「ふぁ、ふぁ、ふぁっくしょんっ!!!」 大きなクシャミをした後に、ずびーと鼻をすする。 「お頭、風邪引きの状態でうろつかないで下さいよ。余計に悪化しちゃいますよ」 下っ端の船員が言った。 「うるせー。俺がどうしようと勝手だろ。―――それよりルフィは?」 「はい?」 「ルフィだよ。ルフィ。アイツ、今日ここに遊びに来るはずなんだが・・・」 シャンクスは辺りをキョロキョロと見回した。 「ああ、ルフィならついさっきまで・・・」 そこに居ましたよ、と船員が言う前に、 「シャンクス見―っけ!」 ルフィは見つけるなりシャンクスを目指してぴょん、と飛びついた。 「おっと。ルフィ、今日も元気だな」 体重の軽いルフィを片腕で支えた。 「しししっ、俺はいつも元気だぞ。でもシャンクス、今日はあんまり元気そうじゃないな」 いつもより目がとろ〜ん、としているシャンクスを見てルフィは言った。 「そうか?俺はルフィに会えたから元気だけどな」 にかっ、とシャンクスは笑った。 「ならいいけど」 そう言うとルフィはシャンクスの腕から飛び降りた。 「今日は何して遊ぼうか?」 「そうだなー、今日はちょっと外寒いから中で遊ぶか。中には美味しいお菓子とジュースが待ってるぞ」 鼻水が垂れそうになるのをぐっと、こらえながら言う。 「お菓子とジュース?!よし、今日は中で遊ぼう」 自分からさっさと中に入っていく。 「現金なやつ・・・」 ずー、と鼻をすする。 「シャンクス、何やってんだよ。早く中に入ろうぜ」 扉からひょっこりと顔を出してシャンクスを誘った。 「はいはい、仰せのままに」 ったく、ガキなんだから・・・。 軽くため息をつくとシャンクスはルフィに促されるまま中に入っていった。 ++++++++++ 「ったく・・・。本当に現金なやつだぜ」 横で寝ているルフィの頬をツンツン、と突っつく。 食堂でに入ってお菓子を食べてて話してたのはいいが、その後お腹いっぱいになったのかすぐに寝てしまったのだ。 「あれ?お頭。ルフィ寝ちまったのか?」 ベンがやってきて目の前に腰を落とした。 「ああ、見てのとおりだ」 ルフィの頬を両方つまんで、伸ばした。 「ほれ、こうしても起きないだろ?」 ルフィはう〜、と唸るだけで起きはしなかった。 「らしいな。・・・じゃあ、ルフィは俺のベットで寝かせておくからお頭も寝たらどうだ?」 「ああ?何言ってやがる?何でルフィがお前のベットで寝なきゃならんのだ。寝かせるなら俺のベットで寝かせる!」 冗談じゃない!とシャンクスはベンを睨んだ。 「お頭、意味吐き違えるなよ。俺はあんたが調子悪そうだから言ってるんだ。今だって顔真っ赤にしているくせに。・・・熱、あんだろ?」 「・・・ねーよ」 「嘘付け。そんな顔をしても説得力ねーよ。大人しく自分の部屋行って寝てろよ。ルフィが起きたら起こしに行くから」 ベンは席を立つとルフィに手をかけた。 「待てよ」 シャンクスはベンの手を掴んだ。 「お前、ルフィに何にもしないだろうな?」 ちらっと横目でベンを見る。 ベンはそんなシャンクスに軽くため息をつきながら、 「当たり前だ。お頭のお気に入りに手を出すほど俺は落ちぶれちゃいないぜ。それにお頭の風邪がルフィにうつったらどうするんだ?」 その言葉にシャンクスの眉がぴくっと動いた。 「そうだったー!俺の可愛いルフィに風邪なんか引かしちゃならん!!いいか、ベン!!俺にルフィをしばらく近づけるなよ!なるべく早く治してくる から!!!」 そう言うとシャンクスは席を立った。 「お〜い、船医!船医はいるかーーー!!!!