「どうしたの?ボク」

 香は新宿駅の伝言板の近くで、涙ぐんでいる幼稚園くらいの男の子を見つけた。

 泣いてはいないのだが、一生懸命歯を食いしばって泣くのを耐えている。

 香は見るに見かねて、この男の子に声をかけてしまった。

「・・・ぐっ!」

 男の子は何か言葉を発しようとしたが、涙が出てきそうなので声をかみ締めた。

 やだ、どうしよう・・・。

 香はとても可哀相に思えてきて、自分も泣けてきそうになる。

「お母さんかお父さんは?はぐれちゃったのかな?」

 優しく問いかける。

 ふんわりと笑い、男の子の心をなんとか和ませようとした。

 その笑顔を見ると男の子は、香の胸に飛び込んできた。

 香の胸の中でぐすぐすと泣いている。

 どうしたらいいかわからなくて、とりあえず頭を撫でた。

 周りから少し奇異な目で見られていたが、香は気にしなかった。

 少し泣き止んだ頃を見計らって香は声をかける。

「ボク、一体どうしたのかな?」

 すると男の子は手の甲で涙を拭うと、

「お母さんがいなくなっちゃったの。ボクが余所見をしているうちにお母さん消えちゃった!」

 そう言うとまた目に涙を浮べる。

「そう。・・・じゃあ、一緒にお母さん探しましょうか。これでもお姉さん、人を探すのは得意なのよ」

 香はにっこりと笑う。

 その笑顔に男の子の顔はぱぁ〜、っと明るくなりこくりと頷いた。

 さて、そうは言ったもののどうしようかしら?

 香は少し悩むと、大事なことを聞いていないことに気づく。

「そう言えばボク、お名前は?」

「ボク、裕樹。有村 裕樹って言うの」

「裕樹君ね。私は槙村香よ。よろしくね」

 香が裕樹の手を引いてその場から離れようとしたときに、

「きゃ〜〜〜」

 と女の人の声が聞こえてきた。

「な、何っ?」

 香は何か事件があったのかと思い、身構える。

 すると・・・。

「お譲〜さんvvボクとお茶しようよ〜」

 いつも聞いている能天気な声。

 ・・・あのバカ・・・。

 香は急な頭痛に襲われる。

 自分と一線を超えながらも他の女の人をナンパするとはどういうことか。

 いつもくだらない嫉妬に悩まされて、心が壊れそうになる。

 本当に自分のことを愛しているのかという疑問をもち始める。

 それに私に嫉妬なんて、僚はあまりしてくれないし。いつも私だけ・・・。

 負のイメージが香の心を蝕む。

「お姉ちゃん、どうしたの?どこか痛いの?」

 そんな香に裕樹は心配そうに聞く。

 香はそんな裕樹を見て、少し心が和んだ気がした。

 裕樹は素直に香のことを心配してくれている。

 そう思うと香は負のイメージを消し去った。

「うんん、何でもないのよ。心配してくれてありがとう」

 にこりと笑うと香は裕樹の頭を軽く撫でてあげた。

 裕樹はぽぉ〜、とその香の笑顔を見ている。

「や、止めてください!私は今子供を捜しているんです!」

「えぇ〜、それは大変だぁ〜!俺も一緒に探すよvv」

 僚は下心見え見えの言葉を吐く。

 ・・・アイツはアホだ・・・。

 とほほ、と香は心の中で嘆いた。

 えっ?!子供?!

 香はもしやと思い、裕樹に聞く。

「ねぇ、裕樹君!あの男の人に絡まれている人ってもしかして君のお母さん?」

 指を指し裕樹に教える。

「えっ?見えないよ・・・。あの男の人が邪魔で・・・」

 何とかその人物を見極めようとするが、大きい僚の体が邪魔で見えない。

 ったく、あのバカ!

