4月1日。

 この日は赤髪海賊団のお頭、シャンクスにとってとても嬉しく思える日になった。

 この日いつもの様にルフィがマキノの店にやってきて、シャンクスに面と向かってある言葉を言い放ったことによって始まった。

「ルフィ、いらっしゃい。何する?」

 目ざとくマキノがルフィに声をかける。

「オレンジジュースがいい」

 満面の笑顔でルフィは応えた。

 マキノもその笑顔に応えるように、にこっ、

「オレンジジュースね」

 と笑って言った。

「よぉ、ルフィ。お前にしてはちょっと今日は遅いじゃないか」

 いつもの席にシャンクスが座って、酒を飲んでいた。

「シャンクス、おはよう。ちょっと用事があってね」

 よいしょっ、と声を出しながら椅子に座った。

「用事?ガキのお前にか?こりゃー笑える。どんな用事だよ」

 くくくっ、とシャンクスは笑った。

 ルフィはそんなシャンクスを見て、むっ、とした顔をする。

「シャンクスさん、そんなにルフィをいじめないでくださいよ。はい、ルフィ。オレンジジュース」

 そう言ってルフィの目の前にジュースを差し出した。

「いや、マキノさん。俺はルフィをいじめてなんかいませんよ。ただどんな用事があったのかな?と思って」

 シャンクスは慌てて弁解する。

 そのやり取りを聞いていた幹部達がシャンクスを囃し立てた。

「おいおい、お頭。あまり男の嫉妬はよくないぜ」

「そうそう、男の嫉妬は醜いぞ〜」

 ぎゃはははっ、とルゥとヤソップは笑った。

「なっ!・・・誰が嫉妬だ!誰がっ!!」

 顔を真っ赤にしてシャンクスは言う。

「図星さされて赤くなってやがる」

 くくくっ、とルゥが笑う。

 その言葉にその場にいた全員がシャンクスの顔を見て、笑った。

「・・・お前ら、余程死にたいらしいな」

 今まで赤くなっていた顔が影を差す。

 それまで笑っていた皆の顔が青ざめる。

「そ、そんな死にたいわけないじゃないか。お頭。ジョークだよ、ジョーク。わかってないな〜、お頭」

 ははっ、とヤソップが言う。

「そうそう。今日はエイプリルフールだからちょっと悪ふざけしすぎたんだよ。今日は嘘ついていい日だろ?だからさっきから嘘の言いあいをしてたんだ」

 がぶり、とルゥはいつも常備している肉に噛み付いた。

「それでちょっと気分がハイになっちまってよ」

 もぐもぐ、ごっくんと飲み込む。

「何々?そのエイプリルフールって?」

 興味津々とした表情でルフィは聞いてきた。

「良くぞ聞いてくれました!」

 ここぞとばかりにルゥがしゃしゃり出た。

「詳しい理由はわからないが、4月1日だけは嘘をついていい日なんだよ。だから、皆この日だけは騙しあいをするのさ。だからルフィも嘘をついていいんだぞ?今日だけは」

「へぇ〜。嘘をついていいんだ。でも。嘘をつくといけないんでしょ?」

「だから今日だけはそれが許される日なんだよ。誰も怒りはしないさ」

 ルゥはいい加減なことを言う。

「じゃあ、俺も嘘ついていいの?」

「あったりめーよ。どんどん嘘ついちゃってくれよ!」

 がはははっとルゥが笑う。

「ルゥ、あんまりルフィに変なこと教えんじゃねーよ」

 飽きれ顔でシャンクスが言った。

 その顔にはもう既に怒りはの感情は取れない。

 どうやらもう怒ってはいないらしい。

 そのシャンクスの言葉に皆はほっと、息をついた。

「でもでも、嘘ってどうやってつけばいいの?」

 ルフィは身を乗り出して聞く。

「どうって言われてもな〜」

 シャンクスは困った表情をした。

 大人になれば嘘の一つや二つ、三つや四つ・・・、とつけるものだが・・・。これはどう言って答えらいいのか・・・。下手な言葉を言ってそのまんま覚えられたら嫌だしな・・・。

 う〜ん、とシャンクスは悩む。

「簡単だよ、ルフィ。自分の気持ちと正反対のことを答えればいいんだ」

 ヤソップは言った。

「正反対のこと?」

「そうそう。例えば・・・」

 机の上にある酒を手に取り、

「俺は本当は酒が好きだけど、嘘をついて『俺は酒が大嫌いだ!』という。本当は好きなのに嫌いと嘘をついたんだ。わかるか?」

「うん・・・。なんとなく」

 こくん、と頷く。

「じゃあ、早速嘘をついてみようか」

 ヤソップはシャンクスを見て、にやっ、と笑った。

 ん・・・?アイツ何考えてやがる。

 視線が合い、シャンクスいぶかしげな目でヤソップを見た。

「じゃあ、質問するぞ。用意はいいか?」

「うん!」

 ごくん、と唾を飲み込む。

 たかが嘘をつくのに大層な準備だ。

 このやり取りでルフィがいかに純粋な人間かわかる。

「では、質問です!」

 じゃ〜じゃん!と音楽が聞こえてきそうだ。

「ルフィはお頭のことが好きですか?」

 その言葉にシャンクスは固まる。

「・・・おい、ヤソップ。何言うんだ」

 ヤソップの元まで行き、耳元でささやく。

「いいじゃねーか。ルフィの気持ちを知るチャンスなんだし」

「チャンス?」

 シャンクスは不思議な顔をした。

 ルフィを見ると、難しい顔をしている。

「う〜んとう〜んと反対の事を言うんだから・・・」

 ・・・確かにチャンスかも。

 淡い期待を胸に秘め、シャンクスはルフィの言葉を待つ。

「さあ、簡単だろ?」

 ヤソップが答えを促した。

「えっとね、好きじゃないよ。大嫌い!・・・でいいのかな?」

 不安そうにルフィは言った。

「大嫌い?じゃあ、本当は大好きってことなんだな?」

 確認するようにヤソップは言う。

「うん、本当はシャンクスのこと大好き!」

 にこりと笑う。

 ぶーーーーっ!と鼻血を噴出しそうな笑顔だ。

 ぽんぽんとヤソップはシャンクスの肩を叩く。

「よかったな、お頭。はっきりと言われてよ」

 シャンクスはにんまりとした顔でヤソップを見た。

「・・・やっぱ持つべき者はよい部下だな」

「だろ?」

 ヤソップはその言葉に口を吊り上げた。

「今のでいいの?ヤソップ」

「ああ?ああ、いいよ。最高に上出来だ!上手くできたから俺からデザートをプレゼントするよ。マキノさん、何かルフィにデザートを見繕ってくれよ。その勘定は俺につけておいてくれ」

「はい、わかりました」

 マキノはくすくすと笑う。

「やったー!ヤソップ、ありがとう」

「いやいや、どういたしまして。俺らの頭の機嫌が良くなったんだからこれぐらいはな」

 にやっ、と笑う。

「ルフィ、お前って本当に可愛い奴だな・・・」

 シャンクスは小声で言う。

 自分に言い聞かすかの様に。

「何?何か言った?シャンクス」

「いいや。何でもないよ。―早くデザートが来るといいな」

 ルフィの頭に手を乗せて、ぐしゃぐしゃとかき混ぜる。

 ルフィはしししっと笑うと、「うん!」 と力強く頷いた。

 ・・・やっぱ、可愛いわ。コイツ・・・。

 抱きしめたい気持ちに陥りながらもシャンクスはぐっ、と堪えてルフィがデザートを頬張るのを優しく見ていた。

 

 

 

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