その日の俺はどうかしていたんだと思う。 憂鬱な雨の中で1人寂しく酒を飲んでいた。 今までのストレスが溜まっていたのか、俺にしてはかなりのハイテンションだった気がする。 そんな状態の中で、俺は船を降りて街を彷徨っていた。 「シャンクス!!!」 後ろで子供の声が聞こえた。 振り向かなくても声でわかる。 ――――ルフィだ。 ゆっくりと振り向き、ルフィを見た。 「よぉ、ルフィ。どうした?こんな雨の中?」 「それはこっちの台詞だよ!どうしたのさ、傘も差さないで」 ルフィは自分の傘をシャンクスに差し出した。 「・・・いい。もう傘を差しても意味がないから」 シャンクスはそっとルフィの傘を押しのける。 今から差しても変わりはないほどに濡れていた。 「駄目だよ、シャンクス。風邪引いちゃうよ?」 ルフィは負けじと傘を差し出した。 シャンクスは少しの間ルフィを見て、 「わかった。・・・ありがとう、ルフィ」 そう言って自分とルフィの間に傘を差した。 「ところでルフィ、お前はなんでここにいるんだ?」 身長差がありすぎるのでシャンクスはルフィと同じ視線にしゃがみ込んだ。 「雨降って暇だったからシャンクスの所に遊びに来たんだ。そしたらその途中でシャンクスに会ったから」 にこっ、とルフィは笑った。 「・・・そうか。良かったな、途中で会えて」 「シャンクスは?シャンクスはどうしたの?こんな所で」 キョトン、とした顔で聞いてきた。 「俺は・・・。俺は別に何もしてない。ただぶらついていただけだ」 「この雨の中?」 「ああ」 こくん、とシャンクスは頷いた。 その瞬間、背筋に悪寒が走った。 ・・・寒い。 酒を飲んで急激に体が冷えたせいか、背中がぞっとした。 ぶるっ、と体が震える。 その異変にルフィは気づき、 「どうしたの?」 首を傾げた。 「いや、なんでもない」 シャンクスはその事をルフィに気づかせない用にさりげなく立ち上がろうとした。 「ちょっと!!」 ルフィは立ち上がろうとするシャンクスの腕を掴み、自分の方に引き寄せた。 「っと!!」 シャンクスはバランスを崩して、ルフィに倒れ掛かった。 「うわっ!!」 ルフィはシャンクスが倒れてくるなんて予想もしていなかったので、何も対処できずに一緒に地面に倒れた、とその瞬間にシャンクスは右腕をルフィの頭に被い衝撃を和らげた。 べちょっ! 「ってぇ・・・・。シャンクス、大丈夫?!」 腰を打ったにも拘らず、ルフィはシャンクスの安否を気遣った。 シャンクスはにやっ、と笑うと、 「俺は大丈夫だ。お前は怪我ないか?」 「うん、大丈夫。シャンクスが庇ってくれたから」 「そうか、なら良かった」 シャンクスはほっと、息を吐いた。 「ごめんね、引っ張ちゃって・・・。まさか倒れてくるなんて思ってもみなかったから」 よいしょっ、とルフィが起き上がろうとした時にシャンクスはルフィをぎゅう、と抱きしめた。 「・・・シャンクス?」 ポタポタと雨がルフィの顔を濡らす。 倒れた時に傘が飛んでいってしまい、二人はずぶ濡れになっていた。 「ルフィ・・・」 そう言うなりシャンクスはルフィの肩に顔を埋めた。 「シャンクス・・・。どうしたの?―――あっ、お酒飲んでるね?駄目だよ、お酒飲んでるのにこんなに雨に濡れちゃあ。体壊しちゃうよ」 ぷ〜ん、と酒の匂いが漂ってきて、ルフィは顔をしかめた。 シャンクスはそんなルフィの忠告を聞きもせず、更にぎゅうと抱きしめた。 「っ・・・。痛いよ、シャンクス」 力強く抱きしめられ、ルフィは軽く抵抗した。しかし、一向にシャンクスの力が弱まる事はなかった。 「・・・寒いんだ」 ぼそっ、とシャンクスの口から言葉が漏れた。 「えっ?」 「寒いんだよ、ルフィ。温めてくれよ」 言われてみれば触れる肌が冷たい気がする。触れている頬が自分より冷たい。 「大丈夫?」 そのルフィの言葉にシャンクスはプルプルと首を振った。 「駄目だ、だからお前が温めてくれよ」 「じゃあ、早く船に戻ろうよ。濡れた服乾かして、暖かい場所に行こう、シャンクス」 「俺は今お前に温めてもらいたいんだ」 「何を言っているの?ここじゃあ、温められないよ」 シャンクスの理不尽な申し出にルフィは困惑する。 「ルフィは俺の事が嫌いなのか?」 「・・・?何言ってるのさ。俺がシャンクスを嫌いなわけないでしょ?」 「じゃあ、俺を温めてくれよ」 「だからここじゃあできないんだってば!」 ルフィは怒鳴った。 シャンクスが何をしたいのかが全くわからない。こんな我侭なシャンクスは初めてなのか、ルフィは評定が強張った。 「やっぱり俺が嫌いなんだ」 暗い声で言った。 「だから!違うよ。好きだよ、好き!!もう、さっきから何言ってんのさ」 その言葉にシャンクスは顔を上げた。 