パラパラと雨が降っている中、エースとルフィは学校の下駄箱の所で佇んでいた。

「・・・どうするの?エース」

 小学校1年になったルフィがぼそっ、と呟いた。すると3つ年上であるエースは困った様な顔をした。

「どうするって言われたって」

 段々降り始める雨を見ながら言った。

 う〜ん、とエースは少し悩むと、思い出したように言った。

「そうだ!今日母さんが傘を鞄の中に入れてくれたんだっけ」

 ごそごそと補助バックの中を探した。すると奥の方に折りたたみの傘がしまってあった。

「やったね。これで濡れなくてすむ」

 ほっ、とエースは一息ついた。

「お前は?ルフィ。鞄の中に入ってないか?」

「鞄・・・。俺、鞄忘れた」

 見るとルフィはランドセル以外に鞄と呼べるものは持っていなかった。

「ったく、しょうがないやつだな。じゃあ、この傘に入れよ」

 折りたたみの傘を袋から取り出し、骨を真っ直ぐにして広げた。

「ありがと」

 ルフィはにこっ、と笑った。

 傘に入るとギリギリ子供二人が入れる大きさだった。これで大人二人が入ったとなると頭しか隠せないだろう。 濡れない様にぴったりとくっいた。

 その姿は他から見るとすごく可愛い。小さい子供二人が折りたたみ傘に何とか入ろうと必死になってしがみついている。微笑ましい光景だ。

「あんまり離れるなよ。濡れちまうからな」

 エースは兄としての責任感からかルフィを濡らさない様に心がけた。

「うん。わかった」

 そう言うとルフィは出来るだけエースの方に寄った。エースもなるべく傘に入ろうとする。

ぎゅう、ぎゅう。

「・・・何かすっげー歩きづらい」

「うん。でも濡れないためにはしょうがないもんね」

「そうだな。家までそんなに遠くはないし、我慢するか。出来るだけ早足で帰ろう」

「アイアイサー!」

 ルフィは軍隊の兵隊みたいに言った。

「ルフィ、その言葉今流行ってるのか?」

「うん。みんなそう言ってるよ。この間先生に教えてもらったばっかりだし」

「そうか。やっぱり流行って年代によって違うんだな。俺達もルフィ達の年代にそうやって言ってたような気がする。授業とかで習ってさ」

「ふ〜ん。そうなんだ」

 にこにこと笑いながら言った。

 角を曲がり雑木林の道に差し掛かった。そこは大きくはないが何十本という木が生えていて辺りには雑草がいっぱい茂っていた。家と家の間にその雑木林はあり、夏になると蚊や虫などで迷惑していた林だった。