 香は裕樹の手を引っ張ると、

「裕樹君!ちょっと一緒に来て!今あの男を退治するから!」

 香はそう言うと裕樹の手を引っ張って、僚の元へ行った。

 香は背中からハンマーを取り出すと、

「この変態色魔人がぁ〜!!!!!!いい加減にさらせ〜!!!!」

 そう言うと香は思いっきりハンマーを僚の上に降り注いだ。

「グヘェッ!!!」

 蛙が潰れたような声を出して、地面に撃沈する。

「ったく。少しは人の迷惑を考えなさい!」

 ハンマーから手を離し、パンパンと手を叩いた。

「裕樹!!!」

 すると僚に絡まれていた女の人が、裕樹を抱きすくめた。

「お母さん!」

 裕樹も嬉しそうに母親を呼ぶ。

「よかった、無事で・・・」

 女の人は涙を流しながら、裕樹をぎゅっと力強く抱きしめた。

「ごめんなさい・・・」

 裕樹は素直に謝った。

 本当に自分を心配してくれているとわかって、申し訳ない気持ちになったのだ。

「よかったね、裕樹君」

 香は二人の前に屈み込んだ。

「あ、あのどちら様で・・・」

 母親はぱちくりと目を開けた。

「あのね、お母さん。このお姉ちゃんボクと一緒にお母さんを探してくれたの」

 裕樹の言葉に母親は香に深くお辞儀をする。

「ありがとうございます。申し訳ありません、息子がご迷惑をおかけしたみたいで」

「いええ。お互い様です。こっちも貴方に迷惑をかけてしまったので・・・」

 両手をブンブンと振る。

「えっ?」

 女の人はきょとん、とした顔になった。

「コイツ、私の知り合いなんです」

 地面にうずくまっている僚を指した。

「ま、まあそうでしたの。でも、お陰さまで裕樹が見つかったことですし。本当にありがとうございました」

 母親はもう一度頭を下げた。

 香は少し照れくさそうに笑うと、

「裕樹君、またね。今度はお母さんとはぐれちゃ駄目だよ」

「うん!あっ、そうだ」

 裕樹はそう言うと母親の腕から抜け出して、香の目の前まで来た。

「?・・・どうしたの?」

「あのね・・・」

 裕樹は可愛くそう言うと、素早く香の唇に自分の唇を重ねた。

 ちゅっ?

 ぱっと、離れると、

「これ幼稚園の女の子にやってあげると、とても喜んでくれるんだ。ボクからのお礼」

 にこにこと目の前で笑った。

 香は一瞬、頭が真っ白になったがすぐに正気を取り戻し、はははっ、と笑った。

「ありがとう」

「す、すいません。これ、裕樹!むやみやたらにそんなことをしちゃいけません!」

 母親は怒鳴った。

「まあ、いいですよ。お母さん。子供のしたことですから」

「本当にすみません」

「いいえ、いいんですよ」

 引きつりながら笑う。

「では、私たちはこの辺で失礼させていただきます。裕樹、行きましょう」

「うん!じゃあ、お姉ちゃん、またね!」

「ええ、またね!」

 そう言うと二人は去っていった。

 ふぅ、と香がため息をつくと、

「ほぉ〜、いいご身分じゃないか。ナイト様のキスってか?」

 ハンマーを退けて、不機嫌な顔をしている僚が言った。

「りょ、僚。見てたの・・・?」

「当たり前だろう?!見たくなくても見えちまったさ」

 ぶすぅ、と僚の顔が膨らむ。

 ・・・なんだか子供みたい。

 そう思ったが今ここで言うと僚の機嫌が悪くなりそうなので止めにした。

「でもいいじゃない。子供がしたことなんだから」

 なんとか僚の機嫌を落ち着かせようと、香は弁解する。

「はっ!子供と言っても所詮は男だろうが!他の男にキスされてなにがいいじゃないだ!」

 僚はそう言うとそっぽを向いた。

 ・・・もしかして僚、焼いてるのかな?だとしたら嬉しい・・・。

 無意識に笑みがこぼれる。

「な、何だよ!何笑ってんだよ」

 香の笑顔に僚は更にむっとする。

「ごめんごめん。今度から子供でも気をつけるわ」

「ったく、こんなことならあの母親を連れてくるんじゃなかったぜ」

 腕を組んで軽くため息をつく。

「えっ?連れてくる・・・?」

 香は言葉の意味が理解できなくて、聴き返した。

「あっ・・・」

 僚はしまったという顔になり、ちらっ、と香を見る。

「もしかして私があの子の母親を探しているの知ってたの?」

 一瞬そう聞かれて、僚は息をつまらせたが、

「偶然だよ、偶然!さっ、もう帰るぞ!俺は腹がすいた」

「本当に〜?」

「本当だ。とっととけーるぞ。何か作れ」

「はいはい。わかりましたよ」

 香はそう言うとくすっ、と笑った。

 もしかして私ってめちゃくちゃ僚に愛されているのかしら?だとしたらとても嬉しい。

 香はそう思うと、先行く僚の腕に自分の腕を絡ませた。

「なっ、何んだよ」

「いいじゃない、たまには。こうやって帰りましょう」

 ルンルン気分で香は僚の隣を歩いた。

 初めはぶすくれていた僚であったが、香の嬉しそうな表情を見て次第に自分も笑顔になる。

「ったく、今日だけだぞ」

 そう言いながら顔は笑ったいた。

「うん!」

 香は嬉しそうに微笑むと、ぎゅ、と僚に抱きついた。

 

 

 

 

*****戯言*****

香の浮気モノ(?!)第1弾です。
いつも撩は女の人を追いかけているんだから、
たまには香も他の男に追われないとね。って、
まだ子供ですけど。(笑)

 

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