何だ・・・・・・、あれ・・・・・。 沢田は目を見開きながら、目の前の事態を見つめた。 どういうこったよ!! 愛している女が他の男と抱き合っているのだ。 思いもよらない場所で。 信じられない光景に握りこぶしを作る。 足が地面に張り付いて動けない。 いや、動こうとしないのだ。 足と地面が一体化したみたいな感じだ。 沢田はぎりっ、と歯を食いしばりながらそれを見ていた。 すると、沢田はいきなり重い足を地面から切り離しそれに目掛けて走って行く。 「クソ教頭、ぶっ殺す!!」 そう叫びながら。 時は3時間前に遡る。 「山口先生。ちょっとお話があるのですが・・・」 少し言いづらそうに猿渡が久美子に言った。 「何でしょうか?教頭」 久美子は振り返り、スマイルを振りまく。 「その気持ち悪い笑みやめてください」 「なっ!」 久美子はピクピクとこめかみを痙攣させる。 「それよりも今日お暇でしょうか?」 「はっ・・・?と、いいますと?」 「だから今日の夜お暇でしょうかと言っているのです。どうなのですか?」 眼鏡を上に持ち上げながら言う。 「それは私をデートに誘っているわけですか?!」 「何をバカなことを・・・・」 「バカとは何ですか、バカとは!!」 目じりを吊り上げる。 「大声を出さないで下さい」 「☆◆○%&!!!」 久美子は口をパクパクとあける。 まるで金魚みたいだ。 猿渡はそんな久美子を無視して言葉を続けた。 「私はただ家内に貴方を連れてくるように頼まれましてね。私とて本当は学校が終わってからも貴方と一緒にいたくはないのですが・・・。家内の言うことならば仕方ないとおいまして」 ふぅ〜、と首を振る。 しんどいといった表情だ。 「奥様が私に・・・?まさか・・・」 久美子の顔が少し引きつる。 「わかります?」 「なんとなく・・・」 「なら話は早いですね。山口先生、貴方にまたお見合いの話があるそうです。授業が終わったら職員室で待っていてください。いいですね?」 ぎょろっとした目で睨まれて、久美子は思わずこくりと頷く。 「では、又後で・・・」 そう言うと猿渡はふぅ、と溜息をつきながら久美子の前を去っていった。 「また見合いか・・・・。私の方が溜息つきたいよ・・・」 久美子は項垂れながらも、教室に入っていった。 ********** 2時間後、久美子は授業をやり終えると職員室に戻った。 待ってましたとばかりに猿渡は立ち上がる。 「山口先生。もう時間がないから行きますよ」 早くと視線を促す。 「ちょっと待ってください!少し休ませてくださいよ」 3―Dを相手に授業をしているので、使う体力は半端ない。 へとへとになって久美子は椅子に座る。 「駄目です。17時に家内と待ち合わせしているので」 「そんなこと言われても・・・」 ぐで〜と机の上にうつ伏せになる。 「はいはい、うら若き乙女がそんな事をしない。いい女が台無しですよ」 歯を浮かせながら心にもない事を猿渡は言う。 その言葉に久美子は急に起き上がり、笑顔になった。 「えっ?うら若き乙女って、いい女って私のことですか?いや〜、まいっちゃうな。さあ、教頭何してんですか。さっさと行きましょう!!奥様を待たせないようにしないと」 久美子は意気揚揚と席を立ち上がる。 「そうですか。ならば早く行きましょう。―――じゃあ、他の先生方後はお任せしましたよ」 猿渡はにやっ、と笑う。 その笑顔は不気味に怖い。 「山口先生、頑張って下さいね」 「がんばりーや〜。応援しとるで〜」 「明日感想聞かせてくださいね」 「応援してますよ」 各々の先生方が久美子を励ます。 「はいっ!山口久美子、一生懸命に頑張らせていただきます!!」 久美子はガッツポーズをつけると、猿渡と一緒に学校を去った。 残った先生は、 「又山口先生教頭にはめられましたな」 「ええ、本当に・・・」 「一体何度お見合いさせるつもりでしょうかね?」 「さあ?」 「山口先生もはりきっているのでいいんじゃないですか?」 「そうですね」 「もう、この際傍観者してましょうよ」 「それ、賛成です」 「明日どうなったか楽しみですな」 先生方は毎度行われている光景を目にして、後残り少ない今日の仕事に精を出した。 ********** 「ちょうどいい時間ですね。10分前には着きそうですよ」 「そうですか?それは良かった」 にこにこと久美子は笑って言った。 