ルフィはちらっ、ちらっ、と時計を見ながらバイトに勤しんでいた。

「おい、ルフィ。何をそんなに時間を気にしてるんだよ」

 そんなルフィにゾロは話し掛ける。

 もう新年まで後数時間。

 そんな中でのバイトは結構辛い。本当だったら友達や恋人等でカウントダウンをしようと集まって盛り上がっているはずなのに、今年に限って人手が足りないから出てくれと店長に泣きつかれてバイト先のコンビニにいる。

 なので新年に向かって楽しそうにしている人達を見ると少しむかつく。

 ゾロはイライラとしながらレジに集まってくるお客さんたちに無愛想に接客した。

「おい、ルフィ。聞いているのか?」

 心ここにあらずといった表情でルフィは振り返った。

「えっ?」

「えっ、じゃねーよ。時間を気にするよりもさっさと目の前の客をさばきやがれ」

 ルフィはそう言われてレジの前を見るとズラ〜っと列を成していた。

「うわぁぁぁ!!」

 あまりにもすごい列だったのでルフィは驚きのあまり後ろに飛びのいた。

「ちょっと、まだぁ〜?」

 いかにもコギャルっぽそうな人がぶすぅ、とした表情でルフィを見ていた。

 こ、怖い…。

 分厚い化粧がルフィに恐怖を与える。が、ルフィはごくっ、と唾を飲みこむと、

「すみません、―――1,340円になります」

 急いで出された商品を合計して差し出した。

「ったく、とろい店員ね。―――はい、1,340円」

 そうコギャルは言うと財布の中からお金を取り出し、ぽん、と置いた。ビニール袋を手に取りさっさと店から出て行く。

「あ、ありがとうございました」

 ふぅ、と軽くため息をつくと。

「ほらっ、次!」

 ゾロの厳しい声が飛ぶ。

「わーってるよ」

 そう言いながら時計を見ると23時を回っていた。

 もう、こんな時間だ…。シャンクス、今ごろ何してるかな?

 お客さんをなんとかさばきながらルフィは考えた。

「何か用事があるのか?」

 ゾロは手際良く自分の列のお客さんをどんどんさばいていく。

「…うん、ちょっとね」

 ルフィは少しでも早く早く終わりたいと願いながら接客した。

 なんとかお客さんを一折にさばくと、ルフィは深いため息をついた。

 そんなルフィをゾロは横目で見て、

「…それは大事な用か?」

「えっ…。用というかなんというか…」

 ごにょごにょと口こもった。

 別にこれといって用事があるわけでもない。約束をしていないのだから時間を気にしても仕方がないのだが…。

 ルフィは又時計に目を向けた。

 もう、30分過ぎてる…。もう今年はシャンクスに会えないのかな?

