ふと、花の香りに誘われて、香は公園に入って行った。
 この公園の規模は大きく、森林公園とまで名づけられるほどの大きさだ。
 休みの日になると何かしらのイベントをやっているらしく、いつも屋台などが出ていていつも賑やかだった。
 しかし今日は平日。しかも昼間だ。
 公園にはまばらな数しか人が集まっていなかった。
 散歩に来た老人や、子供のお守りをする親・兄弟なのどの姿が見受けられる。
 木陰の下のベンチにはスーツ姿の男性が、横になって寝そべっていた。
 香は微笑すると、ゆっくりと公園の中を歩いていく。
 少し歩くと、香をここに誘い込んだ正体が現れた。
 桜だ。
 桃色や白色の、綺麗な色が空や地面を覆っていた。ほのかに甘い香りが鼻腔をくすぐる。
 桜並木の下では、まだ昼間だというのに水色のビニールシートを敷き、宴会をはじめている人たちがいる。
 もう出来上がっているのか、皆上機嫌だ。
 それぞれ皆、友達や仲間、ちらほらとカップルなどを見つけて、香は少し居た堪れない気持ちになる。

 ―こんなに綺麗な桜、撩と一緒に見たかったな…。

 桜が綺麗で、香の心はほんわかとしたが、やはりこういうものは一人で見るよりは誰かと一緒に見たほうが楽しいに違いない。
 それが心から側にいたいと思う人と一緒に見れればどんなに幸せか。
 想像しながら香は顔をにやけさせた。
 だが、直ぐにそれは暗い表情へと変えてしまう。

 ―…やっぱり、一人は虚しいわね。

 一つため息を付くと、もと来た道を戻ろうとして踵と返す。
「あれ?帰るの?」
 香は突如目の前に現れた男にびっくりした。
「り……」
 驚きすぎて、声が出ない。
「どうした?香。鳩が豆鉄砲食らったような顔してるぞ」
 ふざけた顔をして、撩はそう言う。まるで子供みたいだ。
「撩、どうしてここに?」
 やっと言葉を口に出来た香がそう言うと、「見つけたから」とポツリと呟いた。
「えっ?」
 その言葉の意味がわからなくて、香は聞き返す。
「…この公園に入って行くお前を見つけたからだよ。そうしたらココを見つけた」
 口元を軽く上げて、薄紅色の空を見上げた。
 はらはらと舞い落ちる桜の葉が雪みたいで綺麗だ。
「……だったら、声を掛けてくれればよかったのに」
 そうすれば一緒にこの桜並木を歩けたはずだ。
 きっと撩と二人で歩けたのなら楽しかったに違いない。
「……別にいいじゃねーかよ」
 撩は一瞬だけ香を見て、視線を外した。
 本当は公園に香が入って行くところを見て、声を掛けようかと思ったのだが、追いついたとき、艶やかな笑みでこの桜並木を歩く香がとても綺麗に見えて、撩は声をかけるタイミングを失っていたのだ。すると、香が途中で引き返そうとしたので、声を掛けたと、そういうことである。
「……綺麗だな。桜」
「……うん。撩と見れて良かった。やっぱりこういうのは一人で見るより人数多いほうがいいもんね」
 うっとりと桜に見蕩れている香に、撩はふっ、と微笑む。
「そうだな。じゃあ、桜が散らないうちに美樹ちゃんたちでも誘って花見でもするか」
「そうね!きっと楽しいわ」
 香はにこっ、と笑い撩の腕に抱きついた。
「でも、……二人で見るのもまた、楽しいわよね」
「……そうかもな」 
 撩はそう言うと、香をリードしながらゆっくりと桜並木を歩いて行った。








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