まだ先ほど言われた言葉が久美子にとって嬉しかったらしい。 するとその時、どんっ!と久美子の肩に誰かがぶつかって来た。 「った!」 つんのめり、地面に手をつきそうになる。 それを何とか踏ん張り、ぶつかった相手を睨む。 いや、睨もうとしたがぶつかってきた相手は既に逃走していた。 気付くと肩にかけていた鞄がなくなっている。 「あぁ〜〜〜!!!やられた!!あの野郎!!!」 久美子は目くじらを立てる。 「教頭!少しここで待っていてください!」 そう言うと久美子は速攻でぶつかって来た相手を追いかけた。 「あっ!ちょっと、山口先生!」 猿渡は少し戸惑うが、久美子の後を追いかける。 「待ちやがれ!この私から逃げられると思うなよ!」 久美子は全力疾走で追いかけた。 物凄いスピードだ。 しかも怖い形相で睨んでいる。 追いかけられている奴はその久美子の形相に驚き、体をびくっとさせる。 その反動で足が少しもつれて、転んでしまった。 「よっしゃ!!」 ぱちんっ!と指を鳴らし勢い良く相手の上に乗っかった。 「ぐほっ!」 久美子の重みで相手は咳き込む。 「この大江戸一家の私から逃れられると思うなよ!」 久美子はそう言うと腕を縛り上げて、関節を外す。 「ぎゃーーーー!!」 痛みで額に脂汗が浮かんでいる。 「お、大江戸一家だと?!あのやくざの・・・」 低い声が焦りを交えながら太い喉から紡ぎだされる。 「おぅ!わかってんなら話がはえーや。ちょっと落とし前つけさせてもらおうか?」 久美子はドスの入った声で脅す。 「ひっ!!!」 男の顔が青ざめた。 「や、山口先生!だ、大丈夫ですか?!」 猿渡が一生懸命になって走って来た。 ぎこちない走り方で2人に近づいてくる。 「教頭・・・」 久美子が猿渡の出現で力を抜いた時に、男は久美子を突き飛ばした。 「きゃ!」 思いもよらない反撃に少し驚く。 男は関節の痛みを堪えて、その場から逃げ去った。 「あっ!こら、待ちやがれ!」 久美子は追おうとしたが、猿渡が来た事で追うのはやめた。 追ったら猿渡も一緒に追ってくるに違いない。 それに男は逃げる事で精一杯だったので、鞄をその場に忘れていったのだ。 ふぅ、と溜息をつきながら鞄を拾った。 ぱんぱん、と砂を払う。 「だ、大丈夫でした・・・?」 はぁはぁ、と肩で息をして久美子の前に立つ。 両手を膝に乗せて、少し休憩をする。 「大丈夫ですよ、何も取られてないみたいですし。ありがとうございます。教頭」 にこっと久美子は笑う。 「そ、そうですか・・・。それならが良いのですが・・・」 久美子を辞めさせた事件から猿渡の態度は少し変わった。 前よりは敵対視しなくなり、優しく接するようになってきたのだ。 「あの、教頭?そろそろ行きませんか?もう時間もないようですし・・・」 「あっ!そうですね。・・・でもいいんですか?被害届を出さなくても?」 「・・・警察沙汰になるのは嫌いなんです。それに少しお返しをしちゃいましたし」 ぺろっ、と舌を出す。 その言葉を聞いて猿渡りは少し不思議そうな顔をしたが、そうですか、と言ってその場を去ろうとした。 すると目の前の場所に2人は唖然とした。 「あっ!」 「なっ!」 2人の目が大きく見開かれる。 「こ、ここって・・・」 「・・・こっほん!こんな如何わしいところから早くでましょう!」 咳払いをすると、猿渡は足早にその場から去る。 「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!」 久美子は急いでその後を追った。 ちらりと横を見ると、夕方なのであまり目立ちはしないが、色々な色のネオンが光り輝いている。 胡散臭い名前が退き連なっていた。 看板を見ると、休憩や宿泊等の金額が記されている。 久美子は少し頬を赤く染めると、急いでその場から去った。 ホテル街から出ると、二人は視線を合わせ顔を逸らす。 「や、山口先生。は、早くここから移動しましょう」 声がつい裏返る。 「そ、そうですよね」 久美子はははっ、と乾いた笑いをした。 「あっ、山口先生。襟が乱れてますよ」 猿渡は無意識に久美子の襟に触れる。 「ありがとうございます。教頭」 久美子は治そうとして襟に触れると、猿渡の手とぶつかった。 「「あっ」」 ふと、2人の行動が止まる。 傍から見ると猿渡が久美子の肩を抱き、見詰め合っているように見える。 