史上最大の痴話喧嘩

それは香がある現場を目撃した事から始まった。

その日は普段と変わらない行動を取っていた。

朝起きたら、御飯を作って撩を無理矢理たたき起こす。

なんとか撩に朝ごはんを食べさせると、後片付けをし掃除、洗濯と家事をて

きぱきこなした。

撩はいたたまれなくなるのか、身嗜みを整えると外に出掛けてしまう。

香はいつもの様に見送ると、毎日の日課である伝言版を見に行った。

その伝言版にはいつもの様に依頼は書いてはいなく、落胆の表情を浮かべ

ながらキャッツ・アイま

で足を運ぶのだった。

他愛のない事を数時間に及びながら話す。 夕飯の支度の時間になると香は

キャッツ・アイを後にする。

これがいつも香が取っている行動パターンだった。

今日もいつも通りにキャッツ・アイを後にすると、公園の前を通りかかった。

まだ少し時間あるから中を散歩してから帰ろうかな。

香はそう思うと公園に足を踏み入れた。

するといつも見慣れている男性の後ろ姿が見えた。

あれは・・・、撩だわ。何してるのかしら?

香は声を掛けようとして近寄った。

「りょ・・・」

言葉が止まる。

近寄って撩が何をしているかがわかった。

女の人と抱き合ってる・・・。

香はショックで一瞬全ての思考回路止まる。

撩が優しく自分以外の女性の肩を抱いている。

 香はくびれている腰に回されている手を見る。

 それはしっかりとその腰を捕まえていた。

 やだ・・・。見たくない・・・。

 そう思った瞬間に香は公園から抜け出していた。

この行動が後に大変なことを招く結果になるとは香は思わなかった。

 とりあえずこの場から逃げ出したい一身だったのである。

 

 

**********

 

 

「とっとっとっ。・・・大丈夫かい?君」

 撩は腰に廻した手を退けた。

「あっ、すみません。ありがとうございます」

 女性は体勢を整えると、深く御礼をした。

「すみません、私そそっかしいもので」

「いやいや、そのおかげで俺も役得ができたし」

 にやけた顔で撩は笑う。

 どうやら彼女の腰の細さを思い出したらしい。

「役得・・・?」

 女性は不思議そうな顔で撩を見た。

「まあ、今度からちゃんと下を見て歩くんだね。結構ここの公園は躓きそうな

石が沢山あるから」

「はい、ありがとうございました」

 女性はにこっ、と笑うとその場から立ち去っていた。

「さあてと、俺もそろそろ帰るかな」

 撩は軽く伸びをする。

 今の光景を香が見ていたとは露にも思わない。

 今日の晩飯は何かな?

 そう思いながら、撩は帰路に着いた。

 

 

**********

 

 

