その日はとても寒い日だった。

 土や草木などには当たり前のように霜が降りており、冷たい風が辺りを凍らせた。

 ルフィは窓にベタ〜、と貼り付いていた。店の中が暖かいせいで窓が外と中の外気温の差で曇っていた。その一つ一つの雫が集まって、ツ〜

と下に流れ落ちる。

「ルフィ、そんなに窓に顔くっつけてないで、こっちにいらっしゃい。そこじゃ冷えるわよ」

 マキノが開店の準備をしながらルフィに言った。

「うん、でも、もうそろそろシャンクスが来そうな気がするんだ」

 ルフィはマキノの方を見ずに言った。その視線の先は赤髪海賊団の船がある方に向けられた。

「そう。じゃあ、これ着てなさい」

 マキノは来る時にルフィが着ていたコートを羽織らせた。

「いくら店の中って言っても窓側は寒いから」

「ありがとう、マキノ」

 そう言うとルフィは、コートの袖に腕を通すとひんやりとした感触に一瞬、動きが止まったが、何事もなかったかのようにルフィはコートを来た。

 まだかなまだかな〜。

 ルフィはワクワクしながらシャンクスの来店を待っていた。

「どうしたの?ルフィ。今日は一段と楽しそうじゃない」

「えっ、だってさ。今日クリスマスっていう日なんでしょ?」

「ええ、そうよ。それがシャンクスさんと何か関係があるの?」

「うん!!シャンクス、クリスマスプレゼント俺にくれるって言ってたんだ。だからこうしてシャンクスがやってくるのを待ってるの」

 足をプラプラとさせながらルフィは言った。

「なるほど、それで・・・」

 マキノはルフィのあまりの可愛さにくすっ、と笑った。

「じゃあ、今日は雪が降るといいわね」

 唐突にマキノが言った。

「雪?雪ってな〜に?」

「あら?ルフィ、雪知らないの?」

「うん、知らない」

 プルプルと首を振った。

「冬に降る氷の結晶の事を言うのよ」

「氷?!氷なんか降って来て当たったら痛いじゃん!!」

 血相をかかえてルフィは言った。

「違うわよ。氷と言っても結晶だから。当たっても痛くはないわ。そうね〜、何て言えばいいかしら?・・・そうだ、冷凍庫に氷があったはず。ルフィ、ちょっと待っててね」

 そう言うとマキノは厨房の中に入っていった。

「うん!」

 ルフィはコクン、と頷いた。

 その時ギィーと店の扉が開いた。

「シャンクス!!!」

 ルフィは入ってきた人をシャンクスと確認すると、すぐに飛びついた。

「おっと。ルフィ、相変わらず元気だな」

 飛びついてきたルフィをシャンクスは抱きとめた。

「・・・?どうかしたのか、シャンクス。なんか元気ないぞ」

 ルフィはキョトン、とした顔をして聞いた。

 言われてみれば青い顔をしている。

「どうかしたのか?」

 再びルフィが聞いた。

「い、いや。何でもないんだが・・・。いや、なんでもあることはあるんだが・・・」

 珍しくモジモジとシャンクスはしだした。

「シャンクス?」

 いつものシャンクスらしくないシャンクスを見てルフィは首を傾げた。

「あ、あのな、ルフィ。お前に残念なお知らせが―――――」

「あっ!そうだ、シャンクス!今日シャンクスが言っていたクリスマスだぞ!何かプレゼントくれるんだろ?」

 にこっ、とルフィが微笑んだ。

「ぐっ!!!」

 その笑顔にシャンクスはたじろいた。

 や、やばい・・・。これはかなりやばい・・・。

 冷や汗がシャンクスの額に流れた。

「そ、そうなんだがけどよ、ルフィ。ちょっとそれがまずいんだな」

「何がまずいの?」

 ジィ〜、とルフィのつぶらな瞳がシャンクスを見る。

 そ、そんな純粋な瞳で見るな〜〜〜!!!