 無意識にぎゅ、と手を握った。

「ルフィいるか!?」

 バンッ!と大きな音をたててながら柄の悪そうな人が入ってきた。

 赤い髪に顔には3本傷。長身で顔はなかなかのハンサムだ。

「シャンクス!!!!」

 ルフィは信じられないと言った表情でシャンクスを見た。

「よおぉ。ルフィ、元気か?」

 シャンクスはつかつかとルフィの前まで歩いてきた。近くに居た女の子達からは歓喜の声があがる。スーツをばっちりと着こなしているシャンクス

がどうやらお気に召したらしい。じーっとシャンクスに女の子達の視線が集まる。

 シャンクスはそんな事に気づきもせずに、ルフィに向かった。

「シャンクス、元気かじゃないでしょ?一体どうしたのさ」

 ルフィはそう言いながらも自分に会いに来てくれたことが嬉しくて、顔が綻んでしまう。

「いや、仕事が片付いたモンでよ。ちょっと顔を見に来た」

 にこっ、とシャンクスは笑った。

「っ!!!」

 ルフィはその笑顔と言葉に赤面した。

「バイト何時までだ?」

「えっ?」

「バイトだよ、何時まで?」

「あっと、6時まで…」

「6時!?何でそんな時間までやってるんだよ」

 思いもよらない時間だったので素っ頓狂な声を出した。

「だってシャンクス年末は仕事で全然会えないって言ってたからシフト入れちゃった…」

 ルフィは申し訳なさそうに言う。

「なんだよ、せっかく綺麗な夜景を見ながら年を越そうとして俺が死ぬ気で仕事終わらせてきたのに…。」

 とほほほほっと悲しそうな表情をした。

「…ゴメン、シャンクス」

「いや、お前の所為じゃないよ。―――6時か…・。その頃に迎えに来るよ。邪魔したな」

「そんな、いいよ。シャンクスだって疲れているんだし無理して来なくても」

「いいんだよ。俺がそうしたいんだ」

「シャンクス…」

 二人はじーっと見つめ合った。

 店内は二人のやり取りでシーンと静まり返る。

「…お取り込みのところ悪いけど、ラブラブなら外でやってくれないか?店の中じゃ困るんだけど」

 ゾロが冷静な目で二人を見る。

 シャンクスはそんなゾロを真っ直ぐな瞳で見た。

「…すみませんね。お騒がせしてしまって。又後で来ます。―――じゃあ、又後で…。ルフィ」

 目をすっ、と細めるとシャンクスは店を出て行こうとした。

「待てよ、まだ最後まで言ってないぜ」

「ごめん、ゾロ。俺達うるさかった?」

 ルフィはオドオドとゾロに謝った。

「…まあな」

「それはすまなかったな。俺に何か文句でもあるのか?」

 シャンクスは振り返りゾロを睨みつけた。

 ゾロはそんなシャンクスを見て、深くため息をついた。

「ったく、アンタ血の気が多いいらしいな。―――俺は別にアンタに文句を言いたい訳じゃねーよ」

「じゃあなんだ?」

 シャンクスは血の気が多いと言われてムカッとくる。

「アンタやルフィにとってはいい話しだ。―――ルフィ、お前もう上がれ」

 にやっ、とゾロは笑った。

「ゾ…ロ…」

「ほら、何ぼさっとしてんだよ。早くしないと年が明けちまうぞ」

 ゾロはレジの下から『休止中』の札を出した。

「でも、勝手に抜けちゃったらゾロが怒られるだろ?」

「大丈夫だよ。気分が悪くなったと言えば店長も大目にみれくれるさ」

「でもっ!」

「でもはなしっ!さっさと年を越して来いよ」

 ぽんっ、とルフィの背中を押した。

「あ、ありがとう!!ゾロ」

 そう言うとルフィは中に入って自分の鞄を持ってきた。

「あっと…。さっきは睨みつけて悪かったな」

 シャンクスがゾロに近寄ってポリポリと頭をかきながら謝った。

「別に…。気にしてねーよ。それより早くつれて行った方がいいんじゃないか?後新年まで10分しかねーぞ」

 ゾロは時計を指差した。

「えっ、もうそんな時間?」

 ルフィが自分の腕時計を見た。

「ホントだ!」

「じゃあ、ルフィ。行くか」

「うん!―――ゾロ、ありがとう!このお礼は必ずするよ」

「別にいいよ。気にすんな」

 ゾロはそう言うと手を振った。

「よい年を、ルフィ」

「おう!ゾロもなっ!!じゃあ、行ってくる」

「ああ、いってこい。―――いらっしゃいませ、こちらのレジへどうぞ」

 ゾロは戸惑っているお客に言葉を差し伸べた。

「は、はい」

 お客は申し訳なさそうに商品を差し出した。

 それを見てシャンクスはルフィに声をかけた。

「じゃあ行こう。もう年が明ける」

「うん」

 そう言うと二人は店を後にした。

 二人が出て行った事を確認すると、軽いため息をついた。

「ったく、良い友達を演じてるのも辛いな…」

 ゾロはぼそっと呟くと列をなしていくお客をどんどんさばいていった。

***********

「ところでシャンクス、一体どこで年を越すの?」

 少し足早になりながらルフィは言った。

「とりあえず港に行こうかと思ってる」

「港?」

「ああ、ここからすぐ近くにあるだろ。港というより埠頭だけど」

「もしかして晴海のこと?」

「そうだ」

「でも今からじゃ間に合わないんじゃないの?」

「だから急いでいるんだろが。おっとここだ」

 シャンクスは車道に出ると、一台の車に近寄って鍵を開けた。

「ほら、乗れよ」

 がちゃっ、と助手席のドアを開ける。

「間に合わないかもしれないけど、これでなんとかできるだけ急ぐから」

「車で来てたんだ。ああ、というか会社のを借りてきたんだけどな」

 はっはっ、とシャンクスは笑った。

 良く見ると車の側面に社名が入っている。

「ホントだ」

 そう言うとルフィは車に乗り込んだ。

 エンジンをかけるとラジオからカウントダウンの声が流れてきた。

「あちゃ、間に合わなかったか…」

 しまった、といった表情をシャンクスはした。

 ラジオではカウントダウン20を数えている。

「うんん。間に合わなくないよ」

 ルフィはそっと、シャンクスの手を握った。

「ルフィ?」

「だってちゃんとシャンクス年明ける前に来てくれたもん。だから間に合わなくなんてないよ」

 にこっ、とルフィは微笑んだ。

「ルフィ…」

 シャンクスはその言葉が嬉しくてじわっ、と涙ぐむ。

「よかった。俺の頑張りは報われたんだな」

 ラジオからは後5秒とカウントダウンをしている。

「ルフィ」

「シャンクス」

 二人はみつめあった。

『3,2,1!!あけましておめでとう!!!A HAPPY NEW YEAR!!!』

 ラジオからは年が明けた事を派手に祝った声が聞こえた。

「あけましておめでとう、今年しもよろしくな」

「うん、こちらこそよろしく。シャンクス」

 二人はそう言うと軽くちゅう、とキスをした。

 離れるとへっへっ、と笑った。

「でもどうせならやっぱり綺麗な夜景を見ながら年を越したかったな」

「そうだね。でも、シャンクスがいてくれれば別にどこで年を越してもいいよ」

 にっ、とルフィは笑った。

「…お前、今日はすっごく嬉しいことを言ってくれるな。もう、俺興奮しちゃうよ」

「いいよ、興奮しても」

 ぼそっ、とルフィは言った。

「えっ…。マジで?じゃあ、早速…」

「バカ!!シャンクスのエッチ!!まだしないよ。ちゃんと夜景を見てからじゃないと駄目」

 ルフィは顔を真っ赤にしながら言った。

「冗談だよ。夜景を見てから初詣に行くか」

「うん、そうしよう!」

 こくん、と頷いた。

「じゃあ、とりあえずここを出ますか」

「シャンクス、俺腹減った。何か食いたい」

 ルフィはお腹を押さえた。

「ったく、お前は色気より食い気だな」

「しょうがないだろ?腹減ったもんは減ったんだから」

 ルフィはぶーたれる。

 シャンクスはそんなルフィを見てくすっ、と笑うと車を発進させた。

 

 

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