寒い冬。

 木々は枯れ、冷たい風が吹きすさぶ季節。

 この時期はとても風邪を引きやすく、体調を崩す時期でもある。

 その時期に水の中に飛び込んだ子供がいた。

 自分の身を省みずに・・・。

 

 

 

 

 

 

「もう、なんで池に飛び込むのよ。風邪引いちゃうでしょ?」

 マキノはエースにお風呂に入らせながら、言った。

 浴槽の隣でその原因となった猫をぬるま湯で洗う。

「だってソイツが池に入っちゃたんだもん。だから助けようと思って・・・」

 エースはガチガチと葉を鳴らしながら言った。

「だからと言って何も飛び込むことないじゃない。他に方法がなかったの?」

「・・・なかった。ソイツを助けようと思うことでいっぱいだったから」

 しゅん、とした表情で下に顔を向けた。

「何も助けるなとは言わないけど、子供だけで池に飛び込まないでちょうだい。あの池は結構深いんだから、溺れたら大変よ」

 マキノは少しきつい口調で言う。

 もしものことがあったら、と考えたらマキノはきつく言ってしまったのだ。

 ただでさえ、子供には体力がないのに、服を着たままで水の中で泳ぐのはものすごく大変なことなのだ。服に水分が吸収されて重くて動けなくな

ってしまう。

 それにこの時期はとても寒く、風邪を引きやすいのだ。

 そんな時期に水に濡れたままの状態で外にいたのだ。

 これでは風邪を引いてくださいと言わんばかりの状況だ。

「ごめんなさい・・・」

 エースは心の底から謝った。

 なぜマキノが厳しい口調で言ったのか、エースにはわかっていた。

 自分を心配してくれて言っているのだと。

 マキノは深くため息をつくと、

「わかってくれたならもういいわ。さっ、もうあがって暖かい飲み物でも飲みましょう」

 そう言うとマキノは猫を抱いて脱衣所に言った。

「うん」

 エースは少し悪寒を感じながらも風呂を後にした。

 

 

 

 

 

 

 やはり予感は的中した。

 エースは風呂から出て、飲み物を飲んでいるとマキノに自分の体調不良を訴えた。

 熱を測ってみると微熱の37.3分あった。

「やっぱり風邪ね。今日は大人しく寝なさい」

 薬をエースに差し出し、水で飲ませた。

「ルフィ、いい子だから今日は一緒にお母さん達と寝ましょう」

 マキノはルフィにまで風邪をうつさせてはならないと、自分達の部屋で寝ようという案を出した。

 するとルフィは首をプルプルと振り、

「やだ!!エースっと一緒に寝るの!」

 エースの近くに寄ってぎゅ、と手を握った。

「駄目よ、ルフィ。今日はお母さん達と寝るのよ」

「やだやだ!エースも一緒がいい!!」

 ルフィが大声で怒鳴った。

 その声がエースの頭に響く。

 ズキ、ズキ。

 ルフィ・・・。それ以上叫ばないでくれ。

 痛む頭を抱えながらエースは言った。

「・・・・ルフィ。今日だけだよ。今日だけお母さん達と一緒に寝てくれよ。明日は一緒に寝よう」

 本当はエースもルフィと一緒に寝たいのだが、ルフィに風邪をうつさせる訳にもいかないので、ルフィをなんとか宥める。

「エースまで!・・・だってエース辛そうなんだもん。こういう時はエースの側にいたいもん」

 言いながら大きな目からポロポロと涙が零れ出した。

「ルフィ・・・」

 マキノはどうしたものかと、途方にくれる。た。

「ルフィ、これ以上駄々をこねるともう一緒に遊んでやらないぞ」

 エースはぼーっとした頭で言った。

「えっ・・・。やだ!それもやだ!」

「じゃあ、今日はお母さん達と寝なさい。今日だけ一緒に寝てくれたらずっと一緒にいてやるから」

 なっ、とエースは微笑む。

 いや、微笑んだのかどうか自分でもわからない状態でいた。

 頭がぼーっとしすぎて自分で何をしているのかわからないのだ。

「うん、わかった。明日は一緒に寝ようね」

 ルフィは涙ぐみながらもこくん、と頷いた。

「じゃあ、ルフィ。お母さんはお兄ちゃんを部屋まで連れて行くから先にお母さん達の部屋に行っていてね」

 マキノはエースを抱っこすると部屋まで連れて行った。

 部屋に着くとベットに寝かせて、いつもよりも数枚多く毛布を掛ける。

「枕もとにお水を置いておくわね。喉が渇いたら飲みなさい。・・・後、何か食べたいものある?」

 我が子が苦しんでいる姿を見て、マキノは何かしてやりたい気持ちでいっぱいだった。

「うんん。何もいらない・・・。とりあえず今は寝たい」

「そう。・・・じゃあ、お母さん達下にいるから何かあったら呼んでちょうだい」

「うん。・・・ありがとう、お母さん」

「いいのよ。―――さっ、ゆっくり寝なさい」

 おやすみ、と言ってマキノは部屋を出て行った。

 するとエースはものの5分と経たない内に眠りについた。

 

