、周りの皆からは“3刀流のゾロ”と呼ばれている。

 持ち歩くのは面倒だが、この刀は銃にも及ぶ武器としてゾロは使用していた。

 いや、ゾロにとっては銃よりも刀の方が殺傷能力の高い武器と言えよう。

 遠くに物を飛ばすことはできないが、身近な相手に確実に致命傷を与えることができる。

 瞬殺などお手の物だ。

 弾丸を逸らすこともできるし、物を破壊するのには最高の道具であった。

 いつもその刀を腰にぶらさげおり、放身放さず持っている。

 今もゾロの腰には刀が揺れていた。

 ふと見た先に、シャンクスの姿が映りゾロは一瞬息を呑んだ。

 ルフィはその様子に気づきもせず、

「ゾロ!どうしたの、珍しいじゃん?屋敷にいるなんて」

 久しぶりに会えた嬉さか、顔を綻ばせている。

「仕事だ。又、今日からここの警備をやることになった」

「ここの?じゃあ、又ずっと一緒にいれらるのか?」

「ずっとじゃねーけど・・・。まあ、異動しない限りはな・・・」

「やったぁ〜!じゃあ、一緒に遊べるね!」

「・・・遊べるってお前な・・・。俺は仕事に来てるんだよ、仕事・・・」

「いいじゃん、たまには」

「お前のはたまにじゃねーだろ」

 少し顔を顰めながら言う。

「まあまあ、ゾロ君だっけ?いいじゃない。一緒に遊ぼうぜ」

 するとシャンクスが会話に入り込んできた。

「アンタ――――」

 ゾロが何かを言いかけようとしたとき、

「じゃあ、決定!今から昼飯までバスケをやる予定なんだ。ゾロも一緒にやろう!」

 ルフィは右腕を上げ、意気込んだ。

「おいおい、勝手に決めるなよ。警備が遊んでちゃ警備にならねーだろうが」

「大丈夫だよ。だってこの主の子供の言う事だよ?1人ぐらい一緒に遊んでも大丈夫さ。もし何か言われたら俺が責任を持つ」

 シャンクスにそう言われて、

「・・・わかったよ。でも、アンタが責任を持つことじゃない。責任を持つのは俺だ」

 ゾロは渋々頷いた。

 強い光を内に秘めながら。

 シャンクスはそんなゾロを見て、にやりと笑った。

「面白いな、君は・・・」

 ぼそっ、と言葉を漏らす。

「なあ、早く行こうよ。早くしないと昼飯の時間になっちゃう」

 まだかまだか、とルフィは二人の顔を見る。

「ったく、仕方ね―な・・・」

「全く、子供なんだから・・・」

 ゾロとシャンクスは同時に言葉を言った。

 声が重なり、お互いに二人は顔を見合わせる。

 目が合った瞬間、にやりと笑った。

「何だよ、二人して。もういい!俺、先に行ってる!」

 むぅ、と顔を膨らませてルフィは先に歩き始めた。

「おい、ルフィ。ちょっと待てって」

「そうだよ。お前がいなくちゃ場所わかんねーだろ」

 ゾロとシャンクスが交互に言う。

 ルフィは振り返ると、

「ゾロなら場所知ってるよ。小さい頃俺たちがよく遊んでいた場所」

 そう言った。

「ああ、あそこか」

 昔懐かしい場所が思い出される。

「じゃあね!」

 少し怒った口調で言うとルフィは駆け足でその場を去っていった。

 遠くのほうで、

「こら、ルフィ!走るんじゃないの!」

 とナミの声が聞こえてくる。

 その声に二人はくすり、と笑った。

「ったく、相変わらずだな・・・。あの、バカ」

 自分の雇い主である息子に暴言を吐く。

 勿論これは罵声等というものではない。

 どこか親しみがこもった言い方をした。

 これも幼馴染の特権と言えようか。

「前からルフィはああだったのか?」

 ルフィを見ているゾロにシャンクスは話し掛けた。

 ゾロはゆっくり振り返ると、眉間に皺を寄せた。