 ・・・撩が他の女の人と抱き合ってた。

 香は先ほど見た光景を思い出す。

 撩の腕はしっかりと腰に回っていた。

 その事しか頭にはない。

 撩の顔は見なかったが、きっとにやけた顔に違いない。

 そして自分にも向けているように優しい顔であの女性に笑いかけているに

違いない。

 そう思うとなんだか悔しく思えてくる。

 自分だけが撩の想い人なんだと勝手に自惚れていた。

 一線を超える前は、ちょっとした嫉妬心で撩にハンマーを食らわせていた。

 しかし、一線を超えてしまった今、浮気現場を見つけるととても冷静じゃ

いられなくなる。

 今にも飛び出して相手の女性を殺したくなる。

 それは手に入らないと思っていたモノが入ってきてしまった故の感情だった。

 深く関係を持ってしまったら、もう手放せなくなる。

 あの力強い腕で他の女を抱くのは許さない。

 あの優しい瞳で他の女を見るのは許せない。

 全て自分のモノだけにしたい。

そう香は最近思うようになってきた。

 ・・・やだ、私なんてこと思ってるんだろう。こんな浅ましい気持ちがあっただ

なんて・・・。

 前は嫉妬心だけで済んだのに今じゃ、ただの醜い心の塊じゃないよ。

 はぁ、と香はため息をつく。

 ・・・きっと今醜い顔してるんだろうな。

 両手で自分の顔を覆う。

 その時後ろから肩をぽん、と叩かれた。

 えっ、と思って香は振り向いた。

 するとそこには今一番会いたくもない人物が立っていた。

「よっ!お前も今帰りか?」

 にこやかな顔がそこにある。

 その表情が今は癇に障る。

「撩・・・」

 無意識に愛しい人の名前を呟く。

「何だぁ?その顔は。今日も相変わらず依頼なかったのか?まあ、しょうがね

ーじゃん。明日にでも期待しようぜ」

 撩の口から明日という言葉がでる。

 以前なら先の事なんて考えても見なかった男の口から、未来の事が紡が

れる。

 大した新歩だ。

 これも愛しい人を守りたいという気持ちの現われだろう。

 撩は感情表現がとても下手だ。

 そういう言葉の節々に気づくか気づかないかギリギリのラインのことしか言

わない。

 はっきりと自分の気持ちを表現するのが恥ずかしいらしい。

 しかし香はちっともそれには気づかない。

 それが今回大きなツケとなって目の前に現れた。

 ・・・やだ、今は撩に会いたくない。逃げなきゃ・・・。こんな醜い顔に気づか

れる前に・・・

 香はそう思った瞬間にその場から走り出した。

「へっ?・・・お、おい!香」

 いきなり走り出した香に撩は唖然とする。

「一体何なんだよ!」

 ちっ、と舌打ちをすると撩は香の後を追いかけた。

 

 

**********

 

 

 香は近くにある廃墟ビルの中に入っていった。

 ここは・・・。

 見覚えのあるビルに撩は足を止めた。

 ここは香のトラップ練習場じゃないか。

 香りはここで海坊主の特訓を受けている。

 銃は撩よりも扱えないが、トラップにかけたら撩よりは上手いかもしれない。

 何せ海坊主の直属の弟子だ。

 海坊主が太鼓判を押す程の力量。

 ちゃくちゃくと裏の世界に技が慣れ親しんでいる。

 体の関係を持つ前は、その練習を止めさせようと思った。

 いずれ表の世界に戻る身だ。

 そんなトラップの仕掛け方を覚えていても仕方がないと。

 しかし、香が是非ともと海坊主に懇願した。

 撩の側にいるなら自分のみは自分で守りたい。

 足手まといになるのは嫌だと。

 銃はあまり上手く仕えないから、トラップならと思い香は海坊主の弟子に志

願した。

 海坊主は香の気持ちに応えるべく、本気でトラップの仕掛け方を教えた。

 週1か2辺りでの特訓。

 海坊主と香の暇な時間があればそれは行われていた。

 その練習場として選ばれたのが、この廃墟ビルだった。

 辺りには誰も住んではいなく、物騒なので人もあまり通らない。

 電光等があまりないので、一人では歩きたくない場所だ。

 ここを通るなら何かに襲われると覚悟をして通った方がいいだろう。

 普通の人はこの道は通らない。

 地元民ならば尚更だ。

 人気が全く無い場所なので、ここは少しぐらいの大きな音を出しても誰も気

づかない。

 いや、気づいたとしても誰も近寄ってこないのが現状だ。

 その場所に今撩は立っている。

「な〜んか、やな予感・・・」

 本能なのか撩は嫌な雰囲気に悩まされた。

「ったく、香の奴一体何考えてやがんだ?」

 仕方ないと撩はため息をついて中に入っていった。

 中を見渡すと、瓦礫でいっぱいだ。

 いたるところに蜘蛛の巣が張ってあり、誇りっぽい。

 ああ、こんな所にいたら俺の一張羅が汚れちまうよ。早く香を見つけ出さな

ければ。

「おお〜い、香!どこだ?隠れてないで出て来いよ」

 ゆっくりと歩きながら撩は言う。

 ちらっ、と回りを見る。

 ・・・これはトラップか?わからん・・・。ダミーっぽいけどな。

 近くにあるトラップに撩は歩みを止める。

 でも。近くにトラップらしきものなんてこれしか見当たらないしな。

 ひょい、と近くにある石を投げてみる。

 こんっ、と当たりトラップが外れるが、なんともならない。

 ふむ、やっぱりダミーか。

 まあ、俺相手にトラップなんか仕掛けないだろうな。

 そう思い撩は足を1歩踏み入れた。

 ピンッ!

