槙村 香は休日の昼過ぎの公園を通りながら憂鬱な気分になっていた。

 重い足取りで、行きつけにしている店に顔を出した。

「あら、いらっしゃい。香さん。―――何にする?」

 その店の女主人美樹がオーダーを聞いた。

「ホットコーヒお願い」

 そう言うと香はいつも座っている椅子に腰掛け、はぁ、とため息をつく。

「・・・どうしたの?香さん。今日は元気がないわね。冴羽さんと喧嘩でもした?」

 カップにコーヒーを注ぎながら、美樹は尋ねた。

「えっ?うんん、そう言うわけじゃないんだけど・・・」

 香は少し黙り込んで神妙な赴きで言葉を紡いだ。

「あの、美樹さん。美樹さんは海坊主さんと外で仲良くしたことある?」

「・・・ファルコンと外で仲良く?―――ごめんなさい、香さん。ちょっとよくわからないわ。私はいつでもファルコンとは仲が良いつもりよ」

 コーヒーを目の前に出し、美樹はにっこりと笑った。

「そういうことじゃなくて?」

「あっ、まあそう言うことなんだけど」

「はっきりおっしゃいなさいよ。相談にのるわよ」

 カウンターに身を乗り出し、美樹は言った。

 香はそう言われて決心がついたのか、言いづらさそうにおずおすと言う。

「・・・さっき、公園を通ってきたんだけど、そこで休日だからカップルや家族連れが多くて。その光景を見たときに少しいいな〜なんて思っちゃったのよね。私たち裏の世界の人間がそんなことできるはずないとわかっているんだけど、ちょっと羨ましくなっちゃって・・・」

 カップを両手で挟み込んで揺らいでいるコーヒーの水面を香は見つめた。

「香さん・・・。それは違うわ」

「えっ?」

そう言われて香は顔を上げる。

「別に裏の世界の人間だからっていちゃついてはいけないという法則なんてないのよ。いちゃつきたかったらいちゃつけばいいじゃない。甘えたかったら甘えてもいいの。私だってそうしてるわ。裏の世界だからって女の幸せを捨てるなんてナンセンスよ。―――ああ、でも冴羽さんが駄目か・・・」