 しかし子供達にとってはかっこうの遊び場で、そこでよく虫を採ったり等をして遊んでいた。

 するとどこからかか細い声が聞こえてきた。

「・・・ねえ、エース。今何か聞こえてこなかった?」

 ちょんちょん、とエースの服を引っ張った。

「いや。そんなの聞こえなかったけど」

 言いながら歩を進めた。

「そうかな〜」

 ルフィは不思議そうな顔をした。

「ニャ〜」

 猫の鳴き声が雑木林に響いた。

「ほら!やっぱり。ねえ、今のエースにも聞こえたでしょ?」

 ほら、ほら、とさっきよりも強く服を引っ張った。

「本当だ。猫の声だ」

 エースは歩みを止め。雑木林に目を向けた。

「エース、中に入ってみようよ。こんな冬に、しかも雨が降っている中でいたら猫死んじゃうよ」

「・・・そうだな。でも見るだけだぞ。いいな」

「うん。わかってるよ」

 そう言うとルフィは濡れるにも拘らずに傘から出て行って猫探しを始めた。

「あっ、おい!ルフィ。そんなに慌てて転ぶなよ!」

エースは慌てて言った。

そんなに大きくはない雑木林だ。すぐに見つかるだろうとエースは思った。

 実際、すぐに見つかった。小さな家が1軒建てられるほどの敷地だ。

 見つけるとルフィはエースを呼んだ。

「エース!エース!!早く!!!」

 カムカムとルフィはエースに向かって手招きをした。

「ちょっと待ってろ」

 エースは近くを探していたので、すぐにルフィの居場所がわかった。

「どれ」

 ルフィの近くにくると、どんな猫なのか確かめた。

「子猫か・・・」

 その猫はまだ目が開いていなく、体の色は全身グレーの色の猫だった。

「かわいいね」

 ルフィは子猫を見れて嬉しいのか、にこにこにこにこ顔が笑っていた。

「かわいいけど、このままじゃコイツ死ぬぞ」

「えっ」

 ルフィはそう言われて一気に笑顔が消えた。

「だってそうだろう。この寒空の下でこんな生まれたばかりみたいな猫が1人で生きていけるはずないじゃん」

 小学校4年生の言葉とも思えない言葉だ。

「じゃあ、この猫死んじゃうの?」

「このままにしていたらな。確実に死ぬぞ」

 エースは厳しい言葉を吐く。

 エースだって何もこの猫を死なせたい訳ではないが、自分達はまた子供なので面倒をみれないという思いが強く、どうしても痛烈な言葉になってしまう。

「どうしよう・・・」

 ルフィが涙声になる。

「とりあえずその猫に傘、差してあげよう」

 そう言うとエースは持っていた傘を猫の上に差してあげた。

 こんなことをしても死ぬのは時間の問題だ。

 エースはにゃーにゃーと鳴く猫を見た。まだ小さいなりにも一生懸命に鳴いている姿をみると可愛そうになってくる。

「でもなんでこの猫ここにいるんだろう?なあ、お前お母さんいないの?」

 ルフィは猫に話し掛けた。猫は答える筈もなく、にゃーにゃーと鳴くだけだった。

「エース、どうしよう?」

 再びルフィはエースにどうしたらいいかの判断を仰いだ。今までエースの指示に従ってきて悪いことにはならなかった。ルフィは困ったことがあると必ずエースに相談した。エースはそんなルフィをうっとおしく思いながらも、頼られるのは嫌ではなくついつい甘やかしてしまうのだ。そのおかげでエは普通の子供よりは冷静に判断できるようになってしまった。二人ともかなりのブラコンである。