 右足が何かを踏んだ感触が残る。

 下を見ると細いワイヤーを自分の足で踏みつけていた。

「なっ!」

 その瞬間、槍がどこからもなく飛び出してきた。

「ひゃ!!」

 撩は青ざめながら何とかそれを交わす。

「ふっ!ほっ!とう!てぃ!」

 中には槍を手刀で叩き落す。

 やっと一段落すると、撩は肩で息をしながらその場に立った。

「おい・・・。おい!香〜!一体どういうことだ?!出て来いよ」

 撩はその場で怒鳴る。

「いや、今は撩の顔を見たくはないの!・・・今、自分の顔を見せたくない」

 どこからともなく香の声が響いてきた。

 ちっ、やっかいだな。音が反響してどこにいるかわからない。もう少し特定し

なければ。

「俺が何したっていうんだよ!俺、お前に何かしたか?」

 撩は耳を澄まして香の返事を待つ。

「・・・うんん。私には何にもしてないわ」

 低い声があたりに響く。

 ・・・低い声が響くってことはここからそんなに距離はないな。

 だとすると考えられるのは、あそことあそこか・・・。

 撩が立っている場所から10メートルぐらい行ったところに、

部屋が左右ともに部屋の入り口がある。

 呟くみたいな声が聞こえるということはそんなに離れてはいないはずだ。

 あの、どちらかの部屋に香はいることになる。

 撩は思い切って足を踏み出そうとした時に、

「撩!それ以上入ってこないで!・・・まだこの先にもトラップはあるわ。だから

今は大人しく帰って頂戴」

 ビンゴだな・・・。遠くの郷里ならば俺の姿なんて見えやしない。

 撩はその二つの部屋に香りがいることを確信する。

「俺が大人しく帰るとでも思っているのか?冗談じゃない。・・・する者が・・・」

 撩は肺に空気を沢山いれると、

「愛する者が苦しんでいるのに俺が帰れるはずないだろう!」

 この言葉に今吸った空気を全部使った。

 撩の言葉が建物全体に響く。

「香、何があった?俺はお前に何かしたのか?」

 悲痛な声が撩の口から漏れる。

 その言葉に香は部屋から出てきた。

 香が出てきた部屋は撩が睨んだとおりの部屋からだった。

「撩・・・。今の言葉本当?」

 香は信じられないといった顔で撩を見る。

「やっとでてきたか」

 撩は軽くため息をつく。

「ねぇ?さっきの言葉、本当?」

 香は近づきもせずに、身を乗り出して聞く。

「・・・・そう何度も言えるかよ。ば〜か」

 撩は照れた様にぷい、と横を向く。

「じゃあ、何でさっき、公園で女の人と抱き合っていたの?」

 香の思いもよらない言葉に撩は香を見つめる。

「はぁい?俺が女の人と抱き合ってた?」

 撩は未に覚えの無いことを言われて、顔に?マークを浮かべる。

「さっきよ、さっき!公園で女の人の腰に腕を回していたじゃない!」

 香の目に薄っすらと涙がたまる。

 さっき・・・・?