早く俺の風邪治せ〜!!!」 そう言いながらシャンクスはどこかへ掛けていった。 「・・・ルフィのことになるとあの人は馬鹿になるんだからな」 くすっ、と笑うとベンはルフィを抱えて自分の部屋に連れて行った。 +++++++++ 眠りは人の声で覚めようとしていた。 「・・・なんだ?」 シャンクスは重い瞼を開けようとしたが中々開かなかった。 扉越しに聞こえるためぼそぼそと聞こえる。しかし意識がはっきりしてくるとよく聞こえるようになった。 「だってシャンクス風邪引いてるんでしょ?」 「ああ、だからお前は側にいちゃいけないんだよ。側にいったらお前まで風邪がうつるぞ」 「いいもん。シャンクスの風邪ならうつってもいいもん。だから副船長、シャンクスの側にいてもいいでしょ?」 「駄目だ。お頭に言われてるから。お前を近づけるなって」 「いいじゃん。俺が近づきたくて近づくんだから」 「駄目だよ。ほら、帰った。送っていくから」 「いやだ!シャンクスの側にいるの!」 シャンクスは聞こえてくる会話につい笑みが洩れる。 「しゃーねーな」 ルフィの想いがとてつもなく心地いい。 「おい、ルフィ聞こえるか?」 シャンクスはなるべく大きい声を出す。 「シャンクス?」 「起きてるのか?お頭」 「起こされたんだよ。とりあえず入れよ」 その言葉に二人は大人しく入ってきた。 「シャンクス大丈夫?平気?」 ルフィは心配そうな顔で聞いてくる。 「ああ、大丈夫だよ。このぐらい。こいつらがおせっかいすぎなんだよ。どうってことはない」 「そっか。よかった」 ほっとした表情を浮かべた。 「じゃあ、俺はもう用済みだな。お頭、安静にしてろよ。なるべくな」 ベンは最後の言葉を強調すると部屋を出ていった。 「シャンクス、俺シャンクスの側に居てもいいの?」 「えっ?なんで」 「だって副船長がさっき、俺をシャンクスの側にやるなって言われてるって言ってたから」 ルフィは上目遣いで聞く。 その姿にシャンクスは口元が緩んでしまう。 上目遣いがとても可愛い。思わず抱きしめたくなる。 「もう大丈夫だよ。大分よくなったから」 ルフィが側にいるだけで体が休まる気がする。 この言葉に嘘はなく、さっきよりはとてもよくなった。 「おいで、ルフィ。一緒に寝よう」 「いいの?」 「ああ、かまわないさ。それにもう夜は遅い。こんな時間に帰せないよ。だから今日は泊まっていくといい」 おいで、とシャンクスは腕を伸ばした。 ルフィはそれに逆らう事もなく、シャンクスの隣に横たわった。 シャンクスはルフィをぎゅ、っと抱くと、 「お前、暖かいな。すげー暖かいよ」 「シャンクス・・・。シャンクスの方が暖かいよ。ぽかぽかする」 「そうか?―――ルフィ、今日このまま寝てもいいか?」 抱きしめた状態で聞く。 「いいよ。俺こうしてると何か落ち着くし」 ルフィはすりすりとシャンクスに頬擦りした。 「そうか。俺もだよ。俺も、こうしてると落ち着く・・・」 そう言ったらシャンクスの腕から力が抜けた。 すー、と寝息が聞こえてきた。 「シャンクス?」 ルフィは顔を覗き込んだ。 すると気持ちよさそうに寝ている。 「寝ちゃったの?」 そう呼びかけるけど何の返答もなかった。 「ちえっ、寝ちゃったのか」 ぷぅ〜、と頬を膨らませた。 仕方なくルフィはシャンクスの腕の中に収まった。 「おやすみ、シャンクス」 そう言うとルフィはシャンクスの温もりに包まれながら眠りに入った。
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