AM7:45。 ルフィはいつも学校へ通う道を通る。 まだこの時間だと空気が冷たい。風が身体を冷やそうとする。 もうそろそろかな? ルフィは腕時計を見る。時計の針はAM7:47を指していた。 この角を曲がるとあの人の姿が見えるはず。鼓動が早くなっていくのを感じながら角を曲がる。 いた。 あの人だ。 一直線に並びお互い正面を向き合う。 ルフィはいつの間にかポケットに入れていた手を握り締めていた。手が汗ばんでいるのがわかる。 ルフィは真っ直ぐに見れないのか、正面を見ては下を向き、正面を見て横を向くという傍から見ると変な人に見られるような行動を起こしていた。 相手はゆっくりとこっちに向かって歩いてくる。赤い髪をかきあげる。その仕草にもルフィはドキッ、とする。 ここを通るたびにあの夢が現実になれば、と思う。 最近見始めるあの人と会う夢。 夢の中ではすれ違うと向こうが振り返り、俺に話し掛けてくる。俺は舞い上がって思うように話ができない。向こうは笑いながら俺をデートに誘うという夢。 ただそれだけの夢。だけど今はその夢が現実になってほしいと願う。自分から話し掛けるのはとても怖い。 いきなり話し掛けられたかどんな風に思うだろうか?それも知らない奴だ。気味悪がってもしかしたらもうこの道を通ってはくれないかもしれない。 そう思うとなかなか話すきっかけができない。嫌われるよりはこの一時だけでもこの人を見られるのならそれでもいいと思った。だからこのままで・・・。 そんな思いがもう1ヶ月近くにも及んでいた。 ルフィはちらっと、見るとまた相手は髪をかきあげていた。流れる髪と長い指に目が止まる。 真似をしようとしてルフィも髪をかきあげる。しかし髪が短いせいかパサッ、と落ちるように髪は元の場所に戻った。あれは前髪が長いと目に入るからかきあげて横に髪を持っていくだけであって、ルフィのように短いとあまり効果はない。それはルフィにもわかっていたが、真似をせずにはいられなかった。 俺ってバカ・・・。 ルフィがそう思いながら相手の人とすれ違う。 「あの、そこの学生さん?ハンカチ落しましたよ。」 思いもよらない声がルフィを振り向かせる。思ったより低い声。 「ほら。」 目の前に出された青いハンカチ。 「えっ。」 ルフィはポケットにしまってあるはずのハンカチを確かめる。 「・・・ない。」 「そうりゃそうだろう。だってさっき君のポケットから落ちたんだから。」 相手はニコッ、と笑う。 ルフィはその笑顔にめまいがしそうだった。 「どうした?君。固まっちゃって。」 相手の人は不思議そうにルフィを見た。 「い、いえっ。何でもないです。ありがとうございました。」 ハンカチを受け取りポケットの中にしまいこみ、一礼をする。 「いえいえ。――ねえ、君いつもここ通ってる子だよね。最近この時間になると大体この場所で見かけるからさ。」 相手はまた髪をかきあげた。 覚えていてくれたんだ!嬉しいっ!! ルフィは歓喜のあまり少し涙目になる。 「・・・学校がこの近くなんだ。」 「そっか。じゃあ、又明日ここで会えるかもな。」 「えっ?」 ルフィは聞き違いじゃないかと自分の耳を疑う。 「明日も学校だろ?だったら又明日ここで会うじゃないか。」 そう相手は言うとピリィリィリィ、と携帯の呼び出し音が鳴った。 「あつ、悪い。俺みたいだ。――じゃあ、又明日会おうな。」 そう言うと相手は携帯に出て向こうへ歩いていった。 残されたルフィは呆然と立ち尽くしていた。 「うっそー・・・。」 夢が現実になったことが信じられなくてルフィは頭が混乱していた。しかし混乱している頭でも一つだけ確かなことがあった。 「また、明日な・・・。」 ルフィは相手が言った言葉を自分の口で言ってみる。自分で言ってみるとそれが現実なんだとだんだん確信してくる。 ホントに俺、あの人と話ししたんだ。夢じゃないんだ。 「やったぁぁぁ!!」 ルフィは現実だとわかると喜びのあまり雄叫びをあげた。 「俺、あの人と話したんだ。また明日だって。」 何度も何度もルフィはその言葉を繰り返す。自分に言い聞かせるように。 しししっ、とルフィは笑った。 風がルフィの身体をなでるが、寒さは全く感じられなかった。心が暖かくて逆にポカポカしてくる感じだ。学校へ向かう足取りも軽くなり、スッキプを踏みたくなる。 まだ世間では冬が降臨しているが自分だけには春が来たと思った。自分だけに来た春。 「さあて、今日も1日頑張るか!!」 ルフィはそう叫ぶと走りながら学校へ向かった。 |
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