 思わず目を瞑ってしまう。

「シャンクス?どうしたの、一体。・・・・もしかしてプレゼントないの・・・?」

 その言葉にシャンクスはぎくっ、とした。

「その、なんだ・・・」

 しどろもどろになる。

「そうなんだ。プレゼントないんだ・・・。俺、すっごい楽しみにしてたのに・・・」

「ル、ルフィ。ゴメン!!!ホントにゴメン!!」

 シャンクスは平謝りした。こんな姿を船員達に見られたらお頭としての立場がない。しかしシャンクスはそんな事にはかまっていられなかった。

 ルフィはそんなシャンクスをキッ、と睨みつけると、

「シャンクスのバカ!!!!」

 バタン、と開けてルフィは店を出て行った。

「ルフィ!!ルフィ、待って・・・。くそっ!!」

 どんどん遠くなっているルフィを見て、シャンクスは舌打ちした。

「あら、シャンクスさん、いらっしゃい。あれ、ルフィ?ルフィは・・・」

 マキノはルフィを探してキョロキョロとした。持っていた皿をテーブルの上に置いた。その皿には白い粉のようなものが積まれていた。

「マキノさん、すみません。ルフィを怒らしてしまいました」

 ペッコリ、と頭を下げた。

「ルフィを怒らせた?・・・もしかしてプレゼント忘れたんですか?」

「いや、その・・・忘れていた訳じゃないんですが、一日勘違いをしていまして・・・」

 面目ないと頭を掻いた。

 マキノはくすっ、と笑った。

「な、何ですか?」

「いえ、ごめんなさい。なんかシャンクスさんらしくて・・・」

 そう言いながらもマキノはくすくすと笑った。

「それより、その皿に乗っかっている白い粉はなんですか?」

 シャンクスは皿を指差した。

「ああ、これですか?さっきルフィが雪を見た事がないって言っていたのでちょっと作ってみようかと思ったんです。でも、そのルフィがいないんじゃ見せ様がないですよね」

「あっ、・・・本当にすみません」

 本当に申し訳なさそうに誤った。

「いいえ、いいんですの。それよりもシャンクスさん、ルフィを追いかけなくていいんですか?ルフィ、きっと泣いてますよ」

「・・・追いかけようとしたんですけど、何か追いかけていいのかどうかわからなくて。俺から約束したのにその俺が忘れるなんて・・・。酷いヤツですよね」

 シャンクスは深いため息をついた。

「・・・そうですね」

「えっ」

 マキノは目を鋭くした。

「本当にシャンクスさんは酷い人です。約束を忘れた事も酷いことですけども、それよりももっと酷い事があります!ルフィを追いかけなかった事です。ルフィ、すっごく楽しみに待っていたのですよ。それは本当に嬉しそうに・・・。でもあなたはその約束を破った上にその事をキチンと謝らない事がとっても酷いです。今でも間に合います!今からでも追いかけて謝ったらどうですか?!」