しかも場所はホテル街の入り口。 誰もがその行動を不自然に思わなかった。 そう、彼も―――。 「クソ教頭、ぶっ殺す!!」 遠くの方からどこかで聞いた事のある声が微かに聞こえた。 まさかと思いながら、久美子は声がした方向を見た。 「なっ、なっ、ささささささっ!!!」 物凄い形相でこっちに向かって走ってくる沢田に久美子は声が上ずる。 そして2人の前に現れると沢田は猿渡に殴りかかった。 「ばっ!!」 久美子は反射的に沢田の拳を止めていた。 「ひっ!!!」 寸前のところで猿渡の顔の前に止まる。 「何しやがんだ!沢田!」 きっ!と睨む。 「何しやがんだじゃねーだろ!アンタこんなところでこんな奴と何してんだよ!」 怒りの矛先を久美子に向ける。 「私はただここを通りかかっただけだよ」 「通りかかっただけだぁ〜?嘘こくんじゃねーよ。だったら何でこんなラブホ街の入り口で2人は抱き合っていたんだよ!」 「「はぁ〜?」」 久美子と猿渡の声が重なる。 「だ、抱き合ってなんかいないぞ!ね、ねぇ〜、教頭」 思いもよらない言葉に久美子は焦る。 「そうですよ!誰が山口先生なんかと抱き合いますか」 心外だ、と言わんばかりに胸を張って言う。 「ちょっと、教頭。それはないんじゃないですか?!」 なんか、という言葉に少しショックを受ける。 「今はそんな事を言っている場合ではないでしょう!それよりも早く行きましょう。家内に怒られてしまいます。沢田、お前もこんな所にいないで早く帰りなさい」 「嫌だね」 「何だと?」 「おい、ヤンクミ。コイツとどこに行く予定だったんだ?」 じとっと、見る。 その視線にびくつきながらも、久美子は答えた。 「へっ?・・・いや、その・・・」 正直に言っていいものかどうか少し悩んだが、 「教頭の奥様にお見合いを勧められてだな、ちょっとその話をしにホテルへ・・・」 「ふ〜ん」 冷たい視線が久美子に突き刺さる。 「俺がいるのに」 ぼそっ、と小さい声で呟いた。 「えっ?何?」 「なんでもねー。―――教頭。コイツは見合いなんかしないですよ。だからもう見合いの話なんて持ってこないで下さい」 真剣は顔になる。 「そんな事はお前には関係ないだろう。さっ、山口先生。行きましょう」 猿渡はこれ以上話していても仕方がないといった感じで、首を振る。 「関係なくないですよ。―――それに聞いてくださらないならここで抱き合っていたことを言いふらしますよ?抱き合っていなかったとしても場所が場所だけに、噂に尾ひれがついてとんでもないことになりますが。その噂が世間にでも知れたら大変じゃないですか?教頭?」 すぅ、と目を細める。 「きょ、脅迫するんですか?この私を?!」 「脅迫?やだな〜、人聞きの悪い。俺はただお願いしているんですよ。なんだったらキャバクラ嬢の事もついでに付けておきますか?」 その言葉を聞いて、猿渡は青ざめる。 「なっ!何でお前がそんなことを知って―――!!」 あたふたと騒ぐと、こっほん、と咳払いをした。 「山口先生。この話はなかったことにしていただきましょう。家内からは私が上手く説明しておきますので」 そう言うと猿渡りは悔しそうに沢田を見た。 沢田はにやりっ、と笑って猿渡りを見下す。 「くっ!!!・・・では、私はここで失礼させていただきますよ」 ふん、と言いながら猿渡はその場から足早に去っていった。 「あっ、ちょっと教頭!」 久美子はズンズン、と歩いて行く猿渡りに声を掛けた。 「おい、ヤンクミ。俺たちも行くぞ」 ぐいっ、と久美子の腕を引っ張る。 「ちょっと、沢田!」 「何だよ」 「お前教頭に向かってあの言葉はないんじゃないの?」 「・・・・・・・お前わかってないね」 「はぁ?何が」 きょとん、として顔で沢田を見る。 すると沢田は久美子の腕を引っ張りホテル街の道の死角になっている所に連れて行った。 壁に久美子の体を押し付ける。 「さ、沢田?!」 強い沢田の力に久美子は少し恐怖を覚える。 「アンタわかってないね。俺怒ってんだよ?物凄く。わかる?」 見下されて久美子は頷く。 「・・・はい。とても・・・。でも何で?」 沢田は溜息をつくと、 「怒るのは当たり前だと思うけど?好きな女が他の男とホテル街から出てきて抱き合っている姿を見てみろよ。これで怒らない方がおかしいぜ。それに見合いだぁ?アンタ一体何考えてんだよ」 最後の方が少し覇気が強くなった。 