2月13日。

 この日は聖・バレンタインデーにあたる前日である。

 世の男の人は好きな人からチョコを欲しさに、頑張る日である。

 その前ぐらいから頑張っている人もいれば、前日になっていきなり態度が変わる人も現れる。

 優しくなったり、気を使ってみたりとかして傍から見れば情けない姿である。

 しかし聖・バレンタオンデーはそれほどになるまで魅力的な日なのである。

 チョコレートを貰えるということは、いわば、人気のバロメーターみたいなものだ。

 ほとんどの目的はカップルが成立するかしないか、又は、恋人達の甘い日にするためでもある。

 この日は1年に一度の大イベントであるのだ。

 ここにもそのイベントの魅力にはまってしまった人物が1人いた。

 そわそわと落ち着きがない態度で、椅子に座っていた。

 何度も足を組み返したり、椅子をガクガクを揺らしてみたりして、かなり落ち着きがない。

「お頭。すこし静かにしてくれませんかね?」

 ベンが静かな口調で言った。

「えっ?俺とっても静かじゃん。ねー、マキノさん」

 シャンクスは店の女主人、マキノに話を振った。

 するとマキノは苦笑しながらも、

「ええ、そうですね」

 と言った。

 シャンクスはそのマキノの言葉を聞くと、何言ってるの?みたいな感じの視線を投げかけた。

 ベンはその視線の意味を理解したらしく、

「そう言うことじゃなくて。そわそわしてるのはわかるけど、椅子を揺らさないでもらえないか?ガタガタとうるさくてかなわん」

「え〜、だってさ〜。すっげードキドキすんじゃん。明日バレンタインデーだよ。バレンタインデー!ルフィからもしかするとチョコ貰えるかもしれないっていうのにさ、落ち着いてなんかいられませんよ!」

 そこら辺のおばちゃんみたいな言い方で言う。右手でちょいちょい、と上下に振った。

 ベンはそんなシャンクスを見て、

「・・・そうか。貰えるといいな」

 あきらめたのか、ふぅ、と軽くため息をついた。

 ・・・確かチョコって女が男に渡すモンじゃなかったっけかな?

 ベンはそう思ったが、シャンクスの嬉しそうな顔を見て言うのをやめた。

 希望を潰すのは可哀想だな。もしかするとくれるかもしれないしな。

 ベンは目の前にある酒が入っているグラスを一気に飲み干した。

「あれ?そう言えば今日はルフィの姿見えないけど、どうかしたのかな?」

 シャンクスは当たりを見回した。

 いつもシャンクスがこの店にいると必ず来るのに今日に限って姿が見当たらない。

「ああ、ルフィなら今日は用事があるみたいだから、今日は来ないかもって言ってたわよ」

 マキノはそう言った。

「用事?・・・もしかして今ごろルフィは家で俺の為にチョコレートとか作っちゃったりしてんのかな?」

 シャンクスはにやけ顔になる。

「さあ?それはわからないですけど」

 マキノはくすっ、と笑う。

「・・・お頭。今日はもう帰ろう。ルフィが来ないんじゃ、ここにいてもしょうがないだろう。明日に備えてもう船に帰ったらどうだ?」

 ベンが口をはさんだ。

「そうだな。今日はもう帰ろう!明日の為にも」

 シャンクスはすくっ、と立ち上がると、

「又、明日来るね。マキノさん」

 そう言って店を後にした。

 ベンはマキノに向かって、

「どうもすみません。お頭がおかしなことを言って」

 子供にしかも男にチョコが貰えるかな?とドキドキしながら待っているシャンクスの事をマキノに謝った。

「いいえ。謝ることなんてないですよ、副船長さん。でもあんなにルフィの事が好きだなんて知りませんでしたわ」

「はあ、まあ。好きらしいですね」

 かなり。異常な程。

 と付け加えようとしたが止めた。

「嫌われるよりは嬉しいですわ。好かれていた方が」

 マキノはにこっ、と笑った。

「そうですか」

 ベンはその笑顔を見ると、なぜかほっとしたような気になった。

「では、俺もこれで」

 そう言って出てって行こうとしたときに、マキノがぽつりと言った。

「明日、貰えると良いですね。チョコ」

「・・・ええ。そうですね」

 そう言うとベンは店から出て行った。

**********

朝方、皆が寝静まっている時に、誰かがベンの部屋のドアをノックした。

「・・・誰だ?」

 ベンは不機嫌そうに言った。

 こんなに朝早くから一体誰だ?