 マキノは涙目になりながら言った。さっきまで本当に嬉しそうな顔でシャンクスを待っていたルフィを思い出すと、やりきれない思いがマキノをここまで言わせたのだ。

プレゼントがないと知った事でどんなにルフィが悲しい思いをしたのだろうか。マキノはそれがとても気がかりでならなかった。

 シャンクスもそのマキノの気持ちがわかった何も言えなかった。

「マキノさん・・・。そうですね、俺、追いかけます!!ありがとうございます!!」

 そう言ってシャンクスは店を出ようとして後ろに振り返ったときに、皿に乗っている雪が目に入った。

 シャンクスは一瞬、立ち止まるとマキノの方に歩いてきた。

「マキノさん、これどうやって作るんですか?」

 そうシャンクスは言った。

++++++++++

「・・・ルフィ、お前なんでここに逃げ込んでくるんだ?」

 副船長であるベンがタバコをふかしながら言った。

「だってさ、俺行くところ思いつかないし」

 今まで泣いていたのか目が赤く、涙がまだ目じりに残っていた。

「だからと言ってお前を泣かした本人の船にくることはねーじゃねーか」

「・・・副船長、俺が来る事がいやなの?」

「バッ、バカ!嫌なわけあるかよ!お前を嫌だっていうヤツは俺が串刺しにでもしてやるよ。ただ、泣かされた奴の船に来るなんて珍しい奴だなと思ったんだよ。それだけだ」

 ベンは早口言葉のように言った。

「そっか・・・。ならいいや。俺、副船長好きだからさ嫌われてたらすごくショックだなと思って」

 にっ、とルフィは笑った。涙の跡がよけいに痛々しく思える。

「そうか、俺もルフィが好きだよ」

「へっへっ」

 ルフィは笑った。

「あっ、ちょっと待ってろよ。ルフィ」

「うん、わかった」

 ベンはルフィの言葉を聞くと、近くにいる船員に耳打ちをした。

 その船員は「はい、わかりました!」と敬礼して船から降りていった。

「さあ、ルフィ。疲れただろ、少し寝るか?」

 ベンは優しく声を掛けた。

「うん、そうだね。なんだか疲れちゃった」

 ベンはあえて泣いて疲れたか?なんていう言葉は使わなかった。この言葉を使うとルフィが意地を張って又、泣いてしまいそうな気がしたのだ。

 ルフィはベンの言葉に従い、シャンクスの部屋で仮眠を取った。

「さてと、俺はやるべきことはやったし、後は大将の帰りを待つのみか・・・」

 ベンはそう言うとシャンクスの部屋から出て行った。

++++++++++

 太陽が地に沈みむと、太陽の変わりに月が辺りを照らし始めた。

 それと同時に船の主、シャンクスが帰ってきた。

「お頭!アンタ、一体何やってたんだ。さっき若いモンにルフィがここにいるって伝令させたろ」

 ベンがシャンクスの姿を見つけると同時に言った。

「悪い悪い。ちょっとコレを作っててさ」

 シャンクスは麻の袋から白い粉を取り出した。

「・・・これは?」

 ベンは怪訝な顔をした。

「これか?これは雪だよ。雪」

「雪?!これが?!どうしたんだ、今日は雪降ってないだろう」

 ベンはそう言いながら指でその粉を触った。

 冷たい・・・。

「これは雪なのか?確かに冷たいし柔らかいが・・・。」

「雪じゃねーけど雪なんだよ。氷を細かく削ったものなんだ。これを空から撒けば雪にみえない事もないかなと思ってよ。これを早くルフィに見せたく

て時間がかかっちまった」

「ルフィに?」

「ああ、あいつ雪を見た事がないんだとよ。だからこれから見せようかと思ったんだ。これがクリスマスプレゼントの変わりになるかどうかわからないけどよ」

 へっへっ、とシャンクスは笑った。

 よく見るとシャンクスの手が寒さで赤くなっていた。

「お頭、アンタすごいあかぎれだらけだぞ!」

 ぐいっ、とシャンクスの手を取った。

「ああ、これはいいんだよ。コレを作っていたからこうなっただけだから。それよりもルフィを呼んで来てくれよ。俺、ここで待ってるからさ。ああ、それと下にコレがいっぱい積んだ台車があるからそれを上まで持ってくるように若いモンに伝えてくれ」