 少し熱く語りかけたところで美樹は大事なことに気がついた。

「冴羽さんが人前でいちゃつくなんてできないわよね」

 普段の態度からは僚がいちゃつくなどとは美樹には全く考えられなかった。

「そうなのよね。・・・でもいいの。一緒にいてくれるだけで幸せなんだから。あんまり贅沢は言わないわ。話を聞いてくれてありがとう、美樹さん」

 ふんわりと笑う。

 その笑顔がとても美しかった。女の美樹でもはっ、とするほどだ。

 その美しさの中に優しさが含まれており、その笑顔を見ているとなんだか自分の心までも優しくなれるようなそんな気がする笑顔だ。

「香さん・・・」

 美樹はその笑顔を見ていると、なんとかして香と僚をいちゃつかせたいと思った。

 どうにかできないかしら、―――と。

「あっ、そうだ。こういうのはどうかしら?冴羽さんに催眠術でもかけるとか」

「催眠術?」

「そっ。あっ、でも人為的なものは駄目かしら?」

「・・・ありがとう、美樹さん。でもいいのよ」

 冷めたコーヒーを口に含み、飲み干す。

 あら?―――と美樹は店の外へ視線を送った。

 そこには影が二つ。

「・・・・・・・・・ふ〜ん」

 美樹は無意識にそう言った。

「どうしたの?」

「あっ、うんん。なんでもないのよ」

 美樹は慌てて両手を前で振る。その時、カラ〜ンとドアの鈴が鳴る音がし、誰かが入ってきた。

「お帰りなさい、ファルコン。それといらっしゃい、冴羽さん」

 美樹はにっこりと笑う。

 香が振り向くと、片腕に荷物を抱えた海坊主とその後ろで唇を尖がらせている僚の姿が見えた。

「香来てたのか。何か飲むか?」

 海坊主は素っ気無く香に言った。

 これは香を嫌っているとかではなくて、海坊主なりの言い方だった。

「うんん。大丈夫よ、さっきコーヒーを頂いたから」

 香は空になったカップを無意識に触る。

「もう、中は空だろ。新しいのをやろう」

 そう言うと海坊主はキッチンの中に入り、空になった香の前にあるカップにコーヒーを注いだ。目がほとんど見えないはずなのに、ぴったりとカップ8分目で止めた。

 香は心の中で凄いと思いながらも、

「ありがとう、海坊主さん」

 と礼を言った。

「ふん、別に礼などいい」

 そう言うと海坊主は荷物を片付けに奥のほうへ入っていった。

「・・・どうしたの?冴羽さん」

 美樹はいつまで経っても座らない僚を見て、話し掛けた。

「美樹ちゃん、コーヒーくれるかな」

 僚はそう言うと香の隣りに座って、オーダーをする。

「・・・ホットでいいかしら?」

「ああ、それで構わない」

 美樹はいつもと違う僚を見て少しにやっと笑った。

 もしかして冴羽さん・・・。―――美樹はある策略を思いつき、コーヒーを注ぎ僚の目の前に差し出した。

「どうしたの?僚。今日は何だか大人しいわね。どこか体の調子でも悪いの?」

 いつもなら店に入ってきた途端に美樹にちょっかいをかけているのが常例だ。

 なのに今日に限ってなぜか大人しく自分の隣りに座っていることに香は少し心配になった。

 本当なら常例といっても女の人にちょっかいを出して欲しくはないのだが、こうも大人しくされるとこっちの調子まで悪くなってしまう。

 なのでつい心配がちに聞いてしまったのだ。

「別に。どこも悪くはないよ」

 ズズズッ、とコーヒーを啜り、飲んだ。

「ねぇ、冴羽さん。ちょっとこっち見てよ」

「う〜ん?」

 僚が顔を上げるとそこには五円玉が糸で吊るされている姿があった。

「あなたは3秒数え終わったら香さんといちゃつきたくなる」

 機械的な美樹の声が店内に響いた。

 僚は真っ直ぐにその五円玉を見つめている。

「ちょっと美樹さん!」

 香は止めさせようとしたが、時は既に遅かった。

 僚の目が虚ろになっている。

「では、3・2・1!」

 ぱんっ!と美樹は両手を叩いて音を出した。

「あ・・・れ?」

 瞼をぱちぱちと瞬きさせる。

「どうかした?冴羽さん。目にゴミでも入った?」

 何事もなかったかのように美樹は僚に接した。

「あっ、いや・・・。何でもない」

 僚はそう言うとふっ、と香を見た。

 香はどきっ、として少し体をびくつかせる。

「香・・・」

 僚は香の肩に腕を回して自分に軽く引き寄せた。

「ちょっと、僚?!」

 急な行動に香はびっくりして、自分の肩に乗っている腕を退かそうとしたが、僚の力には敵わなくてそのままの体勢で僚の胸に顔を埋めることになった。

「会いたかった・・・」

 耳元で囁くかのように僚の声はひっそりと呟かれた。

「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 あまりの事態に香の思考は停止状態1歩直前まで追い込まれる。

 滅多に言われたことがない、しかも人前でなど言わない言葉をさらりと平気で言いのける僚に香は困惑した。

 いくら催眠術で操られているとはいえ、これには香も参った。

「あ、会いたかったって今日の朝会ったでしょうが!」

 美樹に見られているという恥ずかしさと普段の僚の性格からでは絶対に滅多なことじゃないと言わないセリフと態度に驚き大声を出してしまう。顔を上げて少し僚から体を離した。