「・・・まあな。―――で?なんでアンタがここにいるんだ?海軍のシャンクス大佐殿」

 ここにいるはずのない人物にゾロは不信に思う。

 所属は違うが、上官であるシャンクスにゾロは為口を聞く。

 まあ、これはいつものことだが。

 シャンクスはそれを気にする様子もなく、言葉を紡ぐ。

「ゾロ軍曹。ここではシャンクスと呼んで貰おうか」

 少し命令口調に言う。

「・・・・了解。じゃあ、改めてシャンクス。何でアンタがここにいる?」

「龍崎氏に頼まれてね。あの子の家庭教師をやってくれって」

「へぇ〜。アンタが家庭教師。こりゃ傑作だ!泣く子も黙る赤髪のシャンクスが家庭教師。一体あのおっさんは何を考えているのかね」

 くくくっ、とゾロは笑う。

 赤髪のシャンクスと言えば知る人ぞ知る幹部の1人だ。

 今まで一度も任務に失敗したことがなく、完璧にこなしていた。

 戦闘能力も他の隊員とは雲泥の差である。

 元から髪の色は赤いのだが、戦闘の時に相手の返り血を浴びて全身が真っ赤になるまで戦いを続けたという伝説が残り、今

では髪の色だけではなく血に塗られた大佐として、赤髪のシャンクスと呼ばれているのだ。

 今は大佐という位だが、実力では大将並である。

 しかし大将は年齢のいった人がその位についていた。

 今までの実戦経験を踏まえて、戦略を練る。

 年齢のいったと言っても、頭脳は勿論の事戦闘能力に衰えがあるというものの、並の隊員には到底及ばない。

 年齢がいったからとかの天下りでは到底この大将の任には付くことができなかった。

 それほど“D”の軍隊能力は高い。

「龍崎氏をおっさん呼ばわりか。流石鷹の目の愛弟子ではあるな。言う事がそっくりだ」

 自分と対等の力を持っている鷹の目、ミホークを思い出す。

 ミホークは暗殺部隊の大佐である。

 ゾロはその直属の部下と言ってもいいだろう。

 実力的には曹長よりももっと上の位になる。

 ミホークもそれがわかっていて、自分の手元に置いた。

「るっせー。アイツと一緒にすんな」

 どうやらゾロは誰も敬ってはいないらしい。

 直属の上官であるミホークにでさえ、アイツ呼ばわりだ。

 くすくすっ、とシャンクスは笑う。

「面白いな〜、君は」

「そりゃどうも。・・・シャンクス、アンタいつから家庭教師なんていうものをやっているんだ?」

「1週間前からだ」

「1週間前・・・。俺が軍令を受けた時だ」

「軍令を?・・・ふ〜ん。何を考えているのかね〜。あの人は」

 シャンクスもあの人呼ばわりする。

 これを傍で内部の人間が聞いていたら、たじたじものだ。

 特にお偉いさんが聞いていたら、顔をしかめるだけではすまないだろう。

 色々なお小言を頂くに違いない。

「さあな。とりあえず俺は軍令を受けたからには指示通りに動くさ」

 その言葉を聞くと、シャンクスは口元を吊り上げた。

「それでこそ軍人だ」

「一応そうなんでね。・・・まあ、少し様子を見てみるか。アンタもその口だろ?」

「・・・さあ?どうだろう」

「・・・食えねー奴だな」

「お前に食ってもらいたくないね。さささっ、機嫌を損ねている王子様の元へ急ごうぜ」

 シャンクスはゾロを促す。

「大丈夫ださ。体を動かせばその内アイツの機嫌なんて良くなるさ」

「おっ!流石は幼馴染。よくルフィの事知ってるね〜」

 ゾロは少しだけ微笑むと、

「じゃあ、行くか。案内するよ」

 そう言ってシャンクスをルフィの居場所まで案内した。

 

 

 

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