 ルフィに見つめられてエースは困った。

 まいったな。家に連れて帰るわけにもいかないしな。

 親を探しているのか、それとも目の前にいる二人に助けを求めているのかわからないが、猫の鳴き声があたりに響いた。

 エースは軽くため息をつくと、

「とりあえずそいつをハンカチで拭いてやろう。濡れているとコイツが風邪ひくからな。それに寒いだろうし」

「わかった!」

 ルフィはそう言うと自分のポケットからハンカチを出した。

 いや、出そうとしたがポケットの中にはなかった。ルフィは慌ててポケットを裏返しにしたがどこにもそのハンカチの存在はなかった。

「・・・ない」

 エースはさっきよりも深いため息をつくと、

「ほれ、こいつで拭いてやれ」

 ポケットからハンカチを取り出してルフィに渡した。

「わぁ〜、ありがとう!」

 ルフィはそのハンカチを受け取ると、猫を拾い上げ膝の上に載せた。

「冷たっ!コイツすっごく冷えてるよ」

 雨で冷たくなっている猫をルフィが一生懸命に拭いた。薄手のハンカチだったので少し拭いただけですぐにびしょびしょになってしまった。

 ルフィはびしょびしょになってしまったハンカチをぎゅう、と絞って又拭き出す。

「これじゃキリがないな」

 ぼそっ、と呟くとエースはポケットティッシュをルフィに渡した。

「これで何とか持たせてろ」

 そう言うとエースはその場から離れようとした。

「あっ、エース!どこ行くの?!」

 雑木林を出て行こうとするエースにルフィは声を掛けた。

「家に帰って何か拭く物持って来る!だからそれまで待ってろ!」

 エースは怒鳴った。

 ルフィはそれを聞くと、大きく言った。

「アイアイサー!!!」

**********

 10分後、エースはタオルと2本の傘を持ってきた。

「お待たせ。猫はどうだ?」

 とても急いできたのか、エースは軽い息切れを起こしていた。

「うん。今のところ大丈夫みたい」

 ルフィは猫を自分のジャンパーの懐に入れて温めていた。さっきまで激しく鳴いていた猫が嘘みたいに静まり返っていた。

「おい、本当に大丈夫なのか?コイツ鳴いてないぞ」

「大丈夫だよ。なあ、お前」

 ルフィはちょん、と指で猫を触った。すると猫は小さな声でにゃー、と鳴いた。猫は小さい手で顔を洗った。どうやら暖かくて寝ていたらしい。

「そっか。よかった」

 エースはほっとすると、手に持っていたタオルをルフィの懐に入れた。持ってきた1本の傘を差し、ルフィの上に差してあげた。

「お前もびしょびしょだな。風邪引くなよ」

 猫を守るようにルフィは雨に濡れていた。ルフィはにっ、と笑うと、

「大丈夫だよ。だってエースだってびしょびしょじゃないか」

「それもそうだな。ついコイツの事が気がかりで傘を差すのを忘れちゃったし」

 くすくすっ、と二人から笑みが漏れた。

「それよりも後はコイツをどうするかだな。このままにしておくわけにもいかないしなー。かと言って家に連れて行くわけにもいかないし」

 一瞬笑みが戻ったルフィに又、笑みが消えた。

「そうだよね。・・・家に連れて帰っちゃ駄目かな?」

「何言ってんだよ。うちで飼える訳ないじゃん。うちにはゾロがいるんだぜ」

 ゾロとは二人の家が飼っている犬の名前である。

「犬と猫なんて相性が悪いんだ。もし連れて帰ったとしてもゾロが食っちまうよ」

「そんなー・・・」

 ルフィは鳴きそうな声を出した。

「じゃあどうするの?」

「・・・かわいそうだけど、このままここに置いておくしかないよ」

「そんな!!!そんな事をしたら死んじゃうって言ったのエースじゃないか!コイツ死んじゃうよ!」

「仕方ないだろう。家に帰っても死ぬかもしれないんだぞ!だったら仕方ないけどここに置いておくしかないんだ!俺達ができることは、出来るだけコイツに餌をあげることぐらいしかできないんだよ!」