 眠ったばかりの意識をなんとか呼び起こす。

「お休み中、申し訳ありません。ちょっとお頭がちょっと・・・」

 若い船員の声がドア越しに響く。

「何っ?お頭がどうかしたのか?!」

 ベンはシャンクスに何かあったのかと思って、ドアを思いっきり開ける。

 船員の驚いた表情が目に入ってきた。

「い、いえ!そうではないのですが」

 少しびっくりしたのか後ずさりをした。

「その、今俺が見張り役をするはずなのですが、お頭が来て、俺がやるからと言って無理矢理交代させられてしまいました」

「・・・はっ?」

 ベンは意味が理解できなくて、きょとん、とした表情になった。

「いえ、ですから結論から言いますと今お頭が見張り台に座っているんです」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 ベンは一瞬、思考が止まった。

 ・・・ルフィのチョコ待ちか?もしかして・・・。

 勘の鋭いベンは寝起きにも関わらず、ピンッ、と直感が働いた。

「どうしましょう?このままって訳にはいかないですし・・・」

 船員はオドオドとした態度で言った。

「・・・ほっておけ。あの人がそうしたいんだから。お前はラッキーと思ってもう寝ろ」

 そう言うとベンは部屋を出て、見張り台に足を運んだ。

 見張り台につくと、シャンクスが村の方をじっーと目を凝らして見ている姿があった。

「・・・お頭、アンタ何やってんですか?」

 ベンは見張り台に上ると、シャンクスに声を掛けた。

「おお!ベンか。おはよう。いや〜、今日バレンタインデーだろ?だからルフィがチョコを持って来るかな?と思ってここで見てたんだ」

 にこにことしながらシャンクスは言った。

「・・・・やっぱり」

「何がやっぱりなんだ?」

「いいえ。別に。―――それより、ルフィ、来そうなのか?」

 ベンも一応村の方を見てみる。

 しかしルフィの姿は一向に見当たらなかった。

「わかんねーけど、なんか寝ていられなくてさ。思わず見張り役交代させちまったぜ」

 少年の様にさわやかな笑顔を見せた。

「・・・そうか」

 そのおかげで俺は叩き起こされたんだけど。

 と軽い突っ込みをいれる。

「でもまだ朝早いから来るとしてもまだ、来ないんじゃないか?」

「いや、子供の朝は早いんだぞ。前にもこの時間帯に遊びに来たことがあるんだから」

 じっーっと目を村から離さないで言う。

 すると、

「あっ!!」

 シャンクスは大きな声をいきなり上げた。

「どうかしたのか?」

「ほら!ルフィだ!やっぱりこの時間に来やがった!!」

 嬉しそうにシャンクスは言うと、急いで見張り台から降りていく。

「まさか・・・」

 そう言うと、ベンはもう一回目を凝らして村を見た。

 すると子供が1人、荷物を抱えてこの船に向かってやってくる姿が見えた。

 こっちに歩いてくる度に大きくなっていく、ルフィの姿を確認すると。

「本当に来た!」

 あの人はルフィの事になると直感が働くんだな・・・。

 ベンはルフィが無事にこの船に着くのを確認してから下に降りていった。

 するとルフィは箱をシャンクスに手渡している所に直面した。

「えっ、これ俺にくれるの?」

 箱を持つ手が震えている。

「うん!あげる」

 にこっ、と可愛らしい笑顔で笑う。

 プルプルと体が震えると、シャンクスはルフィに抱きついた。

「ありがとう、ルフィ!!俺、すっごく嬉しいよ!」

 そう言うとルフィを抱え上げ、くるくると回りだした。

「うわぁ!やめろよ、シャンクス!め、目が回る・・・」

