撩は不思議な感覚に陥りながら、目を覚ました。

 いつもなら「起きろ、撩〜!」などと大声をあげながら起こしに来るはずなのに、今日はその気配が前々感じられない。

 撩はおかしく思い、近くにある目覚まし時計に手をかけた。

 見ると、時計の針は12時50分を指していた。

 ――・・・昼過ぎてるじゃないか。起こしに来ないなんて珍しいこともあるもんだ。

 生あくびを噛み潰し、ベットの上で伸びをする。

 毎朝の喧嘩をしないとどうも落ち着かない。

 起きる、起きないの喧嘩をしてやっと撩の一日が始まるのがここ数年の日課だ。

 それがないとどうもおかしな感覚に陥る。

 ポリポリと頭を掻くとベットから起き出した。

 ダイニングに行くと、香の姿はなくただ静けさが漂っていた。

 朝からいないのかダイニングには暖かさがなかった。

 先程までいたのなら暖房の暖かさの余韻が部屋に残っていてもよいはずだ。

 しかしここにはその暖かさがない。

 ――どこ行ったんだぁ?香の奴。

 ぼーっとした頭で考える。

 ――伝言板でも見に行ったのかな。

 毎日欠かさない香の日課を思い立つ。

 とりあえず眠い頭を覚まそうと、コーヒーを容れて飲み始める。

 コーヒーを啜りながら、辺りを見回した。

 ――ここはこんなにも静かな所だったかな。

 あまりの静けさに撩は違和感を感じる。

 香がいないだけでこんなにも静かなものなのか。

 そう思うと段々そわそわしてきた。

 槙村がいたときはこんな静けさを感じることはなかった。

 槙村はパートナーではあったが、別々に行動をすることが多かったので、そんなには一緒にいなかった。

 槙村は槙村の、俺は俺の仕事がちゃんとわけられていたから。

 槙村は主に情報収集役、俺はその情報を元に仕事をこなすスイーパー。

 だからパートナーだったとしても、毎日一緒にいることはなかった。

 2,3日のうちに会うのが良い方だった。

 槙村は規則正しく生活をしていたので、昼夜逆転の俺とは会う接点がなかった。

 ――きっと香の生活習慣は槙村のせいだろうな。

 撩はふっ、と苦笑した。

 だから槙村がここにいたときは、ここも今の静けさと変わらなかった。

 この静けさを壊すようにずずずっーと音を立ててコーヒーを飲んだ。

 静けさが壊れたのは一瞬だけ。

 飲み終わると又静けさが訪れた。

 ――・・・俺なんでこんなこと考えてるんだろ。香がいないだけでこんなことを考えるなんて、俺も等々ヤキが回ったかな。

 香のいる事が俺の中では当たり前の様になっている。

 それほど俺の中では香の存在が占めているということか・・・。

 香への気持ちに気づかない前ならばこんなことは考えもしなかっただろう。

 今は香への気持ちを認め、夜を供にするようになった今だからこそ考えることだ。

 それにしてもこの家の主は俺なのに同居人の香がいないだけで、こんなにもナーバスになれるのだろうか?

 今日の俺はちょっとおかしいらしい。

 ――こうなったら香が帰ってくるまで寝てるか。

 目は覚めたが、このまま起きていると気持ちが落ち着かなくてどうしようもない。

 ――ったく、俺も弱くなったもんだな。

 そう思いながら撩の顔は微笑んでいた。

 その弱さが嬉しく感じる。

 昔の自分では考えられない弱さ。

 昔はこんな弱さなんていらないと思っていた、

 こんな弱さがあると自分を駄目にするんじゃないかと。

 それにうだったい存在であだろうと。

 しかし今その弱さを手に入れた俺は、駄目になったとは思わないし、うざいなんて思わなかった。

 逆に安堵感を得た様な気がする。

 ――こんなにも香の存在が俺の中で大きくなっていたとはな。

 撩はもう一眠りしようとして、そのままダイニングを出ようとしたときに、玄関の扉が開いた。

「ただいま〜。撩。まだ寝てるの〜」

 のんきな声が家の中に響く。

 今までこの家に取り巻いていた静けさがどこかへ姿をくらました。

「起きてるよ」

「あら、珍しい」

 俺の姿を確認すると香は驚いた顔をした。

 ――そんなに珍しいことなのかよ・・・。って珍しいかも・・・。

 最近の記憶の中で、自分で起きたためしがないような気がする。

「それより香、お前どこ行ってたんだ?」

 昔の俺ならば聞かない質問。

 一度手に入れてしまったから、聞いてしまう質問。

 ほんの少しの間存在を感じられなかっただけなのに、嫉妬してしまう自分が馬鹿らしく思う。

「どこって、いつも通りに伝言板を見に行って、美樹さんの所でコーヒーをご馳走になってたのよ。それがどうかしたの?」

 きょとん、とした表情で俺を見た。

 ――だよな〜。それしかないもんな。・・・俺何勝手にナーバスになってるんだろう。

 自分の独占欲の強さに深いため息をつく。

「どうかした?撩」

 香がそんな俺を見て心配そうな顔をした。

「いや、なんでもないよ。それより腹空いた。何か作ってくれよ」

 撩はそう言うとテーブルにつき、机の上においてある新聞を広げた。

「・・・変な撩。まあ、いいわ。すぐ作るから待っててね」

「ああ」

 一言ぼそっ、と言う。

 香がいるだけでこの家の空気が一気に変わった。

 気のせいか空気が軽くなった気がする。

 俺は新聞を読むのを止めて、席を立った。

 香のところまでいき後ろから抱きしめた。

「ちょっ、撩!びっくりするじゃないのよ」

 香はびっくりしたのかとても驚いた顔をしていた。

 そんな顔も可愛いと思ってしまう今日この頃。

 俺はそんな香の言葉には耳を貸さずにぎゅ、と抱きしめた。

 香はそんな俺を変に思ったのか、じーっと俺を見つめた。

 ――そんな真っ直ぐな瞳で俺を見るなよ。襲いたくなってくるだろうが・・・。

 理性をなんとか総動員させながら、撩はふっ、と微笑んだ。

「何?」

 香が笑った意味を問う。

「いや、まだ朝の挨拶をしてなかったなと思ってさ」

「朝の挨拶?でももうそんな時間じゃないでしょ」

「じゃあ、おかえりの挨拶」

 撩はそういうと香に顔を近づけた。

「えっ・・・」

 香はぱちぱち、と瞬きをした。

 軽く触れるだけのフレンチキス。

 すぐに離れて、撩は微笑んだ。

「おかえり」

 今自分の腕の中に香がいることを確認する。

「あっ、うん・・・。ただいま」

 香は少しの間呆然としたが、すぐににこっ、と笑った。

 撩はその笑顔を見ると、又微笑み、テーブルの席についた。

 そして新聞を広げ、目を通し始めた。

 香はそんな撩を見て、くすっ、と微笑むと料理を再開し始めた。

 

 

***戯言***

初めて書いたシティーハンターいかがでしたか?
AHが連載を始めて、香FANだった私が香ちゃんの為に書いた話です。
やっぱり香は撩に愛されてないとね。

 

 

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