 エースは思いっきり怒鳴った。その目には微かに涙で潤んでいた。

 ルフィはその異変に気づいた。

「エース?」

 怒鳴られたことよりも自分に涙を見せたエースの方がルフィにとって驚いた。

「俺だって何もコイツを死なせたくはないよ。でもしょうがないだろう?俺達まだ子供なんだ。コイツを養ってやることなんてできないんだよ」

 今まで培ってきた兄としての威厳を保とうと何とか冷静になる。

「・・・ごめん。俺我侭いいすぎたね。ごめんなさい」

 ぺこりと頭を下げた。猫がいるので軽く振るぐらいだったが。

「じゃあ、この猫ここに置いていくの?」

「ああ。それしかないだろう」

 なるべく感情をださないようにエースは言った。

「わかった」

 ルフィはそう言うと懐ですやすやと寝ている猫を見た。その可愛さにルフィは戸惑いながらも、意を決して猫をそうっと取り出した。

「ごめんね。猫ちゃん」

 そう言うとルフィは元にあった場所に猫を戻した。家から持ってきたタオルを巻いてあげて、なるべく寒くないようにした。

 やはりルフィの懐よりは寒いのか、猫が起き出してにゃー、と一声鳴いた。

「ごめんね」

 ルフィは涙ぐみながらも、立ち上がった。

 傘が倒れないように柄の部分を土で埋めた。

「これなら倒れないでしょ」

 ポロポロと流れてくる涙を拭いながらもルフィはその場を去る準備をした。

「さあ、行こう。ルフィ。又、明日にでも見に来てやろう。何か餌でも持ってさ」

 ぽん、とエースはルフィの肩を叩いた。

「・・・うん」

 ルフィはエースを見て胸に抱きついた。

「っと・・・。どうし―――」

 最後まで言わないうちにルフィが何故抱きついてきたのかがわかった。

 声を殺して泣いていたのだ。流れ出てくる涙が止まらなくて、エースの胸を借りた。

「・・・行こう。家で暖かい飲み物でも飲もう」

 エースはルフィを促した。するとルフィはこくん、と頷き、歩き出した。

 エースは雑木林を出る前に、ちらっ、と後ろを振り返りながら心の中で呟いた。

・・・ごめん。

 と。

 二人は雑木林を出るとゆっくりとした足取りで家へ向かった。

 その光景を見ていた人影が在ったことに二人は気づかなかった。いや、人と犬が1匹だ。

 その人と犬は二人がいた場所まで行った。

「これは・・・」

 その人ははっ、と息を呑んだ。

 隣にいた犬はく〜ん、と猫をペロペロと舐めている。

 その光景を見たその人はくすっ、と笑った。

「どうやら仲良くなれそうね」

 その言葉の意味を犬が理解したかは定かではないが、ワン!と一声、その人に向かって吼えた。

**********

 家に帰ると二人は速攻で自分の部屋に行った。とりあえず母親にばれないように濡れた服を乾かさなければ

いけないと思い、二人は違う服に着替えて、洗面所に行った。

「ほら、早く入れろよ」

 エースがモタモタとしているルフィをせかした。

「ちょっと待ってよ。よいっしょっと!」

 ルフィが何とか乾燥機の中に服を入れると、エースは乾燥機を回し始めた。

「ふ〜う。これで大丈夫だろ。早く乾く事を祈ろうぜ」

 エースは両手をぱちっ、とあわせて祈った。まるで神に祈りを捧げるかのように。

 ルフィもそのエースの真似をして両手を合わせた。

 するとがちゃ、と洗面所の扉が開いた。

「あら!何してるの?やだ、乾燥機?」

 二人の親であるマキノが現れた。

「母さん!!」

 エースはびっくりして後ろに飛び上がってしまった。

「何よ、何でそんなにびっくりしてるの?それよりどうしたの、乾燥機なんかまわしちゃって」

「ちょっと・・・。雨に濡れちゃってさ。だから服を乾かそうと思って」

 嘘は言っていない。エースははにかむように答えた。

「そう。どうせルフィの事だから折角入れておいた折りたたみの傘の鞄忘れたんでしょ?1本の傘じゃ狭かったでしょ。濡れて当然ね。でも、そのまま洗濯機の籠の中に入れてくれてもよかったのに。それとも・・・・。何かやましいことでもしたの?」

 マキノはちらっ、とエースを見た。

「・・・別に。ただ、濡れたから乾かそうと思っただけ。なあ、ルフィ」

 エースは何とか冷静さを保ちつつ、ルフィに話を振った。

 するとルフィは「う、うん!」と大きな声で答えた。

・・・そんな大きな声じゃ、バレバレだぞ。ルフィ・・・。

エースはルフィに話を振るんじゃなかったと反省した。

「じゃあ、俺達もう自分の部屋に戻るから。行くぞ、ルフィ」

 そう言うとエースはルフィの手を取った。

「アイアイサー!」

 ルフィはエースが引っ張るがままに後をついて行った。

「ああ、ちょっと待って。エース、ルフィ」

「・・・何?」

 バレたかな?