「ホントか?」 「うん、ホント。シャンクスの事好きだよ」 「ルフィ・・・」 二人はまじまじと見つめあった。 心なしかシャンクスの目の焦点が合っていないきがする。 「そうか、なら・・・。キス、してもいいか?」 「へっ?」 思いもかけない言葉にルフィは素っ頓狂な声を出した。 「俺の事好きなんだろ?だったらキス、してもいいよな?」 シャンクスはにこっ、と微笑んだ。 「そ、そりゃあ、好きだけど。でも、キスとかは関係ないでしょ!」 その言葉を聞くとシャンクスはシュン、とした。 「・・・やっぱりルフィは俺の事が嫌いなんだ」 「違うよ!!―――もう、今日のシャンクス、一体どうしたのさ!!!」 ルフィはわけがわからなくなって頭が混乱してきた。 「じゃあ、しようよ。キス」 「うっ・・・、だから、その・・・」 しどろもどろなルフィの顔をシャンクスは押さえ付けた。 「いいだろ?」 真顔で問う。 「うっ・・・、うん」 ルフィはシャンクスの気迫に負けて、頷いてしまった。 「じゃあ・・・」 そう言うとシャンクスは軽くルフィの唇に自分の唇を重ねた。 するとそのまんまシャンクスは横に倒れてしまった。 「シャ、シャンクス!!!」 ルフィは急いでシャンクスを起き上がらせようとしたが、子供の力では起き上がらせる事はできなかった。 「シャンクス!!・・・ちょっと!ねぇ、起きてよ!シャンクスッ!!」 ユサユサと揺さぶるがシャンクスは一向に目を開けなかった。 「嫌だ・・・。嫌だよ、シャンクス。・・・・・・死んじゃ嫌―――――――――――!!!!」 ルフィの叫び声が雨の静けさの中、鳴り響いた。 「39.8分。アンタこんなに熱があるのに何出歩いてんだよ」 ほらっ、見てみろ。と言わんばかりにベンはシャンクスに体温計を見せた。 「うぅ・・・・。そんな事知らねーよ。とにかくだるいんだ。喋らせないでくれ・・・」 シャンクスはかったるそうに言った。 「だろうな、これでだるくなかったら人間じゃねーぜ。―――――ったく、ルフィがいなかったらアンタ道端で死んでたかもしれないんだぞ! ルフィに感謝するんだな」 ベンが怒った口調で言った。 シャンクスも流石に悪いと思ったのか、素直に謝った。 「すまん。・・・ところで俺の命の恩人のルフィはどこにいるんだ?」 「ああ、寝てるよ。アンタを一生懸命に船まで運んでくれたんだから。あんな小さい体でよくもアンタをここまで連れてきたもんだ」 「俺をここまで・・・?」 ・・・どうりで足を擦りむいてる訳だ。 血が滲んでいる足を思い出しながらシャンクスは深くため息をついた。 「俺、今回すごい迷惑かけたな」 「ああ、すんごくな。特にルフィに」 冷たい言葉をベンは投げつける。 「・・・とりあえず今は寝てくれ。早く熱を下げることだ。お説教はそれからにする」 そう言うとベンは軽くため息をついた。 「・・・お説教は嫌だな〜」 シャンクスはぼそっ、と言った。 「・・・何か言ったか?」 「いいえ、何も」 「じゃあ、早く寝ろ。もう、俺は自分の部屋に帰るから」 ベンは少し乱れている布団を治すと、部屋を出て行った。 ・・・アイツ、きっと俺のことを嫌いになるんだろうな。 シャンクスは倒れる前の事を思い出した。 なんであんなに我侭になったのかわからない。多分、熱のせいでもあったのだろうし酒のせいでもあったのかもしれない。 どんな理由にせよ、俺がアイツを困らせた事には変わらない。 これからどんな顔でルフィと会おうか。 そんな事を考えると気分が重くなってきた。 シャンクスは深くため息をついた。 でもルフィから『好きだ』という言葉も聞けたし、『キス』もできたし、俺にとっては一応ハッピーな日であるから良いとするか。後の事はどうにでもなるだろう。 シャンクスはそう納得すると、ルフィの唇の感触を思い出しながら深い眠りについた。 後 日。 シャンクスの風邪は全快したのだが、しばらくの間『ルフィ禁止令』が出された。ルフィに迷惑をかけたということでシャンクスのみ、ルフィに会うことを禁じられたのだ。 シャンクスはなんとしてでもルフィに会おうとするのだが、すべて副船長を初めとする船員達、そしてルフィの協力もあってそれは成しえなかった。 「どこ行ったーーーーーーーーーーーーーーー!!!ルフィーーーーーーーーーー!!!カム・バッ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ク!!!!」 シャンクスのこの声はルフィに会えない間、しばらく続いていたそうだ。 |
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