 

 

 

 

 あまりの寒さにエースは目が覚めた。

 一度目が覚めると、中々寝付けないでいた。

 気のせいかさっきよりも熱が上がったような感じがする。

 このままでは熱がさがらないと思って、なんとか寝ようとするがエースは全然眠れなかった。

 眠りからの意識がはっきりとしてくると、この部屋の静けさがエースに伝わってきた。

 いつもならこの部屋にはルフィと一緒に寝ているはずなのに、今日はルフィがいない。

 そう思うとエースはなぜだかむしょうに寂しく思えてきた。

 この部屋には自分ひとりだけで、他の部屋には親子3人で寝ていると思うと、自分だけが除け者にされているかのような錯覚に陥った。

 自分からルフィを拒んだはずなのに、なぜ・・・。

と馬鹿馬鹿しい考えにエース自嘲気味に笑う。

しかしその笑いも虚しく思えてきた。

「ルフィ・・・」

 ぼそっとエースは呟いた。

 返事をしないことはわかっている。

 しかし呼ばずにはいられなかった。

 熱のせいで多少なり心細くなっているらしい。

 すると、

「な〜に?」

 ベットの下からルフィの声がした。

 えっ?!

 エースはだるい体をなんとか起きると、ベットの下を除いた。

「ルフィ!」

 見るとちょこん、と毛布を体に巻きつけながら床に座っているルフィの姿があった。

「な〜に?エース」

 くりくりとした目でルフィはエースを見た。

「お前こんなところで何してるんだよ!」

「だってエースがひとりじゃ寂しいかなと思って」

 しししっ、とルフィは笑った。

「お前・・・」

 エースは涙が溢れそうになった。

 ルフィの気持ちがとても嬉しい。

「ルフィ・・・。ありがとう。―――でも風邪引いたらどうするんだ?俺の側にくると風邪がうつるぞ」

「平気だよ!俺は風邪なんか引かないもん。絶対大丈夫!!」

 ルフィは自信満々に言った。

「どっからそんな自信がでてくるんだよ」

 エースはははっ、と笑った。

 すると、ルフィはぐしゅっ、と鼻をすすった。

「あっ、お前鼻すすってるじゃないか。俺の風邪うつったんじゃないか?」

「引いてないよ。何ともない。だから、今日は一緒に寝よう?」

 枕を抱えてエースに見せた。

「駄目だよ。それこそ本当に風邪がうつっちゃう」

「いいもん。平気だもん」

 そう言うとルフィはベットに乗ると毛布の中に潜り込んだ。

「ルフィ!」

「平気、平気。さっ、寝ようエース」

 枕を置いて寝そべった。

「ったく・・・。本当に風邪を引いても知らないぞ」

 エースはそう言いながらも顔が緩んでいる事を抑えることができなかった。

・・・俺はひとりじゃないんだ。ルフィがいる。

エースは安堵感からかあっという間に眠りについた。

 

 

 

 

 朝になるとエースの熱はすっかり下がっていた。

 頭痛や悪寒がとれていて、元気いっぱいだった。

 やはりルフィと一緒に寝ていた事は起こられた。

でもマキノはルフィが枕を持って部屋を出て行った姿を見ており、しょうがないとあきらめていたのだ。

 念の為、ルフィの熱を測ってみたら・・・。

「37.0・・・」

 マキノは深くため息をつくと、ルフィに学校を休ませて部屋に寝かしつけた。

 エースは学校に行く前に、ルフィにそっと耳打ちをした。

「ルフィ、今日も一緒に寝ような」

 にっ、と笑うとルフィは、コクンと頷いた。

「うん、絶対だよ」

 にこっ、と微笑んだ。

 

 

 

 

 

 マキノの苦労をわからずに二人はしばらくの間交互に風邪を引き合っていたのだった。

 その度に深いため息をつきながら、二人の看病をしていた。

 

 

 

 

「全く・・・。兄弟って仲が良いのも考えものね・・・」

 

 

 

 そう言って又深いため息をつくのだった。

 

 

 

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