「ご、ごめんなさい・・・。つい、教頭の口車にのっちゃって・・・」 「で、俺がいるのに見合いなんかしようなんて思っちゃったわけだ」 「違う!断ろうかと思ったんだよ。でもついその場の勢いで。奥様に会ったらちゃんと断るつもりだったんだよ。ごめん・・・」 しゅん、と久美子の肩が下がる。 「じゃあ、もう一つ聞くけど何でホテル街から出てきたんだよ」 「あれは私の鞄が引っ手繰りに会ったから追いかけて出てきた所だよ。ちょっと乱闘になって、襟が乱れちゃって。そうしたら教頭が直そうとしてくれたんだ。で、私も治そうとしたら」 「抱き合っちゃったんだ」 「だから違うって!抱き合ってなんかいないよ。角度的にそう見えただけだろ?!何でそんなに疑うんだよ!私は本当に教頭とは何でもないんだから!」 キッ!と沢田を睨む。 「・・・お前・・・」 久美子の瞳は少し涙で潤んでいた。 「何で・・・信じてくれないんだよ・・・」 トンッ、と沢田の胸を叩く。 「何で信じてくれない・・・」 トン、トン、と叩く。 「お、おい・・・。泣くなよ」 沢田はどうしていいかわからずに、途方に暮れる。 「泣いてなんかいない」 「嘘つけ。じゃあ、その頬に伝っている物は何だ?」 指で涙を拭う。 すると沢田はその涙の跡に口付けをした。 「こ、これはただの水だ!」 少し赤くなりながら久美子は言う。 「あっ、そう」 そう言うと沢田は久美子を抱きしめた。 「さ、沢―――」 「信じてるよ」 「えっ?」 「信じてる。悪かったよ。つい、頭に血が上っちまって・・・。悪かった」 抱きしめる腕に少し力が入る。 「沢田・・・」 久美子も沢田の腕に応えた。 「だからもう泣くなよ」 「うん・・・」 コクン、と頷く。 「沢田」 「うん?」 「教頭を脅迫するとはいい度胸だな」 「・・・・お前この状況でそんな事を言う?ふつー」 いい雰囲気になったというのき気勢が削がれる言葉。 「だって仕方ねーじゃん?お前を連れ去るのはああ言った方が効果的だったんだから」 「でも・・・」 「でもはなし。いい加減俺だけのものになってくれよ。アンタ見てるとすっげー心配にな」 沢田は少し離れると久美子の顔をじーっと見た。 「何・・・?」 「なあ、これからいかねー?」 「・・・どこに?」 「どっかのホテル。丁度場所的にもいいし」 「なっ!」 ぼんっ!と顔を真っ赤にして口をぱくぱくさせる。 その様子を見た沢田はぷっ、と笑った。 「冗談だよ。冗談。―――さっ、ここから離れようぜ」 久美子から手を離し、背を向ける。 「さ、沢田!」 思わず久美子は制服の端を掴んだ。 「何だよ?」 「い、いや。なんでもない」 顔を真っ赤にしながら、顔を背けた。 「何?ホテル行ってくれるの?」 「っ!!」 その言葉を聞くと掴んでいた手を離す。 それを見て沢田は軽く溜息をついた。 すると久美子は沢田の肩を掴んで、ぐいっと自分に向ける。 「なっ・・・」 ちゅっ☆ 軽く唇が触れた。 「ヤ、ヤンクミ・・・」 久美子の方からキスしてくるのはこれが初めてで、沢田は驚きを隠せないでいた。 未だに久美子の方からキスしてきたとは考えられない。 しかし次の言葉がキスされたという事を実感させた。 「い、いずれ行ってやる。こ、心の準備ができたらな!」 久美子は背を向けて言う。 「・・・・・・・・何だ、それ」 嬉しい言葉に沢田は悪態をつく。 「な、何だと?!人が勇気を持って言ったっていうの―――」 久美子の言葉が最後までいう事が出来なかった。 沢田の唇で塞がれていたのだ。 「んっ・・・」 深い口付けを二人はする。 沢田は少し離すと、 「待ってるよ。お前が心の準備とやらをしてくれるのを。・・・でも、なるべく早くね。俺、若いから」 「が、頑張ります・・・」 2人は視線を合わせると、くすっ、と笑った。 沢田は少しでも自分に近づこうとしている久美子を思うと微笑まずにはいられなかった。 「好きだぜ、久美子」 そう言うと沢田は先程よりも深く口付けをした。 |
*****戯言***** お待たせ致しました!天桜様! ちょっとばっかり長くなってしまったすみません。 リクエストとおりになっているでしょうか? 不安ながらもUPしちゃいます!! |
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