 エースはどきどきしながら後ろを振り返った。

「居間におやつがあるからそれを食べてね」

「わかった。食べてから戻るよ」

 そう言うと二人は居間へ向かった。

「ったく、あの子は侮れない子供ね。自分の子供ながら」

 マキノはふぅ、とため息をついた。

 まだ回っている乾燥機を止めて、洗濯籠の中に二人の服を入れた。

「さあ、クリスマスの準備でもしようかしら」

 そう言うとマキノは洗面所を出て行った。

**********

 夕方になるとマキノはクリスマスの準備で忙しかった。何とか夕飯までには準備が整いマキノは二人を呼んだ。いつもなら料理や飾りつけなど喜んでくれていたのに、今回はそんなに嬉しそうな顔をしてはくれなかった。一応は喜びはしたものの、すぐに消沈しきった顔になった。

 マキノが心配してどうしたの?と聞いても、プルプルと首を振るだけだった。いつも聞くと何でも素直に話してくれるルフィでさえ、沈黙したままだった。

 マキノはそんな二人を見て、深いため息をついた。

「ねえ、母さん。父さんは?」

 エースが重い口をやっと開いた。

「ちょっと仕事でね、遅くなるらしいのよ。だから今年は3人でクリスマスパティーを開くことになったの。お父さん、ごめんなさいって謝ってたわよ」

「そう。別にいいけど」

 マキノはそんなエースを見て、苦笑いをした。気を取り直して、

「さあ、ご飯にしましょうか。今日は奮発したわよ!」

 明るく言うように努めた。

 二人はテーブルの上に置いてある料理の品を見ると少しは元気になったのか、顔が明るくなった。

「すげー!これ全部食べていいの?」

 ルフィが目を輝かせて言った。

「ええ、勿論よ。あっ、でもお父さんの分は残しておいてね」

「うん!」

 ルフィはそう言うと席についた。エースはそんなルフィを見て微笑んだ。猫のこともきになるが、沈んでいたルフィを見るほうがよっぽど自分の気持ちが沈んでいたのだ。笑顔を見せたルフィを見て、少し心が軽くなった。

「さあ、エース。貴方も席について」

 エースは言われるがまま席に付いた。

「さあ、頂きますの前に、貴方達にクリスマスプレゼントよ」

 マキノは笑顔で言った。この家ではクリスマスプレゼントはいつも親からの手渡しとなっていた。普通の子供の家ならばサンタクロースと偽って親がこっそりと枕もとにプレゼントを置くのだが、この家は違っていた。