 撩は公園での出来事を思い出す。

 ・・・・ああ、あれか。なるほど、あれを見て香は勘違いしたのか・・・。

 撩は嫉妬してくれたことが嬉しくて、つい、にやっと笑ってしまう。

「何よ。何で笑っているのよ!そんなに可笑しい?私が怒ってるのって・・・」

 キッ!と香は撩を睨む。

「違う、違う!それは誤解だ!」

 慌てて撩は訂正する。

「あれはお前の誤解なんだよ!あれは抱き合っていたんじゃなくて、助けた

んだよ」

「助けた?何からよ」

「地面から」

「はぁ?」

「だから、俺の目の前で石に躓いたから、俺が地面と激突する前に助けたん

だよ。その時なら腰を持ったがな」

 撩は腕を組みながら説明する。

「・・・転びそうになった所を助けたの・・・?」

「ああ。それとも何か?激突するとわかっていて助けない方が良かったの

か?」

「いや・・・。それは助けた方がいいかも・・・」

 覇気の無い声が香からもれる。

「じゃあ、あれは私の勘違い・・・」

「だろうな・・・。まあ、しかし何だ。お前がそんなことで嫉妬してくれるなんて

嬉しいよ。ちょっと、精神的にも肉体的にも冷や汗モンだったけどな」

 精神的というのは香に逃げられたこと、肉体的というのはトラップを掛けられ

たこと。

 肉体には傷はついていないが、洋服の所々に破れたところを指した。

「ご、ごめんなさい。私すごい勘違いしちゃって・・・」

 香は申し訳なさそうに言う。

「まあ、いいさ。それよりも早くこっちに来いよ。帰ろうぜ」

 撩はそう言うと手を差し出した。

 香はそれを見ると、

「うん!」

 にこやかな笑みで、大きく頷いた。

 撩に走りよろうとして香はその場から動いた。

 その時、カチッ、と言う音がしたのを二人は聞き逃さなかった。

「しまった!!」

 香がその音を聞いて青ざめる。

「・・・お前まさか」

 撩も一緒に青ざめる。

「早くここから脱出して!!」

 香は慌てふためいてその場から逃げる。

 出て、ではなく脱出。

 それがどういうことなのかが撩には想像がついた。

 撩は外に出ると香の体を抱きしめた。

 そしてなるべく遠くに飛びのく。

 その瞬間、ビルの1F部分が建物に押しつぶされた。

 物凄い音を立てて、ビルの1F部分がなくなる。

 もくもくと粉っぽい煙を出して、ビルは無残な姿になる。

 撩はそのビルを見て、呆然とする。

「お前、俺を殺す気だったのか・・・?」

「そんなつもりじゃなかったんだけど・・・。ちょっと仕掛け方間違っちゃったみた

い・・・」

 はっはっ・・・。と香は笑った。

「ちょっとね・・・」

 いかにもだるま飛ばしみたいな形になったビルを撩は見上げる。

 ちょっとでビル1F全体のフロアがなくなるなんて・・・。恐ろしい・・・。

 撩は申し訳なさそうな顔をしている香を見た。

「・・・帰るぞ、香。いくらここが人通りがないと言ってもこんな騒音をたてたら警

察が来るからな」

 撩は香を立たせてる。

「そうね。・・・本当にごめん、撩」

 目を伏せて、香が誤る。

「いいさ。誤解が解けただけでも。・・・でも、もう二度とこんな痴話喧嘩なんか

お断りだからな!」

 そう言うと撩は軽く、香の額に唇を落とした。

「俺は喧嘩じゃなくて、お前を守るために命をかけてるんだから。痴話喧嘩

のために命を落とすのはご免だぜ」

 その言葉に香はぽろっ、と涙をこぼす。

「うん・・・。うん、ありがとう。撩」

 どす黒いモノが香の中で溶けていく。

「じゃあ、早くずらかろう!」

 そう言って、撩は香の手を取ると走り出した。

 香はその手をぎゅ、と力強く握り、一緒に走り出した。

 

 

*****戯 言*****

ハネジロー様、お待たせ致しました!!!

「史上最大の痴話喧嘩」いかがですか?

ご希望通りに応えているかどうか、心配です・・・。

リクを聞いた瞬簡にやっぱりビル一つ爆破かな・・・?

と思ったのですが、さすがに爆破だと大変な事になってしまうので、こんな形に

なりました。気に入っていただけたら嬉しいですvv

 

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