 クルクルとまわされて、ルフィは眩暈がしたらしい。

「ああ、ごめん、ごめん」

 シャンクスは慌ててルフィを降ろす。

「よかったな、お頭。ルフィからチョコが貰えて」

 そうベンは言った。

「ああ、よかったよ!こんなに嬉しいことはないさ!」

 嬉しさのあまり涙ぐみながら言う。

「そうだ!これ、なくさない内に部屋に保存しなきゃ!―――ちょっとルフィ、待ってろよ!すぐに持ってくるから」

 そう言うとダッシュでシャンクスは中に入っていった。

「ったく、シャンクスったら何であんなに喜んでるんだろう?」

 不思議な顔をしてルフィはシャンクスが立ち去った後を見つめた。

「?・・・何言ってんだよ。お前がお頭にチョコをあげたからだろう?」

 不思議そうな顔にベンは不思議そうな顔をする。

「確かにあげたけど、あれマキノが渡してきて、って頼まれたものだから」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい?」

 今不吉な言葉が聞こえたような・・・。

「わかんないけど、マキノがシャンクスに俺からだって言って渡しなさいって言われた。だから俺届けに来たんだけど・・・」

・・・マキノさん、貴方はなんて偉大な人なんだ。

 ベンはマキノの気の使い方に尊敬した。

「そうだ、これベンの分!マキノが渡してきてって。はい」

 そう言うとルフィはベンにチョコを渡した。

「ありがとう・・・」

ベンはチョコを受け取ると、速攻で服の下に隠した。

「・・・?どうして隠すの?」

「いや、お頭にバレたらまずいだろう」

 マキノさんからだとしてもお前から受け取る所を見られたらお頭に殺されるぞ。

  ベンは苦笑いをした。

「変な副船長」

 そう言うとルフィは首を傾げた。

「ルフィ!」

 シャンクスが物凄い形相でこっちに走って来る。

 まっ、まさか今のばれたか?!

 ベンが内心ひやひやしながら、シャンクスの言葉を待った。

「ルフィ。お前今日暇か?」

 真剣な表情でシャンクスは言った。

「今日?暇だけど」

 この言葉を聞くと、シャンクスは穏やかな顔になった。

「じゃあ、俺と遊びに行こう。めいいっぱいデートしようぜ!」

 真っ赤になりながらシャンクスは言う。

 ・・・デートってお頭・・・。アンタ何考えてるんですか?

 心の中でベンは突っ込む。

「デートって何だ?」

 ルフィはデートの意味がわからず、ベンに聞いてきた。

「・・・遊ぶってことだよ」

 ベンは何て言ったらよいかわからずに、そう言った。

「そっか。じゃあ、デートしよう、シャンクス!」

 ルフィはシャンクスに飛びつく。

 シャンクスは嬉しそうにルフィを抱きしめた。

「じゃあ、ベン。俺ちょっとルフィとデートしてくるわ。後よろしくね」

「・・・ああ、勝手にデートでもなんでもしてきてくれ」

 ああ、頭が痛い・・・。

 ベンはこめかみ辺りを手で触る。

「よし!じゃあ、行って来る!―――行こう、ルフィ」

「うん!」

 そう言うと二人は船から降りていった。

「・・・もうしばらく俺は寝るとするか・・・」

 気を使いすぎて、げんなりとしたベンはぼそっと呟いた。

 服の下に隠したチョコを手に持って、そのチョコを見つめた。

するとくすっ、と笑っい、

「俺も誰か好きな人を見つけるかな」

そう言うとベンは自分の部屋の中に戻っていった。

 

 

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