「そんな冷たいことを・・・。数時間も俺たちは会ってなかったんだぜ?そんな寂しいこと言うなよ。それとも、香は俺と会えなくても寂しくはなかったのか?」

 真っ直ぐな目で見られて香は赤面させた。

「なっ!!!!」

 思わぬ言葉に香は開いた口が塞がらなくなる。

 香はこの術をかけた張本人である、美樹を見た。

「み、美樹さん!僚を元に戻してよ!」

「あら、どうして?いいじゃない。たまにはそういう冴羽さんでも」

 にっこりと笑いながら洗い物をする。

「でも!」

「でももかしこもございません。―――明日のもう一度ここにいらっしゃいよ。その時にでもなおしてあげるわ」

 ぱちんっ、と美樹はウインクをした。

「・・・・・なおすとかなおさないとか一体何の話だ?」

「えっ?いや、何でもないのよ。何でも」

 香は、はははっ、と乾いた笑いをする。

「美樹さん、悪いけど私もう帰るわ・・・。なんか疲れちゃって」

 香は僚を押しのけて席を立とうとした。

「何?じゃあ、俺も帰るよ」

 僚も一緒に立ち上がろうとする。

「えっ、いいわよ。折角来たんだから。もっとゆっくりしていなさいよ」

「嫌だ。香と一緒にいる」

 ぼんっ!と頭が破裂しそうな言葉と視線が香を襲った。

 あまりのストレートな言い方に香は硬直状態になる。

「じゃあ、美樹さん。俺も帰るよ」

 そう言うと僚は固まっている香の肩を抱いて、店を出ようとしたが美樹に呼び止められた。

「冴羽さん、香さんのこと大切にね」

 意味ありげな言い方をして美樹は微笑む。

「・・・勿論さ」

 僚はふっ、と優しそうな笑顔を見せて店を去った。

「・・・やってくれるわね。冴羽さんも」

 ふぅ、と美樹はため息をつく。

「帰ったか。あの二人は」

 店の奥から海坊主が出てきた。

「ええ。たった今ね」

「そうか」

 エプロンをつけて、雑巾を持った。

「それにしても冴羽さんもやってくれるわね。素でああいう態度を取れるならいつでもああいう風に接してあげれば良いのに」

「そんな事アイツができるわけないだろう。嘘でもお前の催眠術にかかったフリでもしなければああいう風にはできない」

 海坊主はカウンターの外に出てテーブルを吹き始める。

「演技でもかかったフリをしただけでもよかったじゃないか。演技でも僚のあの気持ちは本物だからな」

 ごしごしと力を込めて拭いた。

「やっぱりそう思う?」

「ああ」

「そうよね〜。じゃなければ、帰り際にあんな優しそうな顔できないものね。どっちにしろ冴羽さんは香さんの事を愛しちゃってるわけだ。う〜ん、ご馳走様」

 美樹は二人が去ったドアに向かって言った。

「ほら、サボってないで掃除でもしろ。この角が汚れてたぞ」

 海坊主は少し黒くなった雑巾を美樹の目の前に出しながら言った。

「・・・・ファルコンも催眠術かけようかしら?真剣に・・・」

 じとっとした目で美樹は海坊主を見た。

「なっ!俺があんな恥ずかしい真似できるか!」

 顔を赤くして怒鳴る。

「大丈夫よ、催眠術だから体が勝手に動くわよ。―――どう?ファルコン。試してみる気はない?」

 にっこりと微笑んだ。

「あ、あ・・・。俺はちょっと用事を思い出したから出かけてくる!」

 海坊主はそう言うとエプロンを引きちぎって店から出て行った。

「あらあら。冗談なのに・・・。まあ良いわ」

 そう言うと美樹は1人になった空間を楽しむかのように鼻歌を歌いながら掃除をし始めた。

 

 

 

 

 

*****戯言*****

えへっ。お久し振りのCHです。

まい様お待たせ致しました!!

リク通りに書けなくてすみません!!子供のように甘える撩を書こうかと

思ったのですが、どうしても書けずにイチャラブになってしまいました・・・。

もう、ホンマすんません!!m(><)m

返品受け付けます。。。

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