 前まではこの家もそうしていたのだが、ずっと前に父親が失敗してから普通に手渡しで渡すようにしていた。

「はい、エース、ルフィ。受け取って」

 マキノは二人にそれぞれ梱包してある袋を渡した。

「ありがとう」

「ありがとう!!これ、開けていい?」

 二人はそれぞれ御礼を言った。

「ええ、いいわ。でも今年はもう一つプレゼントがあるの」

 にこっ、とマキノは微笑んだ。

「えっ、本当?!」

 ルフィは嬉しそうに言った。

 それにはエースも驚いたらしく、目をぱちくりとさせている。

「ええ、本当よ。ちょっと待っててね」

 そう言うとマキノは居間を出て行った。

「ねえねえ、エース。もう一つプレゼントって何かな?」

 ウキウキしながらルフィは言った。

「さあな。わからない。でもいきなりなんで今年は二つももらえるんだろう?」

 エースは首を傾げながら言った。

 それよりも・・・。

 エースはポケットからビニール袋を取り出し、テーブルの上にある料理を詰め込もうとした。

「・・・何してんの?エース」

 きょとん、とした顔でルフィはエースを見た。

「見てわからないか?あの猫に餌をあげるのにこうやって詰めようとしてるんじゃないか」

「そうか!そうだった。俺も手伝う!」

 そう言った瞬間にマキノが戻ってきた。

「何してるの?まだご飯は駄目よ」

 エースは即座にまだ何も詰まっていないビニール袋をポケットに戻した。

「ごめん、ちょっとお腹が空いてたもんだからつい・・・」

 小学校低学年の言葉とは思えない言葉をさっきから連発する。

「まあ、いいわ。でもちょっと待ってね」

 マキノは二人の後ろに立った。

「?・・・どうしたの?」

「母さん、何隠してるの?」

 二人は?マークを顔に浮かべながら聞いた。

 二人がおかしがるのも無理はない。マキノは両腕を後ろにやりながら立っていたのだ。

「それがね・・・・」

 最後まで言う前に、にゃー、と言う声が二人の耳に入った。

「「えっ?!」」

 二人の声が重なった。

「あちゃ」

 マキノはしまった、という表情をした。

「まさか母さん、あの猫・・・」

 エースは椅子から飛び降りると、マキノの後ろに回った。

「やっぱり!!」

 マキノの手の上には先程見たグレーの猫が乗っかっていた。

「ルフィ、来て見ろ。あの猫がいるぞ」

 エースはカムカムとルフィを呼んだ。

「ウソ!!」

 ルフィも慌てて飛び降りてマキノの後ろに回った。

「うわぁぁ!本当だ〜!!母さん、この猫飼っていいの?」

 ルフィはマキノを見上げた。

「ええ、勿論よ。だから連れてきたんじゃない」

「やったー!!やったね、エース、これで猫死なないよ」

 ルフィは嬉しそうに笑った。

「ああ、そうだな」

 エースは無表情のまま言った。

「どうしたの?嬉しくないの?」

 マキノは猫を前に持ってきてエースに聞いた。

「いや、嬉しいけど・・・でも」

「でも?」

「でも、なんでこの猫が家にいるの?この家にはゾロがいるんだよ。ゾロに食べられちゃうよ」

 マキノはその言葉を聞くとくすっ、と笑った。

「大丈夫よ、エース。その点については大丈夫。ゾロもこの子を気に入ってくれたみたいだし。さっきペロペロと舐めてたもの。ゾロはちゃんと理解してるのよ。あの子は頭のいい子だもの」

 マキノはしゃがむとエースに猫を差し出した。

「はい、これは私からのプレゼントよ」

 エースはそう言われて渋々手を差し出した。

 猫はエースの手に渡るとペロッ、と手を舐めた。

「あたたかい・・・。でも、母さん、何でこいつの事知ってたの?」

 生きているという実感を噛み締めながら、エースはマキノに聞いた。

「だってあなた一度家に帰ってきた時にものすごい形相だったから、何事かと思って跡をつけたのよ。それにまだゾロの散歩も行ってなかったからついでにね。その時に二人の会話を聞いちゃって・・・。あまりにもかわいそうだったから連れてきちゃった」

 マキノはぺろっ、と舌を出した。

「でも、父さんは?父さんはOKしたの?」

「ったく、貴方は『でも』が多いわね。大丈夫よ、お父さんにも既に了解は取ってあるから」

 ぱちん、とマキノはウインクをした。

「貴方みたいな出来た子があんなり形振りかまわず出て行くなんて、私も驚いたわ。やっぱりまだ貴方は子供なのね、って母さん感激しちゃった」

 マキノはエースの頭を撫でた。

「なんだよ、それ」

 そう言いながらエースは微笑んだ。

 手の中を見ると猫がにゃーと鳴いている。エースはその猫を壊さないようにゆっくりと撫でた。

「かわいい・・・」

 ぼそっ、とエースは声を出した。子供の表情がエースの顔に表れる。

「いいなー、エース。俺にも触らせてよ」

 ルフィが羨ましそうに言った。

「いいよ。でもそうっとだぞ」

 エースはにこやかなな顔でルフィに言った。

「うん!」

 ルフィは猫を渡されるとさっきエースがしたみたいにゆっくりと撫でた。

「うわぁぁ、かわいいね〜」

「うん、かわいいな」

 二人に笑顔が戻った。

 マキノはその二人の幸せそうな顔を見ると、自分もすごく幸せな気分になった。

 その時、ピンポーンとチャイムが鳴った。

「あっ、きっとお父さんよ。ほら、その子猫を見せてあげたら?」

 マキノは二人に言った。

 二人は「アイアイサー!」と頷くと、父親を出迎えるために玄関に行った。

 マキノが玄関の鍵を開けると、がちゃ、とドアが開いた。

「「お帰りなさい、父さん!」」

 二人の嬉しそうな声が家に木霊した。

 

 

 

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