「お頭・・・。わかった。ちょっと待っててくれ。今呼んで来る」

 そう言うとベンはルフィを呼びに部屋の中へ入った。

 すぐにルフィはシャンクスの元に飛んできた。

 ベンはルフィにシャンクスがプレゼントを持ってきたと伝えると、ベットから飛び出すように部屋を出て行ったのだ。

「シャンクス!!!プレゼントくれるって本当?!」

 泣いていた跡が跡形もなく消えおり、キラキラと輝いた顔をしていた。

「ああ、本当さ。これがお前にとってのクリスマスプレゼントになるかどうかわからないけどな」

 シャンクスはにやっ、と笑った。

「じゃあ、始めるか」

 そう言うとシャンクスは指をパチン、と鳴らした。するとそれを合図に船員達が松明を持って辺りを照らした。

「えっ、えっ!何?何が始まるの?!」

 ルフィはドキドキと心臓を高鳴らせながら、興奮を抑えられないでいた。

「まあ、見てのお楽しみに」

 すると上から何か冷たいものが落ちてきた。

「冷たっ!雨かな・・・」

 ルフィは上を見上げると何か白い物が落ちてきた。

「えっ・・・」

 その白い物はどんどんと降って来てルフィの顔やコートにくっついた。

「これって・・・」

 ルフィはシャンクスに問い掛けた。

「これは雪というものだよ。本当の雪じゃねーけどな。さっきお前が店から出て行った時、マキノさんに聞いたんだ。お前が雪見た事ないって・・・。

だからこれがお前のクリスマスプレゼントになるかどうかわからないけど、俺一生懸命に作ってみたからさ。これで今日は許してくれないか?」

 シャンクスはルフィと同じ視線になるために、しゃがんでルフィを見た。いつもとは違う真剣な顔。

 ルフィはその真剣な視線にドキッとして目線を逸らした。するとシャンクスの手が視界に入ってきた。

・・・シャンクスの手、すごい真っ赤・・・。

そう思ったとき、先ほどのシャンクスの言葉がよみがえってきた。

『俺一生懸命作ったからさ』

・・・こんなに手が真っ赤になるほとシャンクス頑張ってくれたんだ・・・。

 ルフィはそうわかると目に涙が貯まってくるのがわかった。

「・・・すよ」

 ぼそっ、とルフィは言った。

「えっ、何?」

 シャンクスはよく聞き取ろうとしてルフィの顔に耳を近づけた。

「許すよ、シャンクス」

 かろうじて聞き取れる声がシャンクスの耳に届いた。

「ほ、本当か?!ルフィ!!」

 シャンクスは嬉しさのあまり、ルフィを抱えあげた。

「うわぁ!!」

 ルフィは驚いて声をあげた。

「よかった!よかった、許してくれて!!」

 シャンクスの目にきらっ、と光ったものがあった。松明の光に当たって余計にその光が見える。

「シャンクス・・・。でも、今回だけだからな!今度からはちゃんと約束守れよ!!」

 ルフィは少し睨みながら言った。

「わかってるよ、わかってる」

 そう言うとシャンクスはルフィを降ろした。

「あ〜あ、お頭。いちゃついているところわるいんだけどさ、もうお手製の雪がねーんだけど」

 ベンが上から覗いて二人を見た。

「え〜!!!もう終わり?」

 ルフィからブーイングの声がわいた。

「そっか。結構いっぱい作ったと思ったんだけどな。ルフィ、ゴメン。また作ってやるからさ、だから・・・」

 最後まで言い切る前に白い物がふわり、と舞った。

「・・・・・・・・・・これは」

 シャンクスはふわりと舞っている小さな羽みたいなものを掴もうとして、手を差し出した。すると手の上で、白ものが手の体温で溶け始めた。

 周りを見るとここだけではなく船の上、海の上まで降り注いでいた。

「こりゃホンモンの雪だ!」

 シャンクスは叫んだ。

「えっ!これがホンモノ?!」

 そう言うとルフィは首を後ろに下げて、真上を見上げた。すると自分の上だけに降り注いでいるかのように、降っているかのように見える。

「うわぁ〜〜・・・。綺麗・・・」

 その言葉にシャンクスは微笑んだ。

「よかったな、本当の雪が見れて」

 ぽん、とルフィの頭の上に手を乗せた。

「うん。・・・でも」

「でも?」

「でも、シャンクスの雪も綺麗だったよ。そっちの方が嬉しかった」

 ルフィはシャンクスを見て、しししっと笑った。

「そっか。そっか!!!」

 シャンクスはあまりの嬉しさに、ルフィを抱きしめた。

「なんだよ、シャンクス!」

「いいだろ。今日はクリスマスなんだからさ」

 そう言うとシャンクスはルフィの頬にキスをした。

「そう言うものなの?」

「うむ。そう言うものだ」

「じゃあ、俺もシャンクスにキスする!」

 ちゅう。

 とシャンクスの頬にキスをした。

「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 俺、今日最高に幸せ・・・。

 シャンクスはにやけ顔がとまらなくて、しばらくずっとにやけていた。

 クリスマス、最高だぜ・・・・・。